エルフの義妹とSF研⭐️これは全てのSF愛好者へ捧ぐ文芸ジャンル戦争の物語だ! 作:やまもりやもり
「部長、合流申請書もらってきました!」
「すごいじゃない! どこ?」
「じゃーん、これを見てください!」
僕らが集めてきたのは、学内のあちこちでゲリラ的に活動している同好会、つまりファンタジー研の手によって廃止になってしまった部活の残党たちだ。
「なになに、童謡同好会、ポエムの会、郷土小説の会、偉人伝記愛好会、ロシア文学の集い……」
「それに百合文化同好会。全部で六団体十二人です」
「すごい、これで一気に戦力三倍じゃない!」
部長は大喜びだ。でもまだ話は終わっていない。
「実は一つだけですけど、部活もあるんです」
「え、どこどこ?」
「それはですね……」
僕はさっきの出来事を思い出す。
☆ △ □
「あれって、相手の机にボールを打って返されなければいいんでしょ?」
小体育館で練習をする卓球部を指して、萌萌が言う。
「まあ……端的に言うとそうかな」
「じゃあ私やれる!」
ニヤリとした妹は、彼らのところへと走っていく。僕も慌ててそれを追う。
「あのーちょっといいですかー」
「なんだよ?」
練習中に声を掛けた萌萌を、卓球部の人たちが睨んでくる。
「創文祭の投稿小説コンテストに、同じチームから出て欲しいんです!」
「はあ? うちは卓球部だぞ」
「もちろん、タダでとは言いません」
その小柄な体を精一杯に伸ばして立ち、僕の妹は叫ぶ。
「その競技で私が勝ったらでいいです!」
「じゃあ、俺たちが勝ったらマネージャーでもやってくれるのかよ」
「いいですよ、何なら掃除でもなんでも。手っ取り早く一番強い人を出してください」
「ちょっと萌萌……」
「大丈夫だからおにいちゃん」
一方で卓球部が集まって相談している声が耳に入ってくる。
(( 俺たちの部長がインターハイ出場者だともしらずに素人が…… ))
聞こえているのかどうか知らないけれど、萌萌は制服のまま握ったラケットをブンブンと振り回していた。それはまるでステッキを振る魔法少女のよう。
「ところでおにいちゃん、これって、この持ち方でいいの?」
大丈夫かな……
「僕は女の子だからと言って手加減はしないよ、フフフ」
微妙にキザったらしく陰険そうな男が、萌萌の反対側に立つ。
どうやら向こうの部長らしい。
「いいですよ。始めましょう」
「フフフ、後悔しても遅いよ」
相手のキザ男は、最初からサービスエースを狙って打ち込んできた。
「――
謡う声と共に、萌萌の髪がふわっと逆立つ。
打ち込まれたピンポン玉は、卓球台の端ぎりぎりを越えて萌萌の後ろに抜けていった。
叫び声が巻き起こる。
「部長ぉ! 手加減してるじゃないですかー」
「フフフ、ハンデだよハンデ。さ、お嬢さん、どこにでも打ってきたまえ」
キザ男がなんか叫んだ。
「それでは私の番ですね。い、き、まーす!」
萌萌の打ったピンポン玉が、ふんわりと相手のエリアに落下する。
「やっぱり素人かフフフ」
「――
突然、小体育館に突風が吹き抜けた。
相手のエリアに当たったピンポン玉が、突然真横に飛ぶ。
「よし一点! いいぞ萌萌!」
「えへっ」
さすが萌萌、僕の妹だ。
「なんだ今の風は。まあいい、試合を続けよう」
「いきまーす! ――
ピンポン玉が風に乗りくるくると回る。
「どこから風が吹いてんだよ!」
「――
「なんで空中で玉が跳ね返ってくるんだよ!」
あっという間に、試合はマッチポイントを迎える。
「――いでよ、
萌萌の放ったピンポン玉は、複雑怪奇な軌道を描いて相手のエリアに吸い込まれるように落ち、その場で砕け散った。
「わーい勝っちゃった!」
「すごい、萌萌!」
「えへへっ」
居並ぶ卓球部の人たちはぽかんとした顔で立ち尽くしたまま動けない。
僕の妹は静まり返った小体育館を見回すと、あどけない笑顔を浮かべて首をかしげた。
「あれ? 私なんかやっちゃいましたか?」
☆ △ □
というわけで、僕は折りたたまれたチーム合流申請書を取り出した。
「じゃーん、卓球部です。実はですね……」
さっきの萌萌の活躍をかなり端折って部長に説明した。
「そうか、運動部か……これはひょっとしたら、勝てるかもしれないわね……」
「やったな、萌萌!」
「だね、おにいちゃん!」
パ チ っ !!
僕と萌萌、兄妹のハイタッチの音が部室に響いた。
「ではこのまま各部活を各個撃破で押さえましょう。エンタメその他に合流してもらうか、少なくとも中立になってもらう。その後でファンタジー研の切り崩しを考えることにします」
そう言う部長の頬も緩んでいる。
「切り崩しなんて、そんなことができるんですか?」
「そこはおいおい。まずは着実に同志を増やし、足元をしっかり固めるところから」
「はい! 部長」
僕と萌萌の声が一つになり気持ちも盛り上がってくる。
なにしろ運動部は全生徒の三割を占めているのだ。何とかここを確保して、あとは文科系部活の攻略次第で、あるいは……
「よし、萌萌やるぞ!」
「うん、おにいちゃん」
「ではみんなで、スローガンを唱和しましょう!」
部長が掛ける声に合わせて、さっそく僕らは扉の前に並ぶ。
目の前に掲げられている128ポイントの創英角ゴシックで書かれたスローガンに向かって、僕らの心は震え立つ。
「それではみんなで。さん、はい!」
― SFは自由だ ―
ただしファンタジーを除く
えすえふ研の狭い部室いっぱいに、僕ら三人の大きな声が響き渡った。