深淵より這い出した者   作:観測者A

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7話

とある橋。否、橋に擬態した魔物に振り落とされた者たちがいた。

その橋は共振したように勝手に揺れ、渡る者を突き落とした。嘲笑し、ほくそ笑むような表情を浮かべている。

 

ランプは誘蛾灯のようなもので、光れば獲物を誘導して勝手に大量の人間がやってくる。

 

だからこそ振り落として壁面に叩きつけてやる。理由はないけれど、なぜやるかと言われたら、そりゃあまあ『楽しい』からだ。

 

横穴の付近に身体を横たえて、対岸まで繋がってる安全な橋のように見せれば見事に大量の人間がひっかかる。

 

 

なんて面白いんだろう!

 

 

 

 

橋の魔物はそんなことを考えながら、次に渡る獲物を待ち、身体を自由自在に伸縮させてみた。

 

 

 

そして悲鳴を上げながら落下した、可哀想な者たち……

 

彼らは皆、進駐していた『ガーディアンズ』たちを振り切って進入禁止の看板を無視した者たちである。

 

不幸なことに、落下して6人は岩に叩きつけられ即死、1人は骨折の後に滑り、岩食いに上半身をまるごと食われるなどetc……

 

非常に不幸な末路を迎えていた。

 

しかし、トライマンの名誉を求める彼らにとってはむしろ良い末路なのかもしれない。

 

彼らは縦穴の底……底なんて無いのかもしれないが、とにかく底に到達しようとした。

 

降下するために家を売り、最新式のウォークマシンを買った。

エアロコーポレーションとデルタコーポレーションが協力して作ったサイバネティックスの装備。

 

エアロコーポレーションの公開技術のひとつ、アンカーを使用したものだ。

 

金属の支持材を内部に張り巡らせ、外骨格のようにしたものだ。本体は25Kgの重さがあれどもサポートによって何十倍もの力を発揮することができる。

 

1400万円のマネーを用いて購入した、最も安価な体外式サイバネ装備。

 

「うわあ、来るな、来るな!」

 

 

四方八方から襲い来る蜘蛛の群れ。大量の蜘蛛に身体を食われ、そして死んだ。

 

 

このように全滅することは頻発する。何故ならデルタコーポレーションが100億円という賞金を掛けている現在、最低到達点からのアンダートライには魅力が極めて豊富。

 

彼らのリーダーは『エアロマシン』を使って空中から降下したが、あえなく蜘蛛からの体当たりによって軌道をずらされ、岩に顔面から衝突した。

 

そして最後の生き残りもたった今、蜘蛛に生きたまま食われて死んだ。

14人のアンダートライマンたちは全滅という末路を迎えた。

 

 

なぜ、彼らが暫定最下層まで潜ることができたのか。

 

それは西側政府が推し進めている、縦穴都市への移動だ。

 

商業を生業とする自営業の人々やら何やらと、職業は主に資本家と労働者に分けることができる。そのうちの資本家と労働者の中間の層である中流階級の人々の射幸心を煽るのだ。

 

一攫千金を夢見る人々は縦穴都市に行く。

 

そして、挑戦可能な層を絞る。

指定されている近隣の都市につき5000人までとすることで希少性を付け、無制限の挑戦を避けるのだ。

 

こうすることで様々な人々が移動し、縦穴都市の周辺の土地の値段が急激に上昇する。

都市に根付いている地元住民らの中には東側をルーツとする人々も多いが、ここで西側からの移動者を増やすことで民主主義に乗っ取って組織票を出す。

 

そして地域の代表を意図的な人選にすることで、完全に合法な土地の獲得となる。

 

100億円という賞金で中流階級の射幸心を煽り、自国(西側)の人間をトライマンの自主的な移動という形で、東側ルーツの住民が多い地域であるアサラ区域に大量に送り込みます。彼らは単なる観光客ではなく、そこに住民票を置く有権者となるのだ。

 

