もし、梔子ユメが生きていて、本編とは全く違う場所で活躍していてくれたらというお話です。
とある地下施設にて、二人の人影が佇んでいた。
「見てくださいませ、我が神よ。キヴォトスに対抗しうる力が今、ここにあると自負できます」
汚れてボロきれになるほどに着古された司祭服に身を包んだ男は、横に立つ少女に一歩足を引いて頭を垂れる。
少女は何の返答もなく、ただ色彩の無いその瞳に眼下の景色を映し出すだけであった。
二人の足元では、ごうごうと音を立てる円柱状の機械郡が無数の配管に繋がれて整然と並べられていた。
機械の中は様々な色の液体で満たされ、その液体には、人が浮かんでいた。
表情さえなく浮かぶその人々の殆どは、年端も行かぬ少女達であった。
「これこそ、かのカイザーPMCと結託して作り上げた貴女様の忠実なる下部の群れにございます!!」
高揚した様子の男は目の前の景色を賛美しながら少女に目を向ける。
「ああ」
無感動に少女は、息を漏らすような返事を返して視線を反らす。
反らした視線の先にいたのは、傷だらけの顔をした女だった。
「よお、先輩。アンタの下部達の護衛は私がやれとよ。随分な人使いだよな」
ヘラッと笑みを浮かべたその女、六号は少女と男を順に見て、機械郡の方へ視線を移す。
「姉妹達、ねえ。大層なモノを作りやがって。グチャグチャにしたくなるよ」
凶悪な笑みを浮かべた六号は足元の機械の一つに視線を固定し、その目の前に飛び降りる。
その機械の中にいたのは、六号の顔を少しだけ幼くすれば瓜二つになるだろう顔をした少女であった。
しかし、決定的に違うモノがその頭の上に存在していた。
ヘイローである。
六号は、無表情で厚いガラスに掌をつけ、優しくゆっくりと撫でる。
「気色の悪いことこの上無いな」
撫でていた手を止めて、その指に力を込める。
そのとき、六号の頭の上にうっすらとヘイローが浮かび、それと同時に機械のガラスの層が抉られる。
わずかなヒビで隙間の出来た機械から、大量の液体がドッと溢れだし、亀裂が広がり、遂には完全に砕け散った。
ドシャッと中にあった少女の肉体が床に落ちる。
少女はピクリとも動かず、そのままシャボン玉のように破裂して地面に広がった液体に混ざって消える。
「脆いな」
六号は何度か掌を握っては開いて、感触を確かめる。
「当然です。何せまだ実験途中の品ですから」
いつの間にか六号の隣にローブの男が立っていた。
男は肩を竦ませ、溜め息を吐く。
「ともあれ、しっかりお願いしますよ?黒見さんからも言わせましたが、今回の仕事は重要ですから」
「わざわざ言わなくても良い。ま、好きにやらせてもらうよ」
六号は二回、男の肩を叩いてその場を去った。
「さて、我々も退きましょうか我が神よ」
「ああ」
相も変わらず無感動に少女は呟き、戻ってきた男の後をついて暗い通路の向こうに姿を消した。
三人のいなくなった空間にはごうごうと音を立てる機械郡と、先ほどの液体を丁寧に掃除するロボット達の姿が残された。
重苦しい空気が会議室を包む。
かれこれ二十分はこの状態であり、風紀委員長は現状をなんとも感じていないのか出されたコーヒーを優雅に口に運んでいた。
誰も口を開かぬ空気を切り裂いたのはやはり、風紀委員長の声であった。
「して、先日の連絡の件なんだが、アンタがたのテロ計画を容認しろとそういう話でいいんだな?」
風紀委員長の言葉に副隊長は苦笑いを浮かべる。
相手の出方として予想はしていたが、直球な批判を受けて副隊長は返す言葉がないと固まってしまう。
それを見かねたアカリが代わりに言葉を返す。
「ひどい齟齬だな」
「あの話を聞いてこの理解以外あるか?」
「地下施設一つ、しかもお前達には干渉しない話だぞ?相応の協力はする」
アカリの言葉に風紀委員長は笑顔を浮かべ、待ってましたとばかりに脇に控える書記に指を鳴らして書類を机上に出させる。
