貞操逆転世界で、守られるはずの男が前線に行くのは異常らしい   作:ゆるふわり

9 / 9
第九話 【セーラ視点】眩しすぎる光

 その日、私たちは死を待つだけの「数字」だった。

 

 特攻隊。聞こえはいいが、その実態は軍の不用品処分場だ。

 魔力量が少なく、家柄もない私たちに残された唯一の価値は、魔石を抱えて敵陣で弾けること。

 上官からはゴミのように罵られ、私たち自身、自分たちの命に一片の価値も感じていなかった。

 

 あの方が、私たちの前に現れるまでは。

 

 

 

 初めてあの方──カイルさまにお会いした時、私は自分の耳を疑った。

 

 あの方は、この基地の最高権力者であるバルカス戦術顧問を無能と切り捨て、私たちの指揮権を強引に奪い取ったのだ。

 さらに夜の森で命を投げうとうとした私を、あの方は腕の中に抱き寄せ──こうおっしゃったのだ。

 

「だいたい目の前で、女の子が自分を庇って死んでいくのをヨシとする男が、いったいどこに居る?」

「とにかく俺の指揮下で無駄に命を落とすことは許さん」

 

 ──頭を殴られたような衝撃だった。

 男の子を守って死ぬのが女の誉れ。

 そんな常識を、あの方は粉々に打ち砕いてくださったのだ。

 

 

「強くなればいい。今の俺の動きについて来られるくらいにさ」

 

 その言葉は、私の新たな指針になった。

 信じられないことに、あの方を私たちを使い捨ての兵器ではなく共に歩む仲間と見てくださったのだ。

 どこに行っても厄介者で、最期には死しか許されなかった私たちのことをだ。

 

 

「次にモンスターと交戦したら、すぐに私は敵に向かって飛び込みますよ?」

 

 ついつい試すように、甘えるように、そんな言葉を投げかけてしまう私。

 普通の男であれば、激昂するか、その場で殺されても文句は言えない失礼な態度。

 それでもあの方は、困ったように「おまえなぁ……」なんて頭を掻くだけで。

 

 

 ──あの方に救われた命。

 ああ、これが命の唯一の使い道。

 その瞬間、私の心はあの方にすべて捧げられたのだ。

 

 

 

 指揮官となったカイルさまが下した最初の命令。

 それはすぐにでも戦果を上げなければ自身の身も危ないという状態での命令は、

 

「全員、寝てろ。一歩も外に出るな」

 

 そんな一見、意味の分からないもので。

 

 最初は困惑した。

 だが、あの方が斬り裂いた鉄の盾の滑らかな断面を見た時、部隊の全員が戦慄した。

 あの方はあえて休息を命じることで、私たちが自らの未熟さを反省し、その高度な技術を盗むための貴重な時間を与えてくださったのだ。

 

 今までとは違う確固たる意思。

 もしこのまま私たちが変われなければ、あの方を死地へ巻き込んでしまうのだ。

 自分が死ぬのは構わない──それでもこんな自分たちのために、あの方を巻き込むことなんてあってはならない。

 それは特攻隊メンバーの総意であった。

 

 私たちは泣きながら木剣を振った。

 これほどまでに真剣に撃ち込んだのは、生まれて初めてかもしれない。

 寝ている暇などない。命あるかぎり、あの方のために腕を磨く──それが今の私の存在意義なのだから。

 

 あの方の魔力の残り香を追い、その緻密な操作を指に叩き込む。

 それは地獄のような、それでいて幸福な六日間だった。

 

 

 

 査定の日、私たちはあの方への恩返しとして、基地周辺の魔獣を文字通り「掃除」した。

 あの方に教わった技術を使えば、あんなに怖かったアイアン・ベアさえも、まるでおもちゃのようだった。

 

 山のような魔核を前にしたカイルさまは、驚いたように目を見開き、そして震える声でこうおっしゃった。

 

「い、いや。戦果なんて……、そんな馬鹿な!?」

 

 ……ああ、なんという高潔なお方だろうか。

 これほどの奇跡を裏で操っておきながら、あの方は「これは部下が勝手にやったことだ」などとうそぶき、すべての功績を私たちに譲ろうとなさったのだ。

 