希少性でフィルタリングし、支配層を固定すること……つまり、5000人限定という枠を設けることで、

挑戦できるのは換金可能な価値を多く保有しており、高額な装備を購入できうる程度の中流階級になる。

 

トライマンを出せる都市を中核州などに限定することにより西側の価値観を持ち、政府に従順な層に絞り込まれる。

 

これにより、移住先で確実に西側支持の組織票を形成できる集団を意図的に作り出しているのだ。

 

多数決による合法的な略奪のみが後には待ち構えており、アサラ区域は西側から流入したトライマンたちや、複数の階級の人々、そして商売をしに来た企業など、数の暴力で地域の代表(首長や議員)を自分たちの息がかかった人間に変え、

そこからは土地収用法に基づいて国家が私有地を買い叩き、利権の源を企業たちに調査させ、利益を煽る。

 

 

東側政府に従順な層はアサラ区域から逃げ、別の場所に行く。圧倒的に多い、両政府の支持者でない住民らもここで西側政府に取り込まれる。

 

グレートピッチウォールがあるアサラ区域は解放しておき、その周辺の侵入口が存在する地域では侵入できないように封鎖を行う。

 

しかしここで解放しておいたアサラ区域のグレートピッチウォールまでに通る検問所などでの通行料を跳ね上げ、地域の住民らの通行料は通常の料金にする。

 

こうすることで中途半端な層は帰り、下に到達してやるという精鋭のみがグレートピッチウォールに挑戦する。

 

東側政府はグレートピッチウォールの外縁部までの際や周辺地域を領土としており、アサラ区域は西側政府と西側政府の板挟みとなっている非常に近接性の高い地区である。

 

グレートピッチウォールは深く、縦穴の連続であるが。

横にも広く、その影響によって国境線を超越して地形が地下に広がっているのだ。お互いに地下資源は国境線に基づいて折半という形を敗戦直後から現在に至るまで取っていたが、これは廃止された。

 

グレートピッチウォールとは地下資源に分類されない。

 

なぜなら、『希少な生物が住む区域である』ということを使って様々なことが出来てしまうからだ。

 

例えば鳥獣を無闇に銃撃してはいけないという法律が一部の地域で存在するが、これは絶滅危惧種などの関係によって生み出されるものだ。

 

東西に分裂していても法律は分裂前からあまり変わっていない。

魔物というグループを研究希少性が極めて高い生物群として登録し、国際魔物連盟に魔物の産地の保護の話を持ち込む。

 

こうすることでラトベリアは長年、東西で大量の駐留軍が睨み合うという冷たい戦争の様相を呈していたが……アサラ区域ではこれが止まった。

 

もともとどちらも共和国と名乗り、その名の通りの融和的な体制を取っており、集団指導体制にシフトしてからはさらに住民同士の融和を進めようとした。

 

だが結果的には失敗に終わり、国境線で大きく揉めることとなった。

 

アサラ区域では東側政府と最も激しい紛争が巻き起こり、地域自治などを主張したりと西側政府の思惑は粉砕された。

 

新しく厳格な国境線を定める時に、アザールによる代理分断統治の時代に使われた線を使った。緯度と経度によってまっすぐな線が引かれ、アサラは東側と西側に分裂し、両政府の傀儡となって企業も参戦、ぐちゃぐちゃの戦況の内戦となった。

 

『ノー・ラインズ』などの現地の武装勢力が立ち上がり、お互いに支援や賄賂を繰り返して消耗戦。

 

結局は調停をするために第三国が停戦条約を保証するという段階になったのだが、これがダメだった。

 

集団的自衛権を主張できる同盟を結んでいる国が周辺に1つもないことはまず第一の問題点として、隣国のアザールが第三国の役割をしようとしたけれども……ベラトリアの内戦に関わろうとするな、といった主張や論争が国内外問わずに巻き上がり、停戦条約は白紙に後退した。

 

 

アザールと通商条約は結ばれているが関税の再調整などを求める声が噴出、だが確実に負けることが歴史的経緯によって証明されている。

そんな再びの開戦を絶対に避けたいがために、アザールの企業であるデルタコーポレーションに……現在でとてつもなく莫大な価値を生み出していた魔物利権の一部を渡した。

 

