神山高校、文化祭の準備期間。1年B組では、人形劇とプロジェクションマッピングを融合させた出し物が企画されていた。
演出・主演:草薙寧々
音楽:青柳冬弥
背景・美術:東雲星名
クラス中が「この3人がいれば優勝間違いなしだ」と期待を寄せる中、当の本人たちは会議室で深刻な問題に直面していた。
1. 「背景」の神、降臨
「……すごい。……星名さん、この森の背景……。……木漏れ日の揺らぎまで計算されてて、……プロの仕事だよ」
寧々がタブレットに映し出された星名の風景画を見て、感嘆の息を漏らす。冬弥も横から覗き込み、深く頷いた。
「ああ。この色彩の重なり……。……俺が作曲しているメインテーマの、第3小節の転調部分に完璧に合致している。……流石だ、星名」
「よかった。……。……じゃあ、この背景の手前に配置する『森の妖精』たちのデザインも、私なりに考えてみたんだけど……見てくれるかな?」
星名が少し照れくさそうに、次のスライドを表示した。
「……えっ」
「……。……これは……」
二人の言葉が止まった。
そこには、写真のようにリアルで美しい神秘的な森の中に、
**『手足が異常に長く、顔のパーツが四方に散らばった、名状しがたき多足生物』**が、
「妖精(フェアリー)」というファイル名で満面の笑み(?)を浮かべて立っていた。
2. 会議の紛糾:芸術か、ホラーか
「……星名さん。……聞くけど、……これ、……子供たち泣かないかな?」
寧々が引きつった笑顔で尋ねる。
「えっ? ……。……妖精って、人間とは違う理(ことわり)で生きてる存在でしょ? だから、ちょっと神秘的な形にしてみたんだけど……」
「……神秘的、というよりは……『深淵』の住人に見えるな」
冬弥が真剣に顎に手をやる。
「星名。君の描くこの妖精からは、一種の……強烈な『不条理』を感じる。……曲のジャンルを、ファンタジーからサイコホラーに変更した方がいいかもしれない」
「……待って、青柳くん! 趣旨が変わっちゃう……!」
寧々が慌てて割って入る。
「星名さん。背景は、……背景は本当に『神』なの。だから、……キャラクターのデザインだけは、……私が描くから! 星名さんは背景に専念して!」
「……。……寧々ちゃん。……私の絵、……やっぱり変かな?」
星名が少し寂しそうに首を傾げる。それを見た冬弥が、慌ててフォローを入れた。
「……いや。……君の絵には、既存の概念を破壊する力がある。……ただ、……神高の文化祭には、少しばかり早すぎたのかもしれない」
3. 東雲家の影
そこへ、廊下を通りかかった彰人が教室を覗き込んだ。
「……おいセナ。……お前、また変なもん描いて冬弥たち困らせてんじゃねぇだろうな」
「彰人! ……見てよ、私の妖精さん」
スライドを見た瞬間、彰人は無言でスッと教室のドアを閉めた。
「……彰人!? 待ってよ!」
「……悪い冬弥。……セナには、背景の『岩』とか『空』とか、動かないもんだけ描かせておけ。……いいか、絶対に命あるもんを描かせるな。……これは、兄としての遺言だ」
結局、1-Bの出し物は「背景があまりにも美しすぎて、キャラクターとのクオリティの差が凄まじい伝説の舞台」として語り継がれることになる。
役割
• 草薙 寧々: (演出)星名の背景を120%活かそうとするが、クリーチャー混入を阻止するための「防衛線」となる。
• 青柳 冬弥: (音楽)星名の絵を「前衛芸術」として高評価しすぎて、曲の方向性が迷子になりかける。
• 東雲 星名: (背景)純粋な善意でクリーチャーを生み出し続け、二人の頭を悩ませる「無自覚な爆弾」。