*オリジナルキャラクターが多く登場します。
思い返せばもう十年は前になるだろう。
当時の私は戦場で敵を痛ぶるだけの兵器として戦場を駆け回っていた。
部隊の名はヴァルキュリア。
キヴォトスの外界でさえ猛威を振るうカイザーPMCの作り出した人工ヘイローの使用者のみで構成されたその部隊は北欧の神話に表れている戦乙女に準え、畏怖と共にそう呼ばれていた。
中東のある紛争地域に政府側の兵士として実戦投入された私達は数日で敵を殲滅し多大な成果を上げた。
僅か十歳半ばの少女達の見せた圧倒的な力は世界を震撼させることとなる。
───────────しかし、栄光は長くは続かなかった。
三度目の戦いで私は地獄を見た。
神秘を使えば使うほど蝕まれる肉体の限界は呆気の無いほど早くやって来た。
爆撃と弾丸の飛び交う戦場で仲間が一人、絶叫と共に天を仰ぎながら死んだ。
叫び声を聞き、初めての同胞の死に足を止める仲間達。
私もまた足を止め、その様を見た。
瞬間、眩い光が世界を染める。
血と鉄の匂いが吹き荒れる戦場に神々しいまでの光が溢れ、アレが現れた。
顔面から血を流す少女に生えた無垢の翼。
奇怪な呻き声は聴く者の頭の中を掻き乱す。
頭上に浮かぶヘイローは何かを訴えるかのように明滅してブレている。
戦場に一時の静寂をもたらしたソレを人々は天使と呼んだ。
物語の伏線でもあったかのように私達の中から天使が生まれたのだ。
しかし、その誕生を喜ぶ者は誰一人としてそこには居ない。
燃えるような頭の痛みに耐え周囲を見回すと、声にならぬ苦悶に嗚咽し、転げ回る仲間達の姿があった。
天使の声に彼女らの中身が応えようとしているように。
数分後、彼女達は一斉に血の泡を吹いて停止した。
微動だにしない仲間達を呆然と見守る私。
その姿に好機を見た敵が一斉に攻撃を仕掛けて来た。
烈火の如き数多の鉄と炎の雨。
為す術なく地に叩きつけられる私が最後に見た光景は、倒れ伏した仲間達が歪な天使となり声を上げる姿だった。
目を開けた時には何もかもが終結した後。
体を起こした私の視界にあったのは地獄。
人の焼ける臭いと呻き声が木霊し、獣にでも食い荒らされたかのような死体の山がそこら中に放置してある。
流れる血が川となり、死者の面影を写している。
必死に仲間の名を叫ぶが返事は返ってこず、数時間の放浪の末に私はようやくソレを見つけた。
ソレは私の内にもある物。
神秘を秘するためのインプラント。
心臓のある胸部から垂れ下がるソレを追って顔を上げる。
小さな悲鳴を上げ、私の足から力が抜けた。
地に這いつくばりながら呻き続けるソレは確かに仲間であったモノ。
私に気づいたモノはゆったりと四肢を引き摺りながら私に縋り付き、砂となって砕け散った。
あまりの狂気で私は気を失い、意識を取り戻したのはカイザーPMCの自室に運び込まれた時である。
──────────意識を今に向ける。
眼前には"天使"がいる。
あの時見た地獄を作った死神がそこにいた。
「道連れって訳か」
悔し紛れに呟く私を励ます声はない。
次俊、白く光る顔が甲高い産声を上げた。
響く声に建物全体が震え、鉄筋コンクリートに容易く亀裂が走り、外界を見下ろす為の強化ガラスが砕けちる。
終末のラッパの様な声に私の頭が割れる様に痛む。
神秘の共鳴。
半端な私たちにしか起こり得ないもの。
強すぎる神秘に飲まれ、人としても神秘そのものとしても欠陥品へと成り下がってしまう最悪の結末。
歯を軋ませ正気を保つ。
数分の絶叫の後、天使が確かにこちらを向く。
「◼️◼️◼️◼️」
声が響く。
瞬間、雷霆が頬を掠め、私の左後方の壁から先が円柱状に焼き溶かされた。
恐怖で固まる体。
冷や汗が雷の掠めた頬を伝い、床に落ちる。
「冗談だろ」
引き攣った笑みしか浮かべられず、私の本能が逃避せよと金切り声を上げている。
「◼️◼️◼️◼️」
天使が呟き、再び雷霆が放たれた。
今度は私を貫かんと音を上げるソレを私は無理矢理体を動かし間一髪で避ける。
髪を焦がす強烈な熱。
溶解する壁面とその熱で燃え盛る天井と床。
死を目の前に私は動く。
逃げるしかないと。
トラウマを刺激されて力が抜けて躓きそうになるのを堪えて部屋を出て走る。
背後から強烈な光が発するのを見ると同時に曲がり角に身を投げた。
またも掠める一撃がゲヘナの宵闇を照らし出す。
キヴォトスの生徒達ならば歯牙にも掛けない木っ端であろうとも、私達にとっては超常の存在他ならない。
試しにライフルで撃ってみるけれど、呆気なく天使の身に弾かれる。
「階段は……………あれか!」
周囲を見まわしようやく見つけた階段を一段一段小器用に降りることはせずに飛び降りていく。