ポケモンが存在しない世界にポケモンが現れた 作:名無しのトレーナー
ヒトデマンをゲットした翌日の早朝。私は記者会見の壇上にいた。正確には「立たされていた」と評した方が近いか。
別に私が望んだわけじゃない。伝えるべきことは全て配信したつもりだ。それでもマスコミ各社からの要請は雪崩のように押し寄せ断り切れる量では無かった。
まあネットに触れない人たちにも届く言葉が必要だと、そう割り切るしかない。
曰く、
突如として現れた怪物を倒した配信者。
新種の生物を従える預言者たちの代表格。
ネット世論の中心人物。
自業自得とはいえ随分と大層な肩書きが並んだものだ。
壇上の椅子に腰を下ろしマイクを前に置く。視線の先にはカメラ、レンズ、ライト。数え切れないほどの報道陣が一挙手一投足を逃すまいと構えている。
私は小さく息を吐く。
逃げても状況は良くならない。
語らなければ誰かが代わりに語る。
歪められた言葉で都合よく。
それだけは許せなかった。
「本日はお集まりいただき、ありがとうございます」
まずは形式的な挨拶をする。なぜ勝手に集まった連中に礼を尽くさなければならないのか。
「私はドラゴンプリンセス名義で活動している配信者、赤城竜姫と申します。
それでは昨日より世界各地で確認された未確認生物の件について、ご報告させて頂きます。
私たちは八日前にアルセウスと名乗る存在から啓示を受けました。
内容は1週間後にポケットモンスター、縮めてポケモンという不思議な生物が地球に現れるというものです」
そう言って私はポーチからモンスターボールを取り出し記者に見えるように掲げる。
「これはモンスターボール。ポケモンを捕獲し収納する為の道具であります。現在は協力関係にある研究者と共に解析を進めています」
東帝大学の研究者曰く、解析は順調で後は材料さえ揃えば量産できるらしい。まあヒスイ地方の子供でも自作できるのだから割と単純な機構なのだろう。
「さて、このモンスターボールにはポケモンが入っています」
私はモンボから
本当は出すべきか一瞬迷った。昨日の様子が脳裏をよぎる。もしかしたらパニックを起こして記者たちを攻撃するかもしれない。それでも……私は彼を信じたかった。
「リザァ!」
彼は異常な状況にも臆さず堂々とした佇まいで記者たちに挨拶をする。本番に慣れさせる訓練をしたのもあるけど素の性格が【ずぶとい】のだろう。現に好物は酸っぱいリンゴだし。*1
「彼はリザードと言うポケモンで……見た目通り炎を扱うことができます」
すると
「ポケモンの中には電気や冷気を扱うこともあります。アルセウスもポケモンの一種です。そのアルセウスは私たちに、ポケモンと人間が絆を育み、共生できるよう尽力せよと命じました」
ここまでは今まで発信してきたことの再確認に過ぎない。記者たちもセンセーショナルな新情報を望んでいると思う。そろそろ期待に応えるとしようか。
「私たちは命令を遂行する為に新組織を立ち上げました。組織名は「日本ロケット団」、その目的は人間とポケモンの融和です」
流石に「日本ロケット団VSダークライ」という名前は色々と問題があったので却下された。しかし安価を無視するのもどうなんだという意見も出たので折衷案として「VSダークライ」の部分だけを取り外した。ポケモンとの共生が目的の組織でポケモンと戦う名前にするのは色々とマズい。
「現在、日本ロケット団はアルセウスに選ばれた人間たちにより運営されています。しかし私たちだけでポケモンとの融和を目指すの不可能に近い。よって新規人員の受け入れと支援者の募集を行わせて頂きます」
会場内にざわめきが走りフラッシュの光がさらに強くなる。なお
「日本ロケット団としましてはポケモンと共生することにより人類は更なる幸福を享受できると考えております」
こうして概要説明は終わりを告げる。さあ楽しい質疑応答タイムの始まりだ。
「ポケモンとの共生とは具体的にどのようなものですか?」
「例えば筋力に優れるポケモンが肉体労働に携わることや、電気を扱うポケモンによる自家発電などを想定しています。彼らは人間の言語を介するほど賢いので優秀な労働力となるでしょう」
