深淵より這い出した者 作:観測者A
『エッグマシン』──このたったひとつの装置が、世界中で土地の大暴落を引き起こした。しかし、そのような環境下でも徹底して戦い続ける人々がいた。彼らはデルタコーポレーションという名前の旗の下で戦い、様々な土地の契約に走った。
世界的に発生した経済恐慌によりデフレーションが発生し、連鎖的に全ての国家は弱体化した。
基軸通貨も自国通貨も等しく暴落、そして対応に追われた政府らは、市場を守るために赤化していき、社会主義勢力が極端に増加した。だが、保護政策によって生まれた市場の不都合の是正を目指した暴動で政権が再び転覆した。
味方の航空支援は作戦に来ないのか!
敵の要塞が硬すぎるぞ!
そんなことを考えながら、無数の兵士が潜むゲリラ兵を相手に戦っている。
要塞までの道のりは遠く、整備された道を使って高地に登ろうにも左右の密林から無限かと見まごうほどの銃弾がやってくる。装甲車を使おうにも、内戦への軍事介入ゆえ難しい。
一昨日から始まった電撃的な軍事作戦は敵陣地からの機銃掃射や砲兵隊による一斉砲撃によって崩れた。
雨のように空から降り注ぐ機関銃の弾に加えて、現地のゲリラ兵が著しい抵抗を示した。
ジャングルを突破し、背後を両翼から突くことが目的の哨戒的な歩兵たち。
その誰もが味方の航空支援を要請し、基地からは2機の航空機が飛び始めている。
偵察機が空中から要塞をマークしているが、敵のレーダー感知に引っかかってしまい……高射砲によって撃墜された。
歩兵部隊は現在、敵の全周包囲を受け、地形的に孤立したジャングルの中で抵抗している。
しかし、それも時間の問題のような様相だった。
腐った大木の洞に身を潜めながら、分隊長は受信を待っている。
射し込む太陽の光はほとんどなく、密林の葉が空を覆い尽くしていた。
スコールの湿気で木の皮はべたつき、泥が足元にまとわりつく。上空から差し込む光は濃密な葉の陰で細く裂け、足元には影と泥が混ざる。
ジャングルは通常、生き物の声で満ちているが……今はその音すら敵の射撃によって消えていた。
枝の軋み、落ち葉のわずかな動き、湿った土の跳ねる音――すべてが脅威となる。
1発の弾丸で容易く人間は死ぬのだ。だからこそ、判断ミスが死に繋がる。
(!)
響いた連射の音は、不気味な音を立てて周辺に反響した。敵の射撃だ。
ゲリラ兵たちは銃を乱射し、そこら中に潜んでいる企業私兵を殺す。
時にグレネード、時に弾丸を用いて。
(焦るな…焦るな…俺は撃たない、判断するだけだ)
樹上に登っている分隊員の1人の眼下では、敵ゲリラ兵が次々とサブマシンガンや古いアサルトライフルを乱射する。
弾丸が木々をかすめ、泥を跳ね上げる。
散布界の幅とリズムで危険を測る。7.62か5.56か、それとも9mmなのかなど、音では判別できない。
ただ、弾が飛び交う速度と方向で、今どこが最も危険かを計算する。地上には分隊が伏せ、互いの間合いを意識して銃口を森の奥にそれぞれ向けていた。
(散布界を計算しろ、仲間を誘導しろ。俺の役目は指揮だ)
(怖い……)
腐木の洞のすぐ横の岩陰に腰を沈める。
銃声は周辺に大きく轟き続け、周辺を威嚇する。
敵の機関銃の間接射撃が止んでいる今が好機だと思いながらも前身を命令できずにいた。
泥と蔓が足首を絡め、視界はわずかしか確保できない。
それでも背後に目を向け、分隊の動きを確認する。全員が無言で、呼吸を整え、体の微振動で意思疎通している。手信号も声もない。誰かが動けば、即座に弾丸の雨が降りかかるだろう。
振り向いた瞬間に撃たれるかもしれない。視界を外した瞬間に味方が撃たれているかもしれない。
