それは、神山高校の校門近く、全日制の「終わり」と定時制の「始まり」が交差する、黄金色の放課後の物語。
出会いは、咲希が兄・司を神高まで迎えに来た日のこと。
ある日の夕暮れ。1年B組の授業を終えた星名は、校門近くの石段に座り、スケッチブックを広げていた。
空はオレンジから群青色へと移り変わり、校舎からは全日制の生徒たちが賑やかに下校し、入れ替わるように定時制の生徒たちが登校してくる。
「……きれいな空。……これ、今のうちに色を乗せないと」
星名が集中して筆を動かしていた、その時。
「わああああ! すごい! お空がそのまま紙の中に吸い込まれてるみたいっ!」
後ろから声をかけたのは、キラキラの笑顔を浮かべた宮女の制服の少女だった。
ちょうど登校してきた絵名が「……ちょっと、星名を驚かせないでよ」と割って入るが、咲希の「星名の才能」への直感は止まらなかった。
「星名ちゃん、っていうんだね! 私、天馬咲希! ね、ねえ、連絡先交換しよ! 私、絶対せーちゃんと仲良くなれる自信あるもん!」
まだ出会って数分。咲希はすでに星名のことを「せーちゃん」と呼び、その瞳には一点の曇りもない称賛が宿っていた。
数日後、咲希の猛アタックにより、二人は放課後にシブヤのカフェで会うことになった。
「ねえねえ、せーちゃん! 似顔絵、描いてほしいな! 私、せーちゃんが描くものなら何でも宝物にするよ!」
星名は躊躇した。自分の描く「風景」は愛されても、描く「生き物」はいつも『呪物』と呼ばれてきたから。
けれど、咲希の真っ直ぐな瞳に、星名は自分を偽ることができなかった。
「……さきちゃん。……私は、……生き物を描くと、普通の人がドン引きする絵を描いちゃうの。……それでも、いい?」
「うん! せーちゃんが描く私を、見せて!」
星名は、咲希の中に溢れる「天真爛漫なエネルギー」と「命の輝き」を、その筆に込めた。
数分後。
「……。……できたよ。……さきちゃん描いてみたんだけど……」
差し出された紙には、**『黄金の触手が太陽のフレアのように蠢き、無数の瞳からハッピーな光線を全方位に放つ、圧倒的生命体』**が、震えるほどの精密さで描かれていた。
「…………。……。……うわああ、すごーーい!!」
咲希は叫んだ。恐怖ではなく、純粋な歓喜で。
「私、こんなに強そうなんだ!? せーちゃん、私のこと分かってくれすぎだよ! これ、私たちの『心友の証』にしよう!」
星名は呆然とした。双子の片割れの彰人でさえ「捨てろ」と言ったこの絵を、咲希は「心友の証にする」と言って笑ったのだ。
3. 「心友」の誕生:境界線を越えて
夕闇のシブヤ。並んで歩く二人の影が伸びる。
「……さきちゃん。……怖くないの? ほら、その絵の足とか、12本もあるんだよ……?」
「ううん! 12本もあったら、一気にみんなにプレゼント渡せそうで最高じゃん! それにね、せーちゃんが私のことを『普通とは違う形』で見てくれたのが、一番嬉しいの」
咲希は星名の腕にぎゅっと抱きついた。
「私、ずっと病室にいたから。普通の毎日も、普通じゃないことも、全部『特別』に感じちゃうんだ。せーちゃんの絵は、私にとって最高の『特別』だよ!」
星名の胸に、温かいものが込み上げた。
神高と宮女。バラバラな境界線の中で、咲希だけは星名の「異質さ」を「特別」という言葉で包み込んでくれた。
「……ありがとう、さきちゃん。……これからも、……私の『特別』でいてね」
「もちろん! あたしとせーちゃんで、一番星を目指しちゃおう!」
二人の「心友」ポイント
• 唯一の全肯定: 彰人、冬弥、寧々、類、絵名。誰もが「凄まじい」と圧倒された星名のクリーチャー画を、咲希だけが「ハッピーの形」として待ち受けにしている。