ポケモンが存在しない世界にポケモンが現れた   作:名無しのトレーナー

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 色々とガバが多い二次創作ですが寛大な心で許してクレメンス。


初めてのポケモンバトル

 アルセウスから啓示を受けてから数日後。私とヒトカゲは埼玉県内の某所へと向かった。そこには既に2人の男性と2匹のポケモンがいる。おそらく彼らは私と同類だろう。

 

「そのヒトカゲ……そういうことですね」

 

「ええ、貴方と同じ転生者です」

 

 私たちの存在に気づいた細身の男がヒトカゲを見ながら尋ねてきた。彼の隣にいるフシギダネは呑気に欠伸をしている。

 今日は前々から予定されていた転生者オフ会の日だ。関東地方の転生者は私を含めて3人だけ。つまり全員揃ったことになる。こうしてオフ会は静かに始まった。

 

「まずは自己紹介から始めましょうか。僕は緑川(みどりかわ)優斗(ユウト)です。大学院生をやらせてもらってます。隣にいるのは相棒のフッシーです。どうぞよろしくお願いします」

 

「ダネッ!」

 

 緑川くんの言葉に呼応してフシギダネ(フッシー)が元気よく挨拶をする。既にニックネームまで付けているのか。これは私のヒトカゲにも付けるべきなのでは?

 

「そんじゃあ、次は俺の番だな。俺の名前は青山(あおやま)太郎(タロウ)だ。ゼニガメのトレーナーをやらせてもらってる。そんで定職についてないプー太郎だ。今後ともよろしく!」

 

「ゼニィ!」

 

 青山さんは細身の緑川くんと違って体つきがガッシリしているな。無職だけど筋トレをしているタイプなのだろう。それはともかくとして私が自己紹介するターンがやってきた。

 

「私の名前は赤城(あかぎ)竜姫(タツキ)です。普段はドラゴン☆プリンセスという名義で動画投稿や生配信をしています。アルセウスから託されたポケモンはヒトカゲです。気軽にドラ☆プリと呼んでください」

 

 そう言って私とヒトカゲはペコリと頭を下げる。関東地方のトレーナーは学生と無職と配信者の三人か。見事に社会経験の無い人間が揃ったな。まあ裏を返せば自由な時間が多い人間でもあるので悪くはない。

 

「……関東地方でカントー地方の御三家が揃いましたね」

 

「転生者専用掲示板の書き込み的に他の地方も似たような感じだしな」

 

 例えば、関西(ジョウト)地方にはヒノアラシ、ワニノコ、チコリータを相棒にした転生者が三人いたりする。これは北海道(シンオウ)九州(ホウエン)でも同様だ。つまり地方の元ネタに対応した御三家が配られているわけだ。

 確かアニメだと御三家は初心者向けのポケモンだったはず。おそらくアルセウスが意図的に選んだのだろうな。いきなり伝説や600族を渡されても対等に付き合えるか怪しいので、この配慮はありがたい。

 

「それはそうとドラプリさんの動画や配信のおかげで順調に広報活動が進んでいますね。本当にお疲れ様です」

 

「ヒトカゲの【ひのこ】でチャーハンを作る動画は面白かったぜ。チャンネル登録者がシビルドン登りの激バズだったな」

 

「ポケモンの話題性ありきですけどね。それに視聴者の殆どは面白半分で見てますし」

 

 本来なら神様から啓示を受けたと主張しても全く相手にされない。しかし私にはヒトカゲという動かぬ(動くけど)証拠がある。そして私は有名ではないが無名の配信者ではない。

 これらが組み合わさった結果、投稿した動画は途轍もない勢いで拡散されまくった。その勢いは凄まじくチャンネル登録者は爆増している。

 

「ここまで話題になれば近いうちに地上波デビューも出来るんじゃないですか?」

 

「流石に1週間では厳しいですよ」

 

「それもそうですね」

 

 私は配信者になるくらいには承認欲求が強いので地上波デビューも大歓迎だ。とはいえ有名税も相応に大きくなるので慎重に立ち回らなければならない。

 

「それでは、こちらも成果を報告させて頂きます。僕が所属する大学の教授たちにポケモンの件を報告しました。現在は彼らがポケモンやモンスターボールの解析を行っています」

 

「それは凄いな。ところで緑川くんは何処の大学に通ってんだ?」

 

「東帝大学です」

 

