【書籍化】自分をSSS級だと思い込んでいるC級魔術学生   作:nkmr@C級魔術学生③

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11. C級VS学園五位 

 クロフォード魔術学園内の第五闘技場に立つ二人の生徒。

 

 二年Cクラスの一之瀬シオンと、同じく二年生であり学園序列五位のエリザ・ローレッド。

 

 放課後には生徒の自主訓練用に解放されている第五闘技場内で、二人はお互いに模擬試合の授業で着用している物と同様の戦闘服を着用して向かい合っている。

 

 担任教師のレスティアから依頼された雑用を未だ済ませていないシオンは「それでエリザの気が済むならば」と、手っ取り早くこの件を終わらせる為に先ほどエリザからの決闘の申し込みを受けた。

 

 数メートル程離れた位置に立つエリザにシオンは声を掛けた。

 

「勝敗はどうやって決めるんだ?」

 

「どちらかが戦闘不能になるか、降参するまでよ」

 

「確認だが、もし開始後すぐに()()したらどう──」

 

「殺すわ」

 

「……ごめん、よく聞こえなかった」

 

「ぶち殺すわ」

 

「……おーけー、ちゃんと聞こえた」

 

 ということで、シオンはエリザと真っ向勝負を余儀なくされた。

 

 しかし元より、シオンは普段の授業の模擬試合のようにあっけなく、わざとらしく負けるつもりは毛頭なかった。

 

 相手は〝クロフォード魔術学園序列五位〟。その実力は、まさに一流。

 

 シオンがエリザの手頃な魔術をわざと受けて負けたとすれば、それは容易に見抜かれてしまうだろう。

 

 先ほどの用具倉庫内でのやり取りから見るに、シオンがわざと負けたと知れば彼女は侮辱されたと感じて更に激昂し、事態は更に収集がつかなくなるだろう。レスティアを待たせている状況の今、それは避けねばならない。

 

 また、シオンがこの決闘においてあっけなく負けるつもりのない理由はもう一つあった。

 

 それはこの「学園序列五位との決闘」というシチュエーション自体にある。

 

「C級魔術学生レベルと思われいる自分が圧倒的格上に黒星をつける」、そんな展開を彼は一体何度夢想しただろうか。

 

 〝学園序列五位との決闘〟。普通に学生生活を送っていれば絶対に遭遇することのない絶好の展開を、みすみす逃すシオンではなかった。

 

 ──実際には真の実力を隠してなどはいない、紛う事なくC級魔術学生レベルの実力の一之瀬シオン。

 

 しかし彼は、学園内最高峰のAクラスの中でも更にトップレベルの人物、そんな圧倒的格上であるエリザ・ローレッドに対して勝利のヴィジョンを思い描いていた──。

 

「じゃあ、始めるわよ」

 

 シオンの二十メートル程前方で向き合うエリザが声を掛けた。それなりに距離はあるが、二人以外に誰もいないホール型の闘技場では良く声が響いてシオンの耳に届く。

 

 エリザは曲げた人差し指の腹に親指の先を引っ掛け、その上にコインを乗せてコイントスの準備をした。

 

「吠え面かく覚悟は出来たかしら?」

 

「いつでも」

 

「……っ! こいつほんと……」

 

 学年トップクラスの実力者である自身に対して余裕綽々な態度を取るCクラスの生徒の姿は、プライドの高いエリザの神経を大いに逆撫でる。

 

 エリザは顔を顰めて歯軋りをしながら、コインを乗せた指に力を込めた。

 

「C級だからって、手加減なんかしてあげないんだから……ッ‼」

 

 憎らしげに言いながら、エリザはコインを上空に弾いた。回転しながら空中を舞うコインが地面に落ちた瞬間が、決闘開始の合図である。

 

 ──キンッ、と小さく音を立てコインが地面に落ちた瞬間、エリザはそれと同時に魔方陣を展開して素早く詠唱を行った。

 

(アン・)(ツュンデン・)(スフィア)!」

 

 エリザの上半身を軽く覆う程巨大な魔方陣は、真紅の光を放ちながら直径一メートルを超える巨大な火の球を生成した。

 

