前職が死霊術師♂だと言われて魔法少女協会の審査に不合格になりました。しかたないのでヤミ魔法少女になって見返します!   作:黒宮冥

3 / 8
第3話 魔法少女ギルド

「よくぞ決断してくれた。俺たちは君を歓迎する」

 

 九条正樹は笑顔で右手を差し出すと、冥も右手を差し出して握手を交わす。

 

「というか、そんな表情もできたんだね」

「おいおい、あんなの役作りの一環だろう。信じるようなマヌケがいるとは」

 

 九条は当然ながら協会所属の魔術師として活躍している。冷静に状況を判断し的確な指示を出しながら戦う姿から、絶氷という二つ名を持っているほどの実力者である。しかし、その活躍とは裏腹に、素っ気ない態度のせいで良く思わない者も多い。

 

 一方で、一部の女性からは崇拝に近い熱狂的な支持を得ていて、彼と一緒に戦うために魔法少女を目指す者も少なくなかった。

 

「信じてたわけじゃないけど、胡散臭いと思ったのは事実だね」

「ひどい言い草じゃないか、かなり傷つくんだが」

 

 ヘラヘラと笑いながら言っても説得力は欠片もない。現に協会とギルドという対立する二つの組織に所属している時点で胡散臭さしかない。

 

「そもそも協会とギルドって対立しているんじゃないの? 何でギルドのマスターが協会で活躍してるわけ?」

「協会もギルドも作ったのは俺なんだが」

「ますます意味が分からないんだけど」

 

 冥につっこまれて九条はため息を吐いて、言いにくそうに頬をかく。さらに勿体ぶるように二度三度、深呼吸をした。

 

「協会は別の人間に任せることにしたんだが、魔法少女の役目を果たそうとしないからギルドを作ったんだ」

「魔法少女の役目って厄災の討伐でしょ。協会でもやってるじゃないか」

「あれでは圧倒的に足りない」

「そもそも、厄災自体減ってきてるって言われているじゃないか」

 

 冥の言葉に、九条は残念そうにうつむきながら首を横に振った。

 

「減ってはいない。むしろ厄介な厄災が増えているぞ」

「そんな、被害者は減ってるってニュースでも──」

「俺たちが先んじて討伐しているからだ」

「マスターの言っていることは本当だよ。姉さんの敵討ちもあるから積極的に戦っているけどね」

 

 九条の言葉を、志乃が肩をすくめながら肯定する。厄災が減っていないという事実も衝撃的ではあったが、それ以上にニュースで嘘を平然と流していることの方がショックだった。

 

「何でそんなことを」

「簡単だよ。うまみがないからだ」

「協会が流している厄災との戦いは時間が決まってるでしょ。でも、そんな都合よく現れるはずないよね」

 

 言われてみれば確かに不自然である。現れるタイミングが分かっているなら、そもそも被害者もゼロにできるだろう。ならば答えは一つしかない。

 

「協会が厄災を放置している?」

「当たり。しかも視聴者が満足しそうな厄災だけ」

「そんなことをしたら──」

「進化するかもしれない。それに明らかに弱い厄災は無視される──進化したら手に負えなくなる可能性があってもな」

「それで進化した厄災に黒宮耀と討伐を命じられて、姉さんは命を落とした」

 

 九条の淡々と語る事実、そして志乃の姉の死についての真相を聞いて、冥は背筋に鳥肌が立った。一歩間違えれば大惨事になるようなことを平然と行っている。そのことに冥は行き場のない怒りを覚えた。

 

「でも、それって犯罪じゃないか」

「残念ながら証拠がない。普通に考えれば都合のいい厄災だけ引き当てるなんて不可能なんだがな」

「でも、このまま放置するわけには──」

「ああ。ギルドに来てくれて助かったぞ」

「それは一体どういう──」

 

 意味不明な返しをしてきた九条に詰め寄る。彼は笑顔で冥を見つめてニヤリと口角を上げていた。思わず背筋に寒気が走り、自分は罠にハメられたのだと思い知る。

 

「今日から、黒宮冥──お前を俺の専属サポーターに任命する。ちなみに拒否権はない」

 

 専属サポーターとは、表向きはお手伝いとして優秀な魔法少女に付く新人のことを差す。しかし、その実態は真逆。優秀な魔法少女が後継となる新人を育て上げるためのシステムだった。

 

 一部の女性から熱狂的な人気を得ている九条は、当然ながらサポーターを希望する魔法少女が後を絶たない。問題は、その全てを拒否していたことだった。

 

「なっ、何で僕が?!」

「それは──これが理由だ」

 

