前職が死霊術師♂だと言われて魔法少女協会の審査に不合格になりました。しかたないのでヤミ魔法少女になって見返します! 作:黒宮冥
翌朝、冥の目覚めは控えめに言って最悪だった。昨晩、九条が耀を煽りに煽って帰っていったせいで、耀の機嫌は現在進行形で最悪だろう。顔を合わせた時のことを考えながら、ベッドに潜って二度寝する。
「初日だし、遅れても問題ないかな。そもそも原因はあっちだし」
もちろん、行くことは行くつもりだった。しかし、耀と顔を合わせないようにしなければいけない。これは冥が過去の経験から編み出した時間調整のための裏技。もともと耀は時間に余裕をもって家を出ることを逆手に取ったもの。
「冥、いつまで寝てるつもり? 今日は九条さんのところに行くんでしょ?!」
しかし、それが通じないこともある。今日みたいに母が叩き起こしに来てしまったら、さすがに起きざるを得ない。もぞもぞとベッドから這い出して、身支度を整えダイニングへと向かった。
テーブルには、すでに冥の分の朝食──パン2枚とゆで卵、ハムとレタスが取り分けられていた。
「おはよう。あれ、お姉ちゃんは?」
「先に食べて出て行ったよ。特訓をするんだって」
パンをトースターにセットしつつ母の答えを聞きながら、冥は心の中でガッツポーズをする。九条に煽られて奮起したおかげだろう。そもそも煽らなければ避ける必要もなかったので、感謝の気持ちはまったく湧いてこなかった。
「それはそうと、サポーターとか大丈夫なのかい?」
「昨日、お姉ちゃんも言ってたけど大丈夫だって」
「耀は要領がいいから、そこまで心配していないけど、冥は不器用だからね」
「そんなこと──」
「隠さなくてもいいのよ。今までだって努力してきたでしょ」
母が冥の努力を見ていたことを知って嬉しさがこみ上げてくる。一方で、ことごとく結果が付いてこなかったことを思い出して肩を落とした。
「でも、全然上手くできるようにならなくて──」
「時間はかかるかもしれないわ。でも、だからといって劣っているなんてことはないのよ」
「……」
「冥が頑張ると決めたなら、最後まであきらめずにやってみなさい」
母の真剣な眼差しに見つめられて、冥は鼻の奥がツーンとする感覚に襲われる。何となく顔を見られたくなくて、うつむいたまま「わかった」とだけ答えた。
「ささ、トーストも焼けたし、早く食べて行ってらっしゃい。私たちも応援しているからね」
冥の気持ちを察して、母は顔を見ないように食器を洗う体で冥に背を向けた。そのまま冥は食事をとって自分の部屋へと戻る。出かける準備をしていると、インターフォンが鳴った。
「あらまあ、どうぞ上がってお待ちくださいね」
まだ朝も早いのに来た客を母が招き入れて待たせている。嫌な予感がして、急いでダイニングに行くと九条が優雅に母の淹れたコーヒーを飲んでいた。
「何でウチに来てるの?!」
「迎えに来たに決まってるだろ、初日から逃げられたら困るからな」
「別に逃げないけど」
「でも、今から出たんじゃ間に合わないだろ? ちょうど良かったじゃないか」
「大きなお世話です!」
「素直じゃないな。直接現場に行くから、車に乗ってくれ」
九条の車に乗って目的地へと向かう。道すがら、彼から初日の段取りを聞く。
「今日は初日だからな。協会が狙っている厄災を横取りするぞ!」
「は?! 何を言ってるんだか……」
冥はこれまで一度も魔法少女として活動してこなかった。しかも協会が狙っているということは、それなりの強さだろう。そんな相手と戦えとか無謀としか言いようがない。
「大丈夫だ。初日だからな、冥を一人だけで戦わせるつもりはない」
「誰かベテランの人が一緒に戦うということ?」
冥が訊ねると九条はコクリと小さくうなずいた。よくよく考えてみれば、当然のこと。冥は安心して胸を撫で下ろし、冗談めかして九条の説明不足を注意しようとした。
「まったく、そう言うことは最初から──」
「俺が後ろから見ておいてやる。思う存分、戦っていいぞ」
「それって──結局のところ、戦うのは僕だけじゃないか!」
「俺も後ろから応援してやる。安心しろ」
「安心できるかぁぁぁ。くそったれぇぇぇ!」
悲鳴のような冥の抗議も空しく、車は目的の戦場へと走り続ける。
走ること30分ほど、車は人気のない墓地へと到着した。冥は腰が重くて動けそうになかったが、九条に急かされて無理矢理降ろされた。
「最高のロケーションじゃないか」
「どこが?! 墓場とかありえないでしょ!」
「冥にとっては最高のロケーションじゃないのか?」
「言っておくけど、死霊術は死体がなくても大丈夫だからね?」
意味がないわけではないが、触媒があれば問題ない。こういう時のために、冥は日ごろからフライドチキンで有名なチェーン店で骨を集めまくっている。
──HYOOOOOO!
