エルフの義妹とSF研⭐️これは全てのSF愛好者へ捧ぐ文芸ジャンル戦争の物語だ!   作:やまもりやもり

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第16話 同盟「エンタメその他」

「鍵が掛かってますね」

「なるほど、これは密室です!」

 

 明智部長の部屋の前で、新本格のミス研副部長が興奮気味に叫んだ。

 

「まだ事件と決まったわけでも……合鍵とかないのかな」

「おにいちゃん、私が。――開錠♪――」

 

 ドアの鍵がカチャンと音を立てて開く。

 

「いまどうやって?」

「そんなことより中の様子を……大変だ!」

 

 個室の床の上には、部屋着姿の明智クリスティさんがうつ伏せになって倒れている。

 

「やっぱり密室殺人ですね! いや、あそこに通気口が! 怪しくない?」

 

 新本格が指差した壁上の隅には、二十センチ角ほどの穴が空いていた。

 

「あんなの人間通れなくないですか?」

「例えば……ほら、オランウータンとか」

 

 僕の指摘にムキになって反論してくる新本格。

 そこに社会派が口を挟んでくる。

 

「よく見て、密室じゃないよね。窓が開いてるでしょ。こういう時は冷静に観察しないと」

 

 確かに部屋の窓は開いていた。

 といってもここは三階なんだけど。

 

「待って! だったらほら、オランウータンならあの木に飛び移れそうじゃない?」

 

 新本格が指差す窓の外三メートルのところには、確かに立木が立ち並んでいる。

 とはいえ……

 

「でも、ここにはオランウータンいないですよね?」

「だって人間だったら三階の窓から飛び移るなんてできないでしょ。否定する前にまずオランウータンがいないことの証明をしてみなさいよ」

 

 僕の問いに、あくまでオランウータンに固執する新本格派。

 

「まあまあ落ち着いて。ここはまず動機から考えませんか。個人的恨みによるものなのか、それともうちの部を狙う者の犯行か」

 

 社会派が話の流れを変えてきたたんだけど、確かにちょっと待てよ。

 冷静に考えてみよう。

 ミス研の部長が死んで利益を得るのは、誰だろうか?

 

 まず考えられるのは昇格する副部長(新本格)だ。とはいうものの、部員三人の弱小部活の部長の座って人を殺してまで欲しいものだろうか。

 ていうかミス研が二人になったら、部活として存続できなくなるのでは。その時に得をするのって……

 

 うちの部長の髪の毛に木の葉が付いてるのは気のせいだよな。

 外の立ち木と同じ種類に見えるけど。

 

「こうなると、まずはアリバイを調べないといけませんね」

 

 社会派がポツリとつぶやいた。

 

 そういえば僕と萌萌は昨日も一緒にいたけど、うちの部長は一人部屋だったよな。

 ミス研の新本格と社会派の二人も同室だったはず。だとすると?

 新本格が興奮して叫ぶ。

 

「犯人はこの中にいる!!」

 

 部長の目が泳いでいる。

 これってひょっとして、まずい流れなのでは……いや、待てよ。

 ミス研はあと二人しかいない。

 むしろオランウータンのせいにして、この二人を亡き者にしてしまえば!

 

「あれ? おにいちゃん、この人……」

 

 ふと見ると、しゃがんだ萌萌が明智部長の顔を覗き込んでいた。

 

「どした萌萌」

「んーとー」

「……ふわぁよく寝た。なんか頭痛い。あれ? どうしたのみんな?」

 

 痛そうに頭を手で擦りながら、明智クリスティさんが起き上がってきた。

 みんなポカンとした顔をしている。

 部長だけ目をそらしてるけど、多分気のせいだろう。

 

「あのー、明智部長がなかなか起きてこないので心配になって」

「そうなんだ。なんでだっけな……」

 

 起きたばかりのミス研部長は思い出すように考えている。

 

「……確か昨日の夜、えすえふ研のかぐやさんと創文祭の話をしてて、合同チームとか言われて断ったんだけど、その後……」

「いえいえいえ! それは記憶違いですよ!」

 

 うちの部長は食い気味に言葉を被せながら、床に落ちていたバットを背中にサッと隠した。

 

「そうだっけ」

「一位になって部室を獲得出来たら、今の部室はミス研に明け渡すってことで手を打ったじゃないですか」

「いやでも、あの部室棟がいつまであるかって話に……」

「覚えてないんですか? でもいいです。ほらここに、創文祭投稿小説コンテストのチーム申請書が!」

 

 部長がいつも持ってる鞄から取り出した紙には、えすえふ研とミス研の部長印が並んで押されている。

 

「ハンコがある以上、私たちはもうチームです。みなさまご静粛に。私たちはここに対ファンタジー研同盟である『エンタメその他』の成立を宣言します!」

「うぉー!」「おぉー!」

 

 僕と萌萌は間髪入れずに歓声を上げる。

 日頃の練習の成果が生かされる。

 

「それでは皆様ご一緒に。部室を、よこせー」

「部室を、よこせー!」

 

 うちの部長の後に、僕たちの声が続く。

 

「テンプレなんかいらないぞー!」

「いらないぞー」

「ミス研の方もご一緒に! 私たちはチームです。長い分断は終わり団結の時を迎えました。私たちは利害を共有した同志なのです。さあ一緒に! おー!」

「おー」

 

 ミス研の人が勢いに押されて声を出すと、部長がさらに大きく叫ぶ。

 

「我々はここで現状の小説ヒエラルキーを転覆させることを宣言する。ファンタジーをして我らの前に戦慄せしめよ! 我らこの戦いにおいて鉄鎖の他に失う物は何もない。得る物は全世界である。今こそ、ファンタジー以外の作者よ、団結せよ!」

