アヴニールについて:実は、演技が結構得意。感情を抑えるのも得意。
前回のあらすじ
鰤
side ライト 1人称
まず僕たちは最初に出来る限りの攻撃を仕掛けた。
僕はグングニールを『
そしてサーシャさんは『ヴィーナスエクスカリバーノヴァ』を初手で撃つ準備を始める。
ミキは『蜚蠊の皇帝』戦でも使ったという超高温蜂の射出。
そしてエリーは魔導書を出来るだけ一つにまとめて『星の撃ち抜き』や『
この戦いにおいて、エリーは
普段なら超強力な魔法を一言で連発するまさに『禁忌の魔女』と言うべき器用万能さを見せてくれるのだが…。
仲間の事をこう言うのは良くないが、今回は攻撃面での活躍は期待できないとしか言えない。
しかしエリーの魔法は攻撃だけじゃない。
エリーの役割は、
同格、もしくは格上の戦いは、情報をより多く持っている者が勝る。
そして今情報を限りなく多く持っているのが、アヴニールだ。
バリアを破る手段を得るために、もしくはバリアを破るまでも無く殺す手段を探るために。
そしてこれは重要なのだが、
ヴィーナスエクスカリバーノヴァで死ぬ原因は、魔力が枯渇した状態になったら無理やり生命力を魔力に変換して生命力が無くなるというのが原因だ。
しかも事前にする『魔力の前借り』の代償で生命力がマイナスをぶっちぎるため、『
だから蘇生魔法が凄まじいのだが、『超再生蜂』は違う。
しかしそれは『超再生蜂』が蘇生魔法より優れているのかと聞かれたらそうでもなく、ヴィーナスエクスカリバーノヴァの代償のように『生命力と魔力だけが枯渇する』という特殊な状態でしかその仕様は有効活用できない。
そして復活に5秒かかる。ヴィーナスエクスカリバーノヴァは魔力を前借りするので魔力は無くても最悪発動出来る。それでも準備に時間が掛かるから…発動まで10秒ほど掛かるだろう。
要するに…“今のサーシャさんは10秒隙を晒すだけでヴィーナスエクスカリバーノヴァを連発出来る”という事だ。
みんな無意識にサーシャさんの攻撃を軸にしてバリアを破ろうと試みていた。
「これはこれは…熱いお出迎えだね?」
まず最初に到達したのは僕のグングニール。もちろん弾かれる。一瞬で僕の手元に戻る。
次にミキ。地面を溶かしながら蜂が飛来するが、当然防がれる。地面を柔らかくしただけだった。
そしてエリー。言うまでもなく防がれる。目眩しにもならなかった。
「さて。あの剣は流石にやばいね…」
アヴニールが言う。
やっぱりあの剣はアヴニールにも届く。
しかしバリアを割れなければ
何かしらで行動を阻害出来れば良いのだが、まあ無駄だろう。
アヴニールは攻撃を回避しようと転移する。
「ヴィーナスエクスカリバーノヴァ!!!」
光の剣が振り下ろされたが、そこにアヴニールはいなかった。
普段ならもう撤退させているが、今は違う。5秒の隙をなんとかしてカバー出来れば、何度でも連打出来る。
「エリー!カバーを!」
「了解ですわ!」
エリーはまだ死んでいるサーシャさんに駆け寄り、カバーするように『
当然バリアに阻まれる。
普段は頼もしい猟犬達は、あらぬ方向へと追いかけていってしまった。
僕は使うべきカードを選択する。
「
このカードは、使用者の認識を邪魔せずに上から戦況を俯瞰出来るカードだ。
僕の脳裏にこの戦場の状況が浮かぶ。
平原のような場所。
グングニール2段階とミキの弾丸の影響で更地になった森。
戦場の広さはおおよそ1km程。
『
アヴニールが一番前。
そこから10m程離れて僕。右斜め下にミキ。左下に復活したサーシャさんとエリー。
この状況は、『
「囲むのは意味がない…だが…」
その時、アヴニールが『泡沫』を持った腕を振ったのが見えた。
攻撃だ。
それは強烈な変化を拒む不壊の真空波となり、エリーに向かって飛んでいく。
「!? ぐっ!」
エリーの体が真っ二つになりかけるが、『超再生蜂』の再生が早すぎて切断に至れていない。
………あの再生力、USRカードレベルじゃないか…?