「マジかよ!?」

 

 青山さんは口を大きく開けて驚く。東帝大学は日本で最も偏差値が高い大学だったはず。その知名度は高卒の私でも知っているくらいだ。

 

「話は変わりますが2人にお願いがあります。パートナーのポケモンを連れて大学に来てくれませんか? 教授が他のポケモンも見たいと言い出しまして」

 

「俺は常に暇だから構わないぜ。なにせ無職だからな。ドラプリちゃんはどうだ?」

 

「言いたいことは全て動画にし終えたから私も割と暇なんですよね。だから大丈夫ですよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 ポケモンの研究が進めばポケモンの理解が進むので断る理由はない。恐れとは常に無知から生じるものなので客観的なデータは重要だろう。それに大学教授という権威ある人物とコラボすれば預言を信じる人間も増えるはずだ。

 

「最後は俺だな。報告できることは無いがプレゼントを持って来たぜ」

 

「「プレゼント?」」

 

 私たちが疑問符を浮かべていると青山さんはポーチから真っ白なスカーフを二つ取り出した。

 

「こいつはシルクのスカーフだ!」

 

「それってノーマル技の威力を上げる道具でしたっけ?」

 

「意味があるかは分からないがポケモンに持たせておいて損はないだろう」

 

「……可能性は高そうですね」

 

 当たり前だがしんぴのしずくきせきのたねなどの水技や草技の威力を上げるアイテムは現代日本に存在しない。一方で炎技の威力を上げるもくたんの入手は容易ではある。しかし脆い物質なので戦闘中に壊れてしまう可能性がある。故にシルクのスカーフを装備するのが最適解というわけか。

 ということで青山さんから受け取ったスカーフをヒトカゲの首元に付けてあげた。なんというかポケダンのヒトカゲを思い出す。

 

「カゲェ♪」

 

「ダネェ♪」

 

 ポケモンたちはシルクのスカーフを気に入ったのか嬉しそうに踊っている。

 

「夜なべして作ったから喜んでくれてなによりだ!」

 

「そういや青山さんのゼニガメにはスカーフを付けないんですか?」

 

「うちのゼニガメにはこれがあるからな」

 

 そう言うと彼はゼニガメにサングラスをかけてあげた。これは悪技の威力を上げるくろいメガネでもあるが……。

 

「アニポケのゼニガメ団みたいですね」

 

「それっぽさは大事だからな」

 

「ゼニィ♪」

 

 ポケモンは【わるだくみ】したら特攻が上昇する生き物なので、コスプレで気分が高まれば技の威力も上がりそうだ。

 

「……そんじゃあポケモンバトルするか?」

 

 青山さんは歯切れが悪そうな様子で話を切り出した。

 オフ会の前夜、アルセウスフォンに搭載されている『転生者専用掲示板』では1つの議題が語られていた。それは『一度くらいポケモンバトルを経験した方がいいんじゃないか』というものだ。

 お互いの手持ちを把握する為、技や特性の詳しい仕様を確認する為、そして何より“実戦経験”を積む為に。

 

 それでも私は迷っていた。前世のポケモンバトルはゲームの中の出来事でHPが減れば回復アイテムを使えばいい。しかし現実では怪我をするし痛みも恐怖もある。指示を出すということは、その責任を全て引き受けるということだ。

 

 アルセウスは「世界にポケモンが出現する」としか告げなかった。それは人類の友達が現れるという意味でもあり、人類の脅威が現れるという意味でもある。流石に共生を命じておいて、いきなりバンギラスやギャラドスみたいな凶暴なポケモンを送り込むとは思わない。思わないが“万が一”は常に存在する。

 だからこそ私たちは強くなる為……つまり生き残る為にポケモンバトルを行う。他の2人も同じ気持ちだろう。

 

「それでは場所を変えましょうか」

 

 当たり前だが人目につく場所でポケモンバトルをすれば間違いなく警察に通報される。そして幾つかの都道府県では闘犬に類する行為を条例で禁止している。オフ会の開催場所が東京や神奈川ではなく埼玉なのはそうした事情*1が関係している。

 そんなわけで私たちは人気(ひとけ)のない山奥へと移動した。携帯の電波も心許ない場所だが、裏を返せば通報される心配もない。

 

「最初はゼニガメとヒトカゲの戦いですね」

 

「頼んだぜ!」

 

