貞操逆転世界で、守られるはずの男が前線に行くのは異常らしい   作:ゆるふわり

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第二話 戦ったらなぜか警護が厳重になった件

 前線基地へ向かう輸送車は、思っていたよりもずっと立派だった。

 

 分厚い装甲に、車体の内側へ刻まれた揺れ防止の魔法陣。

 床は広く、座席も一人分ずつ間隔が空けられている。

 クッションは柔らかく、飲み物まで用意されていた。

 

 ……演習用だよな、これ?

 

 「こちらへどうぞ」

 「男の子さまは、奥の席になります」

 

 俺は案内されるまま腰を下ろす。

 

 同乗しているのは、同じ前線演習に参加する女子生徒たちだ。

 装備は整っているが全員が壁際に立ったままで、誰一人として座ろうとしない。

 

 座席は、普通に空いている。

 

 「……いや、座ればいいのに」

 

 俺がそう言った瞬間。

 まるで示し合わせたかのように、全員が一斉に首を振った。

 

 「とんでもありません」

 「護衛が男の子さまと同席など、あり得ません」

 「それに……、その……、見ているだけで眼福といいますか──」

 

 ……いや、眼福って。

 

 前世で例えるなら、やんちゃなお姫様が無意識に護衛へ席を勧めて護衛側が慌てふためいている。

 そんなところだろうか。

 

(いや、誰がお姫様じゃい!)

 

 げんなりして、思わずため息が出る。

 おまけに、悩みのタネがもうひとつあった。

 

 少し離れたところで、リィンが腕を組んで立っている。

 装備の点検をしているふりをしながら時々こちらをチラリと見るが、目が合うとすぐに視線を逸らす。

 ……あからさまだな。

 

 「なあ、リィン。そんなに怒らなくたって──」

 

 声をかけると、彼女はプイと顔を背けた。

 

 「別に、怒ってない」

 

 そう言い切った直後、頬がぷくぅっと膨らむ。

 ……分かりやすすぎる。

 

 輸送車は、そのまま数日かけて進んだ。

 

 

 道中、補給や小休止を挟みながらの移動。

 その間も、俺の扱いは一貫して丁重だった。

 

 食事は先に回され、休憩のたびに「お疲れではありませんか」と声をかけられる。

 少しでも汗をかけば、どこからともなく上質なシルクのハンカチが差し出され

 甲斐甲斐しい介護に──、

 

(アカン、ダメ人間になる……!)

 

 俺は内心では、頭を抱えていた。

 

 前線基地まで、あと半日というところ。

 それは突然やってきた。

 

 深夜の輸送車。

 闇の向こうから、わらわらとモンスターの群れが姿を現したのだ。

 

 数が多い。

 小型のものが中心だが、動きが早い。

 

「警戒!」

「陣形を維持して!」

 

 女子生徒たちが動く。

 輸送車を中心に、即座に防衛陣を組む。

 

 その様子を見て俺も反射的に剣を手に取り、立ち上がりかけた。

 

 「危ないので、カイルさまはここに!」

 

 ……デスヨネ。

 

 悲しいかな。

 俺は、完全に保護する対象として扱われていた。

 

 

 真っ先に飛び出したのは、リィンだった。

 

 全身を覆う魔力が、一気に膨れ上がる。

 次の瞬間、彼女の拳が振るわれた。

 

 ──ドン。

 

 鈍い衝撃音とともに、前にいたモンスター数体がまとめて吹き飛ぶ。

 

 さすがは学年一の魔力の持ち主。

 今日も絶好調のようだ。

 

 だが、それでも数が多い。

 次々と押し寄せるモンスターに、陣形が少しずつ歪んでいく。

 

 「カイルさま!」

 

 悲鳴に近い声が上がった。

 一体、犬っころのようなモンスターが、陣の隙間を縫うようにして内側へ飛び込んできたのだ。

 

(そんなに慌てること無いんだけどな)

 

 俺は、咄嗟に剣を構えた。

 魔力を、ほんのわずかだけ流す。

 刃の縁に沿って、薄く、薄く這わせる──ずっと繰り返してきた身体に馴染んだ動きだ。

 

 襲いかかる牙を、最小限の動きで躱す。

 そのすれ違いざまに身体を返し、刃を振り下ろした。

 

 刃がモンスターの首元に吸い込まれる。

 骨を断つ感触すら、魔力の膜が消していく。

 刃は抵抗もなく首を切断し──次の瞬間、犬ころのモンスターは音もなく崩れ落ちた。

 

(いっちょ上がりっと)

 

 俺は、周囲の様子を伺った。

 

