貞操逆転世界で、守られるはずの男が前線に行くのは異常らしい   作:ゆるふわり

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第四話 指揮官就任。ただし、罰ゲーム(ご褒美)付き

 運び込まれたリィンは、一言で言えばボロボロだった。

 制服はあちこちが焼け焦げ、左腕には血が滲んだ包帯が乱雑に巻かれている。

 

「カイル……? なんで、ここに……」

「なんで、はこっちのセリフだ。その怪我、すぐに治療を受けろ」

 

 駆け寄ろうとする俺を、リィンは片手で制した。

 壁に手をつき、震える膝を無理やり押さえつける。

 

 顔色は紙のように白い。

 魔力を底まで使い切った証拠だ。

 

「……なんでもないわ。ちょっと、魔力が切れただけ」

「立つのもやっとだろ」

「平気よ。自分の部屋で休めば治るわ……行かせて」

 

 彼女は周囲の肩を借りることも拒み、引きずるようにして歩き出した。

 

 俺は周囲にいた同部隊の少女たちを見る。

 彼女たちはリィンを止めるどころか、申し訳なさに顔を伏せていた。

 

「おい。なんで治療室へ連れて行かないんだ?」

「それは……」

 

 一人が、消え入りそうな声で答えた。

 

「──成果の上がっていない部隊に、貴重な治癒魔術師のリソースは割けない。……というのが、上の判断です」

「成果の上がっていない部隊だと? リィンは、学園で誰よりも優秀なはずだぞ?」

 

 俺の問いに、一人の正規兵が乾いた笑いを漏らした。

 

「あの人も本当に運が悪い──よりにもよって特攻隊に配属されるなんて」

「特攻隊?」

 

「……出来損ないを集めた部隊ですよ。時々あるんです。要らないメンバーを集めて、魔力量が高い人を規定を満たすように加えてチームを組むことが」

「そんなことしてもまともに機能するはずが──」

「ええ、想像した通りですよ。でも仕方がないですよね、私たちには才能がないんですから……」

 

 正規兵──セーラと名乗った──は、自嘲気味にそう呟いた。

 

 軍のおえらいさん──大抵は、現場に足を踏み入れたこともない男たちだ──にとって、兵士は文字通りの消耗品。

 見捨てられた者は、ただ死ぬために出撃させられることも珍しくないそうで、

 

「奇跡、ですよ。一週間近くも特攻隊が生き残るなんて」

 

 それを当たり前のように受け入れているセーラの言葉。

 その諦めに染まりきった響きに、俺は言いようのない不快感を覚える。

  

 なおもメンバーから話を聞こうとしていると、

 

 

「……余計なことを探らないでって、言ったはずよ」

 

 出ていったはずのリィンが、廊下から顔を覗かせていた。

 今にも倒れそうな姿だったが、それでも目には強い拒絶の色がある。

 

「カイルは黙って、安全な場所にいればいいの。あんたさえ無事なら、私はそれで満足なんだから」

 

 頑固なリィンの言葉。

 俺が言い返そうとした、その時──廊下の奥から不遜な靴音が響いた。

 

 

「まだ粘っているのか、君は。見苦しいな」

 

 現れたのは、派手な軍服に身を包んだ男だった。

 この基地に派遣されている戦術顧問──学園の授業でも、安全な教壇から高説を垂れていた男だ。

 ミランダ基地司令が現場を預かる武官なら、この男は本国から文官上がりの特権階級といったところか。

 

(このまま何事もなく卒業したら、俺もめでたく文官入りか)

(冗談じゃねえ!)

 

 

 バルカスと名乗った軍服の男は、でっぷりとした腹を揺すりながら、リィンにこんなことを言った。

 

「側室として囲ってやるという話も、君が武力を証明してこそだ。数多の犠牲の上に立つ英雄──それでこそ我が側室に相応しい」

「はい、わきまえています」

 

 そう言いながらも、悔しそうにリィンは唇を噛む。

 

「早くその無能どもを使い潰して戦果に変えろというのだ! 突出した魔力を持つ君なら、効率よく彼女たちを生贄に戦果をあげられるだろう?」

「そんなこと私は……!」

 

 必死に抵抗の声をあげるリィン。

 ──そのやり取りを聞き、俺はここ数日で何があったのかを悟りつつあった。

 

 

「あの、聞き間違いでしょうか?」

 

 信じられない言葉に、思わず割り込む俺。

 

「今、生贄って聞こえたのですが──」

「それが何だというんだ?」

 

 心底不思議そうに、バルカスが首を傾げた。

 それを見て俺は悟る──どうやらこの世界は、この男は、本格的に狂っているようだと。

 

「ああ、君か。男のくせに前線に来た変人は」

「……俺は、俺がしたいようにしているだけです」

「ふむ、とんだもの好きだ。こんな場所で立ち聞きとは──よもや、間近で欠陥品どもの命乞いが観たいという悪趣味な御仁かな?」

 

 にちゃあ、と気味の悪い笑みを浮かべるバルカス。

 

(な~に仲間を見つけたみたいな顔してるねん)

(その悪趣味な発想にドン引きしたわ!)

