Sideミヤ
私たちが誘拐されてしまったのを、クオーネちゃん…友達のせいにしたくない。
誘拐されたのはあの獣人族が悪いのもあるが、私もあいつは冒険者だからといって今すぐにでも殺せる魔法を使わなかったというのも悪いと思う。
獣に神は居ないのに。
私は今、とある港町の倉庫に沢山の人種の人たちと一緒に押し込められている。
脱出しようとすれば獣人種に“この世に生まれ落ちた事を後悔させる程の拷問”をされて殺されるらしい。
そんな脅しを受けているものだから、人質達はすっかり怯え切って、明日を生きるのも諦めて今すぐ自殺してしまいそうな雰囲気だった。
そんな中、私が励ましの言葉をかけたり、布教をしたり、水を出したりで、希望を繋いでいっている。
私はいつでも脱出可能だし、なんなら今すぐに獣を皆殺しにして脱出しても良いのだが、女神様が、
【今脱出されるとちょっと困るのよ。一塊になってくれると救出しやすくなるから。
でも獣人たちの振る舞いに我慢できなくなったらいつでも脱出しても良いからね?救出出来ない訳ではないから】と仰っていたので、こうして今倉庫の中にいる。
「ミヤ…わたくしたちは一体どうなってしまうのでしょうか…?」
「大丈夫。私が付いてる。最悪の場合獣たちを皆殺しにすれば良い。それが出来るし、クオーネちゃんだって出来る」
クオーネちゃんが不安そうに言っているので、少し女神様からのお言葉を伝えてみる。
「クオーネちゃん。女神様は『絶対に救出する。でも脱出してバラけてしまうと救出しづらくなっちゃうからそのまま待機して』って仰っていたから。私たちは女神様直々に助けるって言われてる。だから大丈夫」
「随分と具体的な予言ね…」
「女神サーシャ様はこの世に舞い降りた女神様だからね。リアルタイムで行動なさっているのだから具体的なのは当たり前だよ」
その言葉を聞いて安心したのか、軽口を叩く余裕が生まれたようだ。
この場には私の女神様の…『真性種族の集い』を布教した人達しかいない。女神様に祈りを捧げている上、
女神様から直々に助けると言われた私がいる。それは大きな希望となったようで、私がここに連れてこられた時のような明日に絶望している雰囲気は完全に消失していた。
しかし消失したはずの雰囲気は獣人の来訪によって復活を遂げる事になる。
倉庫の扉が開けられる。しかし前のような配給の時間ではない。紙を持った獣人が複数…殺れるが我慢。
「くっせ!
「本当だよ全く……さっさと終わらせようぜ」
「だな。とはいえこの倉庫は人質専用で戦える奴は殆ど居ないから、仕事はすぐ終わるだろ」
そう言って紙束をペラペラとめくりながら倉庫を物色する獣たち。
「こいつとそいつ、あと、奥にいるそいつも冒険者として経験がある。あとは……魔術師が2人居たはずだ。1人を人質として残して、1人は連れてけだと」
「!?」
その言葉に、クオーネちゃんが反応する。
獣の視線が、私とクオーネちゃんに集中する。
この場合、勇気を出すまでも無く─────
「私が魔術師です。私を連れて行ってください」
と私は言ったのだった。
クオーネちゃんは獣の威圧感に押され、震えて声も上げられないようだ。
……可哀想に。こんな獣共に殺されそうになってしまうとは。
「こっちへ来い。下手なことは考えるな。人質を死なせたくはないだろ?」
連れ出される途中でそんな事を言われるが、薄っぺらい。いつでも殺せる。連絡されるより前に、早く。
あたりの気配を探知して、連絡用の獣がいないかを確認する。獣が倉庫の鍵を閉め終わった時、見張りを残して歩き出した。獣はすぐに立ち止まって釘を刺すように、
「倉庫から出られたからと言って、無駄な足掻きをするなよ? 下手に俺達に逆らえば倉庫に居た人質、別の場所に居る知り合い達を殺す。ただ殺すんじゃない。産まれて来たことを後悔させるほど苦しめて殺してやる。俺達が殺すんじゃない、おまえ達が無駄な抵抗をしたから拷問されて殺されるんだ。そうならないためにも大人しく指示に従えよ、分かったな?」
と言うが、わざわざ立ち止まってそんな事を言う。
台詞が長いせいで気配探知も完了してしまった。
(私を囲むように3匹、見張りで2匹、推定連絡係で1か2匹…そして人質が私を除いて2人…)
連絡係を最優先で殺すように気をつければ…行ける!