 そして直後、炎属性の上級魔術「獄炎球」は燃え盛る轟音を響かせながらシオンに向かって一直線に放たれた。

 

 魔法陣の展開と魔術を繰り出すまでの速度、何よりその威力は普段シオンが模擬試合で相手をしているCクラスの生徒とはまさに桁違い。

 

 しかしその火炎はシオンに直撃する事はなく、シオンが直前までいたはずの場所に爆音と共に巨大な火柱を上げただけであった。

 

 エリザが速攻で魔術を放ったように、シオン側はコインが地面に落下すると同時に「身体能力強化魔術」を発動し大きく右側へ駆け出したことでエリザの初撃を避けていた。

 

 魔術師同士の戦いは互いに真正面から魔術を繰り出し、相手の魔術を防ぎ、自分の有利な状況を作り出して攻撃を叩き込むというのが定石である。

 

 しかし、学園序列五位のエリザと真っ向から魔術を撃ち合おうものならシオンに勝ち目はない。

 

 エリザの繰り出す魔術に対してシオンがどれ程属性有利の防御魔術を展開しようと、純粋な魔力の強さが桁違いなエリザの攻撃魔術に容易く消し飛ばされてしまう。

 

 また、シオンが比較的得意とする雷属性の攻撃魔術をありったけの魔力を込めて繰り出したとて、エリザはそれを他愛もなく防ぐだろう。

 

 それ以前に、シオンが魔法陣を展開した場合、エリザは仮に後出しでも彼より先に魔法陣を完成させて一方的に攻撃が可能である。つまり、シオンには攻撃するチャンスすら与えられないのだ。

 

 学園序列五位のエリザとC級魔術学生のシオンの間にあるのは、それほどまでに絶対的な実力差がある。

 

 だが、その差を埋める為に取ったシオンの戦略こそが身体能力強化魔術の発動と、開始直後の右サイドへの疾走だった。

 

 正面から魔術の撃ち合いを行わず、ひたすらエリザの攻撃を躱しながら距離を詰める。

 

 そしてエリザに接近し背後を取ることが出来れば、シオンにも攻撃を当てるチャンスが訪れる。それこそがシオンの目論みだった。

 

 シオンの立てた戦略は、一見非常に単純なものに思える。

 

 だが、しかし。

 

「魔術師が魔術の撃ち合いを避けるなんて、随分と情けないわね‼」

 

 エリザは挑発的な言葉をシオンに対して発しながら、駆け抜けるシオンに対して次々と魔術を繰り出す。

 

 しかし、エリザはその挑発的な言葉とは裏腹に内心強い焦燥感と苛立ちを覚えていた。

 

 何故ならば、エリザを中心に大きく弧を描くように疾走するシオンに対して彼女は一向に魔術を当てる事が出来ずにいるからである。

 

 クロフォード魔術学園の二年生は授業では定石通りの戦い方しか習わず、模擬試合でも形式的な魔術の打ち合いがほとんどである。

 

 それらはあくまで真正面での魔術の撃ち合いや攻防を練習するだけのもの。

 

 勿論、三年生以降はより実戦的な模擬試合を行うようになるのだが二年生は未だ基礎を磨く段階。

 

 故に、この魔術学園の二年生にとっては魔術を撃ち合わずに走って避け続ける戦法はシンプルながらも非常に型破りなものだった。

 

 魔術の打ち合いの中で、魔術での対応が間に合わず仕方なく身体ごと避ける、という程度のことは珍しくはない。それこそ魔術の規模によっては、大きく飛び退くこともあるだろう。

 

 しかし、現在シオンが行っているようにフィールド内を爆走しながら旋回し続けるなど、学園の二年生が学ぶセオリーからしてみたら極めて異端だった。

 

 当然のように身体強化魔術を使用したシオンだが、大前提として魔術師は基本的に身体強化魔術は使えない。

 

 ──人間は、生まれた時点で習得可能な魔術がある程度決まっている。

 

