プロセカ反応集・短編集   作:白雪琉衣

24 / 25
短編集エピソード 東雲さんという境界線

それは、シブヤの喧騒が遠くに聞こえる、雨宿りの午後のことだった。

 

ビビバスの練習が休みの日、こはねは星名に誘われて、彼女の行きつけの画材店へ向かっていた。

「……あの、東雲さん。今日は誘ってくれて、ありがとうございます」

「ううん、こはねちゃんの今日の服、すごく温かくていい色がしてるから。……一緒に歩きたかったんだ」

星名はふわりと微笑む。こはねは、彼女を「東雲さん」と呼ぶたびに、どこか彰人の妹としての影……自分にとっての「ユニット仲間の家族」という一線を引いてしまっている自分に気づいていた。

星名の「特別」になりたくて

雨が降り出し、二人は小さな喫茶店の軒下で雨宿りをすることになった。冷え込む空気の中、星名はこはねの肩に自分のカーディガンを掛け、その手を包み込む。

「ねえ、こはねちゃん。……こはねちゃんの呼ぶ『東雲さん』は、すごく丁寧で、……雨上がりの水たまりみたいに綺麗に響くね」

「あ、えっと……。……すみません、私、なんだか緊張しちゃって」

「……でもね。……お兄ちゃんと一緒の呼び方だと、……時々、私のなかの『星名の風景』が、少しだけ寂しいって言うんだよ」

星名はこはねの目をじっと見つめる。その瞳は、深淵のように深くて、けれど吸い込まれそうなほど優しい。

「私はね、こはねちゃんにとっての、ただの『誰かの妹』じゃなくて、……こはねちゃんだけの『星名』になりたいな」

勇気の色、名前の響き

こはねの心臓がトクン、と大きく跳ねた。

「東雲さん」という、今まで自分を守ってくれていた丁寧な言葉の鎧を脱ぐのは、とても勇気がいる。けれど、星名の温かな体温が手に伝わるたびに、その壁がゆっくりと溶けていくのを感じた。

「……せ、……せな……さん……」

「……うん。……あと少し、……勇気の魔法を混ぜてみて?」

星名はこはねの頬を包み込み、鼻先が触れそうなほど顔を近づける。星名の放つ「命の色彩」が、こはねの視界を真っ白に染め上げた。

「……星名、……ちゃん。……星名ちゃん……っ!」

こはねが、震える声でその名前を呼んだ瞬間。

星名は弾けるような笑顔を見せ、こはねを力いっぱい抱きしめた。

「……あはは! こはねちゃん、今の声、すごく『虹色の鈴』が鳴ったみたいに可愛かった! ……もう一回、……もう一回呼んで?」

「……う、うん……! 星名ちゃん。……星名ちゃん、大好き……!」

変化した「風景」

翌日の練習。彰人は、こはねと星名の間に流れる「異常なまでの親密な空気」に、真っ先に気づいた。

こはね:「あ、星名ちゃん! 今日のハーブティー、すごくいい香りだね!」

星名:「うん、これはね、『夢見る蝶々』の羽の色をイメージして淹れたんだよ」

彰人:「……は? ……おい、こはね。お前今、アイツのことなんて呼んだ?」

こはね:「え? ……あ、えへへ。……『星名ちゃん』だよ、東雲くん」

彰人:「……っ!!(……マズい。……セナのペースに完全に飲み込まれてやがる……。……これじゃ、もう俺が何を言っても無駄だ……)」

冬弥は横で「……小豆沢と星名の魂が、ついに『名前』という鍵で完全に同期したようだな。……喜ばしいことだ」と一人で納得していた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。