燐羽実装が待ちきれない人の幻覚   作:たつおのすけ

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回帰日食 3話

 舞台袖から眺めるステージには、秦谷美鈴が踊っていた。

 

 ……全てを呑み込むパフォーマンスは、当たり前のように会場中を虜にし、心を掴んで離さない。

 

 それに、ひとつ前の、月村手毬のステージも、圧巻だった。

 

 私を見ろという、強烈なエゴを剥き出しにしたステージは、ソロアイドルとしての矜持を感じさせられた。……誰もが、まばたきすら忘れて、見入っていただろう。

 

 ……そして、次のステージは。

 

「緊張してますか?」

「誰が――って、言いたいところだけど」

 

 待機している賀陽さんの手は、僅かに震えている。……珍しい、と素直に思う。彼女は、どちらかと言えば、胆力があるほうなのだが。

 

「……こんな手のくせに強がっても、ダサいだけね」

「仕方のないことです。誰しも、新たな挑戦をするときは、怖いものです」

「ほんと。案外怖いのね、自分を出すって。――知らなかった」

 

 自分を出す――純粋な『賀陽燐羽』としての、初めてのパフォーマンス。

 

 緊張しないはずがない。彼女もまだ、十五歳の少女なのだから。

 

「私……ちゃんと、できるかしら?」

「賀陽さん。俺は、あなたに出来ないことを要求したことは、一度たりともありませんよ」

「そうよね。……知ってる」

 

 だからこそ、信頼で応える。彼女なら出来ると思っているから、やっているのだと。あなたなら越えられると思っているから、この壁のある道を選んでいるのだと。

 

 そう、俺は言う。何度だって、言う。

 

 ……彼女は、柔らかく笑ってから――その笑みを、獰猛なものへと変えた。

 

「なら――今日、私は越える。賀陽継を、太陽を超えてみせる」

「はい。……ついでに、月も夜空も超えて来てください。期待していますので」

「ハ……いいわ。あなたの期待くらい応えてみせないと、アイドルとは呼べないもの」

 

 ……時間だ。秦谷美鈴のパフォーマンスが、終わる。

 

 一歩、ステージに歩いてから、彼女は振り向いた。そして、俺に向かって、人差し指を向ける。

 

「見てなさい。アイドル『賀陽燐羽』の――初ステージよ」

「えぇ。しっかりと、目に焼き付けます」

「目が潰れてしまわないよう、せいぜい気を付けなさい?」

 

 ……その人差し指は、まだ微かに揺れている。ステージに歩き出した彼女の背に向かって、俺は――

 

「賀陽さん」

「何よ」

「大丈夫、素敵ですよ」

 

 はたと止まって、もう一度だけ振り返って。彼女は――苦笑いで、肩を竦めて見せた。

 

「知ってる。……ありがと」

「はい。……いってらっしゃい!」

 

 『賀陽燐羽』のステージが、今――始まった。

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