*オリキャラが多数登場します。
天使となった六号を前にアカリは一人戦う。
天から降り注ぐ雷は彼女を貫くのか。
ユメは間に合うのか
地に叩きつけられる雷の雨。
それとは逆に天へと向けて飛来する弾丸。
天使と人の戦いを冷徹に睥睨するは黒見セリカである。
彼女を包むローブは街の夜風に吹かれてたなびいていた。
「律儀ね。捨て身だってわかってた筈なのに」
憐憫を向けるのは眼下で雷を放ち続ける天使。
「昔の教え子同士の戦いに彼はどう思うのかしら」
笑みを浮かべる彼女は身を翻し夜の闇に姿を消した。
*
「アネット、本当にお前は昔から厄介な奴だよ」
呟くアカリの声は天使には聞こえず、雷を放ち続ける天使は明確な殺意をアカリに対して放っている。
「さて、どうするか」
幾発の弾丸を受けながら微塵も狼狽える素振りのないアネットを睨み据えるアカリ。
ただの一撃でさえ有効打の与えられない現状に歯噛みし、吹き荒ぶ閃光を避け続ける。
しかし突然、落雷が鳴き止む。
「突然、どうし──────────は?」
見上げると、そこには槍が一本浮遊していた。
顔を照らす黄色い光。
吸い寄せられそうな程の強力な磁場。
人つに束ねられたその槍は戦神オーディンの放つグングニルの如くその威圧感は死を予感させる。
「…………………冗談だろ」
放たれれば確実にアカリの身を焼き、地を砕くと確信できる神槍。
「◼️◼️◼️◼️」
振り下ろされる天使の腕。
槍が天から地へと向けて無情にも放たれた。
白夜のように空が白んだ。
避ける間などない。
必中必殺の神雷。
「ああ、クソ」
立ち尽くすばかりの現実をアカリが受け入れようとしたその瞬間。
目の前に人影が躍り出る。
槍が影の持つ物に激突し、甲高い轟音と共に弾け飛ぶ。
「────────大丈夫ですか!?」
「ユメ!?」
光が散り、視界を取り戻した時に目に映るのは新緑色の髪に太陽を模したヘイロー。
梔子ユメが盾を片手にアカリを庇うように立っていた。
「なんで来た?」
「…………………仲間ですから」
ユメは少し照れくさそうに盾で顔を隠す。
その姿がおかしかったのかアカリは声を上げて笑った。
「な、なんで笑うんですか!?」
「すまない、何だかな。お前を見ていると私の姉を思い出すんだよ」
ふぅと息をついて立ち上がり、再度視線を上空の天使に合わせる。
「二対一になったからと言ってな。アレに攻撃が届かなけりゃ意味がない。私の銃はもう残弾が少ないし、ユメはどうだ?」
「私は使ってないから、全弾残ってます」
「なら、お前主体で仕掛ける。私がアイツを何としてでも地に落とす」
「分かりました」
こくりと返事をして盾を構えるユメ。
大きく息を吸い、気合を入れるアカリ。
「行くぞ!」
「はい!」
二人同時に駆け出す。
二人の動きを察知したと同時に天使が雷鳴を再び轟かす。
アカリは器用に避け進み、ユメはその全てを盾で弾き落とす。
形勢の移ろいを見た天使が突然にアカリへの攻撃を止め、苛烈な落雷の雨をユメ目掛けて放ち始める。
「やっぱりそうくるよな!」
背後からの声。
天使は明らかな動揺を示し、振り向いた。
凄まじい衝撃が天使の顔面を捉える。
先程まで自分に届きさえしなかった存在が突然に眼前へと舞い降りたが故の反応の遅れ。
防御さえ許されずに振り抜かれた銃身によって地に向けて叩きつけられる天使。
「ユメ!今!」
「はああああああああああ!」
むくりと体を起き上がらせ、憤怒を露わにする天使の横腹にユメの全弾発射が突き刺さる。
超至近での神秘を乗せた散弾銃の攻撃は紛い物の天使の上体と下体を分つには十分すぎる威力であった。
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!!!」
