燐羽実装が待ちきれない人の幻覚   作:たつおのすけ

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第3話

「どうですか、調子は」

「ハァ……ハァ……っ、ちょっと、今話しかけないでよ……」

 

 朝。指示したランニングをしているだろう時間帯。

 

 寮に程近い、鉄板のランニングコースへと様子を見に来てみると、息も絶え絶えな彼女の姿があった。

 

 とりあえず、近くのベンチに誘導して、座らせる。

 

「ねぇ……ちょっと多くない……? あなたの指示した、練習量……」

「仕方がないでしょう。サボっていたツケですよ」

「それにしても……ふぅ……随分、スパルタじゃない。少しの間、サボってたのは認めるけど。解散前と比べても、もうほぼ変わらないくらいには、戻せてるつもり」

「少しの間? 数年もサボっていて?」

 

 数年、と言うと、彼女はなんのことだと首を捻った。

 

「月村さんのフォローに注力していたでしょう、あなたは。ライブ中は、ほどほどに動いて、何かあったときのため、体力をキープしていた。……グループとしては正解だったかもしれませんが、これからはソロです。あなたしか居ないステージの上で、隠れてサボることは許されませんよ」

「……良く見てる。気持ちが悪いくらい」

「褒め言葉として受け取っておきます」

 

 嫌そうな賀陽さんに笑顔で返すと、彼女は呆れて肩をすくめた。

 

「増やされた筋トレも、そういう意味合いなのかしら」

「えぇ、そうですね。あとはまぁ、今後必要だと判断したので」

「今後?」

「はい。賀陽さんが、賀陽さんらしい表現をする際、フィジカルが足りずに半端なものになってはいけませんから」

 

 将来を見据えて、基礎能力は上げておくのに越したことはない。……問題は、上がった能力を使うために、彼女の問題を解決しなければならない点にある。

 

「さて、息も落ち着いたようですし、一つ質問をさせていただいてもいいですか」

「事務所を通してもらえる?」

「では、問題ありませんね。俺がプロデューサーですから」

 

 軽いジャブのような問答をしてから、本題へと移る。

 

「先日からのレッスン、トレーナーさんからお話を伺ったり、映像を見たりしたのですが」

「なに? ちゃんとやってるでしょ」

「えぇ、まぁ。――途中までは」

 

 ほんの微かに、彼女の身体が跳ねた。

 

「動きが良くなってくると、途端にやる気がなくなる……と、トレーナーさんから相談されました。心当たりはありますね? 何故、そんなことを?」

「……はいはい、分かったわよ。最後まで真面目にやれば――」

「逃げないでください。……何故ですか?」

 

 彼女は答えない。……仕方がない。こちらから言うべきか。

 

「では、当てましょう。これ以上レッスンをしてしまって、賀陽継(お姉さん)を越えてしまうのが――」

「やめて」

 

 彼女から辛辣な言葉を投げられることは、度々あった。しかしこれは――明確な拒絶だ。

 

「勝手なことを言わないで」

「では、御本人から、理由を説明してください」

「……別に、ある程度形になったから、面倒になっただけよ。……それだけ」

 

 ベンチから立ち上がって、彼女は背を向けて歩きだす。

 

 彼女は振り返ることなく――平坦な声で言った。

 

「本当に……それだけだから」




 今日のプロデュース状況をメモしておこう。

 やはり、一筋縄ではいかないか……
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