深淵より這い出した者   作:観測者A

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第4話

 

 

 

 

天井に埋め込まれた巨大な照明器具が、保管庫の床を無機質に照らしている。整備士たちは、手元の設計図と機体内部の電子部品を交互に睨み、調整を繰り返す。

 

樹脂で固められた金色の線が連続する緑の板は、内部で透明なはずの樹脂が濁った白色に変わっており……内部の絶望的な劣化と寿命を感じ取った整備士は、

別のモジュールに交換するために内部の固定器具を外し、部品を巨大な機械の中から取り出す。

 

そして柵の隙間から遠い床をふと見てしまい、慎重になりながらタラップを降りていく。

 

整備士が去った後、そこに鎮座するのは、ピカピカに整備された巨大な人型兵器『アイロンコア・ライトマシン』。

 

 頭部に備わった巨大なハッチ。コクピットを覆う分厚い金属板は、搭乗者に強固な防御力と、それゆえの閉塞した安心感を与える。削り出し製法で一体成形されたその頭部は、破損すれば丸ごと交換するほかない。整備現場にとっては地獄のような設計だが、兵器としては優秀な構造だった。

 

 カタログスペックによれば、17tの巨体でありながら時速70キロでの地形走破が可能。実験では榴弾砲や徹甲弾の直撃に耐え、四本の脚で複数の戦車を踏み潰した。広報用のポスターには、その勇敢な姿が幾度も描かれている。

 

 四脚型移動工作機械。その名の通り、汎用性は高い。アームからは多様な道具が伸び、丸太を根元から断つための斜刃も備える。鋼鉄の体であらゆる障害物を走破し、工兵と砲兵の役割を同時に完遂する。

 

 それが、このアイロンコアに課された謳い文句だった。だが、現場の整備士にとって、6mという体高はただの脅威でしかない。足場を組んだとしても、環境が悪ければ1mの高さですら命取りになる。その6倍という危険性は言うまでもない。

 

 しかし、特設ドックの設営によってこの問題は解決されていた。今からちょうど70年前に戦争で実戦投入された、"最初の"人型兵器であるアイロンコア。その高い利便性が証明されてからは、これが全てのプロトタイプとなり、多種多様な兵器群が派生していった。

 

 ライトタイプが試験導入される以前のアイロンコア、すなわち初期型の試験機は二足歩行型を筆頭に豊かなバリエーションを誇っていたが、最終的には安定性に秀でた四足歩行型へと収束していった歴史がある。

 

 量産機というのは素晴らしいもので、試験機とは比べ物にならない性能を発揮した。まず32tから17tへの圧倒的な減量が挙げられ、そもそものサイズを大幅に縮小したことも関係している。量産性が著しく向上した結果、ベラトリア共和国の隣国、アザール共和国との戦争に広く用いられた。

 

 しかし、アザール共和国が作り上げた『リンクコア』は、攻撃性能などの面においてライトタイプを大きく引き離した。通常兵器を無効化し、戦車を根底から無効化するはずのアイロンコアを、リンクコアは一転して陳腐な存在へと変えさせたのだ。

 

 アイロンコアはリンクコアの設計の参考元となり、リンクコアはさらにその先へと続いていったために、改良版しか出来なかったベラトリアは降伏し、

 

アザールとベラトリアの戦争……後に9年戦争と呼ばれるものは敗戦という形で終戦を迎えた。

 

 だが、依然として残り続けたアイロンコアやリンクコアたちを戦後にどう処理するかという問題が発生した。ベラトリアとアザールは、アイロンコアを捨てようにも防衛能力は手放したくはなかった。もしもの時に攻勢に出られる能力が極端に低い物は廃棄されたが、それ以外は今もなお、保管庫の中で眠り続けている。

 

一瞬で地面に1.6mほどの深さの穴を線状に作れるという、手先のパーツは塹壕戦を見据えたものだが、65年前の戦役では大いに大活躍した。障害物のない平地かつ粘土質という環境において多数の戦車は戦略上の深刻な脅威であり、その戦車師団を足止めするために何百の戦車を動員し、最終後退点の緊急作成にて塹壕作成能力は極めて大切だったのだ。

 

 

敵砲兵陣地の位置特定を達成するための偵察任務に航空機が戦闘機と偵察機を合わせて18機も用いられたりと、制空権を取り返すための64年前の戦いでは高射砲陣地を破壊する地上部隊にアイロンコアが抜擢されたりもした。

 

 

常に劣勢であり続けたベラトリアにとって、アイロンコアというのは救国の兵器なのだ。

 

 

アザール共和国は領土を大いに広げ、魔物研究の要であるグレートピッチウォールを手に入れようと国境線を地形を無視して真っ直ぐに引いた。

 

アザールの同盟国たちも挙って参戦し、全方位から領土を蚕食された哀れなベラトリアは、戦車師団数で2:7という圧倒的な差をつけられた為に武力を必須とし、

 

それ故にアイロンコアは非常に重要な役割を果たしていた。

自国の高射砲陣地に対して成層圏から破壊する爆撃機の発着場や滑走路に1トン爆弾を置いたり、さらに砲兵陣地や鉄道橋の爆破に地雷除去などさまざまな工作を担った。

 