そのような恐怖に駆られ、分隊は進めずにいた。
(敵は狂ったように撃っている。散布界はバラバラ、油断はできない。呼吸を整えろ、頭を回せ)
葉の揺れ、枝の軋み、湿った土が跳ねる音。
すべてが至近距離での敵の存在を示す。
背後では分隊が警戒線を作り、前方に動くことはない。分隊長としての仕事は射撃ではなく、位置とタイミングを読んで指示を出すことだ。
(焦るな、ここで一発でも間違えたら仲間が…いや、撃たなくていい。見極めろ)
短い断続的な連射音。スイープショットを繰り返していたゲリラ兵の弾なのか、それとも外縁部の味方の銃声なのか……そのような判断は分隊長にとって非常に難しかった。
弾丸が枝に引っかかり、葉を裂き、泥を跳ね上げる。
そのたびに心臓が跳ねるが、動揺は見せられない。分隊の間隔、散布界、伏せる角度…すべて計算する。背後の分隊員が微かに位置を変える。視界にない敵をどう処理するかは、各自の判断に委ねられる。
(…もう少しで本隊が到着する。ここで踏みとどまれれば、俺たちの選択肢が停滞以外に広がるはずだ)
敵の乱射は再開され、継続的に銃声が続く。
ジャングルの枝葉が裂け、泥が跳ねる。敵の弾は散乱し、低く滑りながら木の幹をえぐる。
(音だけでは口径も弾種も分からない。だが散布の幅とリズムで、危険区域はある程度予測可能だ。)
(……敵の方向も。)
(敵は射線を散らしている。だが俺たちは生き残る。生き残らなければ本隊と合流できない)
岩の陰から、分隊長は僅かに目を上げて顔を出し、一瞬で引っ込める。
遠く、濃い緑に包まれた空間の向こうに、敵の銃口の光がわずかに瞬いた気がした。
敵に悟られず、仲間の散布界を考慮し、視界を確保する。ここで動かないことが最善だ。分隊員は無言で反応し、互いに視線だけで動きを理解する。
(焦るな…次の瞬間を待て…呼吸を整えろ。落ち着くんだ!)
手が震え、恐怖に駆られる。だがそんな時、イヤーカフが微かに震えた。
心臓が一瞬止まったような気がしたが、その音は定期的な信号音ではなく、確かな受信だ。
受信機からは短く切られた音と、長い音の2種類のみが続き、短い時間だが、とても長い時間が経過したように感じられた。
分隊長は目を閉じ、深く息を吐く。
信号に対して定期応答で応え、応答する。
背後で分隊が同じように息を整えるが、まだ安心はできない。
(少なくとも本隊が到着した。)
(よし…これで、ここを抜ける道が少し開けた。焦るな、まだ油断するな…)
腐木と岩陰の陰で、分隊員は隊長の背後を守り続ける。
ジャングルはまだ、味方の側にあった。湿った葉の匂い、枝のざわめき、泥の跳ねる音すべてが、次の行動への情報だ。分隊長は視線を分隊に送る。合図は不要、全員が理解している。洞からわずかに身を乗り出し、次の指示に備える。
敵の乱射は止まらない。しかし、分隊長の心には微かながらも一つの確信があった。ここで耐えれば、生存者は本隊と合流できる。仲間の動き、散布界、そしてジャングルの全てが、今この瞬間を支えていた。
■
「おい!起きろ!今はトンネル網への攻勢だぞ!」
こんな時に寝るんじゃない、攻撃隊が乱れると怒鳴りながら起こす仲間と、非難するように見る同胞たち。そんな時、ふと神妙な顔になった仲間はライトを目に当てる。
するとその兵士は何が起きているのか分からないとばかりに、何つの光、そして指が何本見えるかという問いに平然と答えた。
するとその兵士の回答を聞いた仲間は驚き、急いで水を飲ませる。
無理が祟ったかなと内心で傍観していた仲間たちは軽く思いつつも、光を当てた仲間は神妙な顔でその兵士に後方退却を言い渡し、足を止めて野次馬のごとき傍観者となっていた兵士に向けて『確実に』運ぶことを名指しで命令した。