底冷えするような声が静かな墓地に響き渡る。声のする方へと走っていくと、そこには職種の生えたキノコのような厄災が蠢いていた。まるでムンクの叫びのように縦に伸びた顔の先は、キノコの傘のように少しだけ膨らんでいた。
「危ない!」
冥の存在に気付いた厄災が触手を伸ばしてくる。すかさずセフィラを鎌の形に変えて切り落としていく。
「こ、これは──菌糸?」
切り落とした触手が地面に落ち、小さい厄災となって育ち始める。冥は育ちきる前に鎌で刈り取り事なきを得た。
「もう、厄介だなぁ」
「ちょうどいい相手じゃないか。そうだ、今回は死霊術とやらは禁止でいこう」
「えっ、そんな無茶な!」
「大丈夫、行ける行ける。それじゃあ、配信開始するから頑張ってくれ」
九条は撮影用ドローンを展開して距離を取った。ひとりで戦わせようとしている九条を恨みがましくにらみつける。
しかし厄災は待っていてはくれない。次々と触手、もとい菌糸を冥に伸ばしてくる。
「めんどくさいな」
死霊術を使うなと言われた以上、突撃して鎌で真っ二つにするしかなさそうだと判断した冥は、厄災の隙を伺いながら、迫ってくる菌糸を処理していく。
「よし、ここだ──」
「待てっ! そいつと戦うのは契約違反だぞ!」
突然、背後から声を掛けられて、冥は前にバランスを崩してしまった。冥に襲い掛かる無数の菌糸。しかし、飛んできたブーメランによって全て断ち切られ、菌糸より生まれた小型厄災は無数の光の矢に貫かれて消滅してしまった。
「いったい誰が?」
声の聞こえた方を見ると、協会に怒鳴りこんできた時に対応した男だった。
「あ、あの時のセクハラジジイじゃないか!」
「違う! 俺は魔法少女プロデューサー、瀬久原博史だ!」
「やっぱりセクハラじゃないか!」
「ふん、協会に落ちたエセ魔法少女ごときが。そいつは協会が討伐しようとしていた獲物だ。手を引いてもらおう」
瀬久原はふんぞり返って、自分たちの権利を主張する。そんなルールがあるのか分からなかった冥は、いつの間にか狐面を被った九条に目配せをするも、首を横に振った。
「そんなの聞いたことないし、先に手を出したのは僕の方だ」
「うるさい! 俺たちの計画を邪魔するな!」
「そうよ、ひよっこなアンタは引っ込んでなさい」
「お姉ちゃん……」
光の矢が飛んでたので、いるんじゃないかと冥は思っていた。予想通り、耀が瀬久原の隣に立って冥を排除しようとしてきた。だが、そのセリフは九条に言うべきだろう。もっとも、今回は耀に譲るつもりはないが。
「いくら、お姉ちゃんでも今回は──」
「まあまあ、待ちなさい」
言い返そうとしたところで、狐面を被った九条が間に入ってきた。
「なんだお前は!」
「アンタも邪魔するつもり?」
瀬久原と耀が揃って九条に敵意を向ける。耀は昨日も会ったはずなのになぜ気付かないのか、冥には不思議だった。
「俺はギルドのマスターだけど。今回はひとまず君たちに譲ろう」
「分かってんじゃねえか。だったら引っ込んでろ!」
