貞操逆転世界で、守られるはずの男が前線に行くのは異常らしい 作:ゆるふわり
その日、私たちは死を待つだけの「数字」だった。
特攻隊。聞こえはいいが、その実態は軍の不用品処分場だ。
魔力量が少なく、家柄もない私たちに残された唯一の価値は、魔石を抱えて敵陣で弾けること。
上官からはゴミのように罵られ、私たち自身、自分たちの命に一片の価値も感じていなかった。
あの方が、私たちの前に現れるまでは。
*
初めてあの方──カイルさまにお会いした時、私は自分の耳を疑った。
あの方は、この基地の最高権力者であるバルカス戦術顧問を無能と切り捨て、私たちの指揮権を強引に奪い取ったのだ。
さらに夜の森で命を投げうとうとした私を、あの方は腕の中に抱き寄せ──こうおっしゃったのだ。
「だいたい目の前で、女の子が自分を庇って死んでいくのをヨシとする男が、いったいどこに居る?」
「とにかく俺の指揮下で無駄に命を落とすことは許さん」
──頭を殴られたような衝撃だった。
男の子を守って死ぬのが女の誉れ。
そんな常識を、あの方は粉々に打ち砕いてくださったのだ。
「強くなればいい。今の俺の動きについて来られるくらいにさ」
その言葉は、私の新たな指針になった。
信じられないことに、あの方を私たちを使い捨ての兵器ではなく共に歩む仲間と見てくださったのだ。
どこに行っても厄介者で、最期には死しか許されなかった私たちのことをだ。
「次にモンスターと交戦したら、すぐに私は敵に向かって飛び込みますよ?」
ついつい試すように、甘えるように、そんな言葉を投げかけてしまう私。
普通の男であれば、激昂するか、その場で殺されても文句は言えない失礼な態度。
それでもあの方は、困ったように「おまえなぁ……」なんて頭を掻くだけで。
──あの方に救われた命。
ああ、これが命の唯一の使い道。
その瞬間、私の心はあの方にすべて捧げられたのだ。
*
指揮官となったカイルさまが下した最初の命令。
それはすぐにでも戦果を上げなければ自身の身も危ないという状態での命令は、
「全員、寝てろ。一歩も外に出るな」
そんな一見、意味の分からないもので。
最初は困惑した。
だが、あの方が斬り裂いた鉄の盾の滑らかな断面を見た時、部隊の全員が戦慄した。
あの方はあえて休息を命じることで、私たちが自らの未熟さを反省し、その高度な技術を盗むための貴重な時間を与えてくださったのだ。
今までとは違う確固たる意思。
もしこのまま私たちが変われなければ、あの方を死地へ巻き込んでしまうのだ。
自分が死ぬのは構わない──それでもこんな自分たちのために、あの方を巻き込むことなんてあってはならない。
それは特攻隊メンバーの総意であった。
私たちは泣きながら木剣を振った。
これほどまでに真剣に撃ち込んだのは、生まれて初めてかもしれない。
寝ている暇などない。命あるかぎり、あの方のために腕を磨く──それが今の私の存在意義なのだから。
あの方の魔力の残り香を追い、その緻密な操作を指に叩き込む。
それは地獄のような、それでいて幸福な六日間だった。
*
査定の日、私たちはあの方への恩返しとして、基地周辺の魔獣を文字通り「掃除」した。
あの方に教わった技術を使えば、あんなに怖かったアイアン・ベアさえも、まるでおもちゃのようだった。
山のような魔核を前にしたカイルさまは、驚いたように目を見開き、そして震える声でこうおっしゃった。
「い、いや。戦果なんて……、そんな馬鹿な!?」
……ああ、なんという高潔なお方だろうか。
これほどの奇跡を裏で操っておきながら、あの方は「これは部下が勝手にやったことだ」などとうそぶき、すべての功績を私たちに譲ろうとなさったのだ。
男というのは、守られることに胡坐をかき、ただ威張っているだけの存在だと思っていた。
カイルさま以外の男は、みんなそうだ。
カイルさま──あまりに気高く、自分たちには勿体ないお方だ。
*
今、私はあの方の副官として、新たに編成された独立特務小隊の先頭に立っている。
カイルさまは、なぜか毎日「俺も戦いたい」「前線に行かせろ」なんて冗談をおっしゃる。
おそらく私たちを油断させないための、あの方なりの発破なのだろう。
──ねえ、カイルさま。
──貴方さまはもう、そのお手を汚す必要はありません。
貴方さまが私たちに光をくれたように、今度は私たちが貴方の歩む道を血の一滴すら残さず清めてみせる。
貴方を危険にさらす敵は、視界に入る前に細切れにしてみせよう。
それが私たち《カイルの剣》に課された、唯一にして絶対の使命なのだから。