 

 どうやらこの男は、本気で運用に自信を持っているらしい。

 男は安全地帯で守られるべきで、駒となる彼女らをどう使うも自由──そんな腐った特権意識が、その顔に凝縮されていた。

 

(だが……、こいつは使えるな)

(その救いようのない傲慢さ。利用させてもらおうか!)

 

  

「一緒にするなよ、無能が」

「……なんだと?」

 

 バルカスの眉が跳ね上がる。

 

 周囲の少女たちが、ひっと息を呑むのが分かった。

 いくら俺が男子であっても、軍の要人を罵倒すればただでは済まないからだ。

 

「使い潰して戦果を出せ、だったか。そんなもの、指揮でもなんでもないだろう」

「黙れ! ただの学生風情になにが分かる!」

「おまえが無能だってことは分かるさ。こんなクソみたいな配置で、一週間も持たせているんだろう。彼女たちのポテンシャルはかなりのもんだぞ?」

 

 本心でもあった。

 捨て駒を前提とする作戦──まったくもって、正気とは思えない。

 

「貴様……、口を慎め! 私を誰だと思っている!」

「無能な戦術顧問さま、か? 安心しろ。俺に指揮権を渡せば、無能なあんたでも功績をあげられるぞ?」

 

 俺は一歩、軍服の男へ詰め寄った。

 わざとらしく口角を上げ、そう挑発する。

 

「俺に、特攻隊の指揮権を寄越せ」

「カイル! あんた、自分が何を言っているのか分かって──」

 

 我に返ったリィンの悲鳴のような声が聞こえるが、俺は構わず畳み掛ける。

 ここまで挑発すればプライドが高いこの男は、必ず罰をチラつかせてくるはずだ。

 

「面白い。そこまで言うなら、やらせてやろうじゃないか。だがな、カイル。発言には、それ相応の責任をとってもらわねばならん」

「せ、責任? ……もちろん、覚悟はしています」

 

 ちょっと怯えた様子で、そう殊勝に返す。

 もちろんわざとだ──バルカスの目が、どす黒い愉悦に濁った。

 

「一週間だ。一週間以内に目に見える戦果を上げろ。もしできなければ、その時は…………、そうだな。お前自身が特攻隊に入り――その役割を果たしてもらおうか」

「なんてことを──」

 

 リィンの口から、掠れた悲鳴が漏れた。

 

「そ、そんな! 男の俺を捨て駒にするなんて、あまりに無茶苦茶です!」

 

 俺は顔を覆い、大げさに肩を震わせてみせる。

 周囲の少女たちからも、

 

「貴重な男の子さまを捨て駒なんて──正気ですか!?」

「ああ、私たちのせいでカイルさまが……」

 

 そう絶望の吐息が漏れる。

 

 ……だが、その手の内側で。

  俺は、笑みを隠すのに必死だった。

 

(――かかったな!) 

(まさか、ここまで思った通りに踊ってくれるとはな!)

 

 戦果? 出すわけがない。

 一週間、適当に時間を潰せば、それでめでたく前線入りだ。

 

 もちろん、本当に捨て駒になるつもりはない。

 特攻隊──リィンを中心にしたこの部隊は、正しく運用すれば圧倒的な戦果を上げられるという確信もあった。

 

 

「フン、おじけづいたか。まあ良い、これに懲りたら──」

 

(おいぃ!? 手のひら返すのはえぇぞ、オッサン!?)

 

「いいえ、俺が言い出したことです。一週間で確実に戦果を上げてみせましょう──その代わり、この期間中は俺のやり方には口を出さないでください」

「フン、トチ狂ったか? まあいい、好きにするがいい。さっさと命乞いの準備でもしておくんだな」

 

 バルカスは、そう捨て台詞を吐くと背を向けた。

 後に残されたのは、絶望に沈む少女兵たちと幽霊のように青ざめたリィン。

 

 重苦しい沈黙が、廊下を支配する。

 男子さまを巻き添えにして死ぬという絶望的な未来に震える彼女たち。

 

 

(俺が好きでやったことなんだから気にしないでいいのになあ)

 

 ──空気が、重い。

 ひとまず、全ての道は挨拶から。

 俺は困ったように頭をかくと、

 

「――ということで、今日からこの隊の指揮官になりました。カイルです、よろしく」

 

 そう告げるのだった。




一話の描写を微修正しました(男女比を1:200に)
大筋に変更はありません。1クラスに男が1人……、というイメージでしたが、学園に通えてない女性も相当数いるので。
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