「ゼニゼニィ!」

 

 青山さんの声を聞いたゼニガメは甲羅を軽く叩き闘志を滾らせる。

 

「カゲェ……」

 

 対するヒトカゲは不安そうな顔をしている。相手は水タイプ、つまり炎タイプにとっての天敵だ。怖がるのは当然だろう。

 しかし将来的に格上や相性の悪い相手と戦う場面もあるかもしれない。だからこそ恐怖に飲まれない為の訓練は欠かせない。

 

「勝ったら後でリンゴをあげる。だから頼んだよ!」

 

「カゲェ!」

 

 その言葉を聞いたヒトカゲは尻尾の炎を燃え上がらせる。本当に食いしん坊だなと苦笑しつつも私は彼の戦意を頼もしく感じていた。

 

「思いっきり、やりましょう!」

 

 近くにはゼニガメ(水タイプ)がいるので多少のボヤ騒ぎが起きても即座に消化可能だ。

 

「それでは見合って……3、2、1、スタートッ!」

 

 緑川くんの合図と共に人生で初めてのポケモンバトルが始まった。生兵法は大怪我の元なので特に作戦は立ててない。強いて言うなら臨機応変に動いて勝つのみである。

 

「ゼニガメ、【みずでっぽう】だッ!」

 

「ゼニッ!」

 

「躱して!」

 

「カゲッ!」

 

 ヒトカゲはゼニガメの攻撃を紙一重で躱す。回避し続けてPP切れを待つ余裕は無さそうだ。それに相性不利だから技の相殺は不可能。ならば積極的に攻めるのみだ。

 しかしタイプ一致の炎技は水タイプに効果いまひとつ。つまりノーマル技の【ひっかく】で攻めるしかない。

 ちなみにポケモンが覚えている技などはアルセウスフォンで確認可能だ。

 

「近寄って【ひっかく】!」

 

「【からにこもる】でガードしろッ!」

 

 鋭い爪による斬撃は甲羅によって防がれた。ゲームでの【からにこもる】は自らの防御力を上昇させる変化技だが、現実では【まもる】のような効果になるのか。ここら辺はアニポケ準拠なのだろう。

 

「なら【ひのこ】で甲羅焼きにして!」

 

「カゲッ!」

 

 炎技は水タイプに効果いまひとつ。なので【ひのこ】を喰らわせても大したダメージにならない。

 しかし時間が経てば経つほど甲羅の中の空気が燃焼し酸欠状態になるはず。つまり【からにこもる】を解除せざるを得ない状況が必ず来る。それは水タイプであっても変わらない。

 

「……ゼニィッ!」

 

「今だよ!」

 

「カァゲッ!」

 

 渾身の【ひっかく】がゼニガメの急所に炸裂する。等倍相性でタイプ一致ではないノーマル技とはいえ、シルクのスカーフで威力を底上げしているので割と痛いはずだ。

 

「畳み掛けて!」

 

「【みずでっぽう】で牽制だッ!」

 

 ゼニガメは何度か攻撃を被弾しつつもヒトカゲから距離を取り体勢を立て直して反撃に転じた。破れかぶれの攻撃を躱すのは簡単だろう。しかし……。

 

「攻撃を躱さないで!」

 

「カゲェッ!?」

 

 意味不明な指示に困惑したヒトカゲは攻撃をモロに喰らってしまう。だけど今の判断は間違いではないはず。

 

「カゲェ……」

 

 ヒトカゲは見るからに疲弊している。タイプ一致かつ効果抜群の水技を喰らったのだから無理もない。しかしギリギリで耐えてくれたので勝ち筋が見えた。

 

「いけそう?」

 

「カゲェッ!」

 

 赤色のオーラがヒトカゲの身体を包み込んでいる。つまり特性の【もうか】が発動した。まだまだ勝負は終わっていない。ここからが本当の戦いだ。

 

「トドメの【みずでっぽう】だッ!」

 

「【ひのこ】で迎撃!」

 

 もはや火の粉の規模に収まらない焔は向かってくる水流と空中で衝突した。 凄まじい水蒸気が爆音と共に周囲へ立ち込める。一瞬で視界が真っ白に染まり、湿った熱風が私たちの頬を撫でた。

 特性【もうか】はピンチの時に炎技の威力が上昇する特性。つまり相性不利の水技だろうと相殺可能だ。

 