 魔術には大きく分けて三つの性質が存在する。自分の魔力を変質させて体外に放出する〝放出型魔術〟、魔力によって自分の肉体を変質させる〝自己作用型魔術〟、自分の魔力で無機物を変質させる〝授与型魔術〟の三種類だ。人間はそれぞれ決まった性質の魔力を持って生まれ、基本的にはその三種類のいずれかに適した魔力を持って生まれる。

 

 放出型魔術の適性がある者は攻撃魔術などを使用する魔術師として力を付けることが可能であったり、自己作用型魔術の適性がある者は身体強化によって強靭な身体能力を持つ戦士として、授与型魔術の適性がある者は魔力を用いた建築士や鍛冶職人などとしての能力を身に着けることが出来る。

 

 そして、自分の生まれ持った魔力に適さない性質の魔術は扱うことが出来ない。

 

 勿論、絶対的に使用出来ないという訳ではないが、適性のない魔力では極端に習得効率が悪い。魔術師としてA級の実力があったとしても、身体強化魔術を習得するには数年単位の鍛錬が必要であり、仮に習得したとしても適性がないゆえに戦士としてはD級水準の実力しか身につかないというような程度で頭打ちとなってしまう。そのため、わざわざ身体強化魔術を習得しようとする魔術師などそもそもいないのだ。

 

 だからこそ身体強化魔術を使用する魔術師というのは非常に稀有な存在であり、あらゆる魔術の適性がないにも関わらず常識外れの鍛錬を続けた結果複数の性質の魔術を使用するシオンは極めて異端な存在だった。

 

 それ故に、対魔術師の戦闘において「高速で移動し続ける対象に魔術を狙って当てなければならない」という状況は、エリザにとっては非常に不慣れなものだ。

 

 広範囲を爆破させるような強力な魔術は発動に時間が掛かる為、絶え間なく走り続けるシオンには造作もなく躱されてしまう。

 

 逆に素早く繰り出せるコンパクトな魔術を発動しても、射出した魔術が着弾する前には既にシオンのいるポイントは変わってしまっている。決闘がスタートしてから繰り出した魔術が二十発に迫る中、魔術の種類やタイミングを変えても未だにシオンの被弾数はゼロだった。

 

「この……ッ‼」

 

 焦りや苛立ちは、エリザの中でだんだんと強まっていく。

 

 随分と単純なように思えるシオンの戦略はこの状況においては非常に有効的であった。魔術で圧倒的な戦力差のあるエリザとの決闘において、この戦略は殆ど最適解と言っても良いだろう。

 

 しかし、この戦略では距離を詰めて一方的に魔術を当てられるポジションを取らないことにはシオンに攻撃のチャンスはないが、彼は未だにエリザとの距離を殆ど詰められずにいた。

 

 大きく弧を描くように疾走している間はエリザの攻撃を躱す事は出来る。

 

 しかし、少しでもシオンがエリザとの距離を詰めようとすると、それは瞬時にエリザによって阻止される。

 

 シオンは場内を駆けながら隙を見てエリザへ向かって前進しようとするが、その瞬間に間髪入れずにシオンの前方の地面はエリザの魔術によって爆音と共に爆ぜ、シオンは咄嗟の後退を余儀なくされるのだ。

 

 旋回するように走り続け、前進しようとしては飛び退き、再び弧を描くように駆け出すという、一見一進一退の攻防が繰り返し続いているように見える二人の戦い。

 

 しかし、戦況は徐々にエリザに傾き始めていた。

 

「(いつまでもこの私の攻撃から逃げられると思ってんじゃないわよ……ッ‼)」

 

「(……うっ)」

 

 エリザの繰り出す魔術が、徐々にシオンに切迫し始めたのだ。

 

 先程までシオンが後方に置き去りにするように避ける事が出来ていた筈の火の球は、現在では放たれる度にシオンの戦闘服の端を焦がす程の至近距離に迫り、それをシオンは紙一重で躱している状態に変化していた。

 

 例え不慣れであろうと次第に感覚を掴み始め、その場で適応する。

 

