【完結】日本国召喚IF〜フェン王国邦人救出劇〜   作:特殊匿名群

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第五話

パーパルディア皇国 首都エスシシラント

 

 薄汚いスラム街を、覆面の集団が駆け足で歩いていた。街の騒ぎと対照的にスラム街は静かになっており、時折野良犬が道を横切るくらいだった。

 覆面の集団はタクティカルなアタッチメントが多数装着された銃を構え、周囲を警戒し続けている。その足取りもかなり統率が取れていた。

 そんな集団の中に、一人場違いなローブの男がいた。まるでガイドのように集団に道を教える彼は、突如として手を挙げた。

 

「止まれ」

 

 彼らのガイド役を務めていた第三外務局長のカイオスは、顔を隠していたローブを取り、周囲を見聞し始めた。

 

「カイオス殿、此処ですか?」

「ええ。この辺りのはずです」

 

 カイオスは手探りで周囲の地面を調べている。集団のうちの何人かは、こんな場所に通路があるのか疑問に思っていたが、それはすぐに証明される。

 

「確かこの辺りに……あった」

 

 カイオスはあるものを見つけたのか、地面の石畳みに注目した。

 少し違和感のある石を二つ見つけ、それを二つ同時に押し込む。すると、その数歩先にあった丸い岩がゆっくりと沈み込み、ぽっかりと空いた穴に地下へ続く梯子が現れた。

 

「この下です。下水に見せかけて緊急用の脱出路になっています」

「なるほど。隠し通路か」

「中は暗いですよ。皆さん灯りは?」

「必要ありません。貴方は此処で待機してください」

 

 集団はそう言うと、若手の隊員に合図し、下を偵察するように指示を出す。

 彼はヘルメットに装着されていた二つの双眼鏡がくっついたような見た目をした物体を、目元の方まで下げた。

 そしてそのまま、地下の闇の中へ沈んでいく。しばらくして、偵察を終えた彼が入り口からゴーサインを出すと、残りの隊員たちも中へと入っていった。

 


 

首都エスシラント郊外 秘密通路

 

 ランタンの灯りを片手に、銃を持った集団が駆け足で郊外へと向かっていた。彼らの表情には焦りが見える。

 その集団の中に護られるように、パラディス城から逃れたルディアス皇帝がいた。彼もまた命の危険を感じ、歯軋りをしていた。

 

「(くそっ、列強たる我が国がなんたるざまだ……!何者か知らないが、必ず後悔させなければ……!)」

 

 皇帝の自分がおめおめと逃げ果せる羽目になったルディアスは、その歯茎を擦り合わせるような音を立てていた。

 パーパルディア皇国は列強だ。それがフェンの戦いで指揮官が攫われ、首都が何者かによって奇襲され、街には武装集団がいる。

 恐怖も感じていたが、それよりもそのプライドから激しい怒りを抱き始めた。この奇襲を起こした相手には殲滅だけでは足りない。必ず最も惨たらしい報いを受けさせなければ……

 

「ルディアス様、もうすぐです!」

「ああ……!」

 

 ルディアスを護衛していた近衛兵がそう言ったので、彼の意識はこの地下通路の方に戻った。

 周りは真っ暗闇であり、ランタンの灯りがなければ数メートル先も見えない。

 また、周りに道を知っている護衛がいなければ一人で通り抜けるのも難しいほど、この通路は入り組んでいる。ここまで護衛してもらっていたが、ルディアス自身、敵に襲われる心配は無いだろうと思っていた。

 

 それが油断を誘った──

 

 通路を進んでいた時、もうすぐ十字の角に近付こうとした時だった。

 カランコロン……と、何かが目の前に転がってきた音がした。

 

「ん?」

 

 護衛の一人がランタンを翳そうと、手を伸ばしたその瞬間。

 暗闇が眩い光に包まれた。

 

「うわっ!?」

「がっ、な、なんだ……!?」

 

 眩い光は、近衛兵達とルディアスの視界を完全に奪った。同時に耳をつんざく音が鼓膜を破壊し、脳を揺さぶった。

 ルディアスは耳を塞ぎ、頭の痛みに悶え苦しんでいた。視界が戻らない。何が起きた?護衛は何処にいる?

 ルディアスは恐怖から、ゆっくりと後退りしていく。この状況では足元もわからず、何かに躓いて尻餅をついた。

 

「ぐっ……!」

 

 白く塗り潰された世界が、だんだんとマシになってきた。ぐわんぐわんと揺れる視界の中、目を開けると、目の前には謎の覆面集団が──

 

「動くな」

 

 冷徹な声で銃を向けながら、その男はそう言った。ルディアスは反射的に体が固まった。

 周囲を見れば、護衛の近衛兵達が全滅していた。何が起こったのか分からないが、おそらく視界を奪われた時に排除されたのだと悟った。

 その男は目が四つ付いていた。それは不気味な緑色に光り、ゆらゆらとこちらを睨んでいる。

 

「ひっ、ひぃっ……!」

 

 明らかに人間の姿ではなかった。

 ルディアスは彼らが人智を超えた化け物に見えた。集団は人の手足を持っていたが、その異質な光る眼によって、彼を人だと認識することができなかった。

 