 ──まだまだ、敵は多い。

 女の子たちは守りに徹していて、こちらから攻められていないのだ。

 

(このままじゃ、いくら倒しても終わらないか)

(頭を潰さないとキリがないな)

 

 俺はそう判断して、陣を抜けて一気に前へ出る。

 護衛は不要──俺だって戦える。

 そう力強く示すためだ。

 

「ちょっと、カイル!? なにを考えて──」

「サクッとボスを狩ってくる!」

 

 リィンの制止する声が聞こえるが、俺はそれを無視してさらに加速した。

 

 

 進路を塞ぐモンスターを切り払い、無理やり道をこじ開ける。

 奥にいた一回り大きい犬型の個体。

 こいつが群れの要だ。

 

(さ~てと、やりますかね)

 

 俺は、剣に魔力を流す。

 

 流す魔力量を限界まで絞り、ただ純度だけを高めていく。

 刃の表面に、何度も何度も薄く薄く重ねがけ。

 切れ味だけを、極限まで引き上げる。

 

 「カイルさま!?」

 「無茶です!」

 

 女子生徒たちの悲鳴のような声を置き去りにして、 俺は踏み込み剣を振り抜いた。

 

 ただ一太刀── 重い手応えはない。

 ただ、吸い込まれるような切断の感触。

 一拍置いて断面がずれ、巨体が音もなく崩れ落ちた。

 

 周囲のモンスターが、嘘みたいに動きを止める。

 やがては一斉に逃走。

 

 ……そうして夜の静けさが戻ってきて、

 

「い、今のは、いったい……?」

「モンスターが、一瞬で……真っ二つに……!?」

 

 駆け寄ってくる女子生徒たちの顔には、隠しきれない驚きが浮かんでいた。

 あわよくば、このまま戦闘メンバーの一員に──なんて考えていた俺だったが、

 

「お怪我はありませんか!?」

「も、申し訳ありません!」

「私の判断が遅れたせいで……!」

 

 勢いよく次々と頭を下げてくる。

 

「わ、私がモンスターを通してしまったせいで! かくなる上は──切腹してお詫びを!」

「絶対やめてね!?」

 

 防衛網を突破された位置にいた子は、どこまでも深刻な表情で本当に腹を掻っ切らんばかりの勢いだった。

 怖いからその刀をしまっておくれ!?

 

「いやいや、ほんと大丈夫だから! 怪我もしてないし、むしろ戦えたのは正直ちょっと楽しかったから!」

 

「で、ですが──」

「よりにもよって男の子さまを前線に立たせるなど!」

 

 これぞ悲しきこの世界の価値観。

 モンスター颯爽と倒してキャーすごい! はまだまだ遠く……、

 

 

「……見てのとおりよ。カイルさまは、すぐに無茶するから」

 

 リィンが、じっとこちらを見てため息をついた。

 

「いや、だから俺だって戦力に──」

「移動中は、カイルから必ず目を離さないこと。一瞬たりとも気を抜いては駄目よ!」

 

「はい!」

「了解であります!」

「必ずお守りしますね!」

 

 アカン、リィンを中心に盛り上がっていらっしゃる。

 

「あのー。いや、だから俺に護衛は必要なくて、むしろ前衛を任せてもらえると嬉しいな〜、なんて──」

 

「今こそ学園での訓練の成果を見せるとき! 男の子さまを──カイルの安全を、絶対に守り抜くわよ!」

「お〜!」

「さあ、カイルさま、こちらに」

「今回のような不祥事、二度と起こしませんからね!」

 

 ……いや、なんでやねん。

 あな恐ろしき価値観の反転した世界。

 俺は、ままならない現実にため息をつくのだった。

 

 その後は特に問題もなく、輸送は続く。

 

 問題はなかった。

 無かったが──扱いが、さらに過保護になっていた!

 

 休憩中は、必ず誰かが横に立っている。

 トイレに行こうとすると、なぜか付いてきて外で待機してしまう。

 暇なので武器の手入れをしていれば、「危険ですので、我々にお任せを」と全力で止められてしまう始末。

 

 ──戦えるところを見せたのは、どうやら逆効果だったらしい。

 

 そうこうしているうちに、前線基地が見えてきた。

 待望の剣と魔法のバトルファンタジーの世界が、すぐそこにある。

 

 ワクワクする俺。

 

「必ず、必ずお守りします」

「カイルさまには、指一本触れさせませんから!」

 

 一緒に来た女の子たちも、気合は十分。

 ……本当に、俺は戦わせてもらえるんだろうか。

 

 

 そんな一抹の不安を抱えたまま、俺は前線基地へと到着するのだった。

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