 それこそが圧倒的な魔術の才能を持つ者。それこそが、学園序列五位であるエリザ・ローレッドの実力だった。

 

「(……ここらが限界か)」

 

 どれ程全力で駆け抜けようと、いずれはエリザとの距離を詰めるよりも先に自分が彼女の魔術を貰ってしまうとシオンは悟った。

 

「(──やるなら、今か)」

 

 突然立ち止まると、シオンは今まで温存していた自身のとっておき(・・・・・)の使用を決断した瞬間だった。

 

 十五メートル程離れた位置で足を止めたシオンに対して、エリザは若干不審に思いながら声を掛けた。

 

「あら、もう追いかけっこは終り? 言っておくけど、このままノーダメージで降参なんて認めないわよ」

 

「まだ降参はしないさ。ただ、いい加減埒が明かないから一気にケリをつけようと思ってな」

 

「……は? え、ちょっと、あなた、何のつもり?」

 

 淡々とした口調で返すと、シオンはエリザに向かってゆっくりと一直線に歩き出した(・・・・・・・・・)

 

 その突拍子もない行動にエリザは困惑し、思わず魔術を繰り出す手が止まった。シオンはそんなエリザの様子などまるで意に介さないように、淡々と歩みを進める。

 

「……ちょっと、一体何考えてるの? 言っておくけど、これは決闘よ? そんな無防備な状態を見逃すほど、私は甘くないわよ?」

 

 エリザはそう言うが、実際は彼女は僅かに躊躇していた。

 

 魔術を繰り出すわけでもなく、ただゆっくりと一直線に歩いてくる格下の相手に対して容赦なく魔術を撃ち込むのは、学園序列五位としてどうなのかと。

 

 だからこそ一度警告を挟んだ。シオンがこれ以上歩みを止めなければ遠慮なく魔術を撃ち込めるように。

 

 願わくば、シオンが戦闘態勢に入ってくれるように。

 

 しかし、シオンはそんなエリザの言葉には返事もせずただ淡々と歩き続けた。

 

「……ッ‼ どうなっても……知らないわよッ‼」

 

 自身が折角忠告をしてたにも関わらず、それを無視して歩みを止めないシオンに対してエリザは完全に躊躇を振り払った。

 

 そしてエリザが両の掌をシオンに向けて魔方陣を展開した瞬間、シオンもまた魔術の詠唱を行った。

 

限界加速(リミット・アクセル)」──と。

 

 その直後、「獄炎球‼」というエリザの詠唱と同時に、エリザの前方の魔方陣から巨大な火の球がシオンに向けて放たれた。

 

 轟音を上げる火の球がその高温で空気を焦がすようにしながら、未だエリザに向かって真っ直ぐ歩き続けるシオンに対して高速で迫る。

 

 しかし、その「獄炎球」はシオンに当たる事はなく彼の遥か後方で巨大な火柱を上げた。

 

 シオンはただ、そのままエリザに向かって真っすぐ歩いていただけ(・・・・・・・・・・・)であるにも関わらず。

 

「……はっ?」

 

 エリザの目には、まるで火の球がシオンをすり抜けたかの様に映った。

 

 勿論、「獄炎球」が人の身体をすり抜けるなど有り得ない。であれば、シオンが迫り来る火の球を目にも留まらぬ速さで躱したのだろうか。

 

 学園序列五位の実力者であるエリザの目にも映らぬ速度で動くなど、そんな事が可能なのだろうか。

 

 その瞬間エリザの脳裏に過ったのは、先程のシオンの「一気にケリをつけようと思ってね」という台詞。もしかしたらそれは、ただのハッタリなんかではないのかも知れない。

 

 自身の目の前で未知数な力を見せたシオンに対して、エリザは一気に警戒度を引き上げた。そして同時に、その計算外の事態に動揺もあった。

 

 彼女はパンツを見られた腹いせにシオンをボコボコにしてやるだけのつもりだった。それがまさか、学園序列五位の自分が僅かにでもC級魔術学生如きを脅威に感じようとは、思ってもいなかった。

 