「ヒトカゲ、炎を滾らせて!」

 

「……カゲ!」

 

 その言葉に応えるようにヒトカゲの尻尾の炎が大きく燃え上がる。そして炎の熱は上昇気流を生み出し蒸気を力任せに押し上げた。

 

「ゼニッ!?」

 

 自ら霧を晴らしたヒトカゲにとって、それは「予定通り」の視界確保だ。一方で突如として蒸気の壁が消え去ったゼニガメは急激な環境の変化に対応できず、その動きを僅かに鈍らせる。思考が追いつかない獲物に対し確信を持って踏み込んだのはヒトカゲの方だった。

 

「ヒトカゲ、【ひっかく】!」

 

「ッ……ゼニガメ、【たいあたり】!」

 

 2匹は互いに限界まで踏み込む。ゼニガメは甲羅を低く構え突撃する。ヒトカゲは身体を捻りながら爪を振り抜く。

 ノーマル技同士の真っ向勝負。しかし相手の持ち物は黒いメガネで、こちらの持ち物はシルクのスカーフ。精神的優位に加えて道具の補正まで乗せた純粋な殴り合いで有利なのは後者だろう。

 

「ゼニィ……!」

 

 突進の勢いを殺されたゼニガメは踏ん張りきれず大きく吹き飛ばされた。そして地面に伏し身体を縮めて瀕死状態になった。もちろんヒトカゲは健在である。

 

「やったね!」

 

「カゲェッ!」

 

 私たちは相棒を労わりつつおいしいみずを飲ませて回復を行う。これはコンビニで買った普通のミネラルウォーターなのだが、ポケモンに与えるとゲームのように確かな効果があった。市販品で回復するなんて随分とコスパの良い生き物である。

 それはともかくとして戦いが終わり感想戦のフェーズへと移行した。

 

「まさかタイプ不利を覆されるとはな!」

 

「今回の戦いは【もうか】の発動が鍵でしたね」

 

「水蒸気で視界を奪われた時に動揺しちまったせいでゼニガメに的確な指示を出せなかった。今回の敗北は全面的に俺が悪いな」

 

「ゼニゼニ」

 

 するとゼニガメは「そんなことないよ」と言わんばかりに青山さんに抱き着く。

 

「お互いに見事な采配でした。それでは次の戦いを始めましょうか」

 

 その後もポケモンバトルは続いていく。緑川くん&フシギダネ(フッシー)VS青山さん&ゼニガメはタイプ相性の差で前者が勝利。私たちとの戦いも同様の結果となった。

 こうしてポケモンバトルを終えた私たちは親睦を深める為に食事をすることにした。つまりフード理論の再来である。

 

「俺たちだけ全敗じゃん!」

 

「初戦の番狂わせ以外はタイプ相性通りですから」

 

「それに負けてもレベルが上がるみたいですし」

 

 ゼニガメは2度の敗北により新たに【こうそくスピン】という技を覚えた。ちなみにヒトカゲは【えんまく】を、フシギダネ(フッシー)は【せいちょう】を覚えた。

 

「これから、もっと強くなろうな!」

 

「ゼニィッ!」

 

 仲間が強くなるのは喜ばしいことだ。是非とも頑張ってくれい。

 

「ところで皆さんはポケモンにニックネームとか付けないんですか?」

 

「確か緑川くんはフシギダネにフッシーと名付けてたな」

 

「ええ、センスがないので安直なニックネームになってしまいました」

 

「確かに固有の名前があったほうが愛着が湧くかもな」

 

 例えば犬が何匹かいるのに全て名前が「犬」とかだったら紛らわしい状態になってしまう。まあ御三家は割とレアなポケモンなので何体も野生で出てくることは無さそうだけど。

 

「ゼニガメ……亀だからドナテロだな!」

 

「ゼニィ♪」

 

「ドナテッロはイタリアの彫刻家では?」

 

 青山さんから名前を貰ったゼニガメ(ドナテロ)は嬉しそうにしている。おそらくティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズのドナテロが名前の由来なのだろう。

 

「カゲェ?」

 

 するとヒトカゲは「僕のニックネームはどうするの?」と言わんばかりに近づいてきた。どんな名前にするか地味に迷うな。

 

「……セパルトラかアネデパミ、どっちがいいと思います?」

 