そう思っていた時、ミキの両腕が消えた。
サーシャさんは光の剣をまた構えている。
「新創造!『私は』『レベル9999の私の両腕を犠牲に』『
ミキの腕が再生する途中で、目が時計の形になっている蜂を召喚。
その蜂が破裂すると、新たに大きな魔法を発動させようとしていたアヴニールの動きが完全に止まった。
「それは10秒しか持たないわぁ!早く!」
総攻撃を仕掛けろということか。
「行くぞ皆んな!最善の配置で、最高の攻撃を!」
「「了解(ですわ)!」」
残り7秒。みんな最高の位置に着いた。
被害を分散できるように、しかし連携も可能なように。
残り6秒。サーシャさんがヴィーナスエクスカリバーノヴァを撃つ。
巻き込まれる心配は『
バリアが破れたように見えないが、時が止まっている時はいつもこういう事が起こる。結果は時が動き出した後の話だ。
残り5秒。僕がグングニールを投げる。アヴニールに当たった瞬間に僕自身がアヴニールの至近距離にワープし、グングニール2段階目の破壊力を極限まで圧縮した攻撃を絶え間なく続ける。
残り3秒。ミキの弾丸の群れが一斉にアヴニールに飛来した。僕を巻き込む事は無く、全部アヴニールにヒットした。
残り1秒。これでバリアが割れていた時に備えてエリーに解放コードの詠唱準備を指示。
そして時が動き出す。
「!!! ぐぅ!」
アヴニールの呻き声が聞こえる。
初めてまともにダメージが入ったように見えた。
バリアは割れているように見えないが、ヴィーナスエクスカリバーノヴァのダメージは入っている。
理屈無視の効果がバリアを貫通させているんだろう。
…ん?理屈無視?
「時間停止か…範囲を絞って私ですら認識出来ないようにしたな…」
「
考えろ。今はミキがアヴニールの相手をしている。
『混沌』の
そして100%のグングニールは、平常時だと弾かれる。
「ふぅ…結構な事をしてくれたね!お返しだ」
「!? 空から…隕石が!?」
100%のグングニールとヴィーナスエクスカリバーノヴァの違い。
それは
もちろん、解放しただけで何かしらの概念が消えている可能性があるけれども…それを確認する手段は奈落には無い。だけど、僕の直感的には解放しただけでは何か概念的なものは消えていないと思っている。
理屈無視。破壊力自体は同じなはずなのに届かない攻撃。
「ライト様、何を考えていらっしゃいますの?」
「…隕石の対処をしたら言うよ」
「了解ですわ」
即座に空を飛び、隕石の真下に向かい、破壊する。
発動する手間もあり10秒に一回しか発動出来ないヴィーナスエクスカリバーノヴァは隕石の対処には使わない。
グングニールで十分なはずだ…!
「サポート致します!『冥府より続きし
グングニールで砕いた隕石を、『冥府より続きし
隕石はあっさり消えた。
地上では、ミキがサーシャさんに飛んでくる攻撃を防ぎ続けていた。
地面にグングニールを投げ刺して攻撃を防ぐ壁としてサポートする。
落下している最中にエリーが僕に質問した。
「先ほど何かお考えの様子でしたが…何かありますか?」
「ああ…ヴィーナスエクスカリバーノヴァだけアヴニールのバリアを突破出来る理由について考えていたんだ」
「……なるほど…」
エリーは考え込む。
少し間をおいて、全てに納得したかのような顔をする。
「ライト様。アヴニールの正体が分かったと言ったら、どう思いますか…?」
「!? 分かったのか!奴の正体が!」
少なくとも人間ではないとは予想していたが、具体的に何かが分からなかった。
概念干渉がどうしてアヴニールの正体に繋がるか分からないが、正体があるという事は…奴も、ただの怪物ではないという事!
