文化祭から数週間後。東雲家のリビングに、瑞希からの届け物が届いた。
「わあ、届いた! 瑞希ちゃん、本当に作ってくれたんだ」
星名が嬉しそうに箱を開ける。中から出てきたのは、透明感あふれるアクリルの中に閉じ込められた、あの『妖精さん』だった。
背景の美しさが際立っているせいで、中央のクリーチャーの「異界感」が凄まじいことになっている。
そこへ、練習から帰ってきた彰人が、汗を拭いながら入ってきた。
「……あー、疲れた。セナ、なんか届いたのか?」
「あ、彰人! 見て見て、瑞希ちゃんが作ってくれたの。私の描いた妖精さんのアクリルスタンド!」
星名が満面の笑みで、彰人の目の前に「それ」を突き出す。
彰人は、一瞬だけ時が止まったかのように硬直した。手に持っていたタオルが、床に力なく落ちる。
「……。……。……おい、セナ。……冗談だろ?」
「えっ? 瑞希ちゃんが『これは絶対にバズるよ!』って言って、25個も送ってくれたんだ」
彰人は震える手でアクスタを手に取った。
裏面を見ると、瑞希の遊び心で『SEANA'S FANTASTIC CREATURES シリーズ第1弾』と刻印されている。
「……暁山の野郎……ッ! うちの妹に変なもん吹き込みやがって……! こんなもん、世に出しちゃダメだ……東雲家の名折れだろ……!」
「そんなにひどいかな? 冬弥くんも『これには現代社会の歪みが凝縮されている』って褒めてくれたのに」
「冬弥はあてにするな!! あいつは感覚がズレてんだよ!!」
彰人の叫びが虚しく響く中、星名は「彰人の部屋にも飾っておくね」と、無理やり彰人の棚の、ビビバスの集合写真の隣にアクスタを並べた。
最高にクールなビビバスの隣で、触手をうねらせて笑うクリーチャー。彰人はその夜、夢に妖精が出てきてうなされることになった。
数日後。神高の1-Bでは、冬弥が鞄に、寧々が筆箱に、そして星名がスマホに、お揃いでそのアクスタを付けていた。
それを見た司が「ほう、星名! その独創的なオブジェは何だ!? まるで新時代のスターのような風格ではないか!」と絶賛し、さらに彰人の頭痛は加速していく。
挙句の果てに、絵名までが「……これ、見てるとだんだんクセになってくるわね。自撮りの背景に置くと、小顔効果がある気がする」と、SNSにアップし始める始末。
東雲家の中で唯一正気(?)を保とうとする彰人を余所に、星名のクリーチャーは、静かに、しかし確実に世界を侵食し始めていた。
このアクスタを杏が見つけ、彰人の私物だと勘違いして『彰人って、意外と可愛い趣味してるんだね……』とドン引きされる