西側政府と東側政府の合同での錦蜘蛛(当時の名称は錦蜘蛛ではない)の養殖条件の共同研究に参入させるという形だったわけだが、

 

これにデルタコーポレーションを参画させる代わりに企業への融資などを使い、資金源として税金を使うのは憚られたので、

市場にそぐわない遅れた地域産業のである養蚕などの保護政策を打ち切って黒字財政にすることを西側政府は誓った。

 

1.45%の累進課税の弱化など、特定の企業に対する癒着などと報じられた事象が発生したが……西側政府はとにかくデルタコーポレーションと仲を深めたかった。

 

しかし東側政府の武力侵攻を支持し、西側政府に対して強く出ている現状は目論見が、またも外れたことを意味する。

 

 

 

優遇措置を沢山しても、侵入口を封鎖した時から露骨に東側政府に移動し……メガコーポに躍進したデルタコーポレーションは企業連合という組織を結成し、盟主として様々な企業を援助する準国家的な立ち位置となった。

 

企業が雇った私兵などとして紛争の影響を受けた現地住民らが使われ、ベラトリア内戦は企業と国家という勢力に分けられる。デルタコーポレーションのPMCは非常に強いが、そこから西側政府が国営化などをしたPMCはどんどん弱体化していった。

 

仕方がないので旧式の軍需品でカバーしようとPMCに援助が行われ、PMCは国営化された軍事会社として振舞った。

 

国営軍事会社と民間軍事会社の対立軸が作られ、官僚組織の天下り先として使われたり様々な私財の隠匿場所となったり……現在は汚職が絶えない腐敗した組織になってしまった。

 

 

他にもPMCを国営化しようという試みはあるが、まずは一社だけに留まっている。

 

だがその他のPMCにも圧力が加わっており、東西戦争と住民らが呼ぶベラトリア内戦は恐ろしい規模になるだろう。

 

 

魔物利権の争いも存在し、互いの境界線でグレートピッチウォールが帰属する国について争う。

 

一体どうなれば終わることができるのか。

それは誰も知らない。戦争が更なる戦争を育み、煽てるからだ。

 

 

 

 

「今すぐに撤退だ!繰り返す、後退せよ!」

 

「クソ!敵の広域EMPはどれだけ膨大な面積を被ってやがる!ふざけるなよ……!」

 

「核ENPを使うとは敵方は正気なのか!?」

 

衛星軌道上から座標を確認するGPS類、それらは情報収集に多いに役立つ。しかし、それが核爆発によって引き起こされた莫大な妨害によって阻害されてしまえば通信の夢は叶わない。

 

 

西側の兵士たちは焦りながらもじわじわと攻めてくる敵の兵士の対応に追われ、1人、また1人と次々と撃ち殺されていく。

 

『アイロンコア・ユーザーマシン』……リライトされ、内部構造を革新したモダン化アイロンコアの進化系。

 

それらを使われ、歩兵たちは為す術がなく散っていく。

 

四脚型の安定性に、7.62弾の雨あられが機関銃によっていつでもどこでも発射される。

 

機銃掃射ができる移動要塞……そのような役割として西側政府の正規軍たちを退け、後退に追い込んだ。

 

 

そして次々と迫り来る軽装甲車やその随伴歩兵、多数の敵影が確認されている。

 

 

西側政府の正規軍たちはとある『物』をトラックから地面に落下させていった。

多種多様な長さの棒で出来ているそれらは、自動で3本の棒が展開される。

 

 

ボッ ボッ ボッ

 

短い間隔で、3つの筒が射出された。

 

そして吐き出された筒が地面を転がった後に炎上し、盛んな火の柱が指向性を持ち嵐のような炎の渦をその場に生み出す。

 

無数の炸裂焼夷弾が一斉に起動され、まるで農地で行われるセンターピポットのように地面に強く固定された棒から追加の火が供給されていく。

 

