「賀陽さん、こちらを」
「……なに? あなたって、いつも急よね」
「それはすみません」
彼女が事務所に入ってくるなり、すぐにイヤホンを渡した。
PCに繋がっているそれを、彼女は訝しみながらも着ける。
「……デモ音源?」
「はい、新曲です」
「……オリジナル?」
「もちろんです」
ふぅん、と気のない返事をしてから、暫く彼女は目を閉じる。……曲が終わると、一つ頷いてから、イヤホンを外した。
「一応聞いておこうかしら。……どんなイメージで作曲してもらったの、コレ」
「己の原点に立ち戻るということ。そして、そのために必要ならば、憧れすらも捨ててしまおう――と、そんな様に」
「あぁ、そう。今の私にピッタリ。素敵ね」
「そうでしょう」
「皮肉よ」
ほんと、なんでこんなことになったのかしら……なんてブツブツ呟いてから、彼女はまた、俺の方に向き直る。
「……タイトルは?」
「『回帰日食』――原点回帰するために、太陽を食らう。今の賀陽さんを一言で表していただきました」
「ふぅん……」
言うと、彼女は考え込む。少ししてから、首を捻り、スマホで何かを検索。
やっぱりそうよね、と結果を見てから、彼女はまた、首を捻った。
「ねぇ」
「なんでしょう」
「日食って……月が、太陽を隠す現象よね」
「はい、その通りです」
調べものはそれらしい。そしてもちろん、皆既日食とは、月が太陽を隠すことによって起きる現象である。
首肯すると、彼女は眉を潜めて言った。
「……私も、『賀陽』なんだけど。これだと、私を倒す手毬の曲にならない?」
「いいえ。……まぁ、確かに現象としては、月が起こしているものですが。それでも、月村さんを主役にはさせません」
「どうして?」
「決まっています」
ふふん、と得意気に笑って、俺は言う。
「太陽は、また輝くからです。一瞬消えたとしても、直ぐにまた世界を照らす――それが太陽ですから。月ごときには、負けてやりませんよ」
「随分と、大口を叩くじゃない。……で、その光が、
「……ありません。そこは、賀陽さんに頑張っていただかなくては」
「あ、そ」
「ですが――そうなると、俺は信じています」
彼女をその気にさせるための方便ではない。心の底から、賀陽燐羽ならできるという、確信があった。
「俺は、見たいんです。賀陽継の色とは全く違う、あなただけの光の色で世界を照らす――そんな世界の姿を」
熱弁する俺を、賀陽さんは――白けた目で見た。
「少なくとも、あなたが作詞家になれないことだけは、分かったわね」
「……そうですか」
「ちょ――本気で落ち込まないでくれる?」
別に、作詞家に憧れているわけではない。ない、が……面と向かって真正面から言われると、傷つくものである。
悲しみに暮れる俺に、彼女はぶっきらぼうに呟いた。
「……まぁ、一度だけ、試してみることにするわ」
「――それは」
それは、きっと。彼女にとっては、重い一歩。
だが、彼女なら。まるで、簡単なことをのように、不敵に笑って、こう言うのだ。
「見てなさい――私が、太陽を食べてしまうところを」