「賀陽さん。貴女の弱点は、何だと思いますか?」
「さてね。そんなこと、考えたこともないわ」
学園から貸与された事務所に着くや否や、俺は話を切り出した。
対する彼女は、下らない事を聞くな、とでも言いたげに、適当な椅子に腰かけ、頬杖をついた。
「端的に言えば、今までの『賀陽燐羽』は――『賀陽燐羽』ではない。それが、貴女の弱点の全てです」
「……あなたが、私の何を知ってるっていうわけ? 急にしゃしゃり出てきたクセして」
確かに、彼女からしてみれば、ぽっと出の男に訳知り顔で語られるのは、快くないかもしれない。苦笑いをして、しかし必要なことだと、そのまま本題に切り込んだ。
「まずは、あなたも分かっていることかと思いますが。『SyngUp!』時代の賀陽さんは、月村手毬のフォローを主軸にしており、素のポテンシャルを引き出せていません」
「……べつに、そういうんじゃないわよ。ただ、手毬がめちゃくちゃやろうとするのを、止めてただけ」
「一般的には、それをフォローと言います」
「チッ……口の減らない……」
これは、分かりやすい事実。だが――本題は、そこではない。
「しかし――そうなる前なら本当の『賀陽燐羽』だったかと言われると、そうではない」
「どういうこと?」
「これを見てください」
ノートPCを開いて、ある映像を再生する。
そこには、まだ幼い三人のアイドルが――『SyngUp!』が、笑顔で踊り、歌っていた。
それはまだ、ユニットとして、てんでバラバラな時期。月村手毬を中心に、二人がフォローする……なんて形すら、まだ出来上がっていない様子だった。
「……これ、いつのよ」
「結成当初、無名だった頃の映像です」
「こんなの、どこから!」
「企業秘密です。そしてこれと……こちらを比べてください」
「これは――」
今度は、別の映像を流す。舞台はH.I.F。そして、ステージで一人、圧倒的な存在感を放ちながら、歌っているのは――
「――賀陽……継」
「はい。あなたのお姉さんです。……似ていますね」
「一応、これでも姉妹だもの」
「いえ、姉妹だから、とかではなく。似すぎています。フリも、歌い方も。……ファンサまで」
中学時代の賀陽燐羽。そして、映像の賀陽継。なんど見返しても、彼女たち二人のパフォーマンスは、そっくりだった。
「時に、物真似がお得意だとか」
「……あぁ、そういうこと。要は――今の私のパフォーマンスは、私じゃなくて、『
「有り体に言えば」
「……正解よ。不本意だけど」
絞り出すように言った彼女は、歪んだ顔で、彼女は目を逸らした。
「で? 私にどうしろって?」
「ふむ、そうですね――とりあえずは、筋力と持久力。その二つを上げていきましょう」
きょとん。何を言われるのか警戒していた彼女は、肩透かしを食らったように、俺の方を見た。
「……真似をやめろ、とは言わないワケ?」
「最終的には、やめていただきます」
「……そ」
その方針が、良いか悪いか。彼女の様子からは、計り知れない。だが――少なくとも、すぐさま決裂するほどではないようだ。まずは一安心といったところだ。
「まぁいいわ。あなたの指示に従ってあげる。……H.I.Fまでは、だけれど」
「はい。そういう約束、ですからね」
約束を違える彼女ではない。で、あれば。俺の役目は、タイムリミットまでに、彼女を――『賀陽燐羽』を、ステージの上に立たせること、それだけだった。
今日のプロデュース状況をメモしておこう。
ひとまずの方針は決まった。まずは一歩ずつ、進んでいこう。