アストリピュア   作:ミモザ

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誤字、脱字などは教えていただけると幸いです。


2話

 

 

 

まず初めに俺は、自分の能力の実験から始めた。真っ白な箱に閉じ込められ、空中に浮かぶ無慈悲なカウントダウンを見つめ続けるだけの時間は、精神を摩耗させる。しかし、考えようによっては、このあまりにも長い準備期間は、運営がプレイヤーに与えた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだ。

 

あの得体の知れない音は、生存のヒントとなる情報をほとんど残さなかった。ただ一点、俺が引っかかっていたのは、あの音は「殺し合いをしろ」と直接的には命じていないことだ。「困難を撃ち破れ」「最後の一人になった時、望むものを授けよう」——。

 

その言葉には、他のプレイヤーと協力して状況を打破する余地があるのかもしれない。あるいは、一億人が協力してこのシステム自体を破壊するという選択肢すら……。

 

 

いや、甘いな。

 

すぐにその考えを首を振って打ち消す。希望的観測は戦場では毒になる。もし問答無用の殺し合いが始まった瞬間、俺が「話し合おう。」なんて間抜けな面を晒していれば、その瞬間に首が飛ぶだろう。最低でも、自衛、あるいは先手を取れるだけの力は持っておかなければ、交渉のテーブルにすらつけない。

 

「俺の能力が、もっと分かりやすい怪力とか、念力とかなら良かったんだけどな……」

 

俺は、先程生成された《真っ黒な短剣》の柄を握りしめ、ため息をついた。この短剣は、重心が驚くほど安定しており、吸い付くように手に馴染む。だが、リーチの短さは致命的だ。相手がアサルトセットの銃や長物を持っていれば、近づく前に終わる。

 

まずはこの短剣を、もっとリーチのある槍か刀に書き換えられないか。それが最初の実験だった。俺は意識を右手の紋様に集中し、短剣の形状を歪めるイメージを送り込んだ。

 

だが、結果は無反応。指輪やこの空間の壁、床にも試したが、静止した物質を動かすことはできなかった。まるで、完成された形を持つものに対しては、今の俺の力は及ばないと言わんばかりに。俺の実験は、開始早々に八方塞がりの壁にぶち当たっていた。

 

しかし、収穫がなかったわけではない。再構築の結果、短剣と共に現れた《銀色の指輪》。これが、俺にとっての真の突破口だった。指輪を嵌めた状況で意識を集中させると、視界が変容する。真っ白だったはずの空間に、陽炎のような、あるいは水面に広がる波紋のような()()()()()が蠢いているのが見えた。

 

これは、ゲームで言うところの魔力のような、この世界を構成する基礎エネルギーではないか——俺はそう直感した。実際の所どうなのかは分からない。しかし、俺は自分の直感をひとまず信じてみることにした。

 

 

「動け……!」

 

手始めに波に意識を向ける。自由自在というわけにはいかないが、強く念じれば波の振幅が大きくなり、流れの方向を微かに変えることができる。

 

試しに、自分の方へとその波を誘導してみると、物理的な質量があるわけではないはずなのに、体が強く押されるような奇妙な圧力を感じた。

 

「使える……」

 

相当な集中力を要するため、激しく動き回りながらの使用は今の俺には不可能だが、近づいてきた相手の足を払ったり、飛んできた弾丸の軌道を数ミリだけ逸らしたりすることはできるかもしれない。飛んできた弾丸を目で追えたら、の話だけど。

 

 

 

 

しかし、あくまでこれはエネルギーの()()に過ぎない。俺の能力の本質は、あのアナウンスが告げた通り《等価交換(オーバーライド)》のはずだ。()()()()()ためには、材料が必要だ。そして今、俺の目の前には無尽蔵とも思える()()()()()がある。俺は即座にある事を閃いた。

 

 

これに能力を叩き込んだら、どうなる?

