前職が死霊術師♂だと言われて魔法少女協会の審査に不合格になりました。しかたないのでヤミ魔法少女になって見返します! 作:黒宮冥
冥は九条の言葉に目を疑った。魔法少女と敵対する厄災が振るえる力ではないと思っていたからだ。
「セフィラ──何で、魔法少女の力を厄災が?」
「──さあな。だが、目の前にある事実から目を背けるわけにはいくまい」
冥が目を凝らすと、確かに霧からセフィラと同じような力と、その中を無数の蝶が舞っているのが見えた。
「見えたか。そうだな、あれは突然変異──イレギュラーとでも呼ぼうか」
「イレギュラーですか?」
「正体は分からんが──どうやら風向きが変わってきたようだ」
九条は霧の中を指差す。その先には無数に現れた厄災に向かってがむしゃらにブーメランと矢を放つ二人の魔法少女の姿があった。瀬久原は腰を抜かして撮影用ドローンの操作もままならない。もっとも、自動操縦機能のおかげで撮影自体は問題ないようだった。
「だいぶ、苦戦してるな」
「ハッ、あの程度で苦戦するようじゃ、たかが知れてる」
奮闘する二人を冷たく見下ろしながら、九条は鼻で笑った。いくら敵対関係とはいえ、その態度にムッとした冥が九条をにらみつける。
「そんな言い方をしなくても──」
「見えないのか? そんなはずはないだろう」
「見えないって、どういう──」
「むしろ視覚が邪魔しているのか? 目を閉じて感覚でとらえてみろ」
九条の指示に、冥が渋々従って目を閉じる。充満するセフィラの力の中に、一点だけ別の力が集中している場所があることに気付いた。
「こ、これは──」
「見えたか? それが本体だ」
一度、感じ取れてしまえば目を開けていても位置や動きがはっきりとわかる。それが厄災の本体──それは、どの虚像とも違う場所から二人を狙っていた。
「きりがないわ!」
「どういうことなの?!」
倒しても倒しても一向に減らない厄災の幻影に徐々に焦りの色が見え始める。一方、厄災は菌糸を朝子に向けて放った。
「あっ……」
菌糸が朝子に触れた途端、瞬く間に彼女の体を菌糸が広がっていった。
「あああああっ!」
甲高い声を上げながら、朝子は全身を仰け反らせて痙攣していた。厄災は耀を次なる獲物に定め、菌糸を放つ。
「な、何で見えないのよ!」
パニックになりながらも、勘だけで菌糸を回避する。しかし冥には、そんな集中力がいつまでも続くとは思えなかった。
冥は九条の顔をのぞき込んで、息を呑んだ。九条は笑っていた──目の前で繰り広げられる絶望的な光景を前におかしそうに笑っていたのだった。
「そろそろ身の程を理解したか。それじゃあ、俺たちが横から掠め取ってやろうか」
「分かった。けど、『俺たち』じゃなくて『僕だけ』だよね?!」
「そうだな。だが、死霊術は禁止だぞ」
「この期に及んで、まだ──」
「あんなの、冥なら使わなくても勝てるだろう」
九条は口角を上げてニヤリと笑う。死霊術が使えないとなると、鎌か病気、しかも体がだるくなる程度の力しかない。眉間にしわを寄せて九条をにらみつけると、クククと声を上げて笑い出した。
「気付かないか。お前の力である病気の大元は何だ? キノコは何でできている?」
「それは──そういうことか」
「分かったなら、さっさと終わらせてこい」
冥はセフィラを鎌に変えると、耀に襲い掛かろうとしている菌糸に向かって飛び出した。
「もう、どうなってるのよ!」
「そこじゃない、こっちだ」
パニックになって矢を乱射する耀に向かう菌糸を鎌の一振りで薙ぎ払う。返す刀で菌糸から生まれようとしていた小型厄災の首を刈り取る。
「冥、アンタの助けなんていらない。邪魔だから下がってて!」
「お姉ちゃん──そっちこそ下がってて。どうせ見えないんでしょ?」
「うぐっ……」
冥は耀に背を向けて、厄災に向き合い鎌を突きつけた。
「お前の相手は、僕だ!」
