エルフの義妹とSF研⭐️これは全てのSF愛好者へ捧ぐ文芸ジャンル戦争の物語だ!   作:やまもりやもり

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第9話 充分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない

「早く行こうよー、おにいちゃん!」

 

 萌萌はいつにも増してワクワクした様子で、その耳も僕を待つように動いている。

 そう、週末の今日は萌萌のスマホデビューの日なのだ。

 

 家電量販店へと向かう道すがら、妹は僕に甘えたように話しかけてくる。

 やっぱり本当はスマホ欲しかったんだな。

 

「スマホってなんか凄いよねー魔法みたいだよねー」

 

 春の日差しの中、萌萌が左右にステップを踏んで前に出る。

 風にそよいで纏わりつくワンピースが、華奢な身体の線を浮き出させている。

 

「だよねー」

「どんなのにしようかなー」

 

 確かに昔の人が見たらスマホとか魔法にしか見えないかもしれない。アーサー・C・クラークの第三法則ってやつだ。

 いわく「充分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない」

 ちなみに第一と第二法則もあるんだろうけど、よく知らない。

 

「でもさ、僕にはその眼鏡のほうがよっぽど魔法みたいだよ」

「だって魔法だもん」

 

 途中で眼鏡っ子に変わった妹が振り向いて真顔で答えてくる。

 この眼鏡の原理、全然わからないんだよな。

 

「あれ? 隆史君、それに萌萌ちゃん」

 

 突然後ろから声を掛けられた。

 振り返ったそこにいたのは、長い黒髪の眼鏡美人。

 

「あっ、部長! ファンタジーの話ならしてないですよ!」

 

 シャツにデニムという休日のラフな私服姿が、長身に映えてまた大人っぽい。

 でも部長、学校の外でも出てくるんだな。気を付けないと。

 

「こんにちは部長。今日はおにいちゃんとスマホを買いに行くんです」

「よかったね萌萌ちゃん。今度ライン交換しようね」

 

 しかし、よく部長は今の萌萌を見て一発で分かったな。

 いや、待てよ。

 

「部長、萌萌の髪の色って何色に見えます?」

「何色って、きれいな茶色じゃない?」

 

 僕はもう一度振り返り妹を見る。

 やっぱり黒髪おかっぱで地味な女の子の姿だ。

 

 

 ・・・

 

 

「うふふ、えへへ」

 

 買ったばかりのスマホの入った紙袋を手に持って、妹は楽しそうに歩いている。

 

「ところで萌萌さぁ、なんでさっき部長にはその眼鏡が効かなかったんだろう?」

「んーそうねー」

 

 地味な外見の妹がいつもと同じ声で語ってくる。

 

「まったく魔法を信じてない人には効きにくいって聞いたことあるかも」

「そういうものなの?」

「なんていうか、魔法の原理みたいなのがあってね……」

 

 黒髪で眼鏡の妹は話しながら頭を少し傾ける。

 

「先生が言ってたんだけど、魔法というのは、使えると信じているから使えるんだって」

「えーと、そういうものなんだ」

「あとは、鑑定スキルを持ってる相手には認識疎外は通じないけど……」

「なにそれ」

 

 なんだか話がファンタジーっぽくなってきた。

 ここが部室じゃなくてよかった。

 

「そろそろ眼鏡外してもいいよね、おにいちゃん」

 

 人通りが少なくなったところで、妹は元のやたら美少女な姿へと戻る。

 えへへと笑う耳元には、僕が買ってあげた金色のイヤリングが揺れている。

 それを見てちょっと思い出した。

 

「ところでさ、結局こないだ、萌萌は何を落としたの?」

「あーそれ? なんと説明したらいいか……」

 

 妹の緑色の目が上を見て泳ぐ。

 

「使った人の願いを叶える代わりに、魂を喰らう魔道具?」

 

 なるほど?

