【完結】日本国召喚IF〜フェン王国邦人救出劇〜 作:特殊匿名群
一連の戦闘から一週間後
旧パーパルディア皇国 首都エスシラント
【号外:共和国新首相、カイオス氏で確定か】
『共和国の新首相の座を巡る政治争いにチェックメイトが掛かった。
我が国最初の民主選挙を前に、該当調査では新首相候補の中でカイオス氏とエルト氏の票数が並んでいたが、エルト氏は首相立候補を断念する旨を発表したため、現在はカイオス氏の圧倒的優勢となっている。
選挙をいよいよ一週間後に控える中、他の候補者の票数が伸びるかどうかが注目される。』
一連の事件と戦闘から一週間が経った。
幸いにもエストシラントの街に被害はほとんどなく、すぐに日常が戻っていた。
そんな中、労働者と思しき若者二人が今朝発行されたこの新聞を囲んで雑談していた。
「結局新首相はカイオスさんになりそうだなぁ」
「意外だよな。エルトの方が立場的に適任だったろうに」
「エルトさんが立候補しなくなった今、カイオスさんの独壇場さ。元々外交手腕もそれなりに大きかったし、根回しも得意な人だから埋もれてただけかもな」
二人は新たな首相候補となっている二人について語る。
日本によって皇女レミールと皇帝ルディアスが逮捕されて以降、パーパルディア皇国は急速な変化を迎えていた。
まず国家体制が民主化された。外務局に勤めていたカイオスやエルトらが中心となり、貴族や軍の勢力を排除。これからは民主が選挙を行い政治家を決める時代になりつつあった。
だがそんな急激な体制変化を好ましく思う者ばかりではない。その二人の若者に対し、少し年老いた中年が怒りに満ちた表情で問いかける。
「お前ら──おかしいと思わないのか?」
「は?」
「何がだよおっさん?」
若者二人が惚けるので、中年はついに怒りが爆発する。
「もう忘れたのか!?我が皇国はニホンとかいう文明圏外の蛮族に奇襲攻撃を受けたのだぞ!しかもそれで我らの皇帝ルディアス様と皇女レミール様が連れ去られた!覚えているだろう!?」
「ああ、それで?」
「悔しくないのか貴様ら!?我が皇国の象徴が拉致されたんだぞ!我が国は列強だ!文明圏外がこんな蛮行して許されるはずがないだろう!!」
中年は愛国者だったのか、さらに捲し立てる。それを若者二人は鬱陶しそうに聞いていた。
「しかも!跡を継ぐはずだった皇族も全員三日以内に不審な死を遂げた!これは明らかニホンの陰謀だ!!選挙なんてやってる暇があったら、今すぐニホンに攻め込み、奴らを皆殺しにし──」
「言っとくけどよ……おっさんさ、ウチの国を誰にも知られずに奇襲してくるような奴らを相手に戦えると思ってんの?」
「え?そ、それは……」
若者二人はついに耐えられなくなり、中年の言葉を遮って現実を伝える。
そうだ。列強と呼ばれたこの皇国を、誰にも知られず奇襲してくるような相手だ。皇国軍が束になっても叶うはずがないのは明らかだ。
「みんな悔しいのは多少あるかもだけど、やっぱり分かってんだよ。ニホンには勝てない、挑むだけ無謀だってね」
「な、なんだと──この腰抜け共め!」
「現実見ろよおっさん。まあ、幸いにも犠牲者は軍人だけだったみたいだし?しかも民主化とか言って、俺たちにも政治に関わる機会が与えられたわけ。悪いことばかりじゃないと思うけどな?」
「くっ……!」
若者二人にそう諭され、中年は悔しそうに唇を噛み締めるしかなかった。
それから数日後
神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス
眠らない魔法都市と呼ばれた神聖ミリシアル帝国の首都ルーンポリス。
その中心地にあるアルビオン城にて、この国を統べる皇帝ミリシアル8世は報告を聞いて久方ぶりに驚愕していた。
「パーパルディアで大規模な政変だと?」
「はい。パーパルディア皇国の皇族・貴族体制は崩壊、国は民主化を推し進めるようです」
ミリシアル8世は情報局局長のアルネアスからの報告に首を傾げていた。
パーパルディア皇国はミリシアルには遠く及ばないとはいえ列強だ。それが簡単に政変するとは思えない。聞くところによると政変というより転覆に見えたのもおかしかった。
「我々の分析では、彼の国の体制に弱点はあれど、もう十年は植民地体制が続くと見ていたが……?」
「それが、これはニホンという国による対外工作が疑われるのです」
「なんだと?」
ミリシアル8世は一度報告を聞いたことがあるだけの東の果ての文明圏外国家の名前を出され、激しく困惑した。
アルネアスは報告を続ける。
「まず事の発端ですが──」
同日
グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ 戦略情報局
一方で、西の果てにて全く同じ旨の報告を受けている者がいた。
グラ・バルカス帝国という転移国家、その首都ラグナにある戦略情報局だった。
「特殊作戦群、だと?」