「ふん、なんだ。そっちにいるんじゃない! 方向さえ分かれば問題ないわ!」
「やめ──」
耀は、冥が制止するのも聞かずに厄災の方向へと矢を乱射した。その前に冥がいるのも無視して。
「やった?!」
「ダメだよ。見えていないなら、いくら撃っても当たるはずがない」
「そんな……」
先ほどの攻撃で再び耀に狙いを定めた菌糸を処理しながら、冥は肩をすくめる。先ほどの攻撃で力を使い果たしたのだろう、耀は膝から崩れ落ちてひざまずいた。
「ホントに邪魔しないで欲しいんだけど。まあ、すぐ終わるだろうし、いいか」
「正気なの?!」
「もちろん、もう無駄なことはしないでよね。まあ、そんな状態じゃ何もできないか」
耀を意識の外に置いて、冥は鎌を両手で持ち、意識を集中させる。振るった鎌の先端から黒い雲のようなものがフワフワと浮かびながら厄災へと向かっていく。
「そ、そんなもので倒せるわけが──ッッ?!」
バカにしたような耀の言葉は、言い終わる前に完全に途切れてしまった。なぜなら、黒い雲を振り払おうと厄災が菌糸を振るい、ぶつかった瞬間、黒い雲は菌糸に吸い込まれてしまったからだ。
もちろん、ただ吸い込まれただけではない。厄災の黒よりも、さらに黒い漆黒に染めていく。そして、あっという間に本体までも浸食していく。それと同時に霧が晴れて厄災の真の姿があらわになった。
「そんな、あれだけで倒したというの?!」
現れた厄災の姿は最初の時とは異なっていた。漆黒に染まり、タールのように固まって身動き一つ取れなくなった姿は、まるで奇妙な形の墓標のよう。誰の目にも終わったと分かる状況でありながら、冥はいまだに警戒を解いていなかった。
そんな彼女の肩がポンと叩かれる。振り向くと九条が後ろにいて、ゆっくりと、そしてしっかりとうなずいた。
「終わったよ。俺たちの完全勝利だ」
「そ、そう──」
その言葉を聞いても、完全勝利という言葉を冥が咀嚼するのに時間がかかった。しばらく呆然としていたが、徐々に頭が言葉を理解して、ようやく冥は勝利した喜びに震える。
「僕が、勝ったんだね」
「ああ、楽勝だったな」
「もしかして、最初から知ってた?」
「ああ、もちろんだ。最初にあいつらの戦いを見せたのもな」
九条は耀と朝子の戦い方が力任せの強引なものでしかないと気付いていて、あえて先を譲ったのだと語った。力任せの戦い方は、自分たち以上の相手には通用しないと。
「力任せに戦うことを否定はしないが、考えて戦うことの方が重要だ。協会の連中は分かっていないがな」
「なるほど」
「さて、用は済んだことだし、帰るぞ」
「えっ、置いていくつもり?」
「当然だ、あっちはあっちで何とかしてもらう」
九条は振り返ることなく車に乗り込んだ。慌てて冥も後部座席に乗り込むと、あっという間に加速して戦場を後にした。
◇
一方、取り残された瀬久原は冥たちが立ち去ってから、しばらくして復帰して立ち上がり、飛びながら生放送を配信していたドローンを慌てて止めた。プロデューサーとして活動してから初めての失態──それは完全に致命的で、すでに手遅れだった。
「まずい、まずいぞ。何とかしなければ」
次善策を練るために頭をフル回転させるも、何も思い浮かばない。ランキング1位の耀とランキング10位の朝子の二人で万全の体制だった。しかし、結果は惨憺たるもの。
「何で私が──私が冥なんかに助けられなきゃいけないのよ!」
少し離れたところでは耀が地面にへたり込んで、冥に助けられたという事実を受け入れられずに喚き散らしていた。
静かに地面に座り込んでいた朝子は、それよりはマシだと思って瀬久原が声を掛けながら肩に手を乗せた。
「いやああああぁぁぁぁ! やめてええぇぇぇぇ!」
その瞬間、悲痛な朝子の叫び声が響き渡る。驚いて手を放してみたものの、混乱は収まる気配がなく、瀬久原は途方に暮れた。