魔神特異点 水獣敵対異国 フォンテーヌ・エリナス 作:旅人さんた
異世界の技術
「なぁルネ、本当に痕跡なんて残っているのかな。」
「あるさ、あの変数が現れたのがここなのには、きっと意味がある。」
カルデアの者が去ってから数日後、二人は再度エリナスで調査をしていた。
「未知の技術が使われているんだ。仮に痕跡があったとして、僕たちに見つけられるとは思えないよ。いっそのこと君が持ってるその、レイジュ?で呼んじゃえば?」
「ジェイコブ、一回きりだって彼は言ってただろ?それにこれは唯一の『痕跡』だ。無駄にしない方がいい。それより、『通路』の方はどうなんだ?」
「順調だよ、安定化している。そろそろ開けると思う。」
「そっか、じゃあいったんそっちを優先させよう。」
二人が来た目的は三つ、一つはエリナスにある力の補給だ。ジェイコブの体はすでに通常の人間ではない。それと、「カルデアの者」が使用していた技術の研究。なにをしたかまではわかった。だが、方法がまったくわからない。真似てみようにもとっかかりさえつかめない。そして、三つめは「通路」だ。ジェイコブのアビスの力を使ってあちら側とのアクセスを可能にするための実験である。危険性があるので、なにがあってもいいようにこのエリナス内部で行うことにした。
「じゃあ、開くよ。」
ジェイコブが空中に手をかざす。この実験の際、ジェイコブの姿は異形の物へと変わる。
カーンルイアの記録では、「通路」からは犬に似た怪物が現れるとある。この場所なら、ジェイコブの力で対処できるはずだ。彼任せになってしまうのは、申し訳ないが。
現れた。成功だ。
「ジェイコブ!体調はどう?きつくなったらすぐにでもやめていいからね。」
「問題はない、けど維持が...あ、あぶない!ルネ逃げて!」
文献通り、「通路」からは怪物が出てきた。僕たちが知っている犬とはだいぶかけ離れた姿だ。ここで僕の意識は途絶えた。
目が覚めると、泣き顔のジェイコブが目に映った。
「よ、よかったぁ」
抱きついてくる。周りに怪物はいない。ジェイコブが倒してくれたんだろう。彼の泣き顔を見ると安心する。ちゃんと戻ってこれたらしい。周りにいる犬の化け物...獣域ハウンドと名付けよう。その死体からサンプルを入手しておく。
「ありがとう、ジェイコブ。」
(二人でこれ以上研究を進めるのは無理があるな...)
ジェイコブをなだめた後、僕たちは外に出た。なんだかんだ、青空を見ると安心する。
すると、
「おーい、そこの子ども!そんなところで何を...おや?」
聞いたことのある大人の声だ。声のする方向を向くと、それは
「ギヨタン、おじさん。」
間違いない。ということは近くにいる子供は
「アラン!マリアン!」
ルネが声をかけるより早く、ジェイコブが声をあげ二人に抱き着いた。
僕たち四人は、再開の言葉を言いあった後、水仙十字院時代の思い出話に花を咲かせた。
ギヨタンおじさんはそんな僕たちを微笑ましそうにみていた。
正直、彼を許しているわけではない。ポワソン包囲でファントムハンターの指揮をしていたのは彼だ。両親の死の原因ともいえる人を、そうかんたんに受け入れられない。だから、ぼくたちは研究について一切話さなかった。
アランとの会話で、かれが自然哲学院に所属していることを聞いた。興味を示すと、はいるよう勧められた。悪い話じゃない。落ち着いた環境で研究ができるのはありがたい。それに、またアランたちと一緒にいられる。
それから時間は瞬くかのように過ぎていった。ジェイコブの持つ力やレイジュの研究を進める傍らアランの研究...ウーシアとプネウマの対消滅実験を手伝っていた。
そこで過ごす日々はまるで、孤児院のころに戻ったかのよう。
そして、アランの助手であるカーターが死んだ。
正確には死んだわけではない。病気がちなカーターを治すために、ジェイコブと同じ処置を施した結果、失敗したのだ。結果、ただ生きているだけのものになり果てた。
「君には、失望した。なんで、どうして相談してくれなかった。」
アランからの言葉はそれで終わった。
レイジュの解析を進める。何か方法はあるはず。カーンルイアの力を使った救済ができない以上、頼れるのはレイジュだけだ。
以前カーターの提案で行ったペトリコール、そこにある遺跡を調べると、我々フォンテーヌ人の正体と、世界の滅亡が指す意味もわかった。方向性は決まった。これまでとはまた別のアプローチだ。また無意味になる可能性もある。だからこそ、レイジュについて知っておきたい。元素力を放っていることはわかる。だが、この世界のどの元素にも該当しない。全く未知なる元素。なのに、その構造は七つの元素に酷似している。
(ここにあの人が教えてくれれば...)
そう願った瞬間、手のレイジュに熱がこもった。まずい、まだここでは...
願いをやめた瞬間、熱は消えた。でも、僕は確実に今その力を使おうとしたのだ。
瞬間、それは現れた。
これ、は
神の目だ。
ルネの手の中には、白い色を放つ神の目が、握られていた。
見たことのない色だ。神の目を持つものは、自由に対応する元素を操れる。
なら、つまりこれは
未知なる元素、異世界の力を持つ元素だ。
補完しているカーターだったものを眺める。きっと、僕は彼を取り戻す。
そして、その神の目を使おうとした瞬間、ルネの体に激痛が走った。
体の芯からえぐられる感覚、内臓をかき回される感覚、生きたまま脳みそをえぐられる感覚。
この世のありとあらゆる痛みを煮詰めたような感覚がおそう。
気絶しそうだ。だが、
(だめ、だ。カーターを取り戻して、アランに許してもらう、そして、僕は、)
(世界、いや、フォンテーヌ人を)
(救う!)
その痛みは何分続いたのか、ルネにとっては無限の時間のように思えた。
痛みがはれた後、ショックに耐えながら、痛みの原因を探った。
すると、左手に握っていたはずの神の目は、掌に埋まっている。
そして、そこから何本かの線が、それこそ右手の甲に刻まれたレイジュのように、左手全体を覆っていた。
(なんだ、これ、回路?)
力を再度使おうとしたが、痛みはもう襲ってこないし、腕の線に熱がこもるだけで何も起きない。
(力は、つかえるはず。だけど、出し方がわからない。なにか、指向性が必要なのか...?)
(とっかかりは、このレイジュ。基本的にこの力とレイジュは同種のもののはず...感覚で分かる。これはただあの人を呼び戻すための物じゃない。基本的には束縛する力だ。そしてその対象は、物理的なものでなく、霊的なもの。でもこれ自体はただ)
(あのときカルデアの者さんは、助けが欲しいときに呼べと言っていた。そしてさっき僕は来てほしいと思ったんじゃない。教えてほしいと思ったんだ。つまり、この束縛というのは、命令、霊的な何かを操る力だ。)
(異世界の技術においてなんでこんな縛る力が必要なんだ...しかも回数制限付きで。だったら、縛るための能力を考えればいいはず。だからこれは縛る必要があるものに対する保険として用意されたもの。そしてそれは、じぶんより強大なもの、ただの異世界の技術だけでは制御できないものに対して使う。そんなものは、きっとその強大な存在と出会う前から必要だ。そしてそれはその存在とセットにしなくてはならない。つまり...)
「これがあれば、あのカルデアの者さんのような、霊的に強大な存在を呼ぶことができる?」