*オリジナルキャラクターが多く登場します。
アカリと別れた四人はもう一つの目的地、施設内部からしか入ることのできない地下施設へと向かった。
黒服からの依頼の内にある研究資料の奪取のためである。
鳴りを顰める建物は四人の足音だけが木霊し、摩天楼のように伸びる螺旋階段を下ると物々しい金属扉が鎮座していた。
「これか?」
副隊長が警戒を緩めず、慎重に近づく。
懐中電灯で照らし全体を見るが警護装置もない様なので早速扉の脇にあるキーパッドを調べる。
数分の間電子音が鳴り、その後ガチャンと重い鍵が開く音がした。
「よし、これで開いた」
「相変わらず器用だな副隊長」
アスカの賞賛に自慢げに笑みを浮かべる副隊長。
「さて、この先に何があるのかだね」
緊張に喉を鳴らすソラが取手に手を掛け、腰を落としながら思い扉を開く。
ギギギギと鳴き声を上げる扉の隙間から微かな冷気とゴウンゴウンという機械音が規則的に聞こえてきた。
「………………突入」
「「「了解」」」
副隊長の掛け声の元、ユメを先頭にゆっくりと扉の先へと足を踏み入れる一行。
通路を囲うように大量の配管が巡り、その内側を気体や液体が忙しなく移動している。
所々から圧に耐えかねた気体が溢れて甲高い音を出していた。
足場は網目状の鉄製で、カツンカツンという音が鳴る。
「気味悪ーい」
「うひぃ」
「二人共、我慢しろ」
ユメとソラの弱音に厳しい言葉を掛けるアスカ。
実際のところアスカもまたこの雰囲気に飲み込まれそうで手に汗が滲んでいた。
「止まれ」
副隊長が片手を軽く上げ、もう片方の手で目の前のユメの肩を掴む。
「どうしたの?」
「見ろ、何かある」
ソラの問いに副隊長が先行して通路の先に足を踏み入れた。
「─────────ッ!?」
眼下の光景に言葉が詰まり、驚愕に目を見開く副隊長。
そこにあったのは大量の円柱状の機械群と、その内に浮かべられた少女達。
「何これ、気持ち悪」
見た瞬間に感想を漏らすソラと明らかに顔を顰めるユメ。
最後にその光景を見たアスカは何の躊躇も無く即座に銃を構える。
それを副隊長が止めた。
「こんな物!こんな、悪魔の群れを残してやれるかよ!?」
「お前の気持ちは分かる。それでも待ってくれ」
「恩人のアンタでもこの心を否定するというなら殺す!」
鋭い目でアスカが副隊長を睨む。
「分かっている。君のかつての想い人を殺したのが六号だということは知っている。けれど彼女は私の生徒なんだ」
「ああ、聞いた。ならその後始末をするのも先生であったアンタの役目だろ」
二人の間に剣呑な空気が流れた。
「二人共、落ち着いて。ね?今ここで言い争っても意味は─────────────
二人の仲介をしようとしたその時、凄まじい揺れが建物を襲う。
足場が軋みを上げ、四人はしゃがみ込む。
「な、何?」
ユメが不安げに周囲を見渡す。
シンと静まり返る世界。
「………………今のは、アカリが危ない」
背中を走る悪寒に副隊長が声を上げる。
「ね、ねぇ、あれ、何?」
その横で機械群を見るソラの表情が恐怖に染まる。
彼女の指さす方向には、液体に満ちた機械の中で踠き、内から透明な壁を叩いていた。
ゆっくりと副隊長が振り返ると、歯を軋ませて悔しさを滲ませる。
「共鳴か。六号、いや、アネット。君は、恨むのだな」
その言葉には怒りと悔い、そして悲しみが溢れていた。
「………………行こう。アカリを助けに行かなければ」
すくと立ち上がる副隊長は三人に呼びかける。
「ここはどうする?オレはここを残す気は無いぞ」
「消してくれ」
「そうか。この数秒で何が変わったのか知らないが問うのはよしておこう」
副隊長からの返答に頷くアスカは腰に下げた手榴弾を施設に投げ込み、制御装置と思しき物に発砲する。
その後すぐに施設からバチバチと火花が舞い始め、漏れ出したガスに引火し火の手が上がった。
四人はそれを見届けると、来た道を急足で駆け戻る。
燃え盛る火の海でもだえるホムンクルス達は逃げる彼らを睨み、確かな憎悪を持って手を伸ばしていることも知らずに。
「はぁ、はぁ、何とか、出れ、た」
全力疾走で全員肩で息をしている。
しかし、休息を許してくれる程事態が甘くはない事を副隊長は知っていた。
「皆急ごう。長居をしていたら確実に死ぬ」
「死ぬ!?」
彼の言葉に声を上げるソラ。
「ああ、ソラとユメは大丈夫だろうが俺たちヘイローの無い人間ならあっさりな」