わけがわからないと思いつつもその兵士は運ばれていき、治療されるために地上の拠点に移動していった。
地下のトンネルゲリラ兵士に対して、次々に攻勢を仕掛ける企業勢力は斑点模様。
バラバラの戦果は、非対称な軍事介入における普遍的な結果だろう。
敵は常に数や物資で不利になるが、それでも地形を活かして戦闘する。それを押さえるのには3倍の兵力が要るのだ。
強固な防衛があれば軟弱な防衛もある。そのような弱点を突き、企業は浸透作戦で電撃的な戦闘を繰り返して戦線を広げていた。
その結果として生まれたのは大量の歩兵の消耗。
医療物資は自社製品を使ったり、現地の兵士に東側政府の支援物資が向かうが何もかも負傷者が多すぎる。
密林という環境が多いのは戦争で知っていたが、その戦争ははるか昔。
紀年法に基づくととてつもない歴史の隔絶があり、お互いに未経験者だらけの兵士なのだ。
戦果や影響は知っていても未経験の世代に完全に交代している影響を受け、前線はお互いに変動する。
2112年という年は終戦から約70年、ほとんど経験者は高齢者となっていて体感していた層は全員が退役している。
2041~2050年、この9年間の戦争を最後に、そもそもとして国境での紛争も少なく安定していた。
この年になって戦争の記憶を覚えている層はほとんど居ない。
なぜなら当時では総動員で子供も老人もまとめて1日8時間労働をしたり、徴兵で若年層も戦争に参加したり、とにかく防衛のために戦って戦って戦った経験を全世代が持っているがそれは当時の話。
当時20歳の青年は、今は杖をついていることだろう。
時間経過は技術を発展させたが、それはより"大規模かつ効率的"な戦闘が繰り広げられるということだ。
それに、西ベラトリアのゲリラ兵は戦っている理由が体感できるものとして存在しない。
企業連合はデルタコーポレーションの一強だが、アザール側だけでなく現地のベラトリア側の企業も当然ながら存在する。
企業連の内部も割れているが、主に兵士を派遣するほど参戦している企業はデルタコーポレーションだ。
PMCたちはデルタコーポレーションに武器を大量に流したりしているが、ベラトリアにも武器を流している。
企業情報のリーク合戦も著しいが……何よりも、前線で戦う企業私兵とゲリラ兵の直接的な対決が莫大なコストとなっている。空爆をするにもそんなことは出来ない。
国家の領空の上を企業の航空機が飛ぶというのは極めて難しい。民間の旅客機に見せかけてなんとか上空からの偵察をしているのだ。
それも、エンジン下部に設置したカメラで限定的な情報を知るだけに留まる。
だからこそ、医療班が職能を遂行するためには、先進医療が受けられるような場所までの到着時間が命となる。
コンクリートの筒の内部、その半円形の空間の内部には4車線の白線が引かれており……アスファルトの路面にはアザールの装甲車が走っていた。
この地下トンネルはかつての防空壕まで続く通路を改造したものであり、疎開地に行くまでの通路としても選ばれるほどの信頼性を持っていた。
当時、ベラトリアは度重なる侵攻を受けて空爆旅程が敷かれていた真っ最中。
そのため1度は壊され、その避難集落は高射砲陣地や砲兵陣地を備え付けた要塞として生まれ変わった。
正面突破は対車両地雷の影響を受け、とても難しかったが……何とかやり遂げた。
左右から襲いかかる軽機関銃に加え、スコールと台風が重なった横殴りの雨は豪雨でスリップを連発。
いくつもの人員輸送車が道のりまでに散っていったのだ。
「いくらなんでも地下トンネルとはいえ……贅沢すぎるぞこれは」
