仲間を逃し、六号と相対したアカリは一人、彼女との戦いに身を投じる。
交錯する弾丸。
炸裂する火薬の匂いが部屋に充満していく。
六号とアカリの顔が明滅を繰り返す銃口に照らされる。
排出される薬莢がカーペットの上に投げ出され、高熱の筒によって火の粉が炎となり部屋全体を赤く照らし始めた。
「やっぱ最高だよアカリ!」
六号が昂った声を上げて二丁のアサルトライフルのトリガーを引き続ける。
両者共相手を知り尽くしてる。
故に数十の弾丸は柔らかい人の肉を貪る事なく部屋の壁に食い込む。
時間にして二分の近距離での撃ち合い。
永遠に続くかに思えた攻防の最中、アカリが突然に体を落とす。
頭上を掠める鉄の雨に冷や汗を浮かべ、ライフルを左手に持ち替え腰のナイフに手を回す。
同時に足に力を込め、突進に近い速度で距離を詰めた。
「─────────ッキャハ!」
命を顧みないアカリの特攻に余計に凶悪な笑みを浮かべる六号。
弾を吐き続ける二丁のアサルトライフルを強引に下に向け、アカリを狙う。
しかし、それを許すほどアカリは遅くは無かった。
ゆらめく炎を反射する刀身がアカリの腰から抜き放たれる。
アサルトライフルが軌道を変えるより速く、狂気の雨に呑まれるより速くアカリの刃は六号の喉元に迫る。
喉から鮮血が吹き出し、呼吸が止まり、床に倒れ伏して弛緩する六号。
それが現実となるまであと僅か。
──────────しかし。
「"起動"」
その一言が結末を裏返す。
致死の一撃はあっさりと、肌さえ切り裂く事なく阻まれた。
「………クソ」
悔しげに漏らすアカリ。
「危なかった。あと少し遅かったら死んでたな」
自分の首に当たる冷たいナイフを一瞥する六号。
彼女の肉体にさしたる外見的変化は無い。
唯一あるとすれば、彼女の頭上で淡く光を放つ輪。
それはキヴォトスの生徒ならば誰しも持つ神秘の象徴。
"ヘイロー"が六号の脳天の上に浮かんでいた。
「で?これで終わりか?」
挑発するようにアカリに問う六号。
「さぁ、どうかな?」
ピンという特徴的な音が停止した二人の間に響いた。
「マジか、じば──────────」
驚愕する六号。
アカリの左手に握られていた筈のライフルはいつの間にか見当たらず、代わりに黒い塊が握られていた。
瞬間、炸裂する閃光。
衝撃と大音響が揺れる炎を掻き消す程に膨れ上がった。
「ッ、カハ!」
穴だらけの壁に背中を撃ち付けるアカリ。
「………イッテェ。んだよこけ脅しかよ」
むくり、と立ち上がる六号に目立った外傷はない。
苦肉の策かと覚悟した自分が馬鹿らしいと笑う六号。
「お前、本当にこれが奥の手なのか?だとしたら残念だなぁ」
肩を落として仰々しく首を振る。
「気絶してんのか?」
微動だにしないアカリにゆっくりと近づく六号。
一歩、一歩と距離が縮まる。
「おいおい、嘘だろ」
六号はアカリが落としたナイフを広い更に近づく。
そうして背中を壁にもたれ掛けて首を垂れるアカリの目の前に立つ六号。
「ケッ、白けるな。ここからが面白そうだったのによ」
一瞬、名残惜しげにナイフを見つめる六号。
映った自分を見つめ、アカリに視線を流す。
再度しっかりとナイフを握り、狙いを定める。
「あばよ」
端的に、冷酷に呟く。
振りかぶったナイフは確実に胸に抉り込む軌道だ。
ベキ!
という異音が鳴り響く。
「ッガアアアアア!テンメェ!」
次に上げられたのは六号の悲鳴と罵声。
それは、突然の手首の痛みによるものだった。
ヨタヨタと千鳥足で後退する六号。
絞られた雑巾のような有様で粉砕された手首は力無くだらりと垂れ下がり、手に持っていたナイフがこぼれ落ちる。
「不意打ちも戦法だ。弱者を痛ぶっていて調子に乗ったか?」
息を吐いて立ち上がるアカリ。
彼女の頭上にもまた、先ほどまで無かった筈のヘイローが浮いていた。
軽く服に着いた埃をはらいナイフを仕舞う。
「ヘイローを使ったんだ。楽に死ねると思うなよ」
「は、ははは。いいね。そうだ。そう来なくちゃな!」
六号はレッグホルスターから拳銃を抜く。
「お前、昔から拳銃は苦手だったよな」
「だからどうした?この距離なら誰だって当てられるさ!」
そう宣言したと同時に拳銃から発せられる二度の破裂音。
近距離。
避けれよう筈のない距離からの発砲をアカリは涼しい顔でその場で傍観していた。
結果は二発とも外れ、床に弾痕を残すだけであった。
「下手くそ」
そう言い切ってアカリもまた拳銃をホルスターから抜く。
「紛い物のヘイローじゃ銃弾を六発受けるのが精々だってこと覚えてるよな?」
宣告するアカリに六号は無言を返す。
「お互い残り六発はゆうにある。ここで降参するなら拳銃を捨てろ」
状況は二転三転し、今度はアカリの優勢となる。
六号に反撃の余地はない。
アサルトライフルを取ろうにもその間に拳銃によって仕留められ、拳銃による攻撃も不利。
それでも六号の顔には諦めの表情は浮かんでいなかった。
ただ、悔しさの滲んだ笑みを浮かべている。
「─────────へ。冗談。死んでもごめんだね」
その言葉と共にアカリに向けていた銃口を自分の胸に向ける。
目を向くアカリ。
静止させようと拳銃を六号の脳天に構え直す。
しかし、遅かった。
六号の拳銃が主人を穿つ鉛をその撃鉄で叩き出した。
熱の塊が皮膚を貫き、肉を引き裂く音が体内から六号の耳に響く。
心臓を穿ち、破裂した心臓から血が溢れる。
そして、内にあるモノを砕く。
次俊、凄まじい光が部屋を包み込む。
数秒間の極光が収まり、目を開けるアカリ。
倒れ伏す六号がいるであろう場所に目線を合わせるが、そこに彼女の姿は無かった。
しかし、そこには"天使"がいた。