夜空に紛れ、ユメ達の乗るヘリが徐々に降下を始め、現地に到着した。
「あれが栗浜アケミか」
「遅いですよ、排斥者の皆さん」
「そう邪険にしないでくれよ書記官殿?」
「時間稼ぎの為にどれだけ被害が出たことか……。貴女方の参戦を確認後、私達は退きますよ?」
「空崎ヒナは置いて行ってくれよ?」
「分かっています」
アカリが風紀委員の生徒達を指揮する書記官の少女の隣に立って奥で騒ぐ戦地の様子を見る。
そこには他の風紀委員の生徒達とはかけ離れた長身を持ち、両の腕だけで敵を薙ぎ払う金髪の少女、栗浜アケミの姿があった。
「相変わらずの化け物ね」
「冗談だろ……」
「あれ、人間か?」
ソラ、アスカ、副隊長が順番に目の前の状況に驚嘆の声を漏らす。
ユメはもはや口を開けたまま静止していた。
「まあ、それを想定して作戦を立てたんだ。行くぞ、みんな」
アカリに先導され、ユメ達は暴れる栗浜アケミのもとへと向かう。
それと同時に、書記官の指示によって戦っていた風紀委員の生徒達が一斉に後方へと下がっていった。
突然止んだ攻撃に栗原アケミは困惑の表情を浮かべて辺りを見回す。
「よう、次は私達が相手だ。栗浜アケミ」
「あら、随分とお可愛らしい方々ですのね」
アカリの挑発にアケミは微笑みを浮かべて応える。
無言で睨み合う両者、緊迫し始める雰囲気にただその後ろにいるだけでも呑まれそうになって足がすくむほどだ。
ユメは固唾を飲んでアカリの背中を見守る。
次の瞬間、アケミの剛腕が振り下ろされ、コンクリートの地面に拳大の穴が空く。
間一髪で避けたアカリは飛んだ瓦礫で頬を切り、滲んだ血を親指で拭う。
「行くぞ」
アカリの言葉に排斥者達が同時に動いた。
始めに副隊長が閃光弾を投擲し、アケミの視界を一瞬だけ塞いだ。
「小癪ですわね……」
アケミが視界を取り戻して辺りを見回すが、そこにはただ一人、ユメを除いて排斥者の姿は無かった。
「貴女が私を足止めする役、ですの?」
「そうみたいだね」
「では、遠慮なく!!」
アケミの拳がユメのシールドに叩き込まれ、ユメの体はその衝撃に浮き上がる。
ユメは一撃を歯を食いしばって耐えるが、二撃目が繰り出され、今度はピンポン玉のように弾き飛ばされる。
アケミは隙を与えず、追撃を加えようとユメに向かって猛進した。
「今!!」
副隊長の声がすると同時にアケミの足元が爆音と共に翻った。
いつの間にかそこに仕掛けられた地雷はアケミの巨躯を呑み込むほどの爆炎を放つ。
「畳み掛けろ!!」
またも副隊長の声がして弾丸が爆炎の中に吸い込まれる。
しかし、アケミは爆炎を払い、笑顔を浮かべ、向かって来る弾丸を無傷で耐えた。
「なるほど、分かってはいましたが。これでは少し興醒めですわね」
アケミは辺りを見渡し、瓦礫の裏に副隊長の姿を見つけ出し、その方向へと走り出す。
「まずは、司令塔から!!」
アケミの拳が副隊長に迫る。
が、その直前にアケミの腕が飛来したライフル弾に弾かれ、それたアケミの拳が副隊長の側の瓦礫を吹き飛ばす。
「以前やられた仕返しだよ!!」
ソラが威勢よく相棒のスナイパーライフルを持って眼下のアケミを見て笑みを浮かべた。
しかし、狙撃された当の本人は軽く腕に触れ、傷の一つもついていない事を確認すると微笑みを浮かべてソラのいるビルの上を見上げる。
「いい狙いですわね!」
「んな!?舐めやがって」
アケミの言葉にソラは苛立ちを覚えて二発目を打ち込もうと構える。
その時、胸の無線からアスカの声が発せられた。
『作戦通りに動けバカ』
「バカって何よ!?バカって!!」
『お前の動き一つで作戦が狂うんだぞ』
「わ、分かったわよ」
ソラは銃を収めてアケミの視界から姿を消してた。
「あら、撃って来ませんわね?」
不思議そうな顔をするアケミはふと足元を見て副隊長の姿が消えている事に気づく。
「逃げられてしまいましたわ。ですが、これで終わりじゃありませんわよね?」
アケミが人影を探していると、一つのビルの中に人影が急ぎ足で入って行く所を見つける。
「なるほど、そこですのね?」
アケミは人影の消えたビルの中へと入り込み、人を探す。
ビルの中は断線したのか明かりは全く無く、視界ではとても何かを探すなど不可能なほどである。
アケミが辺りを探っていると、その背中に衝撃が走り、発砲音が響く。
発砲した者を確かめようと弾の軌道を追って振り向くと、そこにはボトルアクションライフルを持ったアカリの姿があった。
「こっちだよ栗浜アケミ!」
アケミはアカリを追ってビルの階段を駆け上がった。
アカリは背後を追ってくるアケミの姿を確認しつつ、小声で無線に話し掛ける。
「そろそろ屋上だ」
『了解』
アカリの言葉に外で待機している副隊長が頷き、彼の背後で共に待機するアスカに向かって五本の指でカウントダウンを始めた。
階段を登り終えたアカリは開いている屋上への扉を抜け、そのまま───跳んだ。
落下と共に耳を打つ風切り音と、迫る地面に恐怖を覚えるがアカリは仲間を信じて目を閉じる。