「ここまで豪華な設備は見た事ないぞ……なんだこれは?ほとんど幹線道路みたいじゃないか」
窓から覗き、フロントガラス越しにトンネル内部を見ると上には空調ファン、両サイドには複数のガードレール、そして左右の高くなった段差の通路は避難経路……いくつものファンはトンネルの内部の風を循環させ、火災などの事故を避けようとしているように見て取れた。
しかし使用しているファンが、輸送機や旅客機などのエンジンのサイズに匹敵するように見えた。
これほどのサイズのファンをトンネル内部にいくつも備え付けているのは長さ的に考えても明らかに異常だ。22kmのトンネルということや、山の傾斜で曲がっていることを鑑みてもおかしい。
「何か、妙じゃないか?敵影も随分と散発的だし……」
登場している兵士の1人が、そのようなことを口にする。
随伴歩兵たちははるか後方、30台の戦車にくっついて移動しており、トンネルの内部には多数の味方がいた。
だが相手すべき敵は少なく、RPG兵や固定マシンガン兵たちであり。
遮蔽コンクリートガードも、人員輸送車らに先行する装甲車両が破壊して回っている。
人員輸送車の内部の兵士たちは漠然とした不安を抱えながらトンネル内部に進み続けた。
たった22km、たかが22kmと侮ることはできない。なぜなら敵のチョークポイントになっている可能性が非常に高く、各所に存在する地下トンネル網へのアクセスが可能である上に要塞への一本道。
山ということもあって平均傾斜も3%を超えており、既にとてつもない高所へと登っている。
ラジエーターは熱を排出し、複数の地下トンネル接続口に向けて後続の輸送車たちが歩兵を降ろしていた。
地下ゲリラ兵にさんざん苦しめられたが、これで今日から地下ゲリラは壊滅する……作戦要項から兵士たちは、そのようなことを感じ取っていた。
「もう西側政府も人的資源が疲れてるんじゃないか?武力介入が始まって今日でちょうど1ヶ月だろ。」
「停戦条約が〜とか何とか、あったけど、この紛争が終わるといいね。」
彼らは知らない。外国勢力としての現地参入と、企業による武力と闘争の試金石として扱われていることを。
しかし、彼らも知り得た情報がある。
それは、敵側の要塞は強いが地下トンネルを包囲すれば脆くなるということだ。
今までは戦車部隊が対戦車地雷やら、対戦車砲やらで様々なところから攻撃されていたが……対戦車地雷は優れた味方による工作によって無力化された!
敵は戦車を要塞の中に閉じ込めて、移動できる固定砲台のようなものとして運用しているのだが、それは今から無力化される。砲弾も何もかも届かなくなれば終わりだ!
本隊となる戦車部隊と装甲車、そして人員輸送車はこのまま要塞に続き、別働隊は密林の外縁部から包囲網を狭めていく。
そして地下トンネル網を完全にここから制圧し、補給を断つ。
補給が途絶えさえすればあんな卑怯者たち、なんて事はない。
155ミリの主砲の火力は弾頭の質量がとんでもないが、逆に言えば数百メートル以内でしか正面装甲を貫けない。
こっちの主砲と比べて30mmも上の口径。
敵の戦車は火力が尋常じゃないけれど、それは補給があってこそ運用できるものだ。
正規軍が、包囲している兵士たちの背後と真横の二方向から強襲してくる前に要塞を攻略する。いや、地下トンネルを攻略するのだ。
地下トンネルさえなければ補給網は消える。
そして補給網さえ消えれば密林ゲリラ兵は潜伏場所を失って要塞まで後退する。そして、後退したところを狙って一斉攻撃。
だいたい概要はこんなもんだが、まあいけるだろう。
万事順調!はっはっは!やってやるぜ!