それだけ言って再び走り始める副隊長の背中を追う三人。
フロアを上がり過ぎ去る度に上階から来る異様な存在を感じ始め、一階に辿り着く頃には頭上に雷が落ちたかのような音と振動に全員が足を止めた。
「三人は早く外へ。建物ごと圧死したら最悪だ」
「え?でも副隊長さんは」
「俺のことは気にするな。アカリを見つけて来る」
ユメの心配そうな声に一言返し、二階へと続く階段を駆け上っていく副隊長。
「行くぞ二人共。副隊長の言う通り今はここを出るべきだ」
「でも!」
「でもも何もない。行くぞ!」
抗議の声を上げるソラの声を上から押し潰して外へと連れて行こうと襟首を掴むアスカ。
ヤダヤダと駄々を捏ねるソラを睨みながら引きずって出口へと向かう。
「ユメ?」
着いて来ようとしないユメにソラが声を掛ける。
「ゴメン。私行ってくる!」
「ちょ、待って!」
走り出すユメを止められず、手を伸ばすしかできない二人。
「…………………どうする?」
「…………………仕方ない。オレ達も行こう」
肩を落としてため息を吐くアスカとガッツポーズするソラはユメと副隊長を追って同じく上階への螺旋階段を登って行く。
*
重い盾を片手に階段を駆け上がるユメ。
雷の衝撃と轟音に凄まじい光が伴い目を窄める。
「この先に二人が」
さらに勢い良く階段を駆け上がる彼女はようやく音の発信源の近くへと辿り着く。
瞬間、頭上から落ちてくる人影。
「──────────ッガア!」
背中を強打して息を忘れる人影は紛れもなく副隊長だった。
「先生!」
そこへ必死の顔で降りてくるもう一人はアカリ。
「二人共、無事で─────────
「ユメ!先生を連れて下へ!」
すぐに駆け降りて来たアカリはそう言って後ろを振り返る。
「もう追いついてきたか」
銃を構え、意味のない発砲で牽制するアカリは忌々しげに舌打ちをする。
「副隊長さんはどうしたんですか!?」
「私を庇ったんだ!それで先生は重症を負った!だから早く!」
「わ、わかりました!」
大急ぎで副隊長を担ぎ上げてその場を離れようとするユメ。
「◼️◼️◼️◼️」
しかし、その眼前に雷が落ちる。
「キャァ!」
突然のことに尻餅をつくユメ。
凄まじい熱線で消し飛んだ天井からゆっくりと、淡い光を放つ天使が舞い降りる。
「◼️◼️◼️◼️」
天使の囁きが響き、その胸の前に雷が形成され、放たれる。
ユメは咄嗟に盾を構える。
凄まじい衝撃が腕を震えさせ、飛散する雷から別れた熱が周囲の床を焦がす。
しかし、ユメの体に傷一つつける事はなかった。
「あれ?痛くない?」
あれ程の熱量だというのに痛くも痒くもないことに目を丸くするユメ。
「これは驚いた。まさかここまで違うとは」
いつの間にか隣に立つアカリは感心したように呟く。
「まぁ、人間と神様じゃ違って当然か」
独り言を呟いて再度眼前の天使を見るアカリ。
「お前も驚いてるみたいだな六号」
天使は答えず、ただ自分の攻撃を何の傷も無しに防いだ対象を睥睨していた。
一方のユメは何ともない事を確認して立ち上がる。
「隊長さん、私にも手伝わせてください」
「………………頼む、と言いたところだが今回は話が別だ。コイツは私が仕留める」
「でも、隊長さんの攻撃は」
「ああそうだ。効いてなかった。でもコイツはちゃんと私が引導を渡してやらないといけない。同郷のよしみというやつさ」
「わかり、ました」
アカリの言葉に盾を下ろして引き下がるユメ。
それを確認したアカリは全身の武装を解き、ライフルとナイフだけを身につけて天使の前に立つ。
「行くぞアネット。お前をここで殺す。"起動"」
アカリの全身を痛みが走る。
心臓の中にある炎が細胞一つ一つを血流に沿って焼き焦がしていくような感覚が。
上げそうになる悲鳴を噛み殺してその痛みに耐え目を開ける。
すると、彼女の頭上にあるヘイローに確かな模様が刻まれた。
「◼️◼️◼️◼️」
再び放たれる雷霆。
腕を伸した距離でのその一撃をアカリは避けられない。
迫る雷光。
触れれば人間ならば消し炭になるソレは次の瞬間には霧散した。
理由は明快。
アカリが突き出した手で握り潰して見せたからだ。
「…………………これでも痛いな。全く、キヴォトスの生徒共はどういう体してるんだ」
ジンジンと痛む掌を見れば赤く血が滲んでいる。
「だが、これでどうだ」
