「どうですか、調子は」
「ハァ……ハァ……っ、ちょっと、今話しかけないでよ……」
朝。指示したランニングをしているだろう時間帯。
寮に程近い、鉄板のランニングコースへと様子を見に来てみると、息も絶え絶えな彼女の姿があった。
とりあえず、近くのベンチに誘導して、座らせる。
「ねぇ……ちょっと多くない……? あなたの指示した、練習量……」
「仕方がないでしょう。サボっていたツケですよ」
「それにしても……ふぅ……随分、スパルタじゃない。少しの間、サボってたのは認めるけど。解散前と比べても、もうほぼ変わらないくらいには、戻せてるつもり」
「少しの間? 数年もサボっていて?」
数年、と言うと、彼女はなんのことだと首を捻った。
「月村さんのフォローに注力していたでしょう、あなたは。ライブ中は、ほどほどに動いて、何かあったときのため、体力をキープしていた。……グループとしては正解だったかもしれませんが、これからはソロです。あなたしか居ないステージの上で、隠れてサボることは許されませんよ」
「……良く見てる。気持ちが悪いくらい」
「褒め言葉として受け取っておきます」
嫌そうな賀陽さんに笑顔で返すと、彼女は呆れて肩をすくめた。
「増やされた筋トレも、そういう意味合いなのかしら」
「えぇ、そうですね。あとはまぁ、今後必要だと判断したので」
「今後?」
「はい。賀陽さんが、賀陽さんらしい表現をする際、フィジカルが足りずに半端なものになってはいけませんから」
将来を見据えて、基礎能力は上げておくのに越したことはない。……問題は、上がった能力を使うために、彼女の問題を解決しなければならない点にある。
「さて、息も落ち着いたようですし、一つ質問をさせていただいてもいいですか」
「事務所を通してもらえる?」
「では、問題ありませんね。俺がプロデューサーですから」
軽いジャブのような問答をしてから、本題へと移る。
「先日からのレッスン、トレーナーさんからお話を伺ったり、映像を見たりしたのですが」
「なに? ちゃんとやってるでしょ」
「えぇ、まぁ。――途中までは」
ほんの微かに、彼女の身体が跳ねた。
「動きが良くなってくると、途端にやる気がなくなる……と、トレーナーさんから相談されました。心当たりはありますね? 何故、そんなことを?」
「……はいはい、分かったわよ。最後まで真面目にやれば――」
「逃げないでください。……何故ですか?」
彼女は答えない。……仕方がない。こちらから言うべきか。
「では、当てましょう。これ以上レッスンをしてしまって、
「やめて」
彼女から辛辣な言葉を投げられることは、度々あった。しかしこれは――明確な拒絶だ。
「勝手なことを言わないで」
「では、御本人から、理由を説明してください」
「……別に、ある程度形になったから、面倒になっただけよ。……それだけ」
ベンチから立ち上がって、彼女は背を向けて歩きだす。
彼女は振り返ることなく――平坦な声で言った。
「本当に……それだけだから」
今日のプロデュース状況をメモしておこう。
やはり、一筋縄ではいかないか……