 

設置型の焼夷弾は信号だけで起動し、内部のゼリー燃料が無くなるまで焼夷弾は燃え続ける。重くベタつき、くっついて離れないゲル状の焼夷弾は……さまざまな物を燃やしている。それは草木であったり、周辺の地面などだったりと非常にさまざまだ。

 

 

この設置型焼夷装置は9年戦争の時、アザールの歩兵が大量の車両と共にやってきた時に使われた実績がある。

 

70年前の戦争では効果は抜群であり、今回のように退却しながらの設置、そして起動などといった緊急的な場合でも活躍してくれるだろうと期待された。

 

 

 

「逃げろ!逃げろ!ここはもうダメだー!」

 

ユーザーマシンから次々と、背負った発射タンクから小型ロケット砲が射出されていく。

 

随伴している、バイクに乗った歩兵たちはすぐ側の装甲車に命中したロケットの爆炎に包まれ即死、そして中の乗組員は当然の如く即死。

 

 

そのような地獄の戦場の中で、両陣営の兵士は全員が停戦条約の締結を強く望んでいた。

しかし兵士が願ったところで東西戦争は終わることがなく、対車両戦の別解であるアイロンコアが次々と東側陣営から吐き出され、無尽蔵とばかりの貯蔵量で西側陣営を追い込んでいく。

 

東西の両政府はデルタコーポレーションと組んでおり、デルタコーポレーションは武器を売りつけるだけで"大儲け"が可能な位置にいた。

 

ユーザーマシンは破壊した戦場を悠然と歩き、対戦車地雷も同時に設置している面積が小さいが故にほとんど起爆しない。

 

焼夷弾が足元を燃やしていき、アイロンコアが歩く場所は火の中だ。

 

しかし……効かない。歩兵を想定した足止め用の装備など、アイロンコアには無傷である。

 

最新式の火器管制システムの搭載によって、パイロットとさらなる連携を果たすことができる。散布界の誤差はシミュレーターによって事前補正されており、小型ロケットや機関銃は常に敵をターゲットし続ける。

 

ユーザーマシンから見ると、どれだけ早く後退しようとも、ただの動かない的となっているのと同じである。

 

小型ロケットは360発が搭載されており、その火力たるや、もはや過剰。

 

トラックたちは焦り、できうる限りの武装を持ってして戦いながら全速力で逃げ出している。だが、とてもユーザーマシンには勝てそうに無かった。

 

 

広域EMPのせいで味方同士でも連携が取れないゆえ、アイロンコアはトラックなどとは違い単体でも強いという特性を活かしている。

 

 

通信網がお互いに機能不全になる広域EMPは膨大な電力を消費して使われるものだ。

 

ほとんど全ての周波数帯に、強力な波長を流し続ける。これによっていくら周波数をポッピングしようとも通信は出来なくなる。

 

擬似的な太陽フレアは、通信に使う周波数を強制的に絞りこめるので戦場で多く使用されていた。

 

最後尾の装甲車や、トラックは既に次々と撃破され、投げられて道路の分離帯に弧を描いて落下したりなど……確実に助からない末路を示していた。

 

 

 

 

「今すぐに撤退だ! 繰り返す、全線後退せよ!」

 

広域EMPの影響を受け、その装甲車の内部からの声は届かないのだった。

衛星軌道からのGPS信号は疑似的な太陽フレアとも例えることが可能な規模の妨害電波に呑み込まれ、

西側正規軍の誇るネットワーク中心戦のシステムは、ただの重たい電子ゴミと化していた。

 

乗組員は、それを知っていたが、仲間にもしかしたら届くかもしれないという可能性に一縷の望みをかけて必死に受信できるように祈った。

 

 