 

「ちょっと待って! 何で萌萌がそんなもの持ってるわけ?」

「拾ったっていうか、他の人の手に渡ると危ないから仕方なく……」

 

 妹はそのかわいい鼻を微かにしかめている。それがまた整った顔の美しさを際立たせる。なんだか美少女ってすごい。

 でも魔道具とか魂だとか、ちょっと微笑ましいかも。うちの妹って、中二病っぽいところがあるんだな。

 

 

  ☆  △  □

 

 

(僕)こないだの藤棚のところで本を読んでるから

(萌萌)うん。後で行く。おにいちゃん

 

 妹とスマホでメッセージを交わし、ベンチに腰かけて文庫本を広げる。

 部室の使えない今日みたいな日は、こうやって外で過ごしたりすることも多い。

 

 この場所は穴場なんだけど、うちの学校は弱小部活たちが居場所を求めて彷徨っていて、なかなか落ち着ける場所がないんだよな。

 それもすべては奴らのせい。あの……

 

「おい、そこのお前」

 

 顔を上げると見知らぬ男子生徒がすぐ近くからこっちを見ていた。

 

「僕のこと?」

「そうだよお前だよ。この辺でエルフ見なかったか?」

 

 訝しく見返す僕に向かって、そいつはファンタジー研と書かれた腕章をこれ見よがしに見せつけてくる。僕は感情を出さないように返事をする。

 

「いやー知らないけど。エルフが学校にいるわけなくない?」

「見たってやつがいてな、しかも一人じゃない……ところでお前、何読んでるんだ?」

 

 しまった、誰もいないと思って本にカバーをしていなかった。

 

「ほー、SFかよ。弱小部活が生意気に読書かよ」

「いいだろ、ほっといてくれよ」

 

 ねめつけるような表情で見下してくるそいつに、僕はうっかり声を荒げてしまった。

 

「ま、どうせお前らの部室もそのうちなくなるし、こうやって外で読んでるのがお似合いかもな。ところでさっきの話だが、この辺でエルフを見てないか」

「なんだよそれ……」

「知らんなら別にいい、使えない奴らだなまったく。――おい、座間! なにしてるんだ、お前もちゃんと探せよ!」

 

 いきなり張り上げたそいつの声に辺りを見回すと、こないだ見た座間君の金髪頭が目に付いた。どうやら植え込みの草をゴソゴソと掻き分けているらしい。

 

「そんなところにエルフがいるわけないだろ。俺は他に行くから、お前はこいつの話を聞いとけ」

 

 威張った男子生徒は座間君にそう命令して立ち去って行った。

 そして代わりに座間君がやってくる。

 

「うちの副部長が邪魔して悪いな、隆史」

「いやいいけど別に。座間君は何してるの?」

「エルフが見つからないのはお前らのせいだって部長に怒られて、それで」

 

 座間君は泥の付いた両手のひらの指をひらひらさせる。仕方ないという意味なんだろう。

 

「ていうか、なんでファンタジー研はエルフ探してるの?」

「こないだのエルフ騒ぎの時に何か無くなったらしいんだ。それで地水院部長が怒って探させてる。俺としてはエルフを見つければ幹部にしてくれるそうだから何でもいいんだけどな」

 

 彼はそう言いながら、泥で汚れた両手を擦り拭うようにして払う。

 

「ファンタジー研もなんか大変なんだな」

「いや、最近ようやくわかったんだ。ファンタジーにはSFにはないパワーがある。分かるか? つまりは人のストレートな欲望に応える懐の深さだ。俺はそこに惹かれるんだよ」

 

 頬に泥の付いた座間君の顔は、えすえふ研では見たことのない表情をしていた。

 

「でもSFだって面白かったろ」

「まあな。でも俺はファンタジー研で上を目指すと決めたんだ。それじゃ!」

「ちょっと待って!」

 

 僕は座間君を引き留めて尋ねる。

 

「さっきの奴が言ってたんだけど、うちの部室がなくなるって話、聞いたことある?」

「んーそういれば、ファンタジー研の部員が増えたから、古い部室棟を建て替えるって話を聞いたことがあるような……」

「まじで?」

「だからさ、隆史もファンタジー研に入れよ。いまどきSFとか流行らないんだよ。じゃあな」

 

 そう言って肩をすくめ座間君は歩いていく。

 というか、歩きながらも植え込みの下を覗き込んだり石をひっくり返したりしては何かを拾い上げている。

 

 急に空気が冷え込んできた。

 

 僕は立ち上がるとスマホを手に持って、「今日はまっすぐ帰ろう」と萌萌にメッセージを送る。どうやらこの辺りも危なくなってきたようだ。

 

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