エルフの義妹とSF研⭐️これは全てのSF愛好者へ捧ぐ文芸ジャンル戦争の物語だ! 作:やまもりやもり
「いただきます」
合宿所で出る朝ご飯は一般的な日本の朝食だった。
つまり卵、海苔、納豆にご飯。そして塩じゃけに味噌汁。
「そうそう、萌萌ちゃんはハードSF読んでみてどう思った?」
味付け海苔の封を開けながら、黒髪眼鏡の部長が何気なく質問をしてきた。
ご飯茶碗を手にしたまま、眼鏡姿の妹は頭をかしげる。
「えーとですね、設定に凝ってて謎の事件が起きて、最後にオチがある感じとか、確かにミステリーに似てるかもですね」
「そうね。理系のオタクが無理して群像劇を書くから、人間ドラマも薄くなりがちだしね」
手に持った海苔を一口齧った部長は、納豆のパックを手にして混ぜながら語る。
「実際のところ、大衆を啓蒙してやるという上から目線と、分かる人だけ分かればいいという選民思想がベースとなって、そこにアイデア一発からの雑なストーリーテリングが入り混じる感じがハードSFの醍醐味なのよ」
納豆を混ぜながら長い説明を部長が終える。
妹が卵を割りながら棒読みで答える。
「そうなんですね」
「でもSF魂があればロマンスがあってもいいのよ。例えば性別が三つある鳥型宇宙人の恋愛とかも素敵ね」
「えーと……」
きっかり五十回、納豆を混ぜ終えた部長がそこで話題を変えてきた。
「それで創作会だけど、二人とも何を書くか決めた?」
卵掛けご飯をモグモグと食べていた妹が、ぴょこんと顔を上げる。
「あのー私は、昨日言ったように、冒険ものにしようかと思うんですけど……」
「スペオペね。うん、いいんじゃない、萌萌ちゃん」
部長が優しい声で言う。ちょっと安心した。
「それじゃ僕は」
「あ、言い忘れてたけど今回の合宿、二年生はハードSF縛りだからね」
「SFって自由じゃなかったんですか!」
実は話題変わってなかったよ。
ニヤリとした顔で部長が僕の顔を見てくる。
「隆史君も先輩になったんだし、後輩に君のセンス・オブ・ワンダーを見せつけてやりなさいよ」
「後輩ったって妹だし、みせつけるって、なんですかそれ」
「ほらほら、ハードSFの範疇なら好きに自由に書いていいから」
「自由っていったい??」
「俳句だって五七五という枠があっての自由じゃない。そういうものよ」
ていうか待って、ハードSF縛りって何?
ラブコメにしようと考えていたのに。一体どうしよう……
・・・
もちろん創作会と言ってもこの合宿中に長編を書けるわけはない。今回はプロットを考えてキーになるシーンを書いてみるだけだ。
それにしてもうーん、ハードSFってどうしたらいいんだろう……
正直僕はエンタメよりなのでその辺には疎いのだ。
ノートにメモを書きながら唸りつつ、三階建ての研修所をウロウロしていると、同じく自習室でうんうん唸っている妹を発見した。
「どう萌萌、小説は進んでる?」
「あーおにいちゃん、ちょっとここ困ってて、どうしようかと」
「どれどれ」
萌萌の書いている小説はこんな感じだった。
――――
深い森に住むエルフの少女が、迷い込んできた人間の青年と出会う。
少女は、記憶を失っていた彼と徐々に心を通わせていく。
一方そのころ、ゴブリンの群れがエルフの森に向かって進軍を開始していた。
――――
「なるほど、いいんじゃない? 冒険っぽいよ」
「でも部長、なにか言わないかな?」
眼鏡っ子になった妹はちょっと心配そうな顔をしている。
確かに気持ちは分かる。
「だったらこの辺にちょっと付け足して……」
「なるほどね。さすがおにいちゃんだ」
感心した目の妹に見つめられて、なんだか背中がこそばゆくなってきた。
「そういえば、おにいちゃんはどんな感じ?」
「あーうーん、ちょっと悩んでるんだけど見てくれる?」
「もちろん、見せて見せて!」
ノートに書かれた僕のプロットを、萌萌はふんふんうなずきながら読んでいる。
「そうねおにいちゃん、主人公が男子高校生なのはいいんじゃない? 読者も感情移入しやすいし。でも、このヒロインが幼馴染っていうのが、ちょっと……」
妹は唇をアヒルにして微妙な表情だ。
「駄目かな?」
萌萌は首をひねりながらうなずく。
「幼馴染とか古くない? 負けフラグが付いてるっていうか、やっぱりヒロインは妹じゃないといけない気がする」
「そっかなぁ」
「うん、おにいちゃん。ヒロインは絶対妹だよ」
黒髪の妹は力強く断言した。