自分の攻撃を今まで追い詰めていたはずの獲物が容易く消し去ったことに狼狽する天使にアカリがライフルの銃口を向ける。
引き金を引き、ズドンという思い炸裂音が鳴り響く。
発射された弾丸は正確に天使の頭に叩きつけられ、天使は仰向けに吹き飛んだ。
「これでも足りないか」
もう一発、と構えるアカリ。
それを前に立ち上がった天使が雷霆を放つ。
二つの攻撃がぶつかり、神秘を纏った弾丸と雷霆が火花を散らしてお互いにあらぬ方向へと弾かれた。
「来いよアネット。ずっと殺したかったんだろ?」
アカリのその言葉に呼応したのか天使が二度目の絶叫を響き渡らせる。
五秒と少し続いたその声は脆くなったビルに亀裂を更に増やし崩れさせるには十分であった。
「ユメ!先生を頼む!」
「分かりました!」
崩壊するビルで最後に聞こえた頼みにユメは急いで気を失っている副隊長を抱え、盾で落ちてくる瓦礫を防ぎながら落下する。
途中、何が起こっているのか把握しきれていないままソラに抱えられ落ちるアスカの姿があったが、ユメは着地以外頭に無く迫る地面に意識を集中させた。
ズドン。
と思い衝撃が全身を駆け巡り、全身が痺れる。
「あ、危なかったぁ」
胸を撫で下ろすユメ。
「ヒィン!?」
安心したのも束の間、ユメの真横にアスカを抱えたソラが着地した。
「セーフ!」
「何がセーフだよ!」
「ゴメンゴメン」
申し訳なさげに言うソラだがアスカは小言を続けるが、格好が格好なだけに滑稽さが際立って見える。
「ユメ、副隊長と隊長は?」
アスカがソラから降りてユメに問いかけた。
「副隊長さんは意識が無いし怪我が酷い」
ユメの抱える副隊長は背中に大火傷を負い、一部は焦げ付いていた。
「酷いな。早く治療しないと」
アスカは直ぐに救急箱を取り出し、適切な治療を副隊長に施していく。
「隊長さんは六号って人と戦ってる。でも、あの姿は」
先程の光景を思い返すユメ。
目の前に現れた天使。
アカリの言葉からしてあれは六号だと言うことは分かる。
けれど、何故ああなったのかが気がかりであった。
「…………………ック。アカリは?」
「目を覚ましたのか。アカリは今六号と戦闘中らしい。ここからでは見えないが」
片目だけ開ける副隊長。
アスカの答えにそうかとだけ返して体を持ち上げる。
「あまり動くな傷に触る」
「このくらい平気だ。それよりアカリが危ない」
深刻な声で呟く副隊長。
「何故なんですか?隊長さんはどうしてか分からないですけど、戦えていました」
「それが問題なんだ」
傷の痛みを堪えユメの疑問に答える。
「アカリは全力で神秘を使ってる。ユメとソラのようなキヴォトスの生徒達のような超常的な力を人の身で行使しているんだ。当然体をとてつもなく酷使して傷つけているはずだ」
「それは、どういう」
「あの子達は後天的にヘイローを持つように改造された人間なんだよ。兵器開発の一環でね。お陰で俺の生徒達が多く去っていったよ」
指が瓦礫を擦り、皮膚が剥がれて血が滲むほどに力を込める副隊長。
「ともかく、話は後だ。今はアカリを───────グゥ!」
立ちあがろうとするものの、やはり傷が痛むのか膝をつく副隊長。
「私が行きます」
ユメが真っ直ぐな目で副隊長に告げる。
「それは………………」
言い淀む副隊長はユメを止めるべきか迷っていた。
頼んでしまえば何もかも解決する。
けれど、巻き込んでしまえば目の前の少女を自分達と同じ場所へ引きづり込んでしまうのではないかとい甲藤があった。
「ここで、ここで隊長さんを私は見捨てたくありません」
ユメの言葉に副隊長はさらに言葉に詰まってしまう。
さらに、ユメが確信を持って言葉を続ける。
「それに私なら助けになれます」
「だが、これは私達の問題で──────
「だからなんですか!?私は大切な物を、人を失いたく無いんです!隊長さん達にどんな過去があるかなんて知りません。けど、今私は少なくとも仲間だと思っています!仲間なら同じ物を背負っていいじゃないですか!」
普段の優しい雰囲気からは一変した激しい剣幕で詰め寄るユメに副隊長は一言、"ありがとう"と応えて笑みを浮かべる。
「では、アスカさん、ソラさん副隊長さんを頼みます」
「まっかされた!」
「隊長を頼む」
ユメは大きく息を吸い、髪を一本い纏め盾を握りしめて満面の笑みを浮かべる。
「はい!行ってきます」
そう言ってユメは轟音鳴り響く方向へと駆けて行った。