 男というのは、守られることに胡坐をかき、ただ威張っているだけの存在だと思っていた。

 カイルさま以外の男は、みんなそうだ。

 カイルさま──あまりに気高く、自分たちには勿体ないお方だ。

 

 

 

 今、私はあの方の副官として、新たに編成された独立特務小隊の先頭に立っている。

 

 カイルさまは、なぜか毎日「俺も戦いたい」「前線に行かせろ」なんて冗談をおっしゃる。

 おそらく私たちを油断させないための、あの方なりの発破なのだろう。

 

 ──ねえ、カイルさま。

 ──貴方さまはもう、そのお手を汚す必要はありません。

 

 貴方さまが私たちに光をくれたように、今度は私たちが貴方の歩む道を血の一滴すら残さず清めてみせる。

 貴方を危険にさらす敵は、視界に入る前に細切れにしてみせよう。

 

 それが私たち《カイルの剣》に課された、唯一にして絶対の使命なのだから。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

貞操逆転世界の「内助の功」~掃除と料理を極めた俺が、脳筋幼馴染を女王にするまで~(作者:ありゃくね)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

前世の記憶が目覚めたそこは、男女の貞操が逆転した異世界だった。▼彼が繰り出すのは、現代知識を活かした「お掃除アイテム」、そして胃袋を掴む「絶品手料理」。 ただ快適に暮らしたいだけのマシロの行動は、男に飢えた女騎士たちを狂わせ、国の常識さえも変える一大革命へと繋がっていく。


総合評価:2244/評価:8/完結:32話/更新日時:2026年02月02日(月) 18:12 小説情報

貞操逆転世界ならコミュ症でもクール系病弱美少年でいけるらしい 〜あっ!隠してやってた裏垢のエロ自撮りがバレたぁ!?〜(作者:しゃふ)(オリジナル現代/恋愛)

男女比1:20の世界で、気になっている無口な男の子の裏垢エロ自撮りを見つけちゃって情緒をぶっ壊される女の子たちの話。▼なお主人公くんはクール系を演じてるだけのただのコミュ症承認欲求モンスターである。▼ カクヨムにも投稿してます。


総合評価:1693/評価:8.14/連載:12話/更新日時:2026年02月22日(日) 00:04 小説情報

その飲みかけ致死量につき。――男女比1:4の世界で普通に生活する俺が、飲みかけボトルを置き忘れた結果(作者:ヤッくん)(オリジナルファンタジー/恋愛)

男女比1:4。▼男性の人口は女性の4分の1ほど。男女のカップリングが物理的に困難なこの世界では、女性の約8割がパートナーを持てていない。▼ ▼そして、それが原因であろう。いわゆる男女の行為は、かつての常識とは比較にならないほど神聖化されていた。▼日常にあった些細な接触――たとえば、ただの「間接キス」ですら、この世界の女にとっては死ぬまで反芻し続ける『一生モノ…


総合評価:1679/評価:7.85/連載:34話/更新日時:2026年05月11日(月) 19:08 小説情報

悪徳領主に転生して死亡フラグを折るために勇者パーティを育てたら、激重感情を向けられて逃げられない件(作者:激重大好き)(オリジナルファンタジー/コメディ)

目が覚めたら、プレイしていた百合RPGの「序盤のやられ役」である悪徳領主ルシアンに転生していた。▼しかも、すでに悪魔と契約済みであり、このままだと勇者に倒されなくても魔力タンクとして悪魔に殺されてしまう完全な『詰み』状態。▼どうしても死にたくない俺は閃いた。▼「原作開始前の勇者たちを見つけ出し、俺が育てて悪魔を倒す。これしかない!」▼悲惨な過去を背負うはずだ…


総合評価:1915/評価:8.26/連載:6話/更新日時:2026年04月02日(木) 18:30 小説情報

セックスが淘汰された世界で、唯一の『クソオス魔装鍛冶師』(作者:北川ニキタ)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

「この世界の女は、おっぱいに対する羞恥心がなさすぎる!」▼魔素のおかげで単為生殖が可能なので、セックスとか恋愛とかが概念ごと淘汰された世界▼だけど、前世で童貞のまま死んだ男――ディートは諦めきれず、今度こそ脱童貞を目指して魔装鍛冶師になるのだった。


総合評価:2837/評価:8.4/連載:13話/更新日時:2026年03月26日(木) 19:09 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>