燐羽実装が待ちきれない人の幻覚   作:たつおのすけ

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第9話

 ライブは、大盛況のまま終わった。

 

 三人がぶつかり合い、そして高め合ったライブ。きっと、彼女たち三人が現状で出せる、最大のパフォーマンスだ。

 

 ……良いライブだった。あとは――

 

「はぁ……はぁ……私の勝ち……だね」

「ハァ? どう見ても私の勝ちでしょ」

「まぁ……」

 

 勝ちを宣言する者が二人。そして、宣言はしないが、勝ったという雰囲気を出す者が一人。……それもそうだ、と謎の納得が、俺の中で生まれる。

 

 ……僅差だった。実力も、盛り上がりも、全てが拮抗したステージだったのだ。そこから甲乙をつけるための、僅かな差は――きっと、ステージでの、生の感触。

 

 ステージに立ち、観客の声援を浴びる。それは袖から見た客観的なものとは、僅かに異なる。その差が、自身が一番であるという、各々が判断するに至る、理由なのだろう。

 

 ……埒があかない。誰もがそんな気持ちだったとき……彼女が、意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「なら、第三者に判定してもらうしかないんじゃない?」

「第三者? ファンってこと?」

「そ。それも――四六時中、私たちのことを考えてた人」

 

 そう言って、彼女が見るのは――俺。

 

「ねぇ、あなた、適任だと思わない?」

「……俺、ですか」

 

 まぁ、一応第三者ではある。……あまりにも賀陽さんに寄っている第三者であるが。

 

「ず、ずるい! そんなの、燐羽って言うに決まってる!」

「でも、コレ以外にちゃんと判定出来る人、今いないじゃない。こんなんだけど、見る目は確かよ」

 

 貶されているのか、褒められているのか。非常に微妙だが、とりあえずご指名がかかったことだけは確かだ。

 

 ……やはり、こうなったか。頭痛がしてきた。

 

「ほら。主観でいいわよ」

「……そこは嘘でも、客観的にと言うべきでは」

「何いってんのよ。アイドルの評価なんて、主観以外の何物でもないでしょ」

 

 極論、そうではあるが。にしたって、そこは建前というものを上手く使ってほしい。

 

 ……しかし、何だかんだ言っても、三人で言い合っていても話が進まないことも事実。他の二人も、一応俺の意見を聞こうという姿勢になっているようだし。

 

「……そう、ですね」

 

 固唾を呑む『SyngUp!』の面々に見つめられながら、俺は逡巡する。

 

 答えはある。当たり前の答えが。……だが――

 

「……勝者は、月村さんで」

 

 きっと、こうするべきだ。

 

 名前を言った瞬間、ピシリ、と空気が凍ったとしても。

 

「……は?」

「わ、私?」

 

 言われた月村さんですら、困惑している。……まぁ、目を丸くする賀陽さんほどではないが。

 

 固まる二人を尻目に、秦谷さんだけは、冷静に俺に問いを投げた。

 

「理由を……伺ってもよろしいですか?」

「無論、三人とも、素晴らしいパフォーマンスでした。その中で一位を決めるとなると、何を重視するかになります」

 

 土台、アイドルに点数をつけるというのは、難しい話だ。加えて今回は、更に難しい拮抗した勝負。であれば、基準は明確にした方が良い。

 

「俺が重視したのは、ファンとの一体感。その上で――月村さんは、観客を呑み込むのではなく、観客と共にひとつのステージ作り上げた。……実際、こんな粗探しのような方法でしか順位をつけられませんから、個人的には、誰が一番とか言いたくもありません」

 

 最後に、差なんてほぼない……と付け足したものの、そんな言い訳、誰の耳にも入っているはずもなく……。

 

「……あなた、見る目あるね。……どうしてもって言うなら、私をプロデュースさせてあげてもいいけど?」

「あ、いえ、それは結構です」

 

 喜色満面の月村さんは、この通り調子に乗っているし。秦谷さんは、ムッとしているようで、嬉しそうな――良く分からない。

 

 ……そして、問題の賀陽さんは――

 

「で、では、俺はこれで……」

 

 ……般若が見えた。彼女の後ろに、確かに鬼がいた。

 

 三十六計逃げるに如かず。俺はすぐさま撤退を選択し……なんとか上手くいってくれ、と願うことしかできなかった。




 今日のプロデュース状況をメモしておこう。

 良いライブだった!

 ……だったのに。この寒気はなんなのだろう。
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