「はい。彼らはニホンの特殊部隊です」
情報局局長のバミダルは、報告にあったその部隊の名前を聞き、首を傾げた。
バミダルが首を傾げるのを見て、報告を受け取っているナグアノがその部隊についての補足説明を行う。
「彼らはフェン王国での作戦を完璧に成功させ、犠牲者ゼロでニホン人の人質を救出。さらにはその足でパーパルディア皇国の首都に潜入し、事件の首謀者を確保、政府を転覆させたようです」
「手際が早いな……たった数日間の出来事とは思えん」
「これを可能にしたのが、特殊作戦群という、ニホンの陸軍が有している精鋭特殊部隊です。偶然にもエスシラントで彼らの姿を捉えた写真があります」
ナグアノはそう言って、何枚かの白黒写真を見せてきた。そこに写っていたのは、日本の特殊作戦群の隊員達の姿。
「これは……興味深いな」
全員顔を隠しているので実態は把握できないが、持っている武器や列の並び方、そしてナグアノからの報告によってその練度の高さが補完されていく。
「彼らの武装は、軽量な自動小銃で統一されていました。現地の諜報員によると、弾丸は中口径と予測され、我が国が開発中の突撃小銃に似ているとのことです」
「専用の中口径弾薬を用いるというアレか……」
「ええ。ニホンが歩兵にその小銃を携行させているのは驚きですが、彼らが作戦中に使用した航空機にも興味深いものがあります」
ナグアノは別の写真を取り出して提出した。
それは日本の陸上自衛隊第102飛行隊が保有するUH-60Jブラックホークが、エストシラント上空を飛んでいる姿を捉えた物だった。
「これは?」
「プロペラが上向きに搭載された大型の回転翼機と思われます。彼らはこれを帰投時の兵員輸送に用いていました」
「……つまり彼らは、パーパルディアにバレずに潜入し、この回転翼機でトンズラしたのか」
「はい。また、ニホン国内で出回っている新聞記事によると、フェン王国での作戦にもこれが使われていたようです」
ナグアノの報告がひと段落すると、バミダルは考察に入った。
日本という国は情報によると、ロウリアを下した時に砲が一門しかない貧弱な船しか持ち得ていなかったという不思議な国であったが、ここまで手際のいい作戦でこの世界の国を転覆させたとなると、話が変わってくる。
「現地に潜入し、奇襲を仕掛け、国家の首脳陣を確保し、回転翼機で撤収……なるほど、非常に計画的で綿密な作戦だ。手際がいいのも頷ける」
「そしてこの方法で敵国の首脳陣を短時間で一層……さながら"斬首作戦"というべきでしょうか。ニホンがこのような作戦を行う能力があるのは想定外でした。彼らに対する認識を改めなければならないかもしれませんね」
ナグアノはバミダルに伝わるよう、警告を交えてそう言った。
確かに、このような高度な作戦を行える国の評価は改めなければならないだろう。だがそれよりも、バミダルの脳内にはある可能性がチラついていた。
「……思ったのだが、彼らが行ったこの作戦、我々も出来たりしないかね?」
「は……どういうことですか?」
バミダルがいきなり予想外の事を言うので、ナグアノは困惑した。
「例えばムーを攻略する際、わざわざ正面から攻めるのは骨が折れるだろう?それならオタハイトにいるであろうムーの首相や国王なんかを特殊部隊で暗殺して……」
「我々も斬首作戦を行う、と?」
「ああ。ムーは民主主義国家だから、政府中枢の人間が全滅したら選挙を行う必要がある。悠長なことをしている間に指揮系統は崩壊し、攻めやすくなる」
「なるほど……それはいい考えかもしれません」
バミダルほ斬首作戦の有用性に気付いていた。
帝国の政府及び帝王府は次なる目標としてムーの攻略を考えているが、文明差があるとはいえ、今度の相手は一応近代的な火器類を持ち合わせた列強中の列強だ。
正面から戦うのでは要らない損害が出てしまうかもしれない。だったら尚のこと、工夫というものを凝らす必要がある。斬首作戦はそれに打って付けに思えた。
「作戦の人員はどうしますか?相当優秀な者達でないと務まりません」
「暗殺部隊なら外務省に山ほどいるだろう?彼らを選別し、陸軍にも斬首作戦のための特殊部隊を設立させよう」
「撤収はどうしますか?ニホンのように兵員輸送ができる機体があれば便利です」
「それなら……確か陸軍が飛行場がない地域での運用が可能な垂直離着陸機の研究を行っていたな。輸送機だから兵員輸送も可能だったはず」
「ゲームのための道具は揃いましたね」
「ああ。完璧だ」
ナグアノの言葉にバミダルも笑みを浮かべた。
「すぐに上層部にニホンの情報と、特殊部隊の増強を打診しよう」
「これから忙しくなりそうですね」
「ああ。全くだ」
二人はそう言うと、今回の報告を上層部にまとめる作業に入った。
そしてその報告書は、特殊部隊の新たな活用法として注目され、実際に海軍や陸軍等でそれぞれ特殊部隊が設立される事になる。
ご拝読ありがとうございました!
これにて完結です。