燐羽実装が待ちきれない人の幻覚   作:たつおのすけ

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第10話

「――と、言う感じで今後は想定していますが……聞いてますか、賀陽さん」

「……えぇ」

 

 無事、ライブが終わり。平常どおりに戻ったはずの事務所で、彼女は何故か、機嫌が悪かった。

 

「……何か言いたいことがあるなら、是非そのまま言っていただきたいのですが」

「べっつにー? あなたこそ、もっと言いたいことをはっきり言えばいいじゃない。担当アイドルが月村手毬よりも下のパフォーマンスをしてしまったんだもの。不満たっぷりでしょう?」

「あぁ……そこですか……」

 

 そういうの、意外と気にするのか、賀陽さんでも。少し意外に思いながら、弁明をする。

 

「結果、上手くいったでしょう? あの後、月村さんと秦谷さん、お二人としっかり話し合われたとか」

「まぁね。各々、認識が違うところもあったみたいだし。……結局、『SyngUp!』は解散のままだけど、おかげで一区切りは出来たわ」

 

 やはり、判断は正しかった。折角、二人をゲストにまで呼んだのだ。これで進展がなければ、お手上げだったところだった。

 

「まさか、そのために嘘を吐いた、なんて言い訳するつもり?」

「言い訳というか……事実ですので。賀陽さんが勝ってしまったら、結局話を先に進めないでしょう。秦谷さんも同上です」

「そんなこと……ないわよ?」

「あります。変なところで臆病ですから、あなたは」

 

 こればかりは、断言できる。何だかんだ言って、彼女は一歩目を踏み出すことを恐れるきらいがある。

 

 きっと、彼女が勝ってしまっていたら、話はこうスムーズにいかなかったことだろう。

 

「最初は、月村さんに『SyngUp!』の再結成なんて命令をされるんじゃないかと思い、震えていましたが――ライブを見て確信しました。彼女はもう、ソロアイドル『月村手毬』だと。なら、頼みたいことと言えば、ひとつでしょう」

「へぇ……あの子が何て言ったか、当てられるってわけ?」

「逃げずに話をして……とか、そんなところでしょう、恐らく」

 

 ……正解らしい。

 

 いや、彼女は頷きすらしないが。悔しそうな顔が、そう言っていた。

 

「じゃあ……なにかしら。本当に順位をつけるなら、私が――」

「一番ですよ。……というか、『主観で』と言われて、自分の担当アイドルの名前以外を挙げるプロデューサー、この世に居ますか?」

「いたじゃない」

「ですから、あれは必要があったから嘘を吐いただけです。担当アイドルに良い影響を与える嘘を吐くのも、俺の役目ですので」

 

 嘘偽りなく。あの日のライブで最も感動したのは、賀陽燐羽のステージだった。

 

 スカウトからあんなに大変で、レッスンやらなんやらを一緒にこなしていったことを考えれば、人間誰だってそうなるだろう。

 

 ……まぁ、きっとそんな色眼鏡が無くたって、俺は彼女が一番だった気もする。恥ずかしいから、本人には言わないが。

 

「……そういうことにしておいてあげる」

「まだ疑っているんですか? ……仕方がないですね。ではこれから、ライブ映像を見ながら感想会をしましょう。もちろん、完全な主観で」

「そういうことにしてあげるって言ってるでしょう! いいわよ、もう!」

「そうですか、残念です」

 

 なんだ。感想会は、是非したかったのだが。

 

 頬を染めた彼女は、遂に目すら合わせてくれなくなって――暫くして、ボソリと独り言のように呟いた。

 

「……ねぇ」

「はい、なんですか」

「……約束、ちゃんと守りなさいよね」

 

 約束。……彼女をプロデュースする上で、絶対に破ってはいけないもの。

 

 ……急に言われて、ドキリと心臓が跳ねた。――どれだ? いや、どれでも破っているつもりはないのだが。

 

 一瞬迷って……あぁ、最初のアレか、と気づく。

 

「あ、あぁ、もちろんです。H.I.Fで負ければ、全力で引退ライブをセッティングしましょう」

「そっちじゃないわよ……あぁ、もう」

 

 そっちじゃない、とは。それは、つまり――

 

「トップアイドル! 目指すんでしょ」

「え――は、はい」

 

『俺があなたを――誰もが認める、トップアイドルにしてみせる』

 

 始まり日。確かに俺はそう言った。俺のエゴにまみれた、俺だけの約束。……しかし。

 

「しっかりしなさいよ、()()()()()()()。……足を引っ張ったら、承知しないわよ」

 

 彼女は初めて、俺を()()呼んだ。なら――きっとこの瞬間、俺だけの約束は、二人の約束に変わったのだろう。

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