現にルビサファではゴーリキーが引っ越しを手伝っていたりもした。人間の指示を聞けるくらい賢い生き物が人間以上の力を発揮すれば仕事の効率も段違いだろう。
「高い知能を持つ生物を労働力として使役する。つまりポケモンを奴隷のように扱うと?」
「えー、動物への虐待は動物愛護法で規制されており、奴隷のように扱うのは違法であると認識しています。共生とは支配でも搾取でもなく互いに利益をもたらす関係を築くことです」
随分と意地の悪い質問をする記者だ。牛や豚などの知能が高い生物を屠殺している時点で今更だろうに。しかし彼らは私を嫌っているわけではなく、失言を引き出して話題性を確保する、つまりは仕事でこのようなことをしているのだ。実に不愉快だが理解はできる。
「ロケット団は具体的にどのような活動をするのですか?」
「端的に言うと自警団です。荒ぶるポケモンやポケモンを悪用する人間へ対抗することを目的としています。また研究機関との協力や他団体への情報提供も活動内容の1つです」
「それは自力救済なのでは?」
「政府がポケモンを適切に運用するのなら自警団を結成するつもりはありません」
ポケモンを自衛隊や警察に配備するのは年単位の時間がかかるはずだ。それを待っていては社会は荒廃してしまい共生社会の実現も遠のく。ならば泥を被る覚悟で矢面に立とうではないか。
「日本ロケット団職員の募集要項を教えてください」
「こちらから募集はしません。今のところは私たちの知人や研究機関からの推薦があった人間のみを受け入れる方針です」
流石に何でもかんでも受け入れてしまえば制御不能になってしまう。なのでスモールスタートで始めることにした。私たちは転生者である以前に単なる人間でしかないのだ。
「また幹部職員になる場合は相手の気持ちを感じ取れるポケモンを同席させた面接を行います」
「気持ちを感じ取れるポケモンとは?」
「ポケモンの中には相手の感情を察知する能力を持つ個体がいます。具体的にはラルトスやリオルなどですね。詳しい生態については、私たちが編集しているポケモン図鑑を参照してください」
ポケモンへの負担を考えると1匹だけでは日本ロケット団全体の思想調査は不可能だ。なので似たような能力を持つポケモンを最低でも10匹くらいはゲットする必要があるだろう。
「それはプライバシーの侵害ではないでしょうか?」
「事前に承諾書の提出をお願いするつもりです」
もちろん提出しない人間は幹部になれない。
「なぜ日本ロケット団と言う名前なのでしょうか?」
「
会場に納得の声が広がる。上手く誤魔化せたようだ。
「政府への対応については、どのようにお考えでしょうか」
「相手の出方にもよりますが協力は惜しまないつもりです」
ポケモンとの融和を実現するには幾つかの法律的なハードルが存在する。だからこそ政府との連携は必要不可欠だ。しかし政府との折衝は失敗してしまった。おそらく本格的に関わるのは先の話になるだろう。
「動画投稿サイトではポケモンが人間を襲う映像が拡散されています。ポケモンは危険なのではないですか?」
「はい、ポケモンは怖い生き物です」
この発言は切り取られて偏向報道されそうだ。しかし言わないわけにもいかない。
「ですが火も危険な存在です。刃物も、車も、同様ですね。つまり私たちは危険な存在を規制するのではなく使い方と責任を決めることで社会に組み込んできました。ポケモンも同じです」
無条件でポケモンが善だと主張すれば必ず反発される。故にメリットもデメリットもあると明言する必要がある。
「単刀直入に伺います。アルセウスとは神なのですか?」
「彼は神に類する存在ではなく強大な力を持つ存在、伝説のポケモンだと認識しています」
もしもアルセウスを神様だと主張すれば世界中の宗教関係者を敵に回すことになる。なので茶を濁すことにした。私たちの目的は宗教団体の設立ではなくポケモンとの融和だ。
まあ八百万の神々が住まう日本なら割と簡単に受け入れられそうだけどね。逆にアメリカとかは一神教が主流だから大変そうだ。
