回帰日食。彼女の新しい楽曲。
レッスン室に入ると、その曲をなぞるように表現された振り付けを、彼女は踊っていた。
「ただ見てないで、感想くらい言ったら?」
「……集中しているようでしたので」
……そっと入ってきたつもりだったのだが。気づかれてしまっては仕方がない。
「といっても、俺もついさっき来たばかりなので、まだ何とも。録画を確認しても?」
「……とりあえず褒める気はないの?」
「それが有効なアイドルなら、おべっかも武器として使わせていただきますが。あなたが求めているコメントは、そうではないでしょう」
「あら、良く分かってるじゃない」
三脚で置かれたスマホの録画を停止し、今まさに録られていた映像を再生する。
「ふむ……随分と、良くなりましたね。とても――賀陽燐羽らしい」
「私だもの。当たり前でしょう?」
「それが当たり前でなかったから、あんなに苦労したんじゃないですか……」
「さぁ、どうだったかしら?」
とぼける彼女に、苦笑いを浮かべ――と、映像を止める。
「あ、ここのフリ、戻してください。もっと大きく、ダイナミックに」
「なによ……ええと?」
先日見たものから変わっている。……彼女らしい、を目標に据えているフリは、基本的に彼女自身に一任している。そのため、少し見なかっただけで変更されているのは、珍しくない。
口出しをする気はなかったのだが――これはいただけない。彼女の方を見ると、顎に手を当てて、考え込んでいた。
「……戻したら、似るわよ」
「でしょうね」
誰に? ……もちろん、『賀陽継』である。
「私の記憶が正しければ、あなたが『賀陽継』から離れろって言ったんじゃなかったかしら」
「言いましたね」
間違いなく、俺の言葉だ。大きく首肯する。しかし――
「いいですか。確かに俺は、『賀陽継』の模倣をやめよう、と言いました。しかしそれは、なにもあなたの中から『賀陽継』を無くせと言っているわけではないんです」
矛盾しているようでいて、これらは全く矛盾していない。難しい顔をする彼女に、これだけはしっかりと伝えなくてはならなかった。
「皆。どんなアイドルであれ、他のアイドルの影響は受けているものです。しかし、それは単純な模倣ではなく、咀嚼し、自分のものとする――憧れを食らって、自身の血肉へと変えています。『賀陽継』の全てを否定してしまっては、逆に『賀陽燐羽』から遠ざかってしまいますよ」
「だからこその――日食、とでも言いたいワケ?」
「その通りです」
『賀陽継』を捨てるのではない。吸収するのだ。そこを履き違えてはならない。
彼女がそれを理解すると――目頭を揉むように押さえて、天を仰いだ。
「あなたはまた、随分と面倒な注文をするものね……!」
「皆さん、普通にやられていることですよ。賀陽さんが、なまじ変な特技を持っていたせいで、今までやってこなかっただけです」
「悪かったわね!」
文句を言いながら、彼女はまた、音楽を再生した。
……どうやら、休憩はもう終わりらしい。前奏が始まる中、彼女は三脚の方を指差した。
「さっさと、撮って」
「……折角ですから、色んな角度から撮りましょう」
「任せるわ。……次は、あなたをぎゃふんと言わせてあげる」
「期待しています」
彼女もなんだかんだ言って、負けず嫌いだ。苦笑いをしながら、俺はスマホの録画ボタンを、そっと押した。