直後、西側の車列の殿を務めていた装甲兵員輸送車が、物理法則によって生み出された衝撃に弾け飛んだ。後方から肉薄した『アイロンコア・ユーザーマシン』の一脚が、時速100km超の慣性を乗せて、装甲車のリアハッチを蹴り抜いたのだ。 数トンの鉄塊がアスファルトの上を独楽のように回転しながら滑り、中央分離帯を粉砕して車が大量に走る対向車線へ。車内にいた十数名の兵士は、最新のアブソーバーを搭載した座席にシートベルトで固定されたまま、多数の装甲車と共に沈黙した。

 

どれだけアクセルを踏み込んでも、アイロンコアの追撃からは逃れられない。 と呼ばれるその最新型は、四本の脚部に搭載されたアクティブ・サスペンションを異様な精度で駆動させ、路面の凹凸を完全に殺しながら、滑るように高速道路を疾走してくる。アスファルトを蹄が打つ、規則正しくも暴力的な金属音が、逃げる兵士たちの心臓を直接掴んでいた。

 

西側の戦車部隊は、すでに壊滅していた。 彼らが最新型の量産火力と信じ、投入していた125mm滑腔砲は、

この平地での人型兵器の運用を想定していなかった。

 

アイロンコアは普通、山岳地や砂漠地帯などに派遣され戦車との棲み分けがされている。

 

平地で運用されたアイロンコアは戦車の砲塔が旋回するよりも早く、その多脚を駆使して死角へと回り込み、装甲の薄い上面から踏み潰した。 アイロンコアはもはや単なる兵器ではなかった。

 

それは、意志を持った弾薬庫であり、国家の威厳を物理的な質量で体現する巨大な粉砕機だった。

 

「もうとっくにやってるよ! 時速120kmだ、これ以上はエンジンが保たないッ!」

 

輸送トラックの運転手は、ハンドルを血の気が引いた手で握りしめ、高速道路の直線区間を絶叫しながら走らせる。だが、サイドミラーに映るアイロンコアの姿は、距離を詰め続けている。

 

「最高速がおっせぇなクソ、ポンコツのトラックが!」

 

「クソ!これだからディーゼルエンジンは最悪だ!ガソリンスタンドでもしかしてミスったかぁ!!???」

 

運転手は最悪のミスを考え、装填した燃料は何だったか考えた。だがしかし、乗組員はそれどころではなかった。

 

 

「……前を見ろ! トラックよお願い!本当に止まるな、止まるなッ!おお神様!」

 

車内の兵士が叫ぶが、その声は空を切り裂く乾いた音速を超える着弾音に呑み込まれた。

 

ドゴーン、ドゴーンと連続して続く着弾音に、飛翔音が後から鳴る。音速を超えたロケットは軌道を変えられないが、非常に真っ直ぐ飛ぶ。到達するまでの速度を極めると音が大気中では後から追随するようになるのだ。

 

 

 

アイロンコアの背面に搭載された360門のロケットランチャーが、連続して起動を開始した。 それは、映画のような華々しい爆発ではない。 発射されたのは、殺意を充填した空を飛ぶの礫の群れだった。

 

斉射が行われた。

 

ロケットの群れは、逃走するトラックの車列を狙い撃つのではなく、彼らが走る高速道路そのものを標的とした。着弾の瞬間、凄まじい運動エネルギーがコンクリートの橋脚と路盤を襲った。 超音速で飛来する破片が、橋桁の継ぎ目を、支柱の基部を、あらゆるものを破壊する。

 

「何だ……何が発生したんだ!?」

 

一人の兵士が、割れたリアウィンドウから外を振り返った。 視界に飛び込んできたのは、無惨に『自壊していく高速道路』の光景だった。

 

数十トンの自重を持つ複数のアイロンコアが高速で横方向から体当たりし、

同時に構造的な弱点へロケットを叩き込まれた結果、コンクリートの構造限界は一瞬で決壊した。

 

数キロにわたる路面が、まるでドミノ倒しのように後方から崩落を始めた。

縄で繋がれた祈願の札が一斉に動くように、高速道路も路面によって接続されている。つまり高速道路はこれから倒れるのだ。

 

近代文明から現代に至るまで、交通の動脈であったアスファルトの道は、巨大な板となって、全体が30m下の地面へと吸い込まれていく。

車列の半分以上が、ブレーキをかける暇もなく星の重力に捕らわれて消えた。

いくつもの小型ロケット弾が、柱を集中的に攻撃したからだ。

 

 

地平線を埋めるように迫るアイロンコアの軍勢に、兵士はただ絶望した。

 

(高速道路も容易く崩されるなら、この場所も時間の問題だ───! 逃げなきゃヤバい!)

