エルフの義妹とSF研⭐️これは全てのSF愛好者へ捧ぐ文芸ジャンル戦争の物語だ!   作:やまもりやもり

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第20話 繰り返す闘いの彼方に

 学校からの帰り道、考え事をしているところを萌萌に声を掛けられて、僕はふと我に返った。

 

「おにいちゃん、どうかしたの?」

「あ、いや別に。なんでもないよ、萌萌」

 

 実は僕ってずっと萌萌に頼りっぱなしなのでは、そんなことを考えていたのだ。

 

 萌萌はすっかり部活に溶け込んでいて、やる気も成果も出している。

 一方、僕はと考えてみると、心の中が少しちくりとしてしまう。

 

 別に妹に嫉妬している訳でもないんだけど。僕もそろそろ先輩として、あるいは、おにいちゃんとして頼りがいのあるところを見せないと、とか、そんな気もしてくるんだよな。

 

 

  ☆  △  □

 

 

 そして五月も終わりの部活のない日。

 

「ごめんくださーい! 部長さんはいらっしゃいますか」

 

 この日に僕が訪問したのは、とある文芸系の部活だった。

 以前は怖くて入ることすらできなかったのだけれど、いまさらそんなことは言ってられない。

 

「私が部長の三島だが」

「なるほどですね」

 

 部屋の奥から現れたのは、もっさりとした髪形の着流し姿の男だった。

 高校の校内でわざわざ着流しに着替えるところとか、確かにそれっぽいかもしれない。三島というよりどっちかというと太宰か芥川だけど。

 

 そう、今回は純文学部の説得に来たのだ。

 

 もともと純文学といえば文芸界の中でもSFの対極にある。

 SFが一般大衆文芸の中でも最下層のオキアミだとすれば、純文学は南極海を悠然と泳ぐ孤高のシロナガスクジラだ。それこそ、息をするように一飲みにされてしまう可能性すらある。

 

「実はこんどの創文祭小説コンテストの件で、ご相談が……」

 

 それでも僕はきちんと説得を試みることにしたのだ。

 

「……我々は非道なファンタジー研に対して連帯して戦わねばなりません。いまこそ、一人一人が立ち上がる時です」

 

 着流しの三島部長は僕の拙い説明を腕を組み黙して聴いている。

 

「えすえふ研と共に戦いましょう。世界は英雄を求めているのです!」

 

 そう演説を締めくくってみたが、純文の男は厳しい顔のままだった。

 どうもうちの部長みたいには、うまくいかないもんだな。

 

「いいかお前、純文学とは等身大で生身の人間を描く文学だ。純文学に分かりやすい英雄など必要ない。そこが大衆文芸との大きな違いだ。SFなど喜んで読んでいる俗物には分からんだろうが」

 

 そう喝破してくる彼に、僕は尋ねる。

 

「でもメロスは走っただけで英雄になってません?」

「いや、あれは普通の男の英雄的な行為の話であって」

「結果は結果なんだから、英雄としてちゃんと認めてあげましょうよ」

 

 食い下がる僕の顔を、彼は正面から見据えてきた。

 

「まあいい、ならば問おう。大衆文芸というのは結局は逃避だ、ライトノベルを見ていればわかるだろう」

 

 その言葉を鋭い武器として、着流しの男は語る。

 

「例えるなら、強い主人公への自己投影、あるいは老いから目を背けること。純文はそこから逃げたりしない。はたしてSFにその覚悟があるのか?」

 

 見定める厳しい顔の問いかけに、僕はうなずいて原稿を取り出した。

 

「そう思って、短編を書いてきました」

 

 ――――

 戦乱の平安京に潜む三つの姿。死体から髪を抜く老婆、その衣服を狙う下人、そしてもう一つ、異形の存在であるプレデター。

 三つ巴の闘いが、羅城門の上層を舞台に幕を上げる。

 ――――

 

「どうでしょう。等身大と老いを正面から描いてみました」

「いや、ちょっと荒唐無稽じゃね?」

 

 ちなみに半分ぐらいは青空文庫のままなので、雰囲気は芥川龍之介だ。

 

「だって、純文にも荒唐無稽なの多いじゃないですか」

「そんなことないだろ」

「じゃあ猫が喋るのはいいんですか?」

「あの猫は別に喋ってないだろ!」

 

 なかなか聞き分けの悪い先輩だな。では奥の手を使うか。

 僕は一冊の本を取り出す。

 

 そのタイトルは、美しい星。

 

「これなんかどうです?」

「そ、それは……」

 

 実はこれは三島由紀夫の書いたSF長編なのだ。UFOや宇宙人も出てくる。

 

「これはSFですよね、先輩」

「う、確かに、それは三島先生の……」

 

 純文の男が怯んだ。すかさず間合いに入り、至近距離から畳みかける。

 

「それに銀河鉄道だって、あんなのもうSFじゃないですか」

「あれは、どちらかというとファンタジーな気が……」

 

 言い淀んだところを攻める。

 

「朝起きたら虫になっているのは?」

「それはいわゆる不条理系というか」

「そこに蟹光線ビィー!」

「ぐぅぉー」

 

 純文部の部長は、ばったりと倒れた。

 

「それじゃ先輩、ハンコは押してもらいますね!」

 

 ・・・

 

 すごいな僕、やればできるじゃん…。

 

 純文学部の部長印が押された申請書を眺めながら、達成感で胸がいっぱいになってくる。不安だった部活回りも少しだけ光が見えてきた。

 

「おにーちゃん!」

「ん? あぁ、萌萌!」

 

 廊下を歩いていて振り返ると、そこには眼鏡を掛けた妹の姿があった。

 

「おにいちゃんも、部活を回ってたの?」

「うん。ほらこれ」

 

 僕は萌萌に、純文学部の部長印が押された合流申請書を見せる。

 

「すごい、おにいちゃん! 見て、私も」

 

 彼女も僕に、軟式テニス部と書かれた部長印を見せてくる。

 

「やるじゃん萌萌」

「おにいちゃんこそ」

 

 妹が微笑んで立つ学校の廊下を五月の爽やかな風が吹き抜ける。

 紺色をした制服のスカートがふわりと揺れる。

 

「それじゃ萌萌、そろそろ帰って買い物に行くか」

「ねえねえ、私、世界樹に会いに行きたい」

「いいよ、そうするか」

「うん。早く行こうよ! Θ£ĸ¢¡∫µ……♪♪」

 

 不思議な歌を口ずさむ少女の後に続いて、僕は胸を張って大温室へと歩き始めた。

 

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