「その正体は…なんだ?」
その答えを聞く前に、地面に着地する事になった。グングニールはアヴニールの攻撃を食い止めるために投げたので、それを回収。
同時にエリーが着地し、アヴニールと向き合う。
「アヴニール…貴方の正体を暴かせていただきましたわ!もちろん、答え合わせに付き合っていただきますよね?」
「……付き合ってはあげるよ…」
アヴニールは一瞬だけ怪訝そうな顔をした後、諦めたような顔になった。
そしてエリーが全員に聞こえるように叫ぶ。
「アヴニール!!あなたの正体は…」
「道理に沿ってでしか生きられず、道理に合わなければ存在すら許されない特殊な概念生命…そう…」
「『道理存在』!それがあなたの正体ですわ!」
戦場に、沈黙が訪れた。*1
道理存在。
エリーの説明が全部正しいなら、道理に沿うだけの生命体。それがアヴニールの正体だ。
しかしそれは…本当なのか?
道理に沿う?
道理ってのは、物事が進むべき正しい道、人として守るべき道徳や常識って意味のはずだ。
間違っていて欲しい。仲間が正体を暴いてくれたのに、それを心の奥底から願ってしまった。
しかし現実はそういかなかった。
アヴニールは少し考える顔をしたあと、少し苦しそうな声で答え合わせをした。
「正解だよ。私は、人間じゃなくて…世界の道理を理解し、それを実行する存在…ただただ
「ふざけるなぁぁぁ!!!」
僕の心の奥底から上がって心を満たした怒りが、そのまま絶叫として戦場に響いた。
「僕の!復讐を台無しにした挙句に!仲間もほぼ全員奪った事が『正しい事』!?ふざけるな!!じゃあ僕のこれまでの行いは全部!全部全部!『世界にとっては正しくない事』だったのか!?」
アヴニールは即答する。まるで決まった答えを返しているかのように。
「そうだよ?君の存在は、世界にとっては害でしか無い。君の仲間も、君の
「……!……!」
歯を折れそうな程喰いしばる。
落ち着け。こいつは怒りに任せて倒せる程弱くない。
そう自分に言い聞かせるが、僕の仲間を否定されて、僕自体がいない事が、あの日僕が種族の集いに虫ケラのように殺されかけた事が正しい事だと言われて冷静でいられるはずがない!
グングニールを衝動に任せて完全解放しようとした瞬間、エリーが冷静に言った。
「嘘をおっしゃいますのね。流石にここまで真っ赤な嘘を吐くというのは、流石のあなたも危ない橋を渡る行いでは?」
「……は?嘘………?」
「嘘の部分は…そうですわね、『世界にとって』から全て、ですわね。あなたは嘘を吐く時、腕にほんの少し、本当に少しだけ力を込める。それも不自然に。それと一緒に、それが嘘であると証明出来る論理が2つございますわ」
エリーのおかげで冷静さを取り戻す。
さすがはエリーだ。自分の主がここまで否定されているのに、冷静に思考出来るのか。*2
アヴニールは緊張した面持ちで、深呼吸したのちにエリーに回答を促す。
「……そうかい…。なら、言ってみなよ…」
「では、一つ目。『世界というマクロな視点で見た場合、我々奈落はただ世界のシステムの一部である
もちろん、ライト様の恩恵は平行世界に干渉しますが、本当にライト様の恩恵が世界にとって正しくないなら、あなたの道理存在としての権能を用いて消去できたはずですわ。*3
あなたの事を、少し暴かせていただきましたが…世界を壊す
『我々奈落の存在が正しくないなら、最初に無限ガチャを消去して奈落を蹂躙すれば、ライト様を担い手にする事ができるのに、それをしなかったから』ですわ。
そこに最善の方法があるのに、しないという事は…あなたの行い自体が、『道理にギリギリ沿ってはいるだけ』だから、なのでは?道理に完全に合わない事は、あなたには不可能なはずですので…さしずめ、無理やり奈落の行いを『世界にとっての道理に合わない』と認定したんでしょう。だから権能が使えない。
結論を言いましょう。あなたは…『奈落を敵視していないし、ライト様の存在も別に道理に合っていると思っている』ですわ。そう、
「……………」
長い沈黙があった。
怒りは向かう先を失っていた。
じゃあ、こいつは…実質何もしていないのか?
