【書籍化】自分をSSS級だと思い込んでいるC級魔術学生   作:nkmr@C級魔術学生③

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6. 奇人、王都へ行く

 

 魔術学園で定期試験が行われた日と同じ週。

 

 シオンは週末の休日に王都へ訪れていた。

 

 学園のある王国西部寄りの街から王都までは、魔力機関車に乗車して約二時間の距離がある。

 

 この日、王都にある会場で半年に一度開かれる魔術師や商人に向けた魔術関連の商品の展示会が開かれる。

 

 その展示会こそ、普段は休日も魔術の研鑽に時間を当てるシオンがわざわざ長い移動時間を費やして王都まで来た目的だ。

 

 本来であれば一定のランク以上の魔術師やバイヤーのみ入場が可能であり、ただのC級魔術学生のシオンに入場資格はない。しかし今回、シオンは父親から貰った入場パスを使用して展示会に参加することとなった。

 

 シオンの父親は国内でも大手に数えられる商人であり、過去何度もこの展示会に参加しているが、今回は時間の都合が合わず本人は不参加でシオンに入場パスを譲ったという経緯だ。

 

 今回の展示会では、一般人でも扱える生活用品的な物からプロの戦闘に向けたようなの物まで様々な種類の魔道具や、魔術師用の装備や装飾品の新製品などが並べられていた。

 

 魅惑的な製品の数々を前に童心に帰ったように内心はしゃぐシオンだったが、決して表には出さずいつも通りクールな表情で会場内を見て回った。

 

 彼は並べられている製品を見て楽しむと同時に、一流の風格を漂わせる魔術師が幾人も行き交う会場に溶け込み、まるで彼らと同格であるかのように振舞えるシチュエーションを楽しんでいたようだった。

 

 他の魔術師やバイヤーに混ざって慣れた様子で会場内の各ブースを巡回すること、約一時間半。

 

「──充実した時間だったな……」

 

 シオンはとてもご満悦な様子で会場を(あと)にした。

 

 来るときには入場パスと財布しか所持していなかったシオンだが、今の彼の手には一組の黒い手袋が握られている。

 

 今回の展示会ではあくまで商品紹介の場であり、各ブースでは仕入れの注文受付以外は個別での販売は行われていなかったが、いくつかのブースでは各商品の試供品の提供が行われていた。

 

 現在シオンが所持している黒い手袋もその試供品の一つ。黒い革製の手袋で指先の部分がカットされている、俗にオープンフィンガーと呼ばれる仕様のグローブである。

 

 それは今回の会場内でシオンの感性に最もマッチした商品の一つであり、興味深そうに手に取るシオンに対して担当商人が快く提供したものだった。

 

「……さてと、あそこへ行くか」

 

 そうしてホクホクの気分で会場を後にすると、彼は王都に来た際に頻繁に足を運ぶお気に入りのスポットへと向かった。

 

 

 展示会の後にシオンが向かった場所は、王都の南西の外れにある街から更に少し奥へ進んだ先にある工場跡地だった。

 

 以前までは多くの工場が稼働していたが立地の悪さから徐々に移転する工場が多くなり、およそ五十年前に全ての工場が移転した。

 

 そして現在では廃工場だけが残る無人の地域となっている。

 

 その無人の工場跡地こそ、シオンが王都に来た際には頻繁に足を運ぶ彼のお気に入りスポットだった。

 

 普通の人からすれば何の娯楽もなければ観光にも向かない寂れた地域だが、変人のシオンにとっては廃工場が並ぶこの街のどこかダークな空気感がたまらないスポットなのだ。

 

 黒い外套に黒いズボンと黒いブーツ、そしてちゃっかり展示会で貰ったグローブを着用した格好で工場跡地を闊歩するシオン。

 

 何かが潜んでいても不思議ではないダークな空気感の中、彼は裏社会の組織の一員である自分がアジトへ向かっているようなシチュエーションを妄想しながら廃工場特有の空気感を堪能していた。

 

 そして日も暮れてすっかり暗くなってきた頃、彼は廃工場の屋上などの高所へよじ登って更にカッコ付けた時間を過ごしていた。

 

 ……そんな時だった。

 

「──いやぁ‼ やめて、来ないで‼」

 

「‼」

 

 突如、近くから女性の悲鳴が聞こえてきた。

 

 シオンが声のした方へ高所から視線を向けると、そこでは三人組の男に追われる一人の人影が目に映った──。

 

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