エルフの義妹とSF研⭐️これは全てのSF愛好者へ捧ぐ文芸ジャンル戦争の物語だ! 作:やまもりやもり
「さあこい、モンキー野郎ども!」
緑の葉の茂る藤棚の下、ベンチに座った部長が叫ぶ。
そして後を追う僕と妹の萌萌の声。
「さあこい、モンキー野郎ども!」「ども!」
今日のえすえふ研の活動は、部室ではなく屋外での朗読会だ。
部長に続く僕らの声が、春風に乗り中庭に流れていく。
「人間一度は死ぬもんだ!」
部長の凛とした声が響くこの日の課題図書は、映画スターシップトゥルーパーズの原作になった名作SF『宇宙の戦士』
第一話の朗読を終えた部長が、文庫本を閉じて顔を上げて言う。
「やっぱりこの小説は冒頭の敵都市強襲シーンが最高よね。衛星軌道上からのパワードスーツによる大気圏降下とかロマンの塊だし、機動歩兵が核バズーカを撃つシーンとかワクワクしちゃう!」
「うんうん」
萌萌がうなずいている。僕もこの小説は大好きで、特に挿絵にあるスタジオぬえデザインのパワードスーツが最高なのだ。
前の二作品と同じく作者はロバート・A・ハインライン。
うちの部は、普段何をやっているのか疑問に思われがちなんだけど、こういう活動もやってたりする。
他には文化祭向けの部誌作りなんかもある。とはいえ、書く方に関して僕はまだ未経験だ。ちなみに部長は、外部の小説サイトにも書いてたりもするらしい。
「たまにはこうやって、部室の外で活動するのもいいわね」
「それですけど、部長。うちの部室って、なくなっちゃうんですか?」
「あー、それ、聞いちゃった?」
隣で会話を聞いた萌萌が息を呑む様子が伝わってくる。
部長は萌萌に安心させるように微笑む。
「大丈夫よ萌萌ちゃん、まだ決まったわけじゃない。それに隆史君、こうやって活動実績を積んでいれば、新しい部室だって……」
「やっぱりそうなんですね部長。三人しかいない部活だし、しょうがないか……」
「おにいちゃん、なんで諦めるの!」
声の方を向くと、妹が僕の顔をじっと見ていた。
「萌萌……」
「頑張ろうよ、おにいちゃん。私だって、もっとSFの勉強するから、だから……」
「ごめん、そうだよな。まだ決まったわけじゃないもんな。頑張るよ」
僕はその緑の瞳を見つめてうなずいた。そして部長に振り返る。
眼鏡越しの優しい瞳と目が合う。
「部長、妹の勉強ですけど、そろそろ他の作者はどうでしょう?」
「そうね、次はクラークかアシモフか。あ、クラークだったらまずは映画の2001年宇宙の旅がいいかな」
「へー、SFには映画もあるんだ」
「萌萌ちゃん、観たい? じゃあ、どれがいいかな、えーと、これと、あとこれも……」
妹のつぶやきを聞いた黒髪美人の顔に満面の笑みが溢れ、いつも膝に抱えている重そうな鞄からSF映画のDVDが次々と現れてくる。
お気に入りの藤棚の下で、僕は妹と目を見合わせてうなずいた。
・・・
リビングのテレビで一本目の映画を観終えた萌萌は、深緑の目をウルウルさせていた。
「どうだった? 2001年」
「なんか凄かったけど、ぜんぜん分からなかったー」
そうだろうなと頷いてしまう。
「まあね、キューブリック監督ってそういうところあるんだよ。思わせぶりにして観客に深読みさせるみたいな」
「でも、音楽は印象的だったかな。チャーチャーチャー、チャチャーンって」
映画のテーマ曲のようになっているリヒャルト・シュトラウス作曲交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』の無駄に荘厳な曲調は、この映画の神秘的な雰囲気を芸術へと昇華させている。
ちなみにこの曲名は『神は死んだ』で有名な哲学者ニーチェの著作から来ているんだけど、この映画のストーリーもざっくり言うとニーチェの二次創作みたいなもんで……
そんな感じの蘊蓄を、僕は早口で萌萌に説明してあげた。
「ふんふん。そうか、SFって深いんだね、おにいちゃん」
「いや、深そうに見える浅さが大衆文学としてのSFの醍醐味っていうか。じゃあ次行こうか」
「はーい。おにいちゃん」
・ ・ ・
「今度の映画は分かりやすかったし、面白かったよおにいちゃん」
「うん。これは定番だからね」
「でもなんでエピソードⅣからなの?」
「だよねー」
そういえば、座間君がえすえふ研にいたときはスターウォーズについて熱く語ったな。そんなことを思い出してしまう。
拾った小石を取り出してみると、それは変わらず光を放っていた。
そして妹とマンションのルーフバルコニーに出て、二人で月を眺める。
「おにいちゃん、この世界って月が一つしかないんだね」
「萌萌が住んでたところは、月はいくつあったの?」
人間離れした美少女の顔を、月光が照らしている。
「大きいのが一つと、小さいのが二つ」
「ふーん」
あどけない月の話である。
最近は僕もこのぐらいでは動じなくなってきた。だってこの広い宇宙は、驚きに満ちているのだ。
つまりは、センス・オブ・ワンダー。
銀色の月の光の下で、街の明かりは銀河にきらめく星団みたいに見える。
世界樹の光に照らされたバルコニーの上は、まるで異世界の祭壇を思わせる。
僕の手のひらの上で小石が瞬く。二回、三回、五回……。
誰かを呼ぶようなその瞬きを数える。
そうこれは、座間君の残したSF魂。
すると世界樹が応えて脈打つように光を放つ。二回、三回、五回……
「おにいちゃん見て。世界樹が、お話してる」
「じゃあこの石は、世界樹のお友達になれるかもしれないね」
「うん」
僕は思い付いて植木鉢の根元をかき分けて、小石をそっと埋めてみる。
新たな仲間を歓迎するかのように、また少し大きくなった世界樹の葉が優しく何度も瞬きを繰り返す。
……七回、十一回、十三回、十七回……
「きれい」
「うん、そうだね」
萌萌の肌が世界樹の光に照らされて、まるで本物の妖精のように輝いている。
その光景はSFとファンタジーが優しく融合した世界のよう。
僕はいつまでも、魅惑の魔法にかかったように、それを眺めていた。
今日はこの後も一時間ごとに22話まで投稿します! お楽しみに。