 

しかし、彼は立ち上がろうとして、奇妙な違和感に気づいた。 足に力が入らない。感覚がない。 視線を落とすと、自分の右足が、太ももの付け根から先が存在しなかった。 車体が横転した際の衝撃か、あるいは飛来した高速道路の破片が通り過ぎただけなのか。断面はアイロンコアの攻撃による衝撃で血管が即座に閉塞したのか、血さえも"流れていないような気がした"。

 

己の視界では流血していない。

 

 

「うおおおっ!? 痛……くない。」

 

不思議だった。アドレナリンと衝撃が、中枢神経を麻痺させている。

 

(ああ、そうか。俺はもう、さっき死んでいたのかもしれない……)

 

呆然と自らの欠落を見つめる彼の視界が、急激に暗くなった。 見上げれば、そこには巨大な手があった。 アイロンコアの一機が、崩落した高速道路の巨大なコンクリート片──鉄筋が剥き出しになった数トンの塊を、まるでリンゴを掴み上げるように簡単に持ち上げている。

 

兵士はそこでようやく理解した。 衝撃で死んでいたというのは誤解であり、今から自分は不要なデブリとして処理されるのだと。 生きていたのではない。ただ壊れた部品が、まだ動いていただけなのだと。

 

「待て……待ってくれ……!」

 

祈りは届かない。アイロンコアを操るパイロットのモニター越しには、彼の命など換算する価値にも満たない。

 

パイロットの任務は高速道路を破壊し、逃走する補給トラックを壊滅させることだからだ。

巨大なマニピュレーターが駆動し、掴み上げられた瓦礫が、兵士の頭上でさらに強く握りつぶされた。

 

バキバキと、コンクリートと鉄筋が……そして己の骨が木の枝の様に簡単にひしゃげる音が、兵士の最期の意識を支配した。 生も死も、 それらすべては、アイロンコアの冷徹な機械の手の中で、瓦礫と共に圧縮され、無機質な塵へと変わっていった。

 

アイロンコアは止まらない。 彼らは崩落した高速道路の端に立ち、地面で燃えるトラックや、装甲車の残骸を光学センサーで見下ろすこともなく、次の的を探して、破壊された路面を握りしめて投擲していった。

 

地上は、もはや人間が生存を許される戦場ではなかった。 それは、東側が放った『鋼鉄の粉砕機』によって、通れるアスファルトの通路は強制的に圧屈され、破断する。

 

この世にある全ての物体はアイロンコアによって破壊されるのだと思いながら死んだ。

 

 

 

 

 

 

 




『アイロンコア・ユーザーマシン』

東ベラトリアが西ベラトリアとの戦争中である2111年に民間公開した人型兵器。
独立懸架式の機関銃座が積載可能であり、小型ロケット弾や小型ミサイル弾を積載可能。

東ベラトリアはユーザーマシンの実戦配備を進めており、内部フレームは立体トラス構造を重視しているためフレームのみの時の重量が約10倍に増えている。

アイロンコア・リライト などの機体や、 アイロンコア・モダン などの機体の特徴がそれぞれ掛け合わされている。

脚部フレームは三重の結合ロックが掛けられており、重量増加の要因の一部はリライトの三重ロックを全ての可動部に付けたためだと推定できる。

作られている工廠は明かされていないが、できれば見たいものである。とても芸術的だ。  

ノー・ラインズの武装にもこのような多機能性を重視した兵器を使いたい。
しかし、我々はどの勢力からの干渉も決して受けない。アサラの自治と自立を真に実現するため、今後も邁進することを誓う。

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