「協力、と言ったな?ならば依頼を一つこなしてもらおうか」
委員長の言葉に副隊長はしてやられたとあからさまな表情を浮かべた。
副隊長が書類に手を伸ばさないのを見て、代わりにアカリがその書類を取り上げ、一枚一枚丁寧に書類に目を通す。
「暴徒鎮圧の任務か、だが、協力とは言え私達の存在は隠しておきたい」
「ハハ、私達には既にバレているのだがな?」
「貴方方がここにいるのも外部に知られてはまずいのでは?」
お互いの視線が交差し、火花が散っているのかと誤認する。
しばらくの睨み合いの後に委員長が破顔し、手を叩いて高笑いを上げる。
「ハハハ、これはまた、豪胆な奴だ。気に入った。先程までの言葉は謝罪させてくれ、すまなかった」
委員長の突然の態度の変容ぶりに排斥者のメンバーは驚いた顔になり、彼女の背後に控える書記の少女はため息を吐いて頭を抱える。
「委員長、演技はもういいのですか?」
「ああ、人を揶揄うのは私の趣味じゃないんだ。だがまあ、いい演技だったろう?」
先程とは打って変わって明るく笑う風紀委員長に書記は乾いた笑いを浮かべる。
どうやらこの明るく笑う彼女こそが本来の性格なのだとハルナ達は理解した。
「アンタ方の事は口外しないと約束しよう。この場にいる風紀委員全員に誓わせる」
「なっ!?勝手に!?」
委員長の言葉に正気を疑う目をして書記が彼女の肩を掴むが、彼女はまあまあと書記を宥める。
「この場で起こったことも記録にさえ残さないと保証しよう」
「絶対だな?」
アカリの言葉に委員長はああ、と一言だけ返してほくそ笑む。
「それで?協力はしてくれるのか?」
「この書類を見たところ、私達に対する条件はここに書かれている女を捕まえればいいのか?」
「ああ、そいつは今スケバンの頭を張ってる女だ。たった一人で部隊一つを壊滅できる怪力の持ち主。名は────
「栗浜アケミ、だろう?アタシは元ヘルメット団でね。あの人のことはよく知っている。その上で、アンタらに聞きたい。あの化け物はアタシ達だけでは戦力不足だぞ」
ソラは委員長のセリフを奪う。
「なら、奴のことをいちいち説明することはしなくていいか。戦力不足と言うのならウチから一人貸し出そう。ヒナ」
委員長が自分の背後に控えるヒナに指で隣に来るように指示する。
ヒナは驚いた顔を浮かべて委員長の顔色を伺うが、委員長の表情から本気で言っているのだと分かり、緊張した足取りで委員長の隣に座る。
小柄なヒナと高身長な委員長は側から見れば歳の離れた姉妹と思えてしまう。
「こいつはウチの一年でな、入りたてだってのに戦闘では単独で暴徒鎮圧ができちまうほど優秀だ。戦力はこいつ一人いれば事足りるだろうさ」
委員長は自慢げにヒナの肩を抱いて自分に引き寄せる。
「ああ、そうそう、さっきから後ろでオドオドこっち見てるヤツはお前らの仲間ってカウントでいいのか?」
委員長がヒナを抱く腕とは反対の腕で背後の扉に指を差す。
「まさか、盗み見されてるって!?」
アカリが急いで委員長の指す方向にある扉に近付く。
乱暴に扉を開くと、その勢いで弾かれた何かが床に倒れる音がする。
「ヒィン!?」
間の抜けた悲鳴にアカリが視線を下に向けると、ユメが尻餅をついて床にへたり込んでいた。
「話を一部でも聞かれた以上、ソイツを返すわけにはいかなくなったが、どうするつもりだ?」
委員長が不敵に笑うと、アカリは額に手を当ててため息を吐く。
アカリが副隊長の方に視線を向けると、副隊長はこちらに連れてくるよう視線で促す。
「仕方ない。こっち来て」
「うへ!?」
ユメは首根っこを掴まれ、親猫に連れられる子猫のようにして運ばれ、会議室の椅子に置かれる。
「さて、会議は置いておいて、次はコイツの処遇を決めようか」
その場の目線が全てユメに集められ、状況に困惑したユメは視線を泳がせることしか出来なかった。
そのとき、アカリのポケットに入っていた携帯に電話がかかって来た。