特攻兵器・工作兵器としての側面を持つ兵器であるアイロンコアは、戦後の武装解除によって大多数が無くなった。

 

主な構成金属であるアルミニウム合金などは極めて優秀な素材であり、アイロンコアに使うよりも有用な活用法があると判断された為だ。

 

 

しかし、武装解除された後もアイロンコアはごく一部、残っており、ほとんど無くなった特設ドックでも熟練工が残っていたが故に整備が可能だった。

 

そんな戦争の遺産であるアイロンコアは、ただの継続保守ではなく本格的な補修がされるようになったのがつい最近であるということもあってかパーツの取り寄せが非常に難しく、また自主的な生産をするよりも費用対効果の関係上としてミサイルサイロを作って誘導ミサイルを打つ方が効果的になりうる。

 

 

アイロンコアのパーツの中には耕運機の部品から着想を得た、足止め用の『土壌返し』などと言ったパーツがあるなど、当時の脅威が何であるのかが丸わかりなアセンブリだった。

 

 

だがしかし、現在に改修されて戦う対象はキャタピラの怪物ではない。対地上戦がメインではなくなったのだ。

 

しかし、地上がメインでは無くなったと言ってもそれは無数の空を覆う無数の機関砲の攻撃でもない。

 

その対象は主に農地だった。

 

トラクターやコンバインで農業用機械として一緒に働いたり、工事現場で資材を運搬する車両に混じって存在していたりとさまざまな民間での現役の姿が見られた。

 

戦後の高度経済成長期と比べれば新造されたアイロンコアの数は増えたものの、まだまだ最盛期には遠く及ばない。

 

現在の東側政府が目的として何があり、アイロンコアが派遣されているのかということは多数の歴史を語らざるを得ず、非常に長くなるが……短くまとめると、

 

グレートピッチウォール周辺の利権を独占しようとする外国企業を強制的に排除することだった。

 

東側政府は西側政府に対して圧力を強め、グレートピッチウォールは東西ともに自らが後継者とする、"真のベラトリア"の領土内に存在する地域であるとし、法の空白地帯が形成されている。

 

企業連はPMCが下部組織として非常に大きく、非合法なアンダートライや独自での魔物研究の未共有、さらには東側政府に無断での調査を進めており……ここで西側政府が助長させた、"自国内領域"での明確な主権の侵害に対する直接的な懲罰と審判を下す。

 

 

東ベラトリアと西ベラトリアは領土紛争が発生しており、この内戦はいつまでも続くだろう。グレートピッチウォールからいくつもの資源が産出され続ける限り。

 

魔物を資源としてカウントせず、最大の魅力たるグレートピッチウォールが居なくともその周辺は豊かな資源を持つ。

 

だからこそ争いが絶えないのだ。

 

魔物の研究をするための連盟に加盟してはいるけれど、研究するためと言って第三国のいない利害調整を行ったりと自国が蚊帳の外にいるようなもので、内陸国という立地上の問題があるため周辺国との近接性が非常に高く、至近距離に位置する連盟の国々とは戦争状態になったことがあるために苦手意識がある。

アザール共和国に至っては至近距離にいる『勝戦国』であり、自国は『敗戦国』であるということを地図を見る度に常々意識してしまう。

緯度と経度に沿って、区分けされた地域たち……国境線が不自然に凹み、ベラトリアの"とある重要な箇所"を取るように突出している

 

東西で主義主張が異なり、思想的に相容れない経済を採択したと周辺国からは思われているが……ベラトリアは完全には分断されていない。

 

エッグマシンによって世界中に発生したデフレショックを中央集権的な社会主義で乗り越え、ベラトリアの多くの地域を併合して資本主義と決別した。

相対的に東ベラトリアなどの社会主義経済を採択していない西ベラトリアなどの資本主義経済圏に属する国家は弱体化した。

 

エッグマシンの利権調整を巡って西ベラトリアと非常に難しい外交を辿っているが、利権整理がされた時に魔物技術……『魔法』はさらなる進化を遂げるだろう。

 




『プロト・リンクコア』

開戦から8年後、47年に実験的投入がされた兵器。

試験機ながら、固定翼機の高速性による回避性能に加え巨体の質量を活かした兵器の積載性と、当時の最新鋭である火器管制システムの採用によって照準性能が格段に上がり、42年に突入されたアイロンコアを次々と撃破していった。

照準性能が極めて高く、レーザー計器によって光と同じ速度(真空中に限る)での距離測定に加え、近接航空支援も可能である。また、MOAB爆弾を採用しており、サーモバリック爆薬を機体下部の爆弾倉に積むことが可能。

現在は対空レーダー施設などでの限定採用に抑えられ、主に主要な施設の防衛任務に当たっている。

機体重量は燃料タンクが満タンかつ、MOAB爆弾を搭載した時に63tを超える。8機の完全なプロトタイプが実験途中で作成され、後に控える量産化などのためにさまざまな不備等を調整した。

リライト・リンクコア

空力形状の再構築によって89年に民間初公開が成され、さまざまな空中での演目を民衆に見せた。

詳しい性能は軍事機密の解除が成されていないため記述不可。


モダン・アイロンコアなどの設計元となっており、フレーム全体には三重結合ロックを採用している。
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