*オリキャラが多数登場します。
六号との戦いの後、ユメ達排斥者は拠点に戻り再び黒服と顔を合わせる。
六号との戦闘後、私たちは拠点に戻り黒服への依頼達成を報告した。
相変わらず画面越しの胡散臭いことこの上ない調子の黒服に警戒を緩ませずにアカリさんと黒服が言葉を交わす。
リーダーというのはああやって堂々としたものなのかと彼女の後ろ姿を見ながら私はそう思った。
私がそんな的外れな感想を思い浮かべていたその時、黒服が調子を崩す。
「───────何ですって?」
「だからだな、あそこに崇拝者はいなかった」
「………………それは、また厄介な」
溜息だろうか。
黒服はほんの少しだけ思考の間を設け場に沈黙が訪れる。
「分かりました。では、報酬金を渡し本契約は解消ということでよろしいですか?」
黒服の問い、その裏は私にも分かる。
契約の継続。
彼にとってそれは切実なものであることを感じられた。
「────────待て。私の個人的な感情だが、今回の契約の達成は未消化だと思っている」
若干の悔しさが滲んだ声でアカリさんが問いに返す。
「それに、アンタの情報網は私達より遥かに広くて深い」
「────────では、契約は
「継続だ。これからもよろしく頼む」
「クックックック、賢明ですねアカリさん。こちらこそよろしくお願いしますよ」
満足げな顔の黒服は最後に“これからの私達の成功を祈って”とだけ言い残して通話を切った。
「いいのか?アカリ」
「ああ、アイツは利がある限り協力は切らないタチだろうしな。安心してくれ、変なこと考えるようなら私は即座に契約を切るよ」
「それなら良いが」
副隊長さんはアカリさんの返答に難しい顔をして机上のコーヒーを口に含む。
しばしの沈黙、重くは無いが居心地は悪い空気。
誰も声を上げないで自分の作業に熱心に取り組み始める。
広い天井、謎の金属製のこの会議室は音がよく響く。
まさかアビドス砂漠にこのような場所があるとは知らなかった。
「ユメ、君はどうする?」
「─────へ?何ですか?」
突然副隊長さんに声を掛けられた私は両手で持っていたココアを落としそうになる。
「君はこのキヴォトスの人間だ。これから先、外に行く可能性だってあるからな」
「構いませんよ」
迷う暇なく即答する。
──────────────構わない。
そう、今の私は黒服との契約でホシノちゃんを守るためにここにいる。
この人達から離れれば黒服との契約違反だ。
帰ったところで私は何もできないだろう。
だから今は───────────
「安心してください。私はちゃんと皆さんを守りますから!」
目一杯の見栄を張ってみる。
酷く見苦しいのは分かっているけれど、それでも私はここにいなくちゃならない。
「………………そうか」
少し嬉しそうにほくそ笑む副隊長さんはもう一度コーヒーに口を付ける。
それきり言葉を誰かと交わすことは無かったけれど、さっきのような居心地の悪さを感じることは無かった。
それから私達は黒服からの連絡を待って数日の休暇を過ごした。
アビドスの生徒会長として忙しさに駆け回ってきた私にとっては久しぶりの暇だ。
しかし、あてがえられた空室は何も無い。
起きれば無機質な金属製の壁と砂に埋もれて役を失った窓が出迎える。
足元もマットなんて小洒落た物は無くスリッパだけ。
やることと言えばこの施設の探検だけだ。
そんな休暇を過ごしていた頃、黒服から連絡が入る。
「おっはーユメ」
「おはようソラ」
朝から元気に溢れた満面の笑みを浮かべるソラに挨拶を返す。
砂漠の夜は冷たく、乾いた風がどこからか入り込むここは、朝方とても冷え込む。
素足で歩けば悴んで仕方が無い。
洗面を終えて着替えを済ませ会議室に向かう。
「おはようございます」
「おはよう、ユメ」
アスカちゃんは男っぽい雰囲気が最近和らいだ気がする。
六号との区切りがついたからだろうか。
「二人共、座ってくれ」
アカリさんの声に私達三人は席に座る。
「気は乗らないが、仕方ないな」
「そういうな先生。黒服は黒服で仕事はしてくれているんだ」
「まぁ、そうだな」
そんな他愛無い会話を副隊長さんと交わしたアカリさんは会議室の大画面を着ける。
「おはようございます。皆さんお揃いのようで」
おそらく笑って黒服は挨拶を述べる。
「それで、見つけたのか?」
「ええ、まあ」
「煮え切らないな」
「それがですね、痕跡しか追えなかったんですよ」
「ということは、やっぱりか」
「ええ、懸念通り」
アカリさんと黒服の考えていることは同じ。
そして、数日前に副隊長さんの私に言った言葉を思い返す。
外に行く可能性。
キヴォトスにいないとなれば必然的な結論。
「外、ですか?」
「その通りだユメ。恐らくだが崇拝者、私達の追ってる連中は外の世界にいる」
私の呟きに答えるアカリさん。
彼女は私からその言葉が出ることが意外だったのか一瞬驚いた顔をしていたが、すぐに平静を取り戻して黒服に向き直る。
「黒服、それが本当なら私は彼女を外に連れて行くことになる。いいな?」
「ええ、どうぞ?むしろその方が都合がいいので」
今度は何の話をしているのか推察できなかった。
首を捻る私にアカリさんが声を掛けてきた。
「ユメ、お前も外に来るんだろ?」
二度目の同意の質問。
私は一度目の副隊長さんへの回答と同じ答えを返す。
「もちろんです!」
「という訳だ。黒服、お前に直接会うことは出来なかったが私達はキヴォトスを発つことにする」
「そうですか、では健闘をお祈りします。有力な情報があればまたご連絡しますので。それではまた」
ぷつりと呆気なく黒服は通話を閉じた。
「さあ、出立の準備だ」
振り返ったアカリの言葉に私達は返事をして早速荷造りを始める。
◇
真昼の砂漠、そこに私達はいる。
行きの時より一人だけ多い仲間を連れて。
「あつ〜い」
「ソラ、それ余計暑くなるからやめて」
背後からソラとアスカの声が聞こえる。
滑りそうなほどに細かな砂が舞い、太陽の反射で砂漠は黄金色に輝いていた。
「ユメ?」
「痛っ!何で止まって…………」
ふと、ソラとアスカが立ち止まる気配がして私も足を止めて振り返る。
視線の先には新緑のような髪をたなびかせるユメがいた。
そしてユメもまた何かを見ている。
目を窄めてその視線の先を見ると、桃色の髪を靡かせる小さな少女がいた。
その少女を見つめるユメは今にも駆け出して行きたくてしょうがないようだ。
けれどその衝動を必死に抑えている。
彼女の目に浮かぶ涙がその思いの丈を表しているようで、あの少女がどれほどの存在なのかを理解するには十分だ。
「ユメ、会いたいのなら」
隣に立って彼女にそう言葉をかける私にユメはふるふると首を横に振った。
「大丈夫です。これは、私が決めたんです」
きっとこの選択は彼女なりの覚悟だと私はユメの声に口をつぐむ。
「行きましょう。アカリさん」
「分かった」
ユメは涙を袖で拭って無理な笑顔で私を見る。
その覚悟を無駄にしないためには私達は歩くしか無いのだと、そう思う。
「──────またね、ホシノちゃん」
その言葉はきっとあの桃色の少女には届かない。
その時、砂漠の砂が一層舞い上がる。
一寸先さえ見えないほどに。