【完結】日本国召喚IF〜フェン王国邦人救出劇〜 作:特殊匿名群
中央暦1640年1月20日
パーパルディア皇国 皇都エストシラント 第一外務局
この日、日本国外務省の使節としてこの国を訪れていた外交官──朝田泰治は、今日の朝ホテルに届いた書類の内容に疑問を抱きながらも、言われた通り第一外務局へと向かっていた。
日本とパーパルディア皇国との国交樹立は難航していた。これより前には外務局の人間と話すらさせてもらえず、門前払いを受けることが多かった。
それでも何度もコンタクトを取り続けた結果、第三外務局の局長カイオスの計らいで初の会談が行われたが、結果は散々だった。
この国は他国を露骨に見下す傾向にある。そして威圧的であり、服従を迫り武力行使を辞さない。日本国外務省の中にも、少しずつ警戒心が現れはじめた頃だった。
そんなこんなでパーパルディアに留まり続けていた朝田だったが、今日の朝、彼宛に書類が届いていた。内容は、すぐにでも第一外務局へ出向するように伝える「命令書」であった。
国同士の話し合いで「命令」など、翻訳の間違いであることを願っていた。だが彼らはこの日、パーパルディアの野蛮さを思い知ることとなる。
「パーパルディア皇国、第1外務局のレミールだ。今後、貴様への外交担当になる者だと思って良い」
第一外務局に出向し、係員に案内された先にいたのは身なりのいい女性貴族であった。顔立ちは整っているが、ケバケバしい化粧が女性なのに厳つい雰囲気を出している。
彼女が自己紹介をするのを受け、朝田はすかさず自分の名を名乗り出た。
「私は日本国外務省の朝田です。こちらは篠原といいます。急な用件との事ですが、どのようなご用件でしょうか?」
「いや、今日はお前たちに面白いものを見せようと思ってな……まあこれは、私と皇帝のご意思と思ってくれれば良い」
「?」
何を見せられるのか分からず、そしてその意図も理解できずに朝田は困惑した。
そんな彼をよそに、秘書らしき女性が占いに使うような綺麗な水晶玉を持ってきた。
「これは、魔導通信を進化させたもので映像を送信できる。このような映像付き魔導通信を実用化しているのは神聖ミリシアル帝国と我が国くらいのものだ」
「は、はぁ……」
「これを使って、お前たちにあるものを見せてやろう」
急に自慢話か?と思った矢先、曇っていた水晶玉が鮮明になり、その中に何処かの風景が映し出された。
朝田はその映像に衝撃を覚えた。
「これは……!」
映し出されたのは、首に縄を繋がれ、拘束されている人々だった。その服装、顔立ちには朝田は見覚えがある。
「中継先はフェン王国、ニシノミヤコだ。我が皇国はフェン王国へ懲罰のため、軍を向かわせた。後は分かるな?」
「に、日本人だ……!か、彼らはフェン王国に観光に来ていただけで、何の罪も無い人々だ!即刻解放を──」
いきなりの人質外交を受け、篠原が食ってかかる。だが最後の言葉を言いかけたところで朝田が手で制した。
篠原が朝田を見る。朝田は静かに首を横に振った。そしてレミールに対して向き直る。
「……皇女殿下。何を見せつけられるのかと思えば、いきなりの蛮行に私どもは深い遺憾を覚えます。して、これにはどう言う意味があるのか教えていただけませんか?」
「ふんっ、蛮族のくせして我が国に遺憾を申し出るか……まあいい。これは人質だ。この条件を飲んでもらうための交換条件だと思え」
レミールがそう言うと、傍の秘書が朝田たちに丸められた上質な羊皮紙を手渡した。書類を開くと、中にはこのような要件が述べられていた。
○ 日本国の王は、皇国人とし、皇国から派遣された者を置くこと。
○ 日本国内の法を皇国が監査し、皇国が必要に応じ、改正できるものとする。
○ 日本国軍は皇国の求めに応じ、必要数を指定箇所に投入できることとすること。