そして、地面にアカリが叩きつけられる直前、彼女の体を飛び込んできた誰かが空中で受け止めた。
「危なかったぁ、なんとか間に合いました」
ギリギリでアカリを救ったのはユメであり、ユメはそのままアカリを抱えてビルとは反対方向に駆け出した。
副隊長の全ての指が握られたその瞬間、アケミのいるビルが崩壊した。
基礎を丸々爆薬で吹き飛ばされたビルは呆気も無く地面に沈み込んで行く。
衝撃で地面が揺れ、強風と砂埃が吹き荒れる。
「流石に傷の一つぐらいあってくれよ?」
副隊長が固唾を飲んで瓦礫の山となったビルを見守る。
しばらくして、ガラガラと音を立てて瓦礫の山が雪崩を起こし始めた。
「びっくりしましたわね」
瓦礫の中からは擦った程度の傷を負ったアケミが瓦礫を放り投げながら現れた。
埃を払い、なんともない様子のアケミに副隊長は目を剥く。
「これでもダメか、分かっちゃいたが、おかしいだろ。まあいい、次に移るぞ」
副隊長が無線に指示を出し、またユメ達が行動を再開した。
「勿論、まだあるんですのよね?」
余裕を見せるアケミの視界が突如、暗くなる。
「芸が無いですわね」
ビルが倒壊し、今度は覆い被さるようにしてアケミに倒れかかって来たのだ。
アケミはただ立ったまま、倒れて来るビルを待った。
轟音と共に砂煙をあげるビル。
しかし、粉々になってコンクリート片と鉄筋に分かれたビルとは対照的に悠然と立つアケミは次の攻勢に注意を払う。
『隊長、誘い込んでくれ』
「了解」
副隊長の命令と同時にアカリが建物の影から飛び出し、拳銃を発砲する。
無論、弾丸はアケミの肉体によってに弾かれてしまう。
「お誘いですわね?せっかくですから乗って差し上げましょうか」
アケミはアカリを追い始めた。
その姿を視界に収めた副隊長は今度はユメに指示を出す。
「ユメ、作戦通り、アケミを数秒足止めしてくれ」
『分かりました』
ユメは副隊長の指示に従い、駆け出した。
盾で体の前方を隠すようにしてアケミの真横から追突し、密着した状態から腰に吊るしたショットガンを撃ち込む。
「おりゃああああああああ!!」
「な!?貴女は!!グッ!?」
意表を突かれたアケミは盾を抑えて足を踏ん張るが、腹に直撃するショットガンに顔を顰める。
「舐めないで下さいまし!!!!」
「うわ!?」
アケミは持っていた盾をユメごと持ち上げて空中へと放り投げる。
「今度こそ、立てないようにして差し上げ───ッ!?」
空中を舞うユメに追撃を叩き込もうとアケミが拳を構えていたその時、ユメの盾からコロコロと大量に何かが落下する。
ユメはその何かが地面に着く直前に顔を塞ぎ、アケミはその動作で何かが閃光弾であることを理解するが、もう手遅れだった。
大量の閃光弾は地面で跳ねると同時に強烈な音と光を発生させ、更には紅色の煙を辺りにばら撒いた。
「今だよ!!ヒナちゃん!!!痛っ!?」
「────わかった」
ユメが地面に落ちて情けない悲鳴を出したその瞬間、空から紫の雨が紅の煙の中に降り注いだ。
その雨は地を深く抉る威力であり、鉄が赤色を帯びるほどまでに高温に至っており、更にその雨は徐々に集約し始め、遂には紫に光る柱となる。
光の真下は赤く溶解し、熱で膨れ上がり、爆発した。
「無事?梔子ユメさん」
煙を上げる銃を携えて空から降りて来たのは純白の髪をゆらめかせる少女、空崎ヒナであった。
ヒナが翼を二度、三度はためかせてユメの隣に降り立ち、ユメに手を差し出す。
ユメは照れながらもヒナの差し出した手を取って立ち上がる。
「流石にこれで───
「まだ、ですわ」
ユメがホッとした瞬間、立ち込める煙の中からアケミの声がし、ヒナとユメは驚愕する。
「まだ!まだ立てますわ!!」
煙が晴れ、その中には全身に走った傷から血を流しながら、なおも足を折らずに立っている栗浜アケミの姿があった。
アケミが息を荒げ、一歩、また一歩とヒナとユメに近づき激痛を走らせる腕を持ち上げ、拳を振り上げる。
ヒナが慌てて銃を持ち上げるも、オーバーヒートで煙を上げていて動かない。
その時────
『撃て、アスカ』
『了解!!!』
副隊長とアスカの声がユメの無線から発せられたそのすぐ後、アケミの額に一際強烈な弾丸が命中した。
「ガッ!?」
トドメの衝撃でアケミは仰向けに倒れ、大の字に倒れる。
「負け、ました、わ」
アケミは笑みを浮かべて気を失う。
その瞬間、ドッと周りが歓声に包まれた。
どうやら退いたはずの風紀委員の生徒達が固唾を飲んで事の成り行きを見守っていたようで、わらわらとユメ達の周りに集まり始める。
『作戦完了。全く、ヒヤヒヤしたな』
『全くだ』
『疲れたぁ』
『傷のある奴は帰ったら治療だからな』
無線から仲間達の疲れに満ちた声が聞こえ、ユメも溜息を吐いて空を見上げる。
すると、今しがた登り始めた朝日が顔を照らし、目を窄めた。
「終わったね、ヒナちゃん」
「そうね」
二人は満足げな顔でその場に座り、朝空を見上げる