舞台袖から眺めるステージには、秦谷美鈴が踊っていた。
……全てを呑み込むパフォーマンスは、当たり前のように会場中を虜にし、心を掴んで離さない。
それに、ひとつ前の、月村手毬のステージも、圧巻だった。
私を見ろという、強烈なエゴを剥き出しにしたステージは、ソロアイドルとしての矜持を感じさせられた。……誰もが、まばたきすら忘れて、見入っていただろう。
……そして、次のステージは。
「緊張してますか?」
「誰が――って、言いたいところだけど」
待機している賀陽さんの手は、僅かに震えている。……珍しい、と素直に思う。彼女は、どちらかと言えば、胆力があるほうなのだが。
「……こんな手のくせに強がっても、ダサいだけね」
「仕方のないことです。誰しも、新たな挑戦をするときは、怖いものです」
「ほんと。案外怖いのね、自分を出すって。――知らなかった」
自分を出す――純粋な『賀陽燐羽』としての、初めてのパフォーマンス。
緊張しないはずがない。彼女もまだ、十五歳の少女なのだから。
「私……ちゃんと、できるかしら?」
「賀陽さん。俺は、あなたに出来ないことを要求したことは、一度たりともありませんよ」
「そうよね。……知ってる」
だからこそ、信頼で応える。彼女なら出来ると思っているから、やっているのだと。あなたなら越えられると思っているから、この壁のある道を選んでいるのだと。
そう、俺は言う。何度だって、言う。
……彼女は、柔らかく笑ってから――その笑みを、獰猛なものへと変えた。
「なら――今日、私は越える。賀陽継を、太陽を超えてみせる」
「はい。……ついでに、月も夜空も超えて来てください。期待していますので」
「ハ……いいわ。あなたの期待くらい応えてみせないと、アイドルとは呼べないもの」
……時間だ。秦谷美鈴のパフォーマンスが、終わる。
一歩、ステージに歩いてから、彼女は振り向いた。そして、俺に向かって、人差し指を向ける。
「見てなさい。アイドル『賀陽燐羽』の――初ステージよ」
「えぇ。しっかりと、目に焼き付けます」
「目が潰れてしまわないよう、せいぜい気を付けなさい?」
……その人差し指は、まだ微かに揺れている。ステージに歩き出した彼女の背に向かって、俺は――
「賀陽さん」
「何よ」
「大丈夫、素敵ですよ」
はたと止まって、もう一度だけ振り返って。彼女は――苦笑いで、肩を竦めて見せた。
「知ってる。……ありがと」
「はい。……いってらっしゃい!」
『賀陽燐羽』のステージが、今――始まった。