「ヒトカゲとリザードの関係性について教えてください」
「リザードはヒトカゲが進化した姿です。ポケモンの中には出世魚のように成長するごとに名前が変わる種がいます」
「進化……それは変態ではないのですか?」
「形態の変化ではなく次の段階への発展、つまり進化です」
ヤドンとシェルダーが合体したらヤドランになるんだしポケモンの進化は変態とは違うだろう。
「SNSによるとリザードは騒動前から日本にいるらしいですね。彼はアルセウスから配布されたポケモンなのですか?」
「ええ、アルセウスから託されました」
「ならば伝説の存在ということですか?」
「伝説ではありませんが割と珍しいポケモンです」
歴代作品で野生の御三家ポケモンを入手するのは割と難易度が高い。しかしタマゴで量産できるので伝説のポケモンほどレアではない。
「炎を扱う生物ということは火事の危険性があるのでは?」
「その可能性については承知しております。なので対策を行いました」
そう言って私は
「ヘアッ!」
「この子の名前はヒトデマン、水タイプのポケモンです。仮にリザードが粗相しても彼が対処してくれるでしょう」
「彼もアルセウスから授けられた生物なのですか?」
「いいえ、時空の歪みから現れた野生のポケモンです。モンスターボールで馴致しました」
アルセウスによるとモンスターボールの材料である、ぼんぐりにはポケモンの野生を取り払う成分が含まれているらしい。つまりモンボでゲットすれば懐きやすくなる。
そして懐き度が高いポケモンは通常よりも大きな力を発揮できる。例えば、悲しませまいと持ち堪えたり、掛け声に合わせて技を避けたり、心配させまいと状態異常を治したり、褒めてもらおうと技を急所に当てたりなどだ。
「今回の騒動の責任について、どうお考えでしょうか?」
「責任ですか?」
「ポケモンの出現により日本中が大混乱に陥っています。その責任を一体どのように取るつもりでしょうか?」
落ち着け私。ここで感情的になれば相手の思う壺だ。
「私たちはアルセウスから啓示を受けただけなので責任を取る必要は無いと考えています」
「今回の騒動を起こした存在の関係者として罪の意識は無いのですか?」
「そもそも歪みの発生にアルセウスが関係しているという証拠はありません」
十中八九、アルセウスが原因なのだろうが別のポケモンが主犯の可能性も有り得なくはない。
「なら誰が今回の騒動を引き起こしたのですか?」
「分かりません。私は啓示を受けただけの一般人に過ぎないので」
啓示を受けただけの一般人ってなんだよ。というか動画配信者って一般人なのか?
「……以上が、私からお伝えできる現状です」
私はマイクから少しだけ身を引く。
「ポケモンは脅威ですが同時に可能性でもあります。それを恐怖だけで切り捨てるのか、理解と責任をもって向き合うのか、その選択は私たち次第です」
綺麗事だと思われるかもしれない。しかし綺麗事を掲げる人間がいなければ、現実は簡単に血と暴力に傾く。
「日本ロケット団は、その“間”に立ちます。人間とポケモン、どちらかの味方になるつもりはありません。両方を守るために動きます」
言い切った瞬間、胸の奥がじんと熱くなった。覚悟が言葉として形になった感覚である。
「本日の会見は、これで終了とさせていただきます」
司会者が締めの言葉を告げるよりも早く私は立ち上がった。これ以上ここにいれば言葉の裏を抉られ続けるだけだ。壇上を降りる背中に、なおも質問が飛ぶ。
「本当に制御できるのですか!?」
「ポケモンが暴走したらどうするんですか!」
「あなた自身が危険人物だとは……」
振り返らない。答えは言葉ではなく行動で示すしかない。控室に戻ると、ようやく息を吐けた。
「ヘアッ!」
「大丈夫、ちゃんと終わったよ」
そう言って私はモンスターボールを握りしめた。今日の会見で全てが解決するわけではない。ここからがスタートだ。
治安、経済、法律、宗教、世論。敵になり得るものは山ほどある。
「……やるしかないよね」
この二次創作を書いたことでロケット団がポケットの頭文字を変えただけだと気づきました。