「皇帝ルディアスだな?拘束する!」

「や、やめろ──」

 

 一気に恐怖が込み上げてきたルディアスは、若干抵抗しようとするが、すぐに組み伏せられ、後ろ手を冷たい金属の輪で拘束された。

 

「こちらキタキツネ。第二目標を確保」

『了解した。第一目標はすでに移送済みだ。第二目標はランディングゾーンCに移送せよ』

「了解」

 

 リーダー格の男が、耳に手を当てて何かと会話していた。冷静なルディアスであればそれが魔導通信のようなものだと理解しただろう。

 ルディアスの拘束が終わると、彼は無理やり立たされた。

 

「き、貴様ら、何者だ……?」

 

 震える声でルディアスは尋ねた。するとリーダー格と思しき男が、短くこう告げた。

 

「……俺たちは日本人だ。それ以上でも以下でもない」

「に、ニホン人だと……?」

「そうだ。分かったら大人しくしてろ!」

 

 彼はそう言うと、ルディアスに麻袋のようなものを被せて視界を奪った。彼らはそのまま、地下道の出口の方へと移動させられた。

 


 

首都エスシラント近海 護衛艦〈かが〉

 

 いずも型護衛艦〈かが〉の格納庫の端っこに、一際目立つコンテナが設けられていた。

 隊員達はまるでそのコンテナを忌まわしいものであるかのように扱い、またそれを避けるようにしていた。

 そのコンテナには通気口があり、簡易トイレがあり、硬いベットがあった。そしてその中には、一人の皇族の女性が家畜のように押し込まれていた。

 

「何故だ……何故こんなことに……!」

 

 中に居たのは、皇女レミールだった。彼女は拘束され、謎の飛行機械によってこの船まで移送され、このコンテナに押し込まれた。

 時折外で物音がする。船の中なので少し揺れている。

 そんな時、コンテナの扉が開いたのか、眩い光が刺してきた。思わず目を瞑る。

 

「どうですか?豚箱の中の気分は」

「き、貴様は……!」

 

 あの時の朝田とか言う日本の外交官だった。

 レミールは思わず睨みつける。

 

「昨日以来ですね。正直姿は見たくなかったのですが、言いたいことがあったので」

「貴様!私を解放しろ!私は皇族だぞ!こんなことして、タダで済むと思っているのか!?ルディアス殿下はお前達を絶対に許さない!!」

 

 レミールは噛み付くようにそう言うが、朝田の方は動じることなく、無言で眼鏡を揃えていた。

 

「ああ、問題ありませんよ。それならルディアスも一緒です」

「え?」

「お会いさせることは出来ませんが、パーパルディア皇帝のルディアスにもこの事件に関して関与の容疑がかかっています。また、他属領での蛮行を知っていながら目を瞑っていた容疑もありますので、我が国に着いたら貴方達は裁判にかけられるでしょうね」

「な、なん……だと……?」

「にしてもとんでも無いことをしてくれましたね。貴方が起こした蛮行のせいで、愛しの皇帝陛下まで拉致されてしまうとは……あ、ちなみに国自体は第三外務局のカイオス氏が中心となって民主化の準備を進めておりますので、ご安心を」

 

 その言葉を受け、レミールは信じられないものを見るかのように混乱した。

 

「嘘だ……嘘だっ!」

 

 皇国が、自分とルディアスが築き上げた愛しの皇国が、音を立てて崩れていっている。その事実を受け入れられなかった。

 

「嘘ではありませんよ。あとでエスシラントで出回っている新聞を渡してあげますよ。それでは、ごきげんよう」

「ま、まてっ……!」

 

 コンテナの扉が閉められる。

 こちらを睨みつけながら、朝田の姿が見えなくなった。

 

「あっ……ああっ!」

 

 そうして扉が閉められた後、レミールはあることを理解した。

 自分が日本人を拘束したせいで、彼らは怒り狂った。そのせいで皇国は崩壊した。

 自分のせいだと、理解したのだ。

 だがこうやって拘束されるまで、レミールはそれを理解することはできなかった。何故なら他の文明圏外の国と同じく、皇国の前にひれ伏す程度の奴らだと思っていた。

 

 だが実際はどうだ?

 

 顔を隠した謎の集団。洗練された武器を持ち、人間の視界を奪う幻惑魔法を使う。彼らの統率は凄まじく、皇国自慢の精鋭歩兵をも超えているだろう。

 この船もそうだ。竜母のような甲板が船全体に張られ、その大きさも最初は島でも浮かんでいるのでは無いかと思ったくらいだ。

 それなのに全部鉄で出来ている。この船の前では、皇国のどんな竜母も負けている気がした。

 相手は日本という国。正直舐めていた。皇国の前では敵では無いと思っていた。だが、違った。

 

「くっ……うぅ……!」

 

 レミールには段々と、後悔の念が重なり始めていた。

 皇国は最初から日本に勝てなかった。日本は国として皇国よりもはるかに格上だったのだ。レミールは最後の最後でそれにようやく気がついた。




話としては完結しましたが、このあと番外編が一つが二つほどあります。
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