誘拐時はあのエルフモドキと同じ行為を働く事になるのではないかという躊躇があったが、女神様から直々に殺しても良いという許可を貰っている。
もはや負けようが無い。
倉庫より少し歩いたところ。2mも歩いてない。
獣は3匹で私を囲むように立つ。1番前の長セリフを言った獣は、私から背を背ける事になる。
私は視線を合わせる。確実に殺せるように、首。
魔法を発動すると、見えない刃が獣1匹の首を飛ばした。
「「……は?」」
突然の事に呆けてる獣2匹を、連射性と速射性に優れる『
当然、倉庫に当たらないように撃つ。
レベル差がそんなに無い事に加えて、超火力の貫通魔法を喰らった獣2匹は、あっけなく頭を砕かれた。
あと3匹くらい。
ようやく目の前で起きている出来事を理解できたのか、とりあえず斧を構える見張り2匹。*1
連絡係は…『
他の倉庫に走り出そうとするのを、首を正確に狙う暇はなかったので、とりあえず袈裟斬りになるように切断しておく。
あと2匹。
ここで倉庫に向けて『
『
(友だちのいる建物は
迷っているのか武器を構えているのに振ろうとしない見張り1匹を、首を狙って切る。
もう1匹は、とりあえず武器を振ろうとするが、あまりにも遅い。私が武器ごと首を切る方が早かった。
連絡係がまだ生存していたので、首を切って確実に絶命させる。
残り0匹。戦闘終了。
ここまで5秒。あまりにも呆気ない。
しかしこれで良い。
倉庫の鍵を獣の持っていた鍵で開けて、外で連れていかれそうだった人も中に入れて、人質になっているみんなに告げる。
「皆さん!見張りの獣人はみんな私が殺しました!」
そういうと、少し経った後歓喜の声と動揺の声が入り混じった声が聞こえ出した。
私は付け加える。
「動揺してる人も、喜んでいる人も、正しいと私は思います。もしも追加の獣人が来たら。もしも軍隊が来たら。そんな不安があるかもしれません!」
「そうよ…見張りの獣人はどれだけいるか分からないじゃない…もし見張りの獣人より圧倒的にレベルの高い獣人が来たら…どうするの?」
クオーネちゃんが動揺側の総意であろう意見を言う。
クオーネちゃんは獣人の威圧感に当てられて恐怖してしまっている。
「ええ!そう思うのも無理はありません!あくまでも私が殺したのは見張りとちょっとの連絡係!これから私は
無数にいる見張りとの終わりない闘いが始まってしまうでしょう!」
みんなを不安にさせるようで申し訳ないけど、事実だ。しかし不安を覆す宣言をする。
「ですが皆さんご安心を!」
「来た順に殺します!」
「幸いにも私の持っている魔法は、初見では碌に対応も出来ない一撃必殺の魔法です!そしてそれは!
クオーネちゃんもそれに似た魔術を使えます!」
クオーネちゃんがびっくりした声でこう言った。
「嘘…あれと戦えって言うの!?」
私はクオーネちゃんに近寄り、手を取ってこう言った。
「クオーネちゃん。ゾルトラークが使えるなら、獣人なんて敵じゃない。あれは恐ろしいように見えるだけの見かけ倒しだよ。だから大丈夫。クオーネちゃんが撃てない隙間は、私が埋めるから!」
そういうと怯えて何も出来ない顔だったのが、恐ろしいのは変わりないけど、勇気を持って歩み出せる人の顔になった。女神様が見たら恐らくお喜びになられる顔だろう。
「そう…言うのならば…やってみますわ。足を引っ張らないようにはしますから…ミヤも、死なないで。」
「もちろん!任せてよ!」
この場の雰囲気が全て歓喜側に染まって行くのを感じながら、
私たちは見張りの補充を見張る係をする事になった。
同時に女神様に念話カードを使って念話する。
【女神様、女神様!】
【どうかしたの?こっちは獣人から宣戦布告の文書が届いたばっかりでちょっと忙しいんだよね…私はやる事ないから良いけど、もしかして獣人殺した?】
【そのもしかしてなので…お恥ずかしながらいくら私でもクオーネちゃんがいるとはいえ待機している見張りの獣人を全滅させるのは不可能なので…お力添え頂ければなと】
【いいよ!ちょうど救援部隊の編成も終わったところなんだよね。そっちの方に予定前倒しで担当の救援部隊送るから、その間待っててね?】
【はい!ありがとうございます!】
【ああそうだ、担当の人の特徴伝えておくね?全身が金の鎧で包まれてる騎士と、褐色の女の子の暗殺者が助けに来るはずだよ。転移カードもあるし、場所探知もあるから、来るまでには10秒も掛からないんじゃないかな?】
ここまで会話したところで、タイミングが悪いことに獣人の補給が来てしまった。
目視で5匹。まだ私たちを認識出来ていないようだ。死体を残しているため、数秒後に気づかれるだろう。
【すみません、獣人の追加が来てしまいました…念話はここまでとします…】
【そっかー、楽勝だとは思うけど、頑張って!】
女神様から激励の言葉を頂いてしまった。これは救援が来る前に出来るだけ獣人を殲滅しなければ…!
