星名には、自覚のない特殊な力がある。それは、彼女の側にいるだけで、荒れ果てた心が穏やかな風景画のように塗り替えられていくような、不思議な安らぎだった。
1. 彰人の場合:『戦士の休息』
ビビバスの練習が深夜に及び、喉も身体も限界を超えた夜。彰人はフラフラの状態で帰宅し、リビングのソファでスケッチブックを開いていた星名の背中に、無言で倒れ込んだ。
「……彰人? お疲れ様。……今日も、いっぱい頑張ったんだね」
「……っせぇ。……。……おい、ちょっとそのまま動くな」
彰人は星名の背中に顔を埋め、彼女が放つ「陽だまりと絵の具の匂い」を深く吸い込む。トゲトゲしていた神経が、みるみるうちに解けていく。
「(……あー、クソ。……こいつに触れてると、明日もまた歌える気がしてくるから、癪なんだよ……)」
彰人にとって星名は、どれだけ泥にまみれても戻ってこられる、唯一無二の「聖域」だった。
2. まふゆの場合:『温度の確認』
放課後の図書室裏。まふゆは、再び「いい子」を演じ続けることに限界を感じ、呼吸を乱していた。そこへ、スケッチの場所を探していた星名が通りかかる。
「……まふゆさん。……そんなに苦しそうな色、しないで」
星名が両手を広げると、まふゆは磁石に引き寄せられるように、その細い身体を星名に預けた。
「……東雲さん。……あなた、やっぱり、あつい。……私の、このへんの、冷たいところが……痛いくらいに」
星名は何も聞かず、まふゆの背中をトントンと優しく叩く。まふゆは、星名の心臓の鼓動を直接聴きながら、自分がまだ「生きた人間」であることを確認していた。
3. 志歩の場合:『深淵の後の静寂』
レオニの練習で自分の音に迷いが生じ、さらに星名の「クリーチャー画」を思い出して精神を削られた志歩。彼女は神高を訪れ、校門で星名を見つけるなり、背後からぎゅっと抱きついた。
「……志歩ちゃん!? どうしたの?」
「……。……少しだけ、こうさせて。……あなたのせいで、頭の中が変な怪物でいっぱいなのよ。責任、取って」
そう言いながら、志歩は星名の温かさに顔を綻ばせる。
星名の身体から伝わってくるのは、あの「奇跡のハンバーグ」と同じ、澄み渡る草原の波動だった。
「(……。……悔しいけど、この子の隣が、一番落ち着くわ……)」
4. 奏の場合:『命のバッテリー』
夕方、星名が「夜食」を届けに奏の家を訪れた時のこと。ドアを開けた瞬間、限界ギリギリだった奏が、星名の胸の中に力なく倒れ込んできた。
「……星名、さん。……。……温かい。……なんだか、……曲が、聴こえる……」
「奏さん、無理しすぎだよ。……はい、おいで」
星名は奏を包み込むように抱きしめる。奏にとって、星名の抱擁は「命のバッテリー」そのものだった。彼女の腕の中にいる間だけは、呪いのような「救わなきゃ」という想いから解放され、ただの女の子に戻れるのだ。
キャラクターたちの「星名チャージ」後の変化
• 東雲 彰人: 翌朝、驚くほどスッキリした顔で「……飯、うめぇな」と呟く。
• 朝比奈 まふゆ: 24時間限定で、作り笑いの精度が(本物の笑顔に近づく形で)向上する。
• 日野森 志歩: ベースの音が、なぜか少しだけ「多幸感」を帯びるようになる。
• 宵崎 奏: 睡眠導入剤なしで3時間は深く眠れるようになる。
• 星名本人: 「みんな、最近甘えん坊さんだなぁ。……描きかけの絵が進まないけど、まあ、いっか」
星名の癒やしの正体(冬弥の分析)
「星名は、対象の『魂の欠損』を、自分の溢れんばかりの『色彩』で埋めることができるんだろう。……俺も、たまに抱きつかせてもらっているが、あれはもはや精神的な温泉だな」
(※彰人が横で「おい、お前はダメだ!!」と叫ぶまでがセット)