「あら、おはよう。……どう? 冷静になって、後悔しだしたころかしら?」
「おはようございます。そして、いいえ。後悔だなんて、欠片ほどもありませんよ」
「……つまんないのね。怖気づきでもすれば、少しは可愛げがあるのに」
「そうすれば賀陽さんをトップアイドルにできるなら、いくらでも怖気づくのですが」
「あ、そ」
本当につまらなそうに吐き捨ててから、彼女は切り替えるように、パンと手を合わせた。
「それで? わざわざレッスン室に呼び出して、何の用?」
「まずは、今の賀陽さんの実力を、見せていただこうかと」
「へぇ……」
過去の残っている動画は全て閲覧したが、まだ、彼女の現状を見せてもらっていない。
始めるなら、まずはそこからだろう。彼女もそれには異論ないようで、軽い調子で頷いた。
「いいわよ。曲は?」
「『初』でお願いします」
「……ま、妥当なところね」
面白味はないけれど、と少しだけ棘のある言い方をしてから、彼女はマイクを持って、目を閉じた。
「すぅ……」
息を吸い――歌う。
伸びのある声だった。音程を外す……なんて初歩的なミスは、当然ない。一年生という括りで見れば、間違いなく上位に位置する歌唱力だ。
そして――踊る。
キレのあるステップに、指先まで一本の芯があるような、安定したフリ。『初』は、決してダンサブルな曲ではないが、彼女のダンスの上手さを伝えるには、十分だった。
そして、彼女は止まる。これだけ見せれば分かるでしょ? とでも言いたげに。
「……どう? あなたから見て、今の私は」
「えぇ、予想通りです」
たったの数小節だったが、現状は理解できた。やはり、想定していた通りのようだ。
俺が頷くと、ぴくり、と賀陽さんの眉が動く。
「予想通り、ねぇ。優秀で何よりだわ。それで、予想通りに、何点だったのかしら?」
「はい、予想通りに、0点です」
「……は?」
提示した点数に、彼女は固まる。
「課題は盛りだくさんですね。……では、これから今後の方針を――」
「ちょ、ちょっと待ちなさい! 0点? 本気で?」
「はい。俺が点数をつけるなら、0です」
嘘ではなく、また、彼女に発破をかけるための戦略とかでもなく。
間違いなく、俺が点数をつれるのであれば、彼女の今のパフォーマンスは、0点なのだ。
「やめる気だったから、今日までレッスンをサボってた……っていうのは、分かってる。でも、客観的に見て、0点ではないでしょう」
「えぇ。賀陽さんの実力が既に高いところにあるのは、認識しています」
「……何が言いたいの、あなた」
眉根を潜める賀陽さんに――俺は言う。
「ですので、今後の方針を伝えます」