○ 日本国は皇国の求めに応じ、毎年指定数の奴隷を差し出すこと。
○ 日本国は今後外交において、皇国の許可無くしてあたらな国と国交を結ぶことを禁ず。
○ 日本国は現在把握している資源の全てを皇国に開示し、皇国の求めに応じてその資源を差し出すこと。
○ 日本国は現在知りえている魔法技術のすべてを皇国に開示すること。
○ パーパルディア皇国の民は皇帝陛下の名において、日本国民の生殺与奪権利を有する事とする。
○ 日本国民は──(以下略)
「こ、これは……」
これは日本国に対する属国化要求に他ならない。篠原は歯軋りをした。
朝田も手を振るわせて怒りを抑えているが、人質がいる以上なんとか堪え、レミールに向き直る。
「……パーパルディア皇国は、我が国を属国化でもするつもりですか?」
「そうだ」
レミールは即答した。
「おまえたちの国は比較的皇国の近くにあるにも関わらず、皇国の事を知らなさ過ぎる。力の差というのが理解できぬのか?」
「…………」
「どのような蛮族でも、我が皇都に来るだけで態度を軟化させると言うのに、貴様らほど愚かな者どもは初めて見た」
「…………」
「それで?日本の外交担当者よ。その命令書に従うのか、それとも国滅びるのか」
朝田は短い時間で思考を巡らせる。朝田はあくまで特使であり、全権大使ではない。この場で何かを決める権利はなかった。
「私はあくまでこのことを本国に持ち帰るだけの外交官です。一度本国に帰還し、検討をさせてください」
「ダメだ。長くは待てん」
「三日だけで構いません。それまでに結論を出します」
朝田は日本にとってのチャンスを作るべく、時間稼ぎを要求した。
この場で日本国の運命を朝田が決めることは到底できない。それに、三日もあれば何か対策が出てくるはずだ。これ以上、引き伸ばすこともできなさそうであるが。
そしてレミールは、その短すぎる猶予を聞き、鼻で笑いながらこう答えた。
「……ふんっ、分かった。では三日後の同じ時間まで待ってやろう。さもなくばニシノミヤコにいるこやつらは全員殺す」
「分かりました。では私は急いでこれを持ち帰りますので、それでは」
「おい」
朝田たちが退出しようとしたが、レミールはそれを一度引き留めた。そして不敵な笑みでこう言う。
「皇国に対する感謝の言葉が抜けてるぞ」
「……この度のご慈悲、誠に感謝申し上げます」
朝田は感情のこもっていない、冷めた目つきでそう言った。
30分後
日本国 首都東京 首相官邸地下
朝田の報告はわずか10分で日本国に伝わり、30分ほどで首相を交えた緊急対策会議が開かれた。
外務省職員が朝田から報告を受けた経緯を説明する。
「……以上のことから、三日以内に手を打たなければミシノミヤコにいる日本人が、全員処刑されてしまう可能性があります。本件について早急に対応を決めなければなりません」
日本人が拉致されて人質に取られているという緊急事態。しかも、相手は属国化要求を突きつけているという。
地球でも考えられなかったあまりの蛮行に、大臣たちは声を張り上げた。
「今すぐ人質を救出すべきだ!」
「危険だ。事を起こせば即刻処刑されるかもしれない!」
「交渉で期限を引き延ばせないのか?」
「無理です。あの態度を前にしては、朝田氏も猶予を三日にするのが限界でした」
大臣たちが激しく狼狽する。期限として朝田氏が咄嗟に言った三日というのはあまりにも短い。パーパルディアの態度からして交渉は不可能。どのみち人質の安否は時間と共に悪くなる。
もはや話し合いの余地はない。兼ねてよりパーパルディアについて幹部自衛官らと協議を交わしていた防衛大臣は、時の総理大臣──武田首相に意見を述べる。
「総理。私は自衛隊による邦人救出作戦を決行すべきだと進言します。彼の国とは話が通じない……もはや実力行使しかありません」
