前職が死霊術師♂だと言われて魔法少女協会の審査に不合格になりました。しかたないのでヤミ魔法少女になって見返します! 作:黒宮冥
悲鳴を聞いた冥が玄関へと向かうと、すでに母だけでなく父と姉の耀も玄関にいた。そして、その先には灰色の狐面──を被った九条正樹が立っていた。
「何をやってるんだか」
また、ふざけたことをしていると呆れていた冥は、シルバーフォックスと呼んで揶揄おうと考えていた。しかし、その場の状況は緊迫していて、冗談が言えるような雰囲気ではなかった。
「なんだね君は。ふざけたお面を取りたまえ」
「なにしに来たんですか、この変質者。捕まえて警察に突き出してあげます!」
どう見ても不審人物でしかない九条に、父が警戒感を示すのは当然といえる。だが、それ以上にヤバいのは耀の方だった。嫌悪感と殺気が駄々洩れになっていて、大鷲のセフィラをいつでも武器に変化させられるように身構えていた。
人当たりが良くて聖女みたいな耀ではあるが、悪人に対しては容赦がない。このままだと家の中で戦いが始まりそうだったので、冥は慌てて止めようとする。しかし、それより早く九条は両手を挙げた。
「俺は怪しいものじゃない。専属サポーターの件で話をしにきただけだ」
九条が狐面を外して素顔を露わにする。先ほどまで敵意を向けていた相手の正体に気付いた3人が驚きに目を丸くして凍り付いた。
「九条、さん……」
耀が絞り出したような声でつぶやく。その表情はうっとりとしていて、まるで恋する乙女のよう。しかし、九条はそんな耀を一瞥もせずに、父と母の方に視線を向けていた。
「実は、あなた方の娘さんを俺の専属サポーターにしようと考えてまして──話を通しておくべきと思ってお伺いいたしました」
「まあ!」
反応したのは父や母ではなく耀だった。嬉しそうに顔を綻ばせながら、勝ち誇った笑みを浮かべている。明らかに選ばれたのは自分だと確信している顔だった。
「それって危険なんですよね?」
「そうだな、実力を認めてもらったということかもしれないが、娘を危険な目に遭わせるわけにはいかないな?」
「でも──本人はやる気があるみたいですよ」
父と母はあまり乗り気ではないようで、九条の提案に簡単に首を縦に振ろうとはしなかった。本人のやる気について言及されても、浮かない表情のままだった。反対に、耀は目を輝かせてコクコクとうなずいていて、はた目からもやる気が漲っているのが手に取るように分かる。
冥はといえば、容赦なく逃げ道を塞いでおいて『やる気がある』などとのたまわった九条を殴りたかった。しかし家族の手前で殴るわけにはいかず、冥は拳を握り締めて黙ってうつむいていた。
その均衡を破ったのは無関係なはずの耀だった。父と母に向き直って、真剣な眼差しを向ける。
「魔法少女になった以上、覚悟ができているわ。それに最強の魔術師である九条さんの下なら何も問題ない。実力を付けるためにもパパとママにも認めて欲しいの」
耀が話している間も腕を組んで考え込んでいた父が顔を上げて、まっすぐ九条の目を見る。
「そうか。本人がやる気だというのなら、俺は無下にするつもりはない。だが、本当に大丈夫なんだろうな?」
「お父さん!」
「ええ、死ぬことはないとお約束しましょう」
ニッコリと微笑みながら答える九条を見て、冥は言いようのない寒気を覚える。「死ぬことはない」と「大丈夫」には大きな隔たりがあるはずだが、完全に棚上げされていたからだ。
「まあまあ、母さん、落ち着いてくれ。彼もそう言っているし、もう子供じゃないんだから意見は尊重してあげないとな」
「そんな──わかりました。私も認めます」
「パパ、ママ! ありがとう!」
父と母が認めたことで、なぜか耀が破顔する。そして、今度は九条の方に向き直り、期待に満ちた表情で九条の言葉を待った。
一方で冥は、素知らぬふりをして話をまとめる九条をにらみつける。なぜか目が合って、九条は微笑みながら片目を閉じた。おそらくウインクのつもりなのだろう。だが、冥には煽っているようにしか見えず、苛立ちを募らせるだけだった。
「話はまとまったかな? それじゃあ明日から黒宮冥さんには、俺の専属サポーターとして頑張ってもらうとします」
「「「えっ?!」」」
九条の宣言を聞いた父と母、そして耀までもが凍り付いた。その光景を見ながら「まさに絶氷の二つ名に相応しい」などと、冥はボンヤリと考えていた。しかし3人の視線が冥に集中して意識が現実に引き戻された。
心配と不安、疑問と嫉妬。それらの交じり合った視線に辟易して、冥は心の中でため息を吐いた。色々と言いたいことはあるが、冥はまず九条の方へ顔を向けた。
「いったい、何がしたいんですか?!」
「未成年なんだからご両親の承諾を得るのは当然だろう」
「書類提出済みなのに、どの口が──」
「24時までなら取り消し可能だけどね」
色々と後出しをしてくる九条に腹が立つが、脇から飛んでくる3人の視線に耐えかねて父と母、それから耀の方へと向かう。
「そうですよ。僕が九条正樹の専属サポーターに任命されたんです。もちろん僕自身の希望で」
