燐羽実装が待ちきれない人の幻覚   作:たつおのすけ

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回帰日食 2話

 回帰日食。彼女の新しい楽曲。

 

 レッスン室に入ると、その曲をなぞるように表現された振り付けを、彼女は踊っていた。

 

「ただ見てないで、感想くらい言ったら?」

「……集中しているようでしたので」

 

 ……そっと入ってきたつもりだったのだが。気づかれてしまっては仕方がない。

 

「といっても、俺もついさっき来たばかりなので、まだ何とも。録画を確認しても?」

「……とりあえず褒める気はないの?」

「それが有効なアイドルなら、おべっかも武器として使わせていただきますが。あなたが求めているコメントは、そうではないでしょう」

「あら、良く分かってるじゃない」

 

 三脚で置かれたスマホの録画を停止し、今まさに録られていた映像を再生する。

 

「ふむ……随分と、良くなりましたね。とても――賀陽燐羽らしい」

「私だもの。当たり前でしょう?」

「それが当たり前でなかったから、あんなに苦労したんじゃないですか……」

「さぁ、どうだったかしら?」

 

 とぼける彼女に、苦笑いを浮かべ――と、映像を止める。

 

「あ、ここのフリ、戻してください。もっと大きく、ダイナミックに」

「なによ……ええと?」

 

 先日見たものから変わっている。……彼女らしい、を目標に据えているフリは、基本的に彼女自身に一任している。そのため、少し見なかっただけで変更されているのは、珍しくない。

 

 口出しをする気はなかったのだが――これはいただけない。彼女の方を見ると、顎に手を当てて、考え込んでいた。

 

「……戻したら、似るわよ」

「でしょうね」

 

 誰に? ……もちろん、『賀陽継』である。

 

「私の記憶が正しければ、あなたが『賀陽継』から離れろって言ったんじゃなかったかしら」

「言いましたね」

 

 間違いなく、俺の言葉だ。大きく首肯する。しかし――

 

「いいですか。確かに俺は、『賀陽継』の模倣をやめよう、と言いました。しかしそれは、なにもあなたの中から『賀陽継』を無くせと言っているわけではないんです」

 

 矛盾しているようでいて、これらは全く矛盾していない。難しい顔をする彼女に、これだけはしっかりと伝えなくてはならなかった。

 

「皆。どんなアイドルであれ、他のアイドルの影響は受けているものです。しかし、それは単純な模倣ではなく、咀嚼し、自分のものとする――憧れを食らって、自身の血肉へと変えています。『賀陽継』の全てを否定してしまっては、逆に『賀陽燐羽』から遠ざかってしまいますよ」

「だからこその――日食、とでも言いたいワケ?」

「その通りです」

 

 『賀陽継』を捨てるのではない。吸収するのだ。そこを履き違えてはならない。

 

 彼女がそれを理解すると――目頭を揉むように押さえて、天を仰いだ。

 

「あなたはまた、随分と面倒な注文をするものね……!」

「皆さん、普通にやられていることですよ。賀陽さんが、なまじ変な特技を持っていたせいで、今までやってこなかっただけです」

「悪かったわね!」

 

 文句を言いながら、彼女はまた、音楽を再生した。

 

 ……どうやら、休憩はもう終わりらしい。前奏が始まる中、彼女は三脚の方を指差した。

 

「さっさと、撮って」

「……折角ですから、色んな角度から撮りましょう」

「任せるわ。……次は、あなたをぎゃふんと言わせてあげる」

「期待しています」

 

 彼女もなんだかんだ言って、負けず嫌いだ。苦笑いをしながら、俺はスマホの録画ボタンを、そっと押した。

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