*オリジナルキャラクターが多数登場します。
*本編から離脱した梔子ユメがキヴォトスの外で生存して活躍していたという設定です。
小鳥遊ホシノが自らの死を知ったその日、梔子ユメは1人、排斥者たちと共に外界に出ることを決めた。
カタン、カタンと列車が揺れる。
海の上に敷かれたレールは薄く水が張り、列車の車輪が踏むたびに横に分けられ白い泡を立てていた。
真っ青な海は青空を映し出し、太陽の陽光を乱反射している。
「どうした、ユメ」
「え?いや、キヴォトスの外なんて行ったこと無かったので」
「まぁ、キヴォトスの生徒は外界なんて知らないしな」
こつんと頭頂部を窓に当てて天井を見るアカリさんは数分もすると寝息を立て始めた。
「少ないね」
「そうね、私たち以外だと三人しかいないわね」
ソラとアスカが自分たち以外の乗客の少なさに驚いている。
確かに、私達以外数える程しかいない。
車内は先程二人が言っていた三人だけ。
他の車内を貫通扉の窓から覗くと片方は無人、もう片方は一人だけという状態だ。
「副隊長さん、なんでお客さんこんなに少ないんですか?」
「まぁ、外にわざわざ出ようなんて数奇者そうそういないからな」
副隊長さんは駅で買った新聞を片手サイズに折りたたんで目を通している。
「なんせ外は未だ行先が見えない戦争ばかりだからな」
「戦争?」
「ああ、平和を謳歌していた時代はもう過ぎた。とうの昔に多くの土地は火の海に沈んでいる。銃弾が散発的に降ってくるキヴォトスの方がいつ自分の住んでいる町が爆撃されるか分からない外よりマシなのさ」
「そうなんですね」
副隊長さんの新聞が少し目に入り、軽く目を滑らせて内容を読む。
「爆撃、死亡者六千人」
淡々と、ただ文字という情報が頭を泳ぐ。
死亡者、死人。
身近に存在しない感覚ゆえの浮遊感を覚える。
「気になるか?」
「い、いえ」
「俺はあらかた目を通したからな。まだ目的の駅まで時間があるし、暇を潰すには丁度いいだろうさ」
俺はタバコ吸ってくると言い残して副隊長さんは新聞を私に渡すと貫通扉の向こうに言ってしまった。
彼の背中を見送った後、新聞を広げる。
折り目のついた新聞は誤って広げる方向を間違えて真ん中が破けてしまった。
「あ、やっちゃった」
申し訳なさを感じながらも慎重に広げていく。
「───────何、これ」
新聞の一面には機械と瓦礫の街が写し出されていた。
写真の所々には何かを探す機械達が瓦礫をどかしながら作業している姿がある。
「ああ、そこそうなったのね」
「アスカちゃん、知ってるの?」
「ええ、まぁ。赤十字の職員として後方にいた頃に一回だけ行ったんだけど、酷かったわ」
「酷かった?」
「政府側が最新式のロボットを出してレジスタンスを徹底的に武力制圧をしていた地域なの。一応支援の為に行ったはいいけど、私達は紛争が激化し始めた時に引き上げたのよ」
「どうなったの?」
「新聞の通りよ。政府はレジスタンスの潜伏地点と考えられる地点を爆撃、一般人ごと木っ端微塵」
私は驚愕で口が塞がらない。
新聞を握る手に汗が滲む。
「今の外なら良くある事よ」
他人事のように彼女は語る。
ひどいとは言えなかった。
これが彼女達外の人間の普通なのだろう。
「何か、私たちに出来ることを────────
「無いよ」
私の言葉を遮って寝ていたアカリさんが声を上げた。
「ユメ、君の言おうとすることは分かる。でも、私たちに出来ることはない。理想を語るのはいいけど、それは叶わないことだ。私達が出きるのは手の届く範囲を全力で守り通すことだけだ」
アカリさんの言葉が私を抉る。
彼女の言葉に後輩の姿が重なった。
私の無茶を聞いて奔走してくれた彼女、私の無神経を支えてくれた彼女。
噛み締める歯がキリリと鳴る。
何も出来ないくせに、飛び出す言葉だけは一丁前。
何も、変わっていない。
「まぁ、そう落ち込むな。お前はまだ子供だ。失敗もある。一つ一つ覚えていけ」
アカリさんが私の頭にポンと手を置いた。
何だか久しぶりの感覚に荒れた心が少しだけ和らいだ気がする。
「─────はい」
「そうしているとユメも年相応ね」
「え?」
「だっていつも顔が強張っていたもの」
「そう、ですか?」
「そうよ。ほら、口緩めて笑いなさい」
アスカが私の頬を引っ張って強引に笑顔にしてくる。
「いひゃいよぉ」
「ユメはそうして笑ってくれてる方が良いわ」
「ありがとう」
引っ張られて熱くなった頬を撫でて笑う。
今はこの頬の熱さが心地いい。
「あ、向こうに何か見えてきたよ」
ソラが窓に引っ付いて声を上げた。
「ならそろそろだな」
「ああ先生、戻ってきてたのか」
「まあね。タバコも流石に切れてきたから」
いつの間にか副隊長さんがアカリさんの隣に座っていた。
「………あれが、外の街」
窓の外を見ると、小さく灰色の地平線が浮かんでいた。
間違いなく人工の建物郡。
けれど私の目に移る景色に人の温度は感じられなかった。
そう、まるで。
「死んでるみたい」