 

 

俺は即座に床に座り込み、精神を研ぎ澄ませた。先程の操作で分かったが、大切なのはイメージだ。何を、どのように、どれほどの力で、何をしたいのか。

 

波の流れをゆっくりと変え、一点に集める。まずは、巨大な渦を作るイメージ。その中心へ、空間に漂うエネルギーを凝縮していく。ゆっくり、ゆっくりと。

 

 

俺は《スカウトセット》や《サバイバルセット》に含まれていたアイテムを思い浮かべた。戦場において、物資の有無は生死を分ける。

 

 

逃げ回るための迷彩ポンチョを…

 

 

或いは、サバイバルに役立つ多機能マルチツールを……

 

 

 

 

 

 

生き延びるための、生き残るための何かを…………!

 

 

 

「……っ」

 

 

冷や汗が頬を伝う。渦が強くなるにつれ、脳を針で刺されるような鋭い頭痛が襲ってきた。だが、手を緩めれば集めた力が霧散してしまう。

 

まだ足りない。もっと密度を。もっと、物質としての確固たる現実感を。

 

まだ、まだまだ、まだまだ……!

 

 

意識が遠のきそうになる。視界が揺れる。エネルギーの渦は、今やパチパチと青白い放電現象すら起こし始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、ただそれだけに意識を集中させ、時間の感覚すら曖昧になった頃、ついにその時は来る。

 

 

「——書き換えろ等価交換(オーバーライド)!!」

 

 

絶叫に近い声と共に、俺は全精神をその渦の中心へと叩き込んだ。何かが弾けた。

 

 

閃光。そして、重低音。鼓膜を突き破るような衝撃のあと、俺は激しい脱力感に襲われて床に這いつくばった。

 

どれほどの時間が経ったのか。肩で息をしながら、俺はぼやける視界の中で、床に転がっている《それ》を掴んだ。

 

「これだけやって、これ一つか……。コスパ悪すぎだろ……」

 

皮肉混じりの呟きが、乾いた口から漏れる。俺の手の中には、一点の曇りもない新品の「大型バックパック」があった。中を確認すると、不格好ながらもいくつかの保存食とペットボトルに入った水が入っている。

 

 

脱力しながら時間を確認するために空中を見上げる。【 120:00:00 】

 

 

力を集め始めたのは135時間前後のことだったので、十五時間近くが経過している。本来ならスターターセットとして一瞬で与えられるはずのものを、俺は十五時間という膨大な時間と、精神を削り取るような苦痛を代償にして、文字通り《ひねり出した》のだ。

 

だが、この疲労感の向こう側で、俺は確かな手応えを感じていた。きっと、俺の《等価交換(オーバーライド)》は、既存の物質を作り変えるだけではない。

 

 

 

世界のエネルギーという、形の無いものを対価にして、無理やり物理法則という理に干渉し、特定の物資を上書き生成(オーバーライド)することができる……んだと思う。理屈は分からないが、こんな得体のしれない力に理屈を求めるほうが間違っていると思う。

 

 

 

 

 

「十五時間でバックパック一つ。なら、残りの時間で何を作れる?」

 

 

今の俺には、アサルトセットのような強力な銃器を作るだけの出力はないかもしれない。だが、この《何もない白》から何かを生み出せるという事実は、サバイバルどころか、今後の様々な事柄において、圧倒的なアドバンテージになるはずだ。

 

できるだけたくさんの物を作り、ありとあらゆる状況に対応する。そんなをできる力が、今の俺にはある。休んでいる暇はない。時間は有限だ。もっと、もっとたくさんの物を作るんだ…!

 

 

 

「……次だ。次は、もっと精度を上げる」

 

俺はフラつく足で立ち上がり、再び意識を深く集中させる。脳は休息を求めて悲鳴を上げているが、心臓はこれまでにないほど熱く波打っている。

 

この絶望的なゲームを攻略するための、唯一の抜け道(バグ)を俺は見つけたのかもしれない。俺は再び、その波に向かって、静かに、そして鋭く渦を作り始めた───。

 

 






【現在の所持品】

《真っ黒な短剣》
《銀の指輪》
New《大型バックパック》(少量の保存食・水入り)


【残り時間:120時間00分】

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