耳をつんざく大絶叫が響き渡る。
怒りかそれとも憎しみか、おおよそ神の使いたるモノが発しようはずも無い狂乱の声に地が震えた。
しばし後、叫ぶ力さえ失った天使は張り付いた物を剥がすように体表から剥がれ、内に隠されていた六号の姿が露わになった。
「…………………負けかよクソッタレ」
上半身しか無いというのに六号が口を開く。
「あーあ、今度は勝てる気がしたんだがな。ソイツは反則だろ」
悔しそうな声を上げる六号の声に覇気が無く、脱力感で溢れていた。
「そういうお前も道連れとはな」
「ケッ、アレしか無いだろお前に勝つにゃ」
「負け惜しみか?」
「そうだよ、死に際くらい悪あがきしてやろうってな。でもまぁ、あっさり負けちまったよ」
苦笑する六号の顔から徐々に生気が失われていくのが分かる。
それをアカリは複雑そうに見つめていた。
「───────あの」
何か言おうとして言葉に詰まるユメ。
「なんて顔してやがる。私を倒した奴にそんな顔されたら私の立つ背がねぇよ」
「私は何も貴方の事を知らないのに」
「いいんだよ。戦場なんてそんなもんだ知らない奴を殺して殺される。そんな場所だ」
呆れたようにユメを見て、顔だけ横を向けた六号はフッと笑みを浮かべる。
「──────────よう、先生」
「ああ、久しぶりアネット」
「お変わりないようで」
ソラの肩に縋りながらやってきた副隊長に皮肉を溢す六号。
「すまない。俺のせいで君を─────
「そうだな。アンタのせいで私は苦しんだ。それは恨むよ」
副隊長は六号の言葉に顔を伏せて歯噛みする。
「でもよ。最後としては悪くない」
「───────何が、何が悪くないよ!」
ここまで黙っていたアスカが声を上げる。
いつもとは違う言葉遣い。
彼女自身の本来の言葉で六号の前に立ち、恋人の遺品を握り締める。
「私の恋人を目の前で散々弄んで、怪我人さえ殺し回って。お前みたいな悪魔が、こんな死に様が許される物ですか!!」
「─────────その通りだな」
アスカの言葉を真摯に受け止め、嘘偽りない目で見つめた。
「好きにするといい。それでお前の心が空くというならな」
六号は静かに目を瞑り、アスカの持つ銃弾が胸を貫くのを待つ。
「ええ、そうするわ」
握り締め、震える手を押さえて拳銃を構える。
照準など必要のない距離。
「さようなら、 」
かつての恋人の名を呼ぶが、それは静謐な空に響いた銃声に飲まれて消えた。
ここに、一人の狂気の歩みが止まる。
アスカの仇敵。
副隊長の教え子。
アカリの旧友。
ユメの初めての殺し合いの相手。
四人はそれぞれに万感の思いを抱え、砂となって崩れ行く六号の体を見守る。
その姿を見届けたアカリと副隊長は身を翻し、ソラとユメに声を掛けた。
「俺達の事情に首突っ込ませて悪かったな」
「んな事ないっすよ!」
「そうです。私達は仲間なんですから」
二人の返答に顔を綻ばせる副隊長とアカリ。
「─────あの」
「なんだユメ?」
「戦場って、人を殺すって、こんなに、こんなに怖いんですね」
ユメは盾を抱える手を震わせている。
自分の手で誰かを殺める事になったことへの忌避感が胸を満たし、今にも崩れてしまいそうだった。
「そうだな、こんなもんだよ。怖いし痛い。だがこれが私たちの道で、お前が選んだ道だ」
まるで自分にでも言い聞かせるように語るアカリの横顔は寂しげだった。
その顔にユメはただ頷くしかできない。
*
アスカは一人、六号だった砂の前に立っている。
拳銃の感触に、いつの日か隣に居た彼を思い、温かい涙が頬を伝った。
「これからは一人で歩いていくから。─────────────ありがとう」
誰にも聞こえない決意の言葉が星空の下に響いた。
アスカが背を向けて去った後には磨かれた銃身に星を宿す拳銃が彼女の背を見送っている。