 九条は懐から先ほどの狐面を取り出した。志乃には見えていないだろうけど、これまで見てきたガラクタよりも一段上の力が漏れ出しているのが冥にははっきりと見えた。

 

「これがどういうものかわかるだろう?」

「ヤバいものだということしかわかりませんけど」

「十分だよ。過去に、これの価値がわかった魔法少女はいなかったからな」

 

 そんな中で冥が専属サポーターになったら、他の魔法少女たちから嫉妬されるに決まっている。かといって、実態が育成システムである以上、新人の側からの拒否は認められない。

 

「正直、僕には荷が重いというか……」

「俺の指導を受けるだけだ。大したことはないだろう」

「あの──自分の顔、鏡で見たことあります?」

「当然だろう。言っとくがナルシストというわけじゃない。社会人として当然のことだ」

 

 冥としては「お前、自分の知名度理解して言ってんのか、ボケ」と言ったつもりだったが、毛ほども理解されていなかったことを理解してガックリと肩を落とした。

 

「安心しろ、俺がサポーターとしてみっちり鍛えてやる。一緒に協会をぶっ潰すぞ」

「その言葉を、そっくりそのまま憧れている魔法少女に伝えてあげたい……」

「ははは、そんなもの信じてもらえるわけがないだろう」

 

 勝ち誇って笑う九条に少しばかり殺意が目覚める。もっとも戦ってもどうせ勝てないので、冥は心の中で思うだけだった。追い詰められた悔しさに歯噛みしていると、背後から背中を叩かれる。振り返ると、志乃が苦笑しながら立っていた。

 

「サポーターの座を取られたのは悔しい。けど、協会と黒宮耀には目に物見せてあげて」

「自分の手でやりたいんじゃないの?」

「もちろん、自分でやるのがベスト。でも、やつらが『ざまぁ』された姿を見れればいい」

 

 代わりに冥が復讐をしてもいい、と志乃は言っていた。だが、それなら志乃がサポーターになってもいいはずである。冥はダメ元で右手を挙げた。

 

「志乃がサポーターになるという選択肢は?」

「当然だが、ありえない」

「冥、私に遠慮しなくてもいい」

 

 九条には即時却下され、志乃には遠慮していると勘違いされてしまった。勘違いの方はすぐに訂正したが、冥がサポーターになるという路線を変えることはできなかった。

 

「わ、わかりました! サポーターでも何でもやってやろうじゃないの!」

 

 九条と志乃の熱い視線を向けられて、追い詰められた冥は自棄になって九条の提案を受け入れてしまった。言ってしまってから早まったと思ったが、もうすでに遅い。あっという間に証言の録音と書類が準備され、防衛省に送られてしまった。

 

「これで手続き完了。それではよろしく頼んだぞ」

「ちょっと手続き早すぎじゃないか?」

「いつでも準備していたからな」

「冥、頑張って」

 

 志乃にまで期待されて逃げるわけにいかなくなった冥は、膝から崩れ落ちてガックリとひざまずいた。

 

 ◇

 

 家にたどり着いた冥を真っ先に出迎えたのは耀だった。

 

「結果はどうだった?」

「ダメだったよ」

「そう……でも、まだチャンスはあるわ。あきらめないで頑張って!」

 

 返ってきたのは、いつものように空虚な励まし。協会に不合格になった人間に二度目のチャンスなどないことは耀もよく知っている。それでも耳ざわりのいい言葉を投げかけてくる。誰にでも同じような対応をするのだから、愛されるのも当然だった。

 

「いや、もうあきらめたよ。その代わりにギルドに入ることにした」

「ギルドって、魔法少女ギルド?」

 

 冥がうなずくと、目を伏せて肩を震わせる。その姿は、失敗した妹を悲しむようにも見える。

 

「そう、残念だったわね。でも、ギルドでも頑張れば報われるわ。冥ならやれる」

「ありがとう。僕は疲れたから寝るね」

「そう、お疲れ様」

 

 冥は、もう話をするどころか顔も見たくなくて、話を切って自分の部屋へと戻った。顔を上げた時の表情は悲しみではなく憐みだった。協会から見れば、ギルドは雑用のための掃き溜めのような場所。内心では落ちるところまで落ちたと思っていたに違いない、そう冥は確信していた。

 

 色々あって疲れた冥がベッドに潜り込んで目を閉じるとインターフォンが鳴った。こんな時間に迷惑なヤツだと思いながら、冥は母か耀が出るだろうと思い無視する。

 

「はーい……きゃあああ! だ、誰ですか、あなたは!」

 

 そのまま夢の世界に旅立とうとした冥の意識は、母の悲鳴によって現実へと引き戻された。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。