■
「次弾装填中!弾〜〜着、今!」
とある戦車が、高所から撃ち続けている。
その戦車は異様な見た目であり、戦車とは思えない形をしている。
まず、あまりに小さすぎる体高。
主砲の高さも極限まで削られ、まるで台形。
車体後方に設置されている主砲は、その平らな車体に固定できるように台座に乗っけられていて、安定した発射を助けている。
戦車と共に撃つのは榴弾砲と、重砲たち。
仰角の関係上、絶対に進まないと敵の戦車は主砲を撃てない。だが、高所をとっているこちら側は待ち構えればどれだけ撃ったとしても『100%』命中する。
事前に測量を済ませて、砲兵陣地から敵に占拠された拠点まで別の重砲たちが撃つ。
トンネルの前に雁首を揃えてやってきた装甲車両たちは地面の下の加圧式地雷を踏み抜いて爆発、そしてトンネル内部は信号を送って路面を破壊した。
戦車が壊れたかどうか分からないが、70年前にさんざん落としてきた1トン爆弾の不発弾がこっちにはまだまだある。
唸るほど爆発物はあるのだ。
効率がどうとか、能率がどうとかの問題ではない。かつての死の象徴を再びぶつけるという行為に意味がある!
「敵多数破壊!徹甲弾はあと30!」
兵士たちは弾を装填し、発射命令を常に出している車長に従って撃つ。
当たらないという可能性が存在しない今は撃っても撃っても敵が勝手にやってくる最高の時間。
1秒たりとも、無くしてはならないのだ。
戦車の傍には多数の弾薬があり、信管の誤作動や誘爆を鑑みていないように感じられる。だが、そもそも敵の射撃を受けないとい環境においてそのような事は気にすることはない。
兵士は装填させ、40kgはあろう砲弾を持ち上げてレールに入れる。機械の力を用いた自動での装填とはいえ、連射すると再び入れなければならない。
『アザールは我々が血と涙で築いた要塞に侵攻している!決して見逃すな、決して許すな!』
『我々の連帯によって明日の太陽が登るのだ!ハボックどもを退けろ!我々は確実に勝利する!』
『ハボックどもを1歩たりとも後退させるな!ここで殲滅させろ!』
『やつらはパンクスだ!法を退け、企業私兵という体のいい言葉に踊らされた、空虚な無法者だ!』
『この紛争の解決策は敵の排除以外にない!確実に仕留めろ!』
『今日の砲弾が明日の太陽となり、我々を照らすのだ!』
『ミサイルサイロから既に大量の誘導ミサイルを飛ばしている!奴らの司令部は壊滅するのだ!』
『我々の国を破壊し、2つに分断したアザールを決して許すな!今日の連帯が、破滅という結果として広い空の元で成就することとなる!』
司令官の鼓舞は戦車部隊のみならず、全軍に行き届く。ゲリラ兵たちは包囲している兵士を次々と排除していき、端から兵士の群れを簡単に退ける。
地下トンネルに仕掛けた気化爆弾が敵を瓦解させ、侵入を阻む壁となる。
今日、この日のために準備に準備を重ねた。
屈辱の敗戦と家畜の日々を、勝利で塗り替えると宣言し、兵士の士気は最高潮に達した。
「撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て」
榴弾砲を装填しながら連呼する様は、まさに狂気の域。だが、この潤沢な装備は無から湧いたわけではなく、むしろ多大な準備をして作ったものだ。
西側政府がとある1つのペーパーカンパニーを作る。そして、手形を大量に発行させる。
持っているだけで年利4%、そして最終的には中央銀行が現金化するという約束を用いて悟られない帳簿外債務を作り出す。
この手形を使って様々な『魔法的』な軍備を進めることができた。