「(なんにせよ、この私がCクラスの生徒なんかに負けるなんて万に一つも許されない……‼)」

 

 油断していたでは、済まされない。

 

 見たことのない魔術だったから対処出来なかったなど、言い訳にもならない。

 

 エリザはその時、目の前のC級魔術学生を自身の全力を以って打ちのめすと決断した。

 

猛り穿つ旋風矢(ヴィント・シュトゥース・シーセン)!」

 

 エリザが繰り出したのは、この決闘中に彼女が使用して来た中で群を抜いて最速の魔術。

 

 それは一発で巨大な岩をも粉砕するという非常に強力な威力でありながら亜音速に等しいという、信じられない速度を持つ風の矢だ。

 

 仮に魔方陣から射出されると同時に瞬きをしようものなら、目を開くよりも早く対象を貫く驚異的な速度。

 

 僅か十メートル程の距離にいるシオンに向けて放たれたその矢は間違いなく命中する筈だった。

 

 だが、しかし。

 

「ッ!」

 

 先ほどの「獄炎球」と同様、「猛り貫く旋風矢」もまたシオンに当たる事はなく、彼の遥か後方の闘技場の壁を大きく損傷させただけであった。

 

「(この男……‼)」

 

 そして、その瞬間エリザは気付いた。

 

 やはり魔術がすり抜けているのではなく、シオンが高速で躱しているのだと。

 

 先程は燃え盛る火の球と重なり認識が出来なかったが、「猛り貫く旋風矢」を繰り出した際、一瞬だけシオンの身体がブレて僅かに残像を残したのをエリザは捉えた。

 

「───だったら‼」

 

 自身が持つ最高速の魔術でさえ掠りもしなかった事に動揺したエリザであったが、すぐに切り替えて次なる魔術を詠唱する。

 

滅し穿つ灼熱の猛射(ヴィンディヒ・シュトゥルム・ランツェ)……‼」

 

 エリザは自身の全身を軽く覆う程巨大な魔方陣を展開し、そこから無数の炎を纏った風の矢を繰り出した。

 

 単発でも強力な「猛り貫く旋風矢」に炎を纏わせ、まるで降り注ぐ雨の如く放つ、「滅し穿つ灼熱の猛射」。風の矢の速度と、灼熱の炎の殲滅力が合わさった強力な魔術。

 

 エリザ・ローレッドが扱える魔術の中で、間違いなく最強の奥義。

 

 風と炎の属性を合わせたこの高難易度の魔術こそ、二年生でありながらそれがエリザ・ローレッドを学園序列五位に位置付けるものだった。

 

 エリザの髪や戦闘服を激しく靡かせる程の突風を巻き起こしながら、無数の炎と風の矢はシオンに向かい次々と繰り出される。

 

 ──だが、しかし。

 

「──……ッ⁉」

 

 それさえも、シオンには当たらない。

 

 魔術の矢の弾幕の中心にいながら、シオンは歩みを止めない。

 

 ゆっくりと、しかし確実にシオンはエリザとの距離を詰めていく。

 

 無数の魔術の矢はシオンの髪や戦闘服を掠めて焼き焦がすが、肝心のシオンは掠り傷一つ負わない。

 

 エリザの繰り出す無数の風の矢は、シオンの遥か後方の闘技場の壁に尋常でない破壊の痕を刻みつけるばかりであった。

 

「……‼ くッ」

 

「滅し穿つ灼熱の猛射」を絶えず放ち続けていたエリザであったが、自身とシオンとの距離が残り僅か二メートル余りとなった時、思わず魔術を止めて大きく後方へ飛び退いた。

 

 ──しかし、次の瞬間。

 

「‼」

 

 エリザは、思わず目を見開いた。

 

 彼女が後方へ飛び退いてその両足が地面に着いた瞬間、シオンは既にエリザの眼前に立っていた。

 

「………ッ」

 

 そのまま言葉を失うエリザに対して彼女の顔前に右の掌を向けたシオンは、悦に入るでも、勝ち誇るでもなく、ただ淡々とした口調で言い放った。

 

 

「──チェックメイトだ」、と。

 

 

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