 セパルトラとはポケモン赤緑のパッケージ裏画像でヒトカゲにつけられたニックネームだ。そしてアネデパミは裏技を使用することで出現するリザードンに似た見た目のバグポケモンである。

 

「随分と独特なニックネームですね」

 

「フフッw」

 

 私の案を聞いた緑川くんは困惑し青山さんは軽く笑う。どうやら彼は名前の元ネタが分かっているようだ。

 

「俺はセパルトラに1票だな。アネデパミはバグポケモンだしな」

 

「僕も同じ意見ですね。名前の由来は存じてませんが語感が好きです」

 

「じゃあセパルトラ……いや直球だと味気ないしルトラにしようかな」

 

「カゲェ♪」

 

 それを聞いたヒトカゲは嬉しそうに尻尾を振る。こうして相棒のニックネームは『ルトラ』になった。

 

「話は変わりますが預言の時まで残り4日ですね」

 

「だなぁ」

 

「僕たちは関東に住んでいる、つまり政府首班との距離が物理的に近いので要人との交渉を担当するんでしょうね。その時になった途轍もなく緊張しそうです」

 

「そもそも偉い人と会えるのか?」

 

「現在、教授たちが政府に働きかけてるのでワンチャンくらいはあります」

 

 中堅配信者である私が政府と関わるかもしれない状況になるなんて驚きである。まあ主な交渉は高学歴の緑川くんが担当するのだろう。賑やかし担当の私は後ろで座っているだけだ。それはともかくとして私には彼らに言いたいことがある。

 

「……話を変えてごめん。2人にお願いがあるんだけど」

 

「なんです?」

 

「水タイプのポケモンを捕まえたら私に譲渡してくれない?」

 

 足元にいるヒトカゲ(ルトラ)を見ると尻尾の炎はいつも通り穏やかに揺れている。そして私は慎重に言葉を選びながらも話を続ける。

 

ヒトカゲ(ルトラ)が不注意で火事を起こしたら大変だからね」

 

「カゲェ……」

 

「責めてるわけじゃないよ。お前が悪いんじゃない。ただ……」

 

 現代社会はポケモンを前提に作られていない。スプリンクラーや耐火構造もポケモンに適応していないのだ。

 

「万が一に備えて【みずでっぽう】を使える水タイプがいてくれたら安心できる。消火要員って言えばいいのかな」

 

「リスク管理としては正しいと思います」

 

「確かに家が火事になったら洒落にならねぇしな」

 

 消化する為だけに水タイプのポケモンを求めるという発想は余りにも打算的だ。身を守る為とはいえ役割を先に決めて存在を迎え入れる。ポケモンを「命」ではなく「道具」として見ていると言われても否定できない。

 

「分かった。俺が水タイプを捕まえたら真っ先にドラプリちゃんに声かけるよ」

 

「僕も同意します。優先順位が高いタスクですからね」

 

 お願いは思ったよりも簡単に了承された。炎タイプのヒトカゲで水タイプを捕まえようとするのは無茶なので仲間の協力があるのは助かる。

 

「ありがとう。この恩は必ず忘れない」

 

 私はそう呟き再びヒトカゲ(ルトラ)の尻尾を見る。この小さな炎は温もりでもあり危険でもある。ポケモンと共に生きるということは、そういうことなのだ。

*1
2026年現在、首都圏で闘犬禁止条例があるのは東京と神奈川のみ




※登場人物の紹介
赤城(あかぎ)竜姫(タツキ)
 ヒトカゲ(セパルトラ)のトレーナーで今作の主人公。前世が男で今世が女のTS転生者。職業は配信者。ハンドルネームは『ドラゴン☆プリンセス』。一人称は「私」。

緑川(みどりかわ)優斗(ユウト)
 フシギダネ(フッシー)のトレーナーで東帝大学の大学院生の男性。一人称は「僕」。

青山(あおやま)太郎(タロウ)
 ゼニガメ(ドナテロ)のトレーナーで無職の男性。二話で掲示板に書き込んでいた転生者。一人称は「俺」。

 赤、緑、青。名前の由来が安直ですね。これもアルセウスの意思(タブンネ)なのでしょう。
 メタ的な理由としては誰が誰のトレーナーか分かりやすくする為です。一人称が違うのも同じような理由ですね。
 ちなみに他地方の転生者の存在は匂わせるだけです。流石に12人も制御できる自信はありません。
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