魔神特異点 水獣敵対異国 フォンテーヌ・エリナス 作:旅人さんた
走る。走る。走る。走る。走る。
冷静を装っていた──というより、何をすればいいのか不明すぎて、脳がパンクしていた。
異世界からの訪問者、サーヴァント、ナルツィッセンクロイツ…
情報が多すぎた。だが、今はもうすべきことはわかっている。
ジェイコブという男の抹殺という簡単な話だ。
フォンテーヌ廷についても、人の姿はなかった。
脱ぎ散らかされたように地面に落ちている洋服はちらほらあるが、想定より数が少ない。おそらくどこかしらに逃げ込んだのだろう。
歯噛みする。自分は、フリーナ様を助けられなかった。
その場に居なかったのだから、という言い訳もできるが、ファントムハンターとして、自分自身を許せそうにはない。
ジェイコブという男を探す。この緊急事だ、きっと見ればそうとわかるはず。
そうしていると、一体のマシナリーがやってきた。珍しい、犬型のマシナリーだ。
「ついてきてください。当代のファントムハンター。貴方の誅するべき敵はこちらです。」
案内されるがままにすすむ。
そこには───
「ふ、ははははは!ファデュイ執行官が二人いようと、私の前では無力!」
おそらく、ジェイコブと思われる男と、その男が使役しているであろう鯨がいた。
召使ともう一人の執行官?が、鯨と戦っている。
「っ!もう、こんなんなら、いっそのこと工場の奴らごと連れてくるんだった!アルレッキーノ!その鯨、早くなんとかならないの!」
「無茶なことを言う。これでも、抑えているつもりだよ。」
犬型のマシナリーが、召使ではない方の執行官に駆け寄る。
「識別完了。貴方のことをなんと呼べば?」
「な、なに。あなたまさか、アランの…そう、サンドローネでいいわ。マリアン…と呼びたければ、それでもいいけど。」
「いいえ、サンドローネ様。お連れしました。」
「お連れしましたって…あなた、誰?」
サンドローネ、と名乗る女が語りかけてくる。
「決闘代理人のクロリンデだ。あいつがジェイコブ、で間違いないのだな?フォンテーヌの平穏を守るため、駆けつけた。」
「そう、なら手を貸して。今アルレッキーノがあの鯨を抑えてる、あなたは、あの男を───」
「サンドローネ様。」
犬型のマシナリーが、割って入ってきた。
「彼女は、ファントムハンターです。」
「え?そ、そう。だから、なんなの?」
「そうですか、彼は教えなかったのですね、失礼。」
そういうと、犬型のマシナリーはサンドローネの背後に回り、じゃれつき始めた。
「ちょ、ちょっと、何?」
すると……
「ひゃあ!」
サンドローネの背中が、まるで切れ味の良い刀で切られたようにスパッと開いた。
「なによ。これ!」
「アランギヨタンが、後世に残したものです。貴方のお姿が、お嬢様の姿なのが、ただの妄執だとでも?これは、意趣返しですよ。」
「こんなものを仕込んでいたなんて…」
「さぁ、当代のファントムハンター、こちらへ」
素直に従う。すると…
「起動、開始。」
サンドローネの肉体が、クロリンデの体にまとわりつく。
と言っても、それは、生物的なものではなく、あくまで機械的なものだ。
「『機械仕掛けの戦闘服』と言うようです。そして、私は」
犬型のマシナリーも変化する。変化というより、変形か。
「機体名、セイモア=ケラウノス。アランがあの戦いののち、私を貴女の武器として改造させていました。」
クロリンデの体は、完全に機械に覆われていた。
『ちょっと!セイモア、勝手なことしないで!これ、戻せないの?』
「もちろん戻せます。あのジェイコブを倒したのちにね。」
機械鎧の内側からの声と、いつの間に手にしていた槍が会話をしている。
「あ、あの、私はどうすれば…」
『もう、仕方ない、クロリンデ!あいつ倒すわよ!』