九条が二人をなだめながら提案をすると、当然とばかりに瀬久原が冥に下がるように要求してきた。別に無理に戦い訳ではなかった冥は、大人しく下がって九条の隣へと移動する。
「いいんですか?」
「いいんじゃないか。それに『とりあえず』譲っただけだ」
未だに九条の考えていることが理解できない冥は、眉間に皺を寄せながら耀たちの戦いを見守ることにした。
「彼女たちの戦い方は参考になるだろう。よく見るといい」
視線を厄災の方に向けながら、言い聞かせるように話しかけてくる。もちろん、冥も最初からそのつもりだった。
協会の魔法少女は二人。耀ともう一人の魔法少女のペアだった。
「もう一人は牧野朝子だな。彼女も協会の魔法少女ランキング10位の実力者だ」
「10位なのに?」
「魔法少女の数が多いからね。10位でもトップ層の魔法少女になる」
そんなやり取りをしていると、瀬久原が右手を挙げて合図をする。
「それじゃあ生放送開始だ!」
その合図とともに耀と朝子が武器を構える。耀は弓、朝子がブーメランだった。
「ライジング・サン!」
掛け声と同時に朝子の投げたブーメランの残像が光り輝き、より大きな刃となって触手に襲い掛かる。
「うわっ、すごい殲滅速度だ」
「そうだな」
次々と菌糸をみじん切りにしていく朝子の技に、冥は思わず見とれて歓声を上げる。しかし、隣の九条はつまらなそうに短く返事をしただけだった。
「プリズマティック・アロー!」
耀が弓を引くと同時に無数の残像が浮かび上がる。矢を放つと同時に残像の矢も放たれ、無数の矢が菌糸から生まれた小型厄災を正確に貫いていく。
「うぐぐ、なんか二人とも凄いんだけど!」
「そうだな」
凄まじい二人の戦いを見て、冥は劣等感を刺激されてしまう。それでも平静を保っていられたのは、隣で九条が興味なさそうに見ていたせいだろう。
戦いは一方的で、あっという間に触手を刈り取り、厄災の本体を丸裸にしてしまった。
「これでとどめよ! プロミネンス・アロー!」
今度は耀の光の矢が炎の渦をまといはじめる。矢を放つと、炎の渦がらせんを描いて本体へと真っ直ぐ飛んでいった。
──HEYAAAA!
厄災は炎に包まれ、ボロボロと崩れ落ちていく。
「ふふん、私の敵ではないわね!」
「黒宮さん、お疲れ様!」
笑顔で二人は勝利の余韻に浸っていた。その後は、まるでヒーローインタビューのように戦いを振り返りながら大げさに話している。
「凄い、あっという間に倒しちゃいましたよ!」
「……」
二人の圧倒的な勝利に冥も少しだけ興奮していた。しかし、九条だけはジッと燃え上がる厄災を腕を組みながら見つめていた。
「どうかしました?」
「まだだな」
「まだ?」
冥が不思議に思って九条の顔をのぞき込みながら首をかしげる。すると背後から悲鳴が聞こえた。
「きゃあっ!」
「うわっ!」
「なんなの、あれ──」
耀たち3人を覆うように霧のようなものが広がっていて、その中に先ほど倒したはずの厄災がひしめきあっていた。
「セフィラだな」
九条は霧を見ながら静かにつぶやいた。