燐羽実装が待ちきれない人の幻覚   作:たつおのすけ

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 事前情報はこんなところか……
 よし、スカウトに行こう。


第1話

 チャイムを押す。……反応はない。

 

 ここは、初星学園寮。トップアイドルを目指す、初星学園アイドル科の生徒たちが暮らしている。

 

 チャイムを押す。……反応はない。

 

 当然、基本的には男子禁制。スカウトしにいくにせよ、学園内の方が面倒が少なく、わざわざ寮まで足を運びに行く必要はない、というのがセオリーである。

 

 チャイムを押す。……反応はない。

 

 実際問題、寮長だという三年の生徒に、不審者と間違えられる小さな事件も起きた。しっかりと説明すると、納得してもらえたが。

 

 チャイムを押す。……反応はない。

 

 では何故、そのようなリスクを取ってまで、寮を訪れたのかといえば……当人が寮にしかいないから、としか言いようがない。

 

 チャイムを押す。……反応は――

 

「……何回押す気? そろそろ諦めてくれないかしら」

 

 そう言って出てきたのは、不愉快そうに顔を歪めた少女。プロデューサーとして、最も〝勝てる〟と踏んでいる少女。

 彼女の、名は――

 

「賀陽燐羽さん、ですね?」

「そうだけど。何の用? というか、あなた誰?」

「こういうものです」

 

 名刺を渡すと、彼女は薄く笑ってから、俺の方へと視線を戻した。

 

「へぇ……それで?」

「あなたをプロデュースさせてください」

 

 直球に言う。スカウトされた者の反応は、そう多くのパターンがない。

 

 例えば、驚く。こんな私に、と自信のない者は、このパターン。

 

 例えば、鋭く相手を見やる。既に実績があったり、実力の高いアイドルは、相手がどんなプロデューサーなのか、自分をどうプロデュースしていくつもりなのか、品定めをする。

 

 しかし彼女は、どちらでもない。

 

「ぷっ……アッハッハ! 凄い、初めて見た! あなたレベルの、『見る目のないプロデューサー』!」

 

 彼女は笑った。涙まで浮かべて、ただただ笑った。

 

 ……暫く、収まるのを待つ。彼女は少しすると、目尻の涙を拭き取って――その笑顔が、一瞬にして消える。

 

「もう少し、下調べした方がいいわよ。大方、『SyngUp!』の実績だけ見てきたんだろうけど……アレは手毬のワンマンユニット。しかも、私のせいで解散したのよ? 誰がそんな、実力もない疫病神みたいな女と、トップアイドル目指そうってのよ」

「俺です」

「……ハァ?」

 

 不快そうに顔を顰める彼女から、絶対に目を離さない。

 

 ここが、スカウトの正念場だ。真っ直ぐと見つめて、俺は言う。

 

「まず、訂正から。『SyngUp!』は決して、月村手毬のワンマンユニットではありません。実力以上のパフォーマンスを発揮し……そしてそのまま沈もうとしている月村さんを、賀陽さんと秦谷さんが上手く調整して形にする。そういうユニットです」

「……知ったような口を」

「知っています。全て見ましたから。解散理由も……賀陽さんのせいとは言えないでしょう。月村手毬の炎上を、自身に誘導し、彼女を守ったと見るべきです」

「……あぁ、そう。ホントに見る目ないんだ、あなた」

 

 呆れた、と逃げようとする彼女を、逃がしてはならない。このタイミングだ――と、俺は用意してきたワードを放り込む。

 

()()します。俺があなたを――誰もが認める、トップアイドルにしてみせる」

 

 ピクリ。やはり、彼女は反応した。

 

「私はねぇ……約束を破るやつが、大……っ嫌いなの。……できもしない約束を、するものではないわ」

「奇遇ですね、俺もです」

「……まさか、本気で言ってるの?」

「もちろんです」

「……なら、訂正。あなた、見る目がないだけじゃなくて、頭もおかしいのね」

「そうですか? 俺は純粋に、トップアイドルになれる人材を、スカウトしているだけなのですが」

 

 少なくともこれで、俺が気楽な気持ちでスカウトに来てないことは伝わっただろう。彼女はまた、渋い顔で言う。

 

「私、もうアイドルはやめるの。残念だったわね」

「いいえ。本当に辞める気なら、もうこの学園にはいないでしょう。なにか心残りが……そう例えば、ファンとちゃんとしたお別れができていない、とか」

「……チッ!」

 

 図星のようだ。……最後に、もう一押し。

 

「では、もうひとつ約束をしてみますか」

「……なにかしら」

「H.I.Fで優勝できなかったら、盛大な引退ライブをしましょう。そして、それに至るまでの全てを、俺が手助けします」

「はぁ……? 始まる前から、引退の話?」

「えぇ。……といっても、現実には起きない、仮定の話ですが」

「優勝できるわけないでしょ。……十王星南、天夜燕。他にも強敵がわんさかいるなかで、私が勝つなんて、あり得ない」

「なら、引退ライブのための、ちょっとした寄り道だとおもっていただければ構いません。……やりたいでしょう? ファンとの、きちんとしたお別れのライブを」

 

 トップアイドルを目指す――なんてゴールを提示したところで、彼女が動かないのは分かっている。なら、別の魅力的なゴールを提案するだけだ。

 

「……私が引退のためにわざと負ける、とは思わないわけ?」

「それでも構いません。ファンの前で手抜きのパフォーマンスをするような人間なら、こちらから願い下げですので」

「……言うじゃない」

 

 そう言って彼女は、微かに笑う。それは、俺に初めて見せた、嘲りでない笑みだった。

 

「いいわ。口車に乗ってあげる。――約束、破らないでちょうだい」

「はい。必ずトップアイドルにしてみせます」

「そっちじゃないわよ」

 

 分かってるでしょ、と言う彼女に、笑顔で返す。

 

 もちろん、分かっている。彼女が欲しいのは引退ライブだけということも――最後にはきっと、共にトップアイドルを目指すのだということも。

 

「……まぁいいわ。精々――私を失望させないことね」




 なんとかスカウトには成功できた。
 これから、少しずつ信頼を得ていこう。
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