「うぉぉー!」

 

 研修所の部屋に、僕らとミス研、全員の声がうやむやに重なり合った。

 

 といっても、僕らは二つの部を合わせても六人に過ぎない。

 一方の敵、地水院風火の配下ファンタジー研の総数は全校生徒千二百人の半分以上だ。その戦力比はいまだ一対百。

 

 それでも僕の心はワクワクとした希望で満たされていた。

 もちろん部室が欲しいというのもあるけれど、なにより今の僕は小説を書くことが楽しくなってきているのだ。

 

「よし、やるか、萌萌!」

「うん、頑張る!」

「それじゃ二人とも来週からプロットの特訓ね!」

「「うゎー」」

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 そんなGWも、今日で最終日。

 

 妹と一緒にルーフバルコニーの世界樹に水をやる。

 随分大きくなってきた若木が水を浴びて楽しげに揺れている。

 ていうか、もう僕より背が高くなってきたんだけど……

 

「ねえ萌萌、これってそろそろ地面に植えた方がよくない?」

「そうなんだけど、どこか目立たないところってないかな」

「そうだな……あ、そういえば一箇所ある!」

 

 僕が思い付いたのは、校舎の隣にある大温室だ。

 もともとうちの学校の敷地には大学もあったのだけど、しばらく前に八王子(やまおく)に移転してしまい、今は農学部だか生物工学部だかの巨大温室だけが残っている。

 

 この温室では植物と動物の融合が研究されていたという噂で、自走する人参だの羊のなる木だのが繁殖しているとも言われている。

 立ち入り禁止なので奥まで入る人はほとんどいない。目立たないことは確かだ。

 

「うん、そこでいいんじゃない?」

 

 嬉しそうな顔の萌萌が、自分より大きくなった木に手をかざして、何やら呟く。

 目の前で世界樹は植木鉢ごとシュルシュルと小さくなっていき、最後は妹の手の中に収まった。

 

「行こう、おにいちゃん」

「お、おう」

 

 そして僕らは大温室の奥の方、立ち入り禁止の錆びついた看板がある金網で仕切られたエリアにやってきた。

 この学校はこういう古い閉鎖区画みたいなところがいっぱいあって、校内でも幽霊やらゴブリンやらの目撃談が絶えない。

 

 前を行く萌萌が何やら呟くと、古びた南京錠がカチャリと外れた。

 

「入るよ、おにいちゃん」

「あ、うん」

 

 妹に促されて、僕らは植物の繁茂する大温室へと入っていく。

 五月とはいえ温室の中はむっとした熱気が肌に纏いつき、埋め尽くす植物の放つ、むせかえるような匂いが鼻につく。

 重なる樹々の葉が日光を遮り、湿気を帯びて広がる濃い緑色の世界は、まるでジャングルに迷い込んだような錯覚を覚える。

 

 奥へと進んでいくと、鬱蒼とした樹々のあちこちに、錆びたバイオハザードマークの看板が立っていてかなり不気味だ。

 かなり古いもののようで文字がところどころしか読めない。

 

「えーっと注意、トリフィ……なんだろう……」

 

 巨大な食虫植物の群れを抜け、腐葉土の匂いのする地面を踏みしめて進む。奇妙な鳴き声が響く中、茂る枝を手でかき分け歩いていると、突然、ガサガサという音がした。

 

「萌萌、なんかいるぞ、っていうか、なんだあれ?」

 

 ガサガサという音を立てていたのは高さ三メートルほどの樹木だった。三本の根で下草をかき分けて器用に歩いている。萌萌が首を傾げている。

 

「なんだろう、トレントでもないみたいだし、私の知ってる木じゃないけど」

「確か、あんな感じの木が出てくるSFがあったような気が……」

 

 ガサガサ、ガサガサ、ガサガサ

 

 気がつくと周り中からもそんな音がしてきていた。

 辺りには同じ種類の樹木がいくつも生えている。その樹々は枝を振る音を立てながら、ふらふらと近づいてくる。

 

「まずい、囲まれたかも」

「でも植物なら……お願い、世界樹!」

 

 萌萌が手に持った世界樹を掲げると、それは願いを聞き入れたかのように光を放った。

 柔らかく明滅する光が、周囲の森にふんわりと広がっていく。

 

 二回、三回、五回、七回、十一回……

 

 世界樹の放つ光の点滅に合わせるように、周囲の樹々は枝を左右に揺すっている。

 ガサガサと揺れながら接近していた樹々は、その歩みを止めた。

 

「どうやら、世界樹とコミュニケートしているみたいだな」

「おにいちゃん、この世界樹の光」

「ああ……」

 

 そう、この光は、座間君のSF魂だ。

 

 

 ・・・

 

 

「ここでいいんじゃない、おにいちゃん」

「よし。掘ろう」

 

 大温室の奥の小さな広場に、僕と萌萌は二人で世界樹を植えた。

 その葉は嬉しそうに柔らかな光を放つ。

 周囲には何かの儀式のように三本足の木が集まってきて、楽しげに枝を揺すっている。

 僕たち兄妹はその場に立ってしばらくその光景を眺めていた。

 

「もう大丈夫だと思う。帰ろうか、おにいちゃん」

 

 萌萌が僕の腕を抱えて、甘えた顔で見上げてくる。

 

「うん、そうだな。萌萌、今日は何食べようか」

「こないだおにいちゃんが作ってくれた、肉じゃが、なんてどう?」

 

 柔らかな感触が二の腕に当たっている。

 

「え、あ、うん、いいんじゃないかな」

「えへっ、楽しみ!」

「じゃあ帰るか」

 

 明滅する光を背中に受けて枝を揺する樹々に見送られながら、僕と萌萌は並んで大温室を後にした。

 

 

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