良く考えれば、元種族の集いだって、首を切断されただけだ。
あれなら急いで状態保存魔法か、もしくは遺体を引き摺り出して蘇生魔法をかければ…復讐は終わらない。
仲間を返却しきれるのにしないという事は…こいつの意思次第で全てを元通りに出来るという事。
奈落に来たのも、僕が『混沌』の担い手になって欲しいから。
一言も『奈落を敵視している』旨の発言をしていない。
「…………お前は…一体、何がしたいんだ?」
前の戦いの最後にサーシャさんがした問い。
それを今度は僕が投げかける。
「言っただろう。私は…『混沌』の担い手が欲しいだけ。ただ、それだけだ」
「そうじゃない。仮に僕が『混沌』の担い手になったとして…それで、何をしたいんだ?」
その言葉に答えが返ってくる事は無かった。
アヴニールは複雑な表情をしていた。そして深呼吸の後、決意を固めた顔をする。
代わりに飛んで来たのは、細い糸だった。
「『
「答える気はない、か…」
細い糸の攻撃自体はメイとの訓練で慣れているので、回避は容易だ。
しかし問題は奴が口走ったヒールレスという言葉。あれは…回復阻害?
バフ蜂のおかげで全員回避出来ているが、攻撃のチャンスが訪れない。
そして40秒程経過した後、均衡が崩れる。
「!!」
サーシャさんが糸に掠った。掠った分だけ皮膚が抉り取られ、血が流れ始める。
「完全な回復阻害属性付き攻撃…ですか…」
「本当に…なんでもやれるのねぇ?」
その傷は再生する事は無かった。
今もまだ『超再生蜂』の効果は有効だ。
攻撃しようとしても糸に切り刻まれ、グングニール以外ではろくに防げない糸の結界は、戦場に静謐をもたらした。
糸の使用開始から2分後、急にアヴニールが糸を収束させ始める。
「そうだなあ…全部、取り返しが付くのが悪いなら…もう、いいか」
「? なんだ?」
何かをしようとしている事はわかる。地面に何かを仕込んでいる様子もない。空にもない。
ただ大技を撃とうとしているのか?
ならこっちも…。
「サーシャさん、ヴィーナスエクスカリバーノヴァの準備をお願い!」
「了解…」
警戒を解く事はない。
何かをしようとしているなら、こっちも最強の技を出すだけだ。
エリーが側でサポートに付き、移動先を予測してアヴニールが回避出来ないようにする。
静かに準備が進んでいく。
アヴニールは決意したような表情だった。
まるで…
ヴィーナスエクスカリバーノヴァの準備が終わる。
アヴニールも、糸の収束を終えたようだ。
「取り返しが付かない…そう…例えば…」
剣が振り下ろされる。
「ヴィーナスエクスカ…」
「回復不能の攻撃で!心臓を貫かれる、とか!」
糸は消えていた。
代わりに、
僕は、脳のどこかが千切れる音を聞いた。
Side サーシャ 1人称
????
気が付けば私は、真っ暗な空間でエリーと一緒にいた。
書きたい場面は次回と次々回にあるのですが、なんか筆が乗りました。
次回、EX級登場。影が薄かったサーシャ視点メインです。エリーの???部分が全て明かされます。
アヴニールが最後にやったのは、完全な予兆なしワープです。
奈落はワープするなら予兆があると思って無意識に選択から外していました。
というか分かってても回避不可です。