そう思った私は、見張りがいないことと死体を見て緊急事態だと感じた獣人が倉庫の中を覗きに来るタイミングで、ゾルトラークをクオーネちゃんと同時に撃つ。
入り口前に立っていた獣人は全員砕け散った。残り2匹。
1匹は倉庫に突っ込んできたので、首を切って対処する。
そして残りの1匹は逃げ出そうとしていた。
(マズイ、『
焦って『
逃してしまう…!
そう思った時、獣の胸からナイフが飛び出した。
「救援の人…?」
獣を殺したこと、到着に10秒かかると言う女神様のお言葉、見た目と暗殺者であると言う点をつなぎ合わせ、そう結論を出した。
「ええ、その通りです。私はネムム。あなた達を助けに来た者です」
その言葉に安心したのか、クオーネちゃんが膝から崩れ落ちる。
「良かった…死ぬかと思いましたわ…」
「…ありがとうございます。この後は倉庫の人たちを保護してもらっても…?」
「元よりそのつもりです。後は我々にお任せを」
そう言ってからは早かった。
あとから来た黄金の騎士さんが警戒しつつ、数が間違っていないかを確認。
その後、複数人を対象に出来るワープカードを用いて女神様の地上でのお住まいにワープして、
衣服や食事を用意してもらう事になった。
そしてネムムさんから協力要請がくる。
「戦いが始まったら、まだ動ける気力がある者達には、再び転移して獣人種のクソ共によって無理矢理戦いを強いられている者達を助ける手助けをして貰いたい。戦う必要はない。自分達が無事だと知らせて欲しいんだ」
との事。私は当然これに協力して、少し休息を挟んでから戦場に出る事になった。
この後は戦場に出て矢の雨を弾き、人種の人たちに希望をもたらし、保護された人種の人たちに聖女と勘違いされそうになるも、宣教師ですと改めて説明して、女神様の布教に成功したのだった…。*2
Side サーシャ
獣人種虐殺より5時間後。
獣人種なんかに使っても良かったのかと思うが、まあ代替手段はあるし、別にいいだろう。
『
敗戦処理も、『巨塔の魔女』と呼ばれるようになったエリーと、神光バベル王国の国王たるライト君が行っている。
これでまた一つ、国から人種奴隷制度を無くす事ができた。
後は竜人種、魔人種の国だけ。それも動きがあるまでは行動できないので、やっぱり待ちになるだろう。
『ますたー』の確信に迫る情報はここにしかないと考えているため、調査も力を入れているが、
並行世界能力を利用して現実改変をしても機密性の高い情報に触れる事ができる地位まで登るのは厳しいそうで、
しばらくは巨塔街の整備、冒険者のランクアップに心血を注ぐ事になりそうだ。
私はこれからの事を考えながら眠りに付くのだった…。
Qミヤちゃんの現在のスペックは?
A魔術使えるなら誰でも扱える
感覚に極端に左右され、しかも普通に難しい
ミヤちゃんがヴィーナスエクスカリバーノヴァを撃ったあと、折れぬ支柱のネックレスと神の力に触れたのが原因で、「イメージ次第で理論と魔力を補って魔術を発動できる」力を手にしています。無自覚です。
感覚で
次回、魔人国『ますたー』編。多分。