例えば軍縮条約が結ばれていた9年戦争後の20年間は、なんと"全ての戦車と軍用機を放棄する"というものが効力を持っていた。そんな中でどうやって軍備を進めるのか。それはこの『手形による帳簿上資金の増加』だ。
増税や道路建設、そして郵便機などを作ったりなど、健全な国家経営をしているように諸外国から見えるが裏では軍備が進む。
郵便機や貨物飛行機は降下兵を乗せたり、機体に合わせて新しく作った爆弾倉を取り付けたりと様々なことができるように設計した。
戦車のパーツは工事現場で作ればバレない。なぜなら音が出ても部品の段階なら誤魔化せる。
資材として保持し、それらを一気に組み立てればとてつもない数の戦車部隊が出来上がる。
通常ならばできないことだが、これをやり遂げた『魔法的な解法』が存在した。
まずは普通の場合、軍需工場を国内に建てられないゆえ、政府が税金から現金を支払って購入する。
だが、この解法の場合、政府は現金の代わりに、ダミーのペーパーカンパニーが発行した「手形」を渡す。
手形の期間を12ヶ月に設定するが、政府の信用を付与することで手形の信用を爆発的にはね上げる。
企業から銀行への流通で手形を受け取った企業は、従業員の給料や材料費を払うために今すぐ現金が欲しい場合がありうる。
企業は手形を民間銀行などへ持っていき、現金化する。
銀行は手数料(割引料)を引いて、企業に現金を渡す。
これを手形の割引と呼ぶが、これを使うことで非常に安く手形が流通できた。
なぜ銀行は受け取ったかといえば長くなるが、簡略化すると
中央銀行が"その手形なら、いつでもうちが本物の現金と交換してあげる"という再割引(買い取り)保証をしていたからだ。
これによって手形は最強の投資商品としての流通を果たした。
だが、ここが手形の最も巧妙な点だ。普通、手形はすぐに現金化されるものだが手形は市場に残り続けた。
年4%の利息をつけ、銀行預金よりもずっとお得に見せかける。これによって、「デフレしている現金より一瞬で換金できる安全な手形がいい」という状況を作り出す。
銀行や企業は、「どうせ中央銀行が保証しているんだから、今すぐ現金に換えるより、手形のまま金庫に入れて利子を稼いだほうが得だ」と考えて手形を保持し続ける。
結果として手形の大部分は現金化されず、企業や銀行の間で資産」として大切に持ち回られていく。
そしてこうして手形は、企業間の支払いに使われたり、銀行の資産になったりして、公式の通貨ではないが、事実上の第2の通貨として西ベラトリア国内をグルグルと流通する。
政府のメリットとしては手形が「金庫」に眠っている間、政府は現金を刷らなくて済む。
これにより、とてつもない賠償金額によって市場にお金が溢れすぎて物価が爆上がりするハイパーインフレーションを防ぐことができた。
まとめると、まず政府が手形で買い物をして、そして
企業や銀行は「利子がついて安心な資産」としてそれを喜んで受け取り、金庫にしまう。
世の中には現金の代わりに手形が流通し、経済が回る。
しかし、この仕組みはいつかは政府が本物の現金で全部買い取るという約束の上になりたっている。
返済期限が迫ったとき、金庫が空っぽならば約束が崩れ落ちる。だがここで賠償金額を減らす交渉をしたことを国民に伝え、アザールが減額したという状況の認識を獲得する。
だが結局のところ、支払いの先送りを高い利息というエサで企業などに納得させていただけだ。
この高金利で釣って借金を隠すというやり方は極めて巧妙で、軍事費の年間予算を跳ね上げずに事実上の軍備を進めることができた。
しかしこれは70年間通用した。なぜか?