防衛大臣の意見は実力行使。話し合いができないなら武力で奪い返すしかないという話であった。
だが、慎重派な武田首相は自衛隊の出動に少し躊躇いを見せた。
「法解釈はどうするつもりだ?正当性は?」
「そんな悠長なことは言ってられません。処刑されてしまえば取り返しが付かないのですよ」
防衛大臣の強い言葉に、武田はやはり葛藤する。
武田は首相である以上、全ての責任を負う立場にある。確かに自衛隊を事前の根回しなしに出動させるとなると各方面からの追及はあるだろう。
しかし、出動を躊躇って邦人に被害が出たら?その場合の批判はさらに苛烈だろう。リスクを天秤にかける必要があった。
「しかし防衛大臣……どうやって200人もの邦人を救出するつもりなのですか?」
「自衛隊が大々的に動けば、敵に察知される可能性も……」
「大丈夫です。この困難な任務、遂行できる部隊が自衛隊には存在します」
防衛大臣はそこで一呼吸置き、傍の幹部自衛官らを見た。彼らが頷くのを待って、防衛大臣はこう言った。
「特殊作戦群を出動させるのです」
彼の言葉には、各大臣たちはお互い顔を見合わせた。疑問符を浮かべる者もいたが、中にはその部隊の名を知っている者もいた。
「特殊作戦群……?」
「確か陸自の特殊部隊だったか」
「はい。彼らは高度で特殊な訓練を受けており、困難な任務でも少数で達成できます。もちろん邦人救出も想定内です」
「パーパルディアが相手でも、バレずに潜入できるのか?」
「可能です。彼らはそのように訓練されております」
防衛大臣は絶対の自信を露わにしてそう言った。
特殊作戦群──特戦群、または"S"とも略される彼らは、2004年に発足した陸上自衛隊の特殊部隊だ。
アメリカのデルタフォースなどを参考に、陸自の空挺資格持ち隊員や、レンジャー資格持ち隊員などを抜擢して結成されている。。
元々、日本には各都道府県警察にSAT、海上自衛隊にSBUという特殊部隊を抱えていたが、陸自の特殊部隊は日本の中でも後釜である。
だがその練度、装備ともに、彼らはまさしく日本最高級の部隊と言える。隊員名簿はもちろん極秘。今日までは秘密のヴェールに隠されていた。
「特殊作戦群は少数と聞くが、全滅したりしないだろうな……」
「問題ありません。パーパルディア皇国軍の装備している火器類は良くて火縄銃レベルです。現代装備を駆使すれば鎧袖一触です」
「行き来はどうする?邦人は一人残らず救出するんだろう?」
「付近に護衛艦を展開し、ヘリコプターで往来します。また、敵の航空戦力や増援が来る事を見越し、攻撃ヘリも随伴させます」
「敵に落とされる危険性は?」
「夜間を狙って攻撃します。敵の航空戦力は夜間の飛行が困難であり、対空兵器などは存在が確認されてません。また夜間なら、暗視ゴーグルを用いた奇襲が可能です」
各大臣たちからの懸念にも、防衛大臣ははっきりと反論した。
それはまるで、彼の頭の中に作戦計画がすでに存在するかのような具体性を帯びていた。他大臣たちも唸るしかない。
「聞いたところずいぶん具体的じゃないか。もしや前々から検証していたのか?」
「ええ。なにせロウリア事変が迅速に終わったのは、特殊部隊による斬首作戦によるものです。これが今後自衛隊のスタンダードな作戦になる可能性を見越し、幹部らには日夜研究をさせていました」
防衛大臣が隠そうともせずにそう言うので、他大臣たちの懸念は払拭された。それを契機に、総理大臣に視線が集まる。
「……分かった。全ての責任は私が取ろう。防衛大臣、自衛隊の出動を許可する」
「分かりました。直ちに!」
こうして、総理大臣の命を受けた防衛大臣により、特殊作戦群の出動が決定された。
制限時間は約三日。それまでに邦人たちを全員救出するため、プロフェッショナルたちが動き出す……