任命されたという真実と、自分の希望という嘘を混ぜて3人に説明する。勝手に話を進めてしまったことに対する罪悪感を抱いていた父と母は『本人の希望』という免罪符を手に入れたことで、ホッと胸を撫で下ろしていた。
一方で耀は不満そうに頬を膨らませて冥をにらみつけていた。そして九条の方へと縋るような視線を向ける。
「妹は協会にも落ちた魔法少女になれていない未熟者です。絶対に九条さんに迷惑を掛けてしまいます」
「そんな心配はいらない。今日付けでギルド所属の魔法少女になったからな」
「ギルドなんて! そんな非公式な組織に所属して何になるって言うんですか!」
「ちょっと……」
耀は知らないから、しかたのないことなのかもしれない。ギルドのマスターである九条に向かって、ギルドをこき下ろす姿は滑稽そのもの。流石に九条に悪いと思って、冥は口を挟もうとしたが、耀ににらまれて黙らされてしまった。
「ギルドも公式な組織だが」
「あんな落ちこぼれの集まりなんて認められません! まともじゃないヤミ魔法少女ばかりのところじゃない!」
「さすがにそれは……」
冥としては止めようと必死に声を絞り出すが、怒り狂っていた耀を止めるだけの力はなかった。一方で、受け止めている九条は余裕の笑みを浮かべていたため、冥はバカらしくなって口を挟むのをやめた。
「そもそも妹は実力も──だから相応しく──あまり言いたくは──ギルドみたいな掃き溜め──落ちこぼれ──私の方が相応しいです!」
「これは、そろそろヤバそうだな……」
ヒートアップし続ける耀の姿を見て、冥は逃走の構えを見せる。いつ流れ弾が飛んでくるかわからない状況だが、飛んでくる前に逃げると後で文句を言われてしまうので、逃げるのは既成事実を作ってからだ。
「ちなみに、君じゃ実力不足だ」
そんな耀に対して、九条はとんでもないことを言いだした。ざわりと空気の質が変わったのが、冥にははっきりとわかってしまう。
「私は協会でもトップの魔法少女なんです。ご存知ですよね?」
「ああ、もちろん。だが、俺にとって協会でのトップなど話にならない」
「数百人いる魔法少女の中のトップなんですよ!」
「そうだな。だが、冥には及ばないな」
九条は耀を煽った挙句に冥を引き合いに出してきた。この流れで煽り続けると、間違いなく流れ弾どころか銃口がこっちを向きそうで、冥の全身が震える。
「いったい何を見てるんですか? 妹は何をしても中途半端で可哀想なんです。そんな追い詰めるようなことをしないでください!」
耀が庇うような体で九条に詰め寄るが、九条は涼しい顔をして微笑むだけだった。自分の意見になびかないと判断した耀は、ターゲットを冥に変えて詰め寄ってくる。
「ほら、冥もちゃんと言わなきゃダメじゃない。そうやってワガママを言うから、周りに迷惑をかけるってわからないの?」
詰め寄られながら、冥はチラリと九条の方へと視線を移すが、先ほどの微笑みとは打って変わって目を吊り上げながら首を横に振った。
「マジか──そもそも向こうから言われたことだから、僕にはどうしようもないんだけど」
「そんなワケないでしょう? 嘘を吐くなんて悪い妹だわ」
まさに前門の耀、後門の九条という、完全な板挟み状態となっていた冥は、そろそろブチ切れようとしたところで九条が割って入ってきた。
「冥の言うことは本当だぞ」
「そんな、九条さんまで無理に合わせなくてもいいんです」
「そもそも、君は初対面で俺を攻撃しようとしたじゃないか」
「あれは変なお面を被ってたから……」
攻撃しようとしたのは事実であるため、耀は反論しながらも途中で言い淀んでしまう。その隙を突いて九条は言いくるめる。
「冥は初対面であれを被っていても普通に話をしてくれたぞ」
冥としては、いちいち自分を引き合いに出してほしくない。さらに言えば、初対面が自宅だったら間違いなく耀と同じ行動をしていただろう。しかし、口を挟もうとしたところで、今度は九条に黙らされてしまった。
「その差が冥をサポーターにした理由だ」
「そんなの、強さと関係ないじゃない!」
「ただ強いだけの魔法少女を俺がサポーターにするとでも思ったか? 君だって俺よりも強いわけじゃないだろう」
「それは……」
通常、魔法少女は一つのモチーフを使った魔法しか使えない。しかし、唯一の魔術師である九条は多くのモチーフを使った魔法を使いこなすことができる。いくら耀が強いからといっても、九条には到底及ばなかった。
事実を突かれて耀は押し黙ってしまう。九条も頃合いとみて、席を立つ。
「というわけで、冥は明日から俺のサポーターとして頑張るように」
そう言い残して去っていった。何ひとつ解決しないまま、耀の機嫌を最悪にして逃げた九条に、冥は恨み言のひとつも言いたい気分だった。
「私は、そんなの認めないから!」
耀は大声で喚き散らすと、物凄い勢いで自室へと戻っていってしまった。父と母は呆然として見送ると、冥に「あとは任せた」と言って部屋へと戻っていってしまった。
「こんなの──どうしようもないじゃないか!」
冥は理不尽な現実に自棄になって、部屋に戻って不貞寝することにした。