エルフの義妹とSF研⭐️これは全てのSF愛好者へ捧ぐ文芸ジャンル戦争の物語だ!   作:やまもりやもり

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第11話 SFの魂

「さあこい、モンキー野郎ども!」

 

 緑の葉の茂る藤棚の下、ベンチに座った部長が叫ぶ。

 そして後を追う僕と妹の萌萌の声。

 

「さあこい、モンキー野郎ども!」「ども!」

 

 今日のえすえふ研の活動は、部室ではなく屋外での朗読会だ。

 部長に続く僕らの声が、春風に乗り中庭に流れていく。

 

「人間一度は死ぬもんだ!」

 

 部長の凛とした声が響くこの日の課題図書は、映画スターシップトゥルーパーズの原作になった名作SF『宇宙の戦士』

 第一話の朗読を終えた部長が、文庫本を閉じて顔を上げて言う。

 

「やっぱりこの小説は冒頭の敵都市強襲シーンが最高よね。衛星軌道上からのパワードスーツによる大気圏降下とかロマンの塊だし、機動歩兵が核バズーカを撃つシーンとかワクワクしちゃう!」

「うんうん」

 

 萌萌がうなずいている。僕もこの小説は大好きで、特に挿絵にあるスタジオぬえデザインのパワードスーツが最高なのだ。

 前の二作品と同じく作者はロバート・A・ハインライン。

 

 うちの部は、普段何をやっているのか疑問に思われがちなんだけど、こういう活動もやってたりする。

 他には文化祭向けの部誌作りなんかもある。とはいえ、書く方に関して僕はまだ未経験だ。ちなみに部長は、外部の小説サイトにも書いてたりもするらしい。

 

「たまにはこうやって、部室の外で活動するのもいいわね」

「それですけど、部長。うちの部室って、なくなっちゃうんですか?」

「あー、それ、聞いちゃった?」

 

 隣で会話を聞いた萌萌が息を呑む様子が伝わってくる。

 部長は萌萌に安心させるように微笑む。

 

「大丈夫よ萌萌ちゃん、まだ決まったわけじゃない。それに隆史君、こうやって活動実績を積んでいれば、新しい部室だって……」

「やっぱりそうなんですね部長。三人しかいない部活だし、しょうがないか……」

「おにいちゃん、なんで諦めるの!」

 

 声の方を向くと、妹が僕の顔をじっと見ていた。

 

「萌萌……」

「頑張ろうよ、おにいちゃん。私だって、もっとSFの勉強するから、だから……」

「ごめん、そうだよな。まだ決まったわけじゃないもんな。頑張るよ」

 

 僕はその緑の瞳を見つめてうなずいた。そして部長に振り返る。

 眼鏡越しの優しい瞳と目が合う。

 

「部長、妹の勉強ですけど、そろそろ他の作者はどうでしょう?」

「そうね、次はクラークかアシモフか。あ、クラークだったらまずは映画の2001年宇宙の旅がいいかな」

「へー、SFには映画もあるんだ」

「萌萌ちゃん、観たい? じゃあ、どれがいいかな、えーと、これと、あとこれも……」

 

 妹のつぶやきを聞いた黒髪美人の顔に満面の笑みが溢れ、いつも膝に抱えている重そうな鞄からSF映画のDVDが次々と現れてくる。

 

 お気に入りの藤棚の下で、僕は妹と目を見合わせてうなずいた。

 

 

 ・・・

 

 

 リビングのテレビで一本目の映画を観終えた萌萌は、深緑の目をウルウルさせていた。

 

「どうだった? 2001年」

「なんか凄かったけど、ぜんぜん分からなかったー」

 

 そうだろうなと頷いてしまう。

 

「まあね、キューブリック監督ってそういうところあるんだよ。思わせぶりにして観客に深読みさせるみたいな」

「でも、音楽は印象的だったかな。チャーチャーチャー、チャチャーンって」

 

 映画のテーマ曲のようになっているリヒャルト・シュトラウス作曲交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』の無駄に荘厳な曲調は、この映画の神秘的な雰囲気を芸術へと昇華させている。

 ちなみにこの曲名は『神は死んだ』で有名な哲学者ニーチェの著作から来ているんだけど、この映画のストーリーもざっくり言うとニーチェの二次創作みたいなもんで……

 

 そんな感じの蘊蓄を、僕は早口で萌萌に説明してあげた。

 

「ふんふん。そうか、SFって深いんだね、おにいちゃん」

「いや、深そうに見える浅さが大衆文学としてのSFの醍醐味っていうか。じゃあ次行こうか」

「はーい。おにいちゃん」

 

 

 ・ ・ ・

 

 

「今度の映画は分かりやすかったし、面白かったよおにいちゃん」

「うん。これは定番だからね」

「でもなんでエピソードⅣからなの?」

「だよねー」

 

 そういえば、座間君がえすえふ研にいたときはスターウォーズについて熱く語ったな。そんなことを思い出してしまう。

 拾った小石を取り出してみると、それは変わらず光を放っていた。

 

 そして妹とマンションのルーフバルコニーに出て、二人で月を眺める。

 

「おにいちゃん、この世界って月が一つしかないんだね」

「萌萌が住んでたところは、月はいくつあったの?」

 

 人間離れした美少女の顔を、月光が照らしている。

 

「大きいのが一つと、小さいのが二つ」

「ふーん」

 

 あどけない月の話である。

 最近は僕もこのぐらいでは動じなくなってきた。だってこの広い宇宙は、驚きに満ちているのだ。

 

 つまりは、センス・オブ・ワンダー。

 

 銀色の月の光の下で、街の明かりは銀河にきらめく星団みたいに見える。

 世界樹の光に照らされたバルコニーの上は、まるで異世界の祭壇を思わせる。

 

 僕の手のひらの上で小石が瞬く。二回、三回、五回……。

 誰かを呼ぶようなその瞬きを数える。

 そうこれは、座間君の残したSF魂。

 

 すると世界樹が応えて脈打つように光を放つ。二回、三回、五回……

 

「おにいちゃん見て。世界樹が、お話してる」

「じゃあこの石は、世界樹のお友達になれるかもしれないね」

「うん」

 

 僕は思い付いて植木鉢の根元をかき分けて、小石をそっと埋めてみる。

 新たな仲間を歓迎するかのように、また少し大きくなった世界樹の葉が優しく何度も瞬きを繰り返す。

 

 ……七回、十一回、十三回、十七回……

 

「きれい」

「うん、そうだね」

 

 萌萌の肌が世界樹の光に照らされて、まるで本物の妖精のように輝いている。

 その光景はSFとファンタジーが優しく融合した世界のよう。

 

 僕はいつまでも、魅惑の魔法にかかったように、それを眺めていた。

 




今日はこの後も一時間ごとに22話まで投稿します! お楽しみに。
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