初期は賠償金による経済不況が著しく、ハイパーインフレーション前夜、インフレ率が600%に到達したという状況。
しかし手形を使えば使うほど紙幣を発行しなくとも良くなり、インフレーションが収まっていく。
そこにちょうど到来した戦後の高度経済成長期。
列強国に一気に躍進し、6倍の石油埋蔵量を持っているアザールに対して強気になれた。
しかし悲しきかな内陸国の難点、防御の難しさ。
敗戦直後、全方向がアザールの同盟国だったので賠償金を踏み倒そうとした戦争はなんとか踏みとどまったが、現在に噴出したというわけだ。
海上の接点よりも飛行機が重要だと認識される2112年現在において、ベラトリアの良い点は平地が内陸部に纏まって存在し、全方向に山が存在することだ。
防御は簡単だったが空を飛ばれて負けた。しかし、今度は地上戦に固執しない。
敵が地上を這うのなら近接航空支援で山を掃射する。密林に向かって挟撃しようというのなら空爆で拠点を破壊する。
戦車がやってくるのなら、それ以上の火力で迎え撃つ。
これが西ベラトリアの執念であり、悪意の集大成。
賠償金は残り0.3%、あと少しで払い終わる。
世界をデフレーションの波に乗らせ、地価を地獄の底まで叩き落とした、『エッグショック』。
資本主義を採用していた西ベラトリアにも直撃したが、もともと食料自給率は農村地帯が焼かれたせいで極端に低下していた。逆を言えば破壊される土地という基盤が乏しかったからこそ打撃が少なかった。
対してアザールはどうか?
不動産投資は一瞬にして死に、1次産業が崩壊、漁業や貿易に活路を見いだせど失業率が青天井。
大混乱したアザールに、魔物利権の一部を支払う代わりに大量の資金を要求した東ベラトリアは豊かになった。
しかし東ベラトリアばかりが豊かになると気に食わないので現在は社会主義国になった東側政府に対してグレートピッチウォールの封鎖で応じている。
「ウオオオオオオ!!!」
「ついにやってやったぞ!俺はやったんだ!!!」
兵士たちは熱狂し、次々とやってくる装甲車を沈めていく。トンネルのハブへと繋がる支持トンネルたちに潜伏させたRPG兵や固定マシンガンなど、様々な防御設備を作ったことで歩兵の浸透を完璧に防いでいるとリアルタイムで情報が来る。
通信装置も70年前と比べてとてつもなく進化した。
乱数鍵の生成や、データの抜き取りに対する偽情報の設置……防御も進化したのだ。インターネットが普及した今だからこそ通信というのは極めて重要視される。
EMPはそれゆえ相対的に価値が爆発し、電波塔から全ての周波数帯に妨害電波を流し続けるという力技で敵の通信を局所的だが完全に遮断した。
これで勝てようはずもなく、次々と兵士たちの手によって装甲車や戦車は炎上していく。
榴弾砲混じりの砲弾は地形を変え、大きな穴を作り出す。事前に埋め込んだ1t爆薬たちを起爆させて後方は破壊した。ならば内部には戦車が少ないはず。
戦車が大量にやってきたが、これほどの戦車数はおかしい。だがそれらの事情をすべて粉砕する味方戦車の主砲によって見事に敵戦車は蹂躙される!
なんと素晴らしいことだろうか!
『デルタコーポレーション』
様々な事業に参画しており、準国家規模と目される。
自社製品が非常に幅広く、紫色の背景に、金色の正三角形の社旗が特徴。
道路建設から病院建設まで携わり、開戦前は縦穴都市の周辺の学校や設備はベラトリア両政府から委託されていた。
東ベラトリアとは仲が良いが、西ベラトリアとは仲が悪い。グレートピッチウォール侵入口の封鎖の影響を受けて企業私兵を送り込み、現地の企業をM&Aという名の札束で殴り、買収した。
メガコーポと呼ばれる企業の1つであり、企業連合を牽引する盟主である。
魔物研究を進めているベラトリア両政府に資金援助を行い、もしくは行われたりということをしている。
現地の研究組織を複数取り込み、『縦穴解明隊』を結成している。
護衛チームを設立し、PMCたちを取り込み、探査チーム……別名、フィールドワークチームを補佐に当たらせている。
探索部門にて現地エリートの採用を積極的に行ったりしている。
また、錦蜘蛛の生育条件を解明したりと錦蜘蛛の利権を保有しているが現在は手放している。
特殊な液体に関連する『魔物技術』が存在すると目され、新時代の医